134話 鬼神メイヤード


 ・・・ソフィーside


 私達がイッセイ君を追いかけてエリー、ベネと一緒に行動して早3日。

 目の前にはシェルバルト領の門が見えてきた。


「はぁ・・。はぁ。着いた」


 肩で息をしながら私が呟くとベネがそれに乗っかってきた。


「結構遠いのよね。…でも、3日で着いて私達も大概よね」


「「確かに」」


 私とエリーはベネの話に納得してしまった。

 商人のペースで大体王都から1ヶ月以上は掛かる距離である。

 早馬で飛ばしても半月位は時間が掛かる距離だ。そう考えると3日で付くと言うのは普通に人外だ。


 ミサキが「シェルバルト領が滅んだ」なんて言うからどれほど凄いのかと思ったが、目の前で健固にそびえ建っている領内への門を見て。ホッと胸を撫で下ろした。

 それは、私だけでなくエリーとベネも同じことを思っていた様で、胸を撫で下ろした様な顔をしていた。


「何。気を緩めてるんだい。この状況でおかしいと感じれなかった時点で終わってるよ」


 背後から声が聞こえて私達三人は”ビクッ”ってなった。

 それは、声を掛けてきたメイヤード先生が呆れたようなで話してきたからだ。

 お父様が援護に付けてくれた最強の保護者・・・である。

 お父様は、国軍と一緒にくるためメイヤード先生を私達と一緒にしてくれたのである。


「ぐっ」


 エリーが先生の言葉に詰まってしまった。

 確かに現状を見渡せば領を隔てる門が無事という状態以外は違和感しか無い。が、違和感はある。


 ……人っ子一人見当たらず、虫の音すら聞こえないのだ。


 問題しか思い浮かばない。

 イッセイ君を追いかけてシェルバルト領に着いたのは良いが、彼が王都を飛び出して既に3日は経っていた。彼の足ならば恐らく1日前後で着くはずなので既に2日は彼よりも遅い計算になる。彼は既に領内に侵入している可能性がある。

 そうすると正確な位置が掴みづらい。


 メイヤード先生がつらつらと説明してくれた。

 ただ、私には新たな能力が発現したので、彼が潜伏している場所を探してもらっている。


「ソフィア。イッセイ様を見つけたよ…」

「ありがとう。セティ…。」


 精霊のセティ・・・に力を借りて。

 彼女は何故かイッセイ君が出ていった次の日。私達がシェルバルト領に向かう道中に私の前に現れたのだ。彼女はとても悲しい顔をしていた。

 イッセイ君に何か有ったのかと聞いてみたが、彼女は全く教えてくれない。

 と言うか喋れないみたい。その部分だけ封印が掛けられているみたいだった。


 何か力になれればいいんだけど。それはまた後だ。


「まったく、あのバカ弟子はどこで何をしているか・・・。何人かヤバイのが居るね」


 門の中を睨みながら先生が言う。私はセティを肩に乗せメイヤード先生の言葉を聞いた。確かに先程から何度か足元から響き上がる振動が続いている。断続的でないので何かがぶつかっている振動だ。


「先生…。」

「心配おしでないよ。この程度ならまだそこら辺にゴロゴロしてるよ」


 先生の言葉に違う汗が出た。この人は心底楽しんでいる。

 どれくらい離れているか分からないが、地面を揺らすような存在がゴロゴロしているって何? ベネとエリーも同じだったのかもしれない。2人とも冷や汗を出している。


「全くこんな程度でビビってるんじゃないよ。さあ、行くよ」

「「「はい!!」」」


 メイヤード先生が城壁を飛び越し先にいったので、私達もそれを追いかけた。


 城門の上から領内の中に入ると私は思わず口元を抑えてしまった。


「ひ、酷い…」


 目に入ったのが永遠と広がる荒野だった。

 以前来た時はまだ子供だった、けどイッセイ君と見て回った美しい渓谷や町並みは覚えていた。それが目の前に広がっているのは破壊しつくされた街や自然、それに優しく接してくれた街の人達の気配すら感じられなかった。


 悲惨な現状に心が締め付けられる。

 ショックで固まっていたが、ふいに袖が引っ張られた。

 何かと思ったらセティが私の袖を引いて、一所懸命に指を指していた。


「…あっち」

「なんだい。何かあったかい?」


 メイヤード先生や皆も私に気づき近寄ってきた。セティが指差す方向を皆で見る。

 その方向を見ると街の中心で宝石商のお店があった場所だったと記憶が蘇った。先生は直ぐに面倒くさそうな顔をした。


 理由はすぐに分かった。

 先程、感じた地響きをセティの指差す方向から感じたからだ。


「あそこにイッセイ君が?」


 コクコクと頷くセティ。

 何か言いたげだが目に涙を浮かべるだけで何も口にしない。


「…そろそろ進もうかの」


 メイヤード先生はこちらを見て笑いながら言った。

 何であんなに楽しそうなのかは分からないが…


 途轍もない嫌な予感がしてエリーとベネの手を握った。


「ソフィー」


 ベネも手が震えている。ベネも不安なのだろう私はベネの手を強く握った。



 ・・・



 目的地に近づくにつれ地響きが早く、強く波打ってきた。

 心臓の奥から”ドーン。ドーン。”と脈を打ってくる。


 建物の中から途轍もない力を感じる。次の瞬間、


 --ドーーン


 大きい音がしたかと思うと…


 建物天井から人が出てきた?


 一人は黒い鎧を着た人で禍々しいオーラを放っていた。

 もう一人は…あれは以前ミサキのラボに押しかけて来たやつだ。


「何であいつが…」


 エリーも気づいた様だ。

 そして、彼女はあいつに対して怒りを露わにしていた。


 改めて見ると1つはっきりと分かった。

 ラボを襲ったあいつはその対峙している黒い鎧を着た相手に対して恐怖を覚えているみたいだった。


「敵対してるみたいね」


 ベネが言うと私達は頷いた。


「黒い鎧を着た方がかなり怒っている様に見えるわね」


 エリーが腕組しながら言っていた。概ね同じ考えなのか先生もベネも頷いていた。

 見た感じは私も同じ考えだが、心で感じたのは違う答えだった。


「黒い鎧の方は泣いてる?」


 何故かは分からないがそう感じていた。

 私が言ったことに皆が不思議そうな顔をしていたが先生が割って入ってきた。


「何れにせよ、あの黒い鎧を着たのがバカ弟子だろうさね」

「「「えっ!?」」」


 先生の言葉に私達は驚いた。

 知っているイッセイ君の気配とは全く持って違う。

 先生はそれをどうやって判別出来たんだろうか…って、先生?


「何やってるんですか?」


 先生を見ると準備運動していた。

 何でこのタイミングで準備運動が必要なんですかね?

 まさかと思い。少々先生を不穏に感じたので聞いてみた。


「さて、どうやって介入しようかね?」


 やっぱり参加する予定でした。

 これだから人外は・・・


「なんか言ったかい?」

「イエ、ナニモ…」


 --ドン!!

 --ドドーーーン。ズズズズ…


 先生がこっちに向かって嫌な気を送ってきた瞬間、ラボに来た奴が吹っ飛んでいき渓谷の崖にぶつかった。少し離れた場所にいたが届いた衝撃がすさまじかった。


 更に黒い鎧を着たイッセイ君は更に追い打ちをかける。

 両手から繰り出される魔力がレーザーの様な閃光になって崖に向かって撃ち出されていた。着弾した事によって完全に崖は見るも無残な程に壊れ、崩れ始めていた。


「マズイ。出るよ」


 先生は隠れている廃屋から飛び出すと一気に加速し、暴れる黒い鎧の方へと駆け出していった。

 当然、私達はいきなりどうした? って気持ちになり3人で【 (´д`) 】って顔をしていた。


「えぇ~先生なんで今のタイミング~?」


 エリーが口に出した。

 メイヤード先生は地獄み・・・ごほん。修行によって耳がよく聞こえる人なのでエリーの声もバッチリ聞こえたはず。


「阿呆。あのえもの・・・。もといイッセイの下を見てみろ。それとエリー覚えておれよ」

「なんで!? (バレた?)」


 しかし、あの人。今『獲物』って言いましたよね?

 そう思いながら先生の走っていった方を見ると、広場の中心には何人もの人が集まっていた。確かにあのモンスターに気づかれたら襲われるかもしれない。


 直ぐに私達も先生の後を追った。


 広場に着くと既にイッセイ君は地上に降りていてた。

 先生は既に臨戦態勢だった。イッセイ君は私達に背を向け、しゃがみ込み何かをしていた。そして、そのモンスターを守る様に6体の精霊が立っていた。皆が誰なのか何となく分かった。


「バッカス・・・皆? って事はあれがイッセイ君?」


 しゃがんだまま動かなくなったモンスター(イッセイ君?)何とも形容し難い姿だった。


 でも、皆? 6人? んんっ?

 何かおかしくないかな?


 ここにセティがいて、あっちに6人居る?


「セティ。あっちに居るのは偽物?」


 セティはフルフル首を振った。

 どう言う意味だ? 謎が深まる。


「お前達。ここは私が抑えるから今の内に周りの人間を助けな」

「でも、イッセイ君が」

「今のあいつはイッセイだと思っちゃ駄目だ」


 先生の強い言葉にビクッと体を震わせる。


「ソフィー」


 取り敢えず目の前に居るイッセイ君らしい人は置いといて周りを避難させるべきだと。ベネに言われた。


 周辺に立つ冒険者風の人達。あのイッセイ君の討伐に来たのだろうか? 皆既に戦意は喪失している。

 皆が天を仰いで何かを探すように手を伸ばしていた。

 中にはよだれや糞尿を垂らしながら歩いている人も居た。何があればこんな風になってしまうのか。

 しかも見た感じは浅黒い肌に尖った耳をしていて地上の人間では無い事が分かった。


「兎に角誘導しましょう」


 ベネの言葉に私は頷いた。

 数十人はいたであろう地底人の冒険者達を何とか移動させ空いていた大きな建物に収容した。


「多分ここイッセイ君の家だね」


 何となく思い出が蘇る。

 エリーも数カ月生活した場所なのであちこち確認しに行った。


「悲しいね」


 ベネが言う。こんな状態が始めての彼女が言うと色々と深い。


 そんな時、


 --ドン。


 地響きが起こる。

 恐らくはイッセイ君と先生が戦いを始めたのだろう。


 私達3人が屋敷の外に出るとセティが悲しそうな顔をして私の肩に来た。視線の先には先程私達がいた場所でイッセイ君や精霊の皆、そして先生が居た場所だ。

 ドンドンと音と振動が起こる度に私はこう思った。


 やっぱり始まっちゃったんだ。



 ・・・メイヤードSide


 取り敢えず邪魔になりそうなものはどかした。これから始まるのは話し合いでは無く殺し合いだからだ。

 どうしてこうなったのか、何故こんな事が起きたのかそれは分からない。

 だが、コイツだけは元に戻さねばならない。孫だと思っている少女達のためにも、コイツのためにも・・・。


 昔の私を知っている者が見たら笑うだろう。他人のために何かをする今までの私にはあり得なかった。自分でも驚いている位だ。

 実際、こんな気持は初めてだ。私はこれまでは世界中旅を続け強者と戦う日々を送っていた。

 だが、城でイッセイに会った時確信した。コイツは私より凄い人間になる。


 そう思っていた。そう思っていたのだ。


 スッと抜いた剣。

 昔から愛用している「ツルギ」と呼ばれるこの剣。切るではなく、引き裂く事で効果が出る面白い剣だ。

 それに何よりこの曲線美がたまらない。


 この剣を見ると後には引けなくなる。


「キエエエエエエエエエエエエエエエ」


 イッセイは力ずくでも戻してやる。師匠である私がぶっ叩いてな!!




 ・・・イッセイside


 チッ。逃げたか。


 ブラフマをぶっ飛ばした直後手応えは感じたがこんな程度で死ぬ玉ではない事も知っている。

 そう思って地面に降りた途端、今度は別の集団と思われる奴等が居た。


 まぁ、飽きもせずにわんさかとしかも一人は手練も手練、笑顔とオーラがヤバい。

 笑顔なんて俺を殺す未来しか見えてません。って顔してるもんな。


 なんとなく目を合わせちゃいけない気がして取り敢えずは地面にしゃがみ父様の身印を拾う事にした。

 軽くなった父様を抱きしめ供養の準備をしていると先程の奴等は、恐怖に狂った地底の兵士共バカ共を助けている様だった。

 …セティが「殺りますか?」って聞いてきたが、ほっとけって返した。


 暫くすると周りから人の気配は減って居たが、若干一名(よりにもよってヤバい奴)だけが獲物を抜いて立っていた。持っている物はこの世界では珍しい刀に似た剣だった。いや、鍔とかが違うだけで刀なのかな? 何れにせよこちらに向かって殺意がある以上は排除すべきか?


 俺が動こうとしたがセティに止められた。


「イッセイ様。ここは私達に任せてよ」


 と言っている間に戦いが始まった。


 1対6じゃあ直ぐに終わるだろうし、プロメテ辺りがそろそろ…。


「グアアアア」


 聞こえてきたのはプロメテの叫び声だった。

 振り返るとプロメテが斬り伏せられる所だった。

 精霊は普通の方法では死なないので魔力を噴き出しながら消えていった。


 なん…だと…。


 俺の精霊の中でも戦いだけなら・・・・・・最強の部類を誇る。その一角が崩された感じだ。

 精霊の皆もプロメテの早期脱落には動揺を隠せていなかった。

 刀を持ったそいつは止まることを知らない。


「きゃああああ」

「ぐふ…」


 続けざまにカズハとマーリーンが斬られた。

 一瞬、目を疑ったが3人に分裂して無かったか?


 アクアも狙われた様だがバッカスが割って入ったおかげで脱落は免れた様だ。


「油断するなよ。こやつ人でも凶悪な部類の技の使い手じゃ」


 バッカスが自慢の鎚を構えて臨戦態勢に入り。

 アクアが後ろからサポートに付いた。


「いくぞ!! 我が声に賛同する魂たちよ目の前にいる敵に聖なる一撃を与えるのだ!! キラースパイクじゃ」

「空気中に漂う我が眷属達よ。貴様らの王がここに命ずる。王の前に現れるに相応しい姿となって敵を殺せ!! ウォータスネイク!!」


 2人の魔法で出てきたのは、金属でできた木が無数の棘のムチを振り回し、水蒸気と浮遊する物質で形成された黒くて大きな水の蛇だった。


 おぉ、コイツはすげぇ。


 だが、


 --キン、カキン。ズバッ!! ズババッ!!!


「む、無念…じゃ」

「い、イッセイ様ぁぁぁぁ」


 魔法も駆使して戦ったバッカスとアクアだったが、2人とも斬られた。

 残っているのはセティだけだが、この強さならセティが出てもムダだろう。


「セティ。これを持っていてくれる?」


 布に巻いたお父様の身印。

 後で他の家族皆と一緒に埋葬するつもりだ。

 察したセティは布を受け取り後ろに後退する。


 改めてこの黒いモヤモヤと遭遇して思ったが、こいつはブラフマより強いんじゃなかろうか?


 気を引き締め直し、両手剣を創造する。


「さぁ。こい!」


 敵向かって対峙した。



 ・・・メイヤードSide


「やはり精霊か」


 今、バカ弟子の取り巻きAを斬ったところだ。

 袈裟刈りした切り口から虹色の魔力を放出し消えていった。


 ふむ。なかなか面白い奴だったが、バカではあんなもんだろう。様子見で攻撃を躱しまくったらイラついて来たのか攻撃が単調になってきた。

 だから斬った。


 どうやら、今倒したのがエースのようだ。呆気にとられて固まっていた。

 なので、今のうちに戦闘が不得意そうな奴から消えてもらう。


 −−ズババッ


 奥義『三位一体』を使い遠距離ないしは補助を行いそうなやつを排除した。一応、槍使いの小娘を狙ったが、そいつは仲間に助けられて損ねた。

 だが、こんな程度じゃアタシは抑えられないよ。


 後、3匹

 悪魔神官の様な爺さんと先程殺り損ねた槍使いの小娘とイッセイの近くに隠れた淫靡な小娘だ。


 奴等を倒せばイッセイと話し合い殺し合いが出来る。アイツから感じる力を見てるとウズウズしてくる。

 と、思っている間に悪魔神官の爺さんと槍使いの小娘が魔法を撃ってきた。

 これまた見たことが無い魔法で、動く木と蛇の魔法だった。


 面白い。

 思わず笑みが溢れてしまった。


 駆け出して行くと攻撃範囲に入ったのだろう。

 向こうが攻撃モーションに入ってきた。

 と言っても所詮は魔法生物だ。一定のパターンと言うかロジックに乗っ取って動いてくる。


 アタシはそれをあっさりとパスすると、本命の2人を捉えた。


 奥義『三位一体』


 高速で移動した分身だ。質量を持った分身なんて戦った事無いだろ? 怖かろう? 恐ろしかろう?


 特に抵抗されず2人を斬った。

 イッセイめ精霊をあまり戦闘で使ってなかったな?

 魔力は強いが正直雑魚だったぞ。


 期待はずれにいささかガッカリしながらも最後の一人を見据える。怯えたように後ずさりして行ったが、イッセイにぶつかって足を止めた。

 イッセイはこちらを向いて威嚇してきた


 やっと本命バカ弟子が出てきたな。




 ・・・イッセイSide


 剣なんていつぶりに握っているのやら。

 目の前の敵相手にそんな事を考えていた。


 戦いに集中しろだって? いやー。無理ッスよ。相手には全くスキが見えず途方にくれていたらそんな事を思いついたのだ。

 だが、相手にとってはそうでも無かったらしく余計な事を考えていた瞬間を狙われた。


 またあの技だ3回目位に見る技だがどうも高速で動いているらしい。黒いモヤモヤが一定のポジションを起点に高速で移動していたのだ。種が分かればなんて事無い。

 何処か進行方向を防げば動けなくなるはず。


 そう思い分身を攻撃したのだが…


 −−キキン。キキン。ザシュ。


 脇腹に熱を帯びた。

 触ると液体の感触があり。見てみると黒い衣が剥がされ赤く染まった俺の体が見えた。


 斬られた…!?


 と、思った瞬間に黒い衣が全て剥がれてしまった。動揺したせいだろうか。

 この姿になってまともに攻撃を食らったのは今回が初めてだ。


「イッセイ…。」


 セティが駆け寄ってくる。


「来るな!」

「ビクッ」


 お前が来たら斬られる。

 油断した訳では無いが全く見えなかった。

 それより気になったのがあの刀だブラフマの攻撃を受けても一切剥がれなかった黒い衣が剥がれた。


 止まらない脇腹の傷を抑えつつ前を見ると見覚えのある老婆が立っていた。


 何だ。何で俺をそんな目で見る?


 同情の眼差しが印象的だった。

 頭が…痛い……


「ぐぐぐっ……」


 また、頭が痛みだした。

 頭の痛みに耐えながらふつふつと湧き上がる怒りに身を任せていると、再び黒い衣の力が集まっていくのが分かる。


「愚かな…」


 老婆は言う。その言葉に怒りを開放させた俺は再度黒い衣が体についた。

 再び、戦意が戻り目の前の老婆を睨む。どうやら一度認識するとモヤモヤには見えない様だ。

 それよりも黒い衣の背中の辺りから物凄く熱を帯びていた。

 気になるほどでは無いが違和感は感じている。


「うおおおおおお」


 本能のまま怒りに任せて。右手に溜まる魔力の塊を投げる。

 おはぎより少し大きい位の塊だが、純粋な魔力の塊だ。

 魔力の塊は直ぐに暴走し雷が発生そのままプラズマ化し半円のドームが出来る。


 --バリバリバリ…


 次々に地面に着弾し、あちこちに半円のドームが出来上がっていた。

 プラズマ化したものに当たれば跡形も無くなる。


「あっ…ぶない技を使うね」


 だが、老婆は俺の魔力の塊を避けていた様だ。

 と、思ったが老婆は右腕を抑えていた。

 血が滴りだらりと垂れていたので完全には避けられなかったようだが…


 しかも、老婆は止まらない。


 しまった。俺はその気迫に圧された…


殺ったとった!!」


 一瞬、動きを止めてしまった俺にチャンスと捉えたか老婆が剣を振り下ろしてきた。


 −−シュッ


 頭に向かって一閃。このままでは首が落とされてしまう。

 駄目だ。間に合わない。


 殺られたと思ったが、


 −−ガッ


「ちっ、このタイミングで進化しやがった」


 完全に斬られたと思っていたが我に返ったときは全く切られていなかった。

 背中から生えた日本の黒い腕が老婆の振った剣を止めていたのだ。


 ふははっ。


 笑みが溢れる。それが助かったことの安堵なのか、新たな力の目覚めなのかは分からないが…


 どちらでも良いがこれはチャンスだ。


「どうした? 早く止めを刺さないとアタシはお前を殺すよ」


 言われなくても分かっている。

 背中から生えた腕で老婆の腕を掴み潰した。


「あがっ……」


 ゴキンと鈍い音を立て握っていた剣を落としたことから手の骨は折れたことだろう。

 そのまま、腕を掴むと逃げられないように持ち上げる。


 丁度俺の目の前に顔が来る位の高さだった。


「こ、殺せ…」


 右手に魔力を溜め老婆の顔の近くに持っていく。

 殺す前に聞きたい事がある。


 この老婆俺を知っていた。それに、俺もこの老婆を見ると頭がズキズキ痛むのだ。

 その原因を知ってから殺すのでも問題は無いだろう。


「お前たちは何者だ? 何故俺を知っている?」

「イッセイ……。愚かな既に呑まれてれてしまったか」


 老婆は俺を見て落胆と言うか悲しそうな顔をする。

 何だ? なんでそんな顔をする? ぐぎぎぎぎぎ……。頭が割れそうだ……。


(コイツは殺しておいたほうが良い気がする)


 そう判断した。右手に溜まっている魔力を老婆の顔に近づける。


 --キィィィィィン……。


「だめえええええええ!!!」


 ふっ。と、聞き覚えのある声がして魔力が緩んでしまった。

 声のした方を見ると女が三人こっちを睨んでいた。

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