133話 久しぶりの再開
ガスペンは俺が無傷な事に驚いていた。
なんでそんなに驚いてるんだ? あんなヘボい攻撃死ぬわけ無いだろ。薄ら笑いを浮かべた俺をガスペンが睨む。
無傷余裕でした。と言うのは嘘で戦斧にはメイスをぶつけることで落下位置をずらしたのだ。
証拠に払って除けたガスペンの戦斧の側面に俺のメイスが刺さっている。かなりゴツい武器に対して異様な絵面だった。
あえて比較すれば、ガスペンの持っている『戦斧』の大きさは、モンスターのハンティングを生業とする集団が持っている武器サイズだ。大きくて強そうに見える。
逆に俺の持つメイスはそうだな…
長靴を履いた○の持っている様なレイピアの先っぽに砲丸投げの玉がくっついている。そんなイメージ。
それが俺の持っているメイスの大きさだ。非常に小さい。
戦斧にめり込んでいるのもびっくりだっただろう。更に俺に弾かれた事がショックだった様だ。
ガスペンは驚き戸惑っていた。
「何だ!? 合金とはいえミスリルが入ってる代物だぞ!? 何故壊れる? 何故そんな力で彈ける」
「そんな事気にしなくていいぞ。どうせ、お前はここで死ぬ運命だからな。次はこっちの番だ。マーリーン」
手に持つメイスから深い闇が噴き出し、俺達二人を完全に飲み込む。これで、ガスペンは視界ゼロになった筈だ。マーリーンの魔法のため俺には何処にいるか分かる。
「さぁ。狩りの時間だ」
・・・
−−ガキン。バキン…
「おっ、コイツはこうやって使うのが良いのか」
五分は経っていないと思うが、あの後も暗闇の中戦い続けていた。主に俺の実験としてだが。
マーリーンの魔法はいまいち掴みどころが難しいため苦戦していたので、折角の機会だ。コイツを使って色々な実験を行っていたのだ。結果は上々で大分練習が出来た。
それこそ、闇の中から弾を作って攻撃したり。闇を棘にかえてみたり。メイスで殴ったりと目白押しだった。ガスペンは戦斧で防いでいたが、その戦斧も既にボロボロだった。
「そろそろ飽きてきたし終わらせるか…」
戦意喪失気味のガスペンは死を待つ生ける屍の様に不動のままだ。一点を見つめたまま何かをボソボソ呟いている。
流石の俺もマグロ相手では燃えないので、今思いついた魔法を使ってトドメを刺そうと決めた。
「闇の大口」
「あはっ。あははははは。食われる俺食われてるよよよよ」
−−アグアグ
闇に得体のしれない何かの
ガツガツ、モグモグ、ゴクン。
闇の口は唇をひと舐めしたあと『ゲェーープ』と大きなゲップをしてガスペンと供に消えていった。
「中々面白い事になってるね」
新手が建物内に侵入していた。と、いってもここに近付いていたのは気付いていたのだが、特に邪魔をしてこないし、そのまま見学させていたのだ。
「そんなに面白いもんじゃないだろ?」
「いやいや。結構笑えたよ」
「ふーん。そっか…」
俺は片付けを始め闇をしまい込む。
ガスペンが詰まった闇は直ぐに消えそうもないのでちょっと試してみることにした。
俺は、闇を野球のボール並に収縮させ声を出していた奴のへと投げる。
すると、先程召喚した闇の大口が新たな獲物に向かってよだれを垂らしながら向かっていった。
「ブラフマ様」
声が聞こえた直後に一閃。
--シャキーーン
--シュパッ!
闇の大口供に真っ二つに斬り伏せられる。
消滅した闇が静かに消えていった。
パチ、パチ、パチ。
ブラフマと呼ばれた奴は、俺の闇を斬り伏せた奴に向かって賛辞を送っていた。ワザとこっちを見ながら…なんか、あいつムカつくな。
「うん、ザック君。良い切り口だ。また腕を上げたね」
「ブラフマ様に近寄る不届き者は僕が斬り伏せます」
「わお。頼もしい」
目の前の男児2人がイチャイチャし始めた。なんだこいつら…
アホらしいやり取りにイライラを募らせていると、頭にパッとキーワードが浮かんできた。
ザブクーロ=レ=ロニーコ 通称:ザック 同級生
ブラフマに攫われたとの情報あり。
生存確認を依頼された。
メモ調で頭に浮かぶ情報。これが記憶の共有化というやつか?
もしかするとザックというキーワードに本体(もう一人の俺)が反応したのだろう。
で、そいつがその仲間の三人組の内の一人か?
…完全に懐柔されてやがる。うーん。なんと言うか声に出すだけで胸焼けしそうな事をやってやがる。
情報を一部修正だな。
ザブクーロ=レ=ロニーコ 通称:ザック 同級生
ブラフマに懐柔され、『愛人』化してる可能性大。
生存は確認。
こんなもんか。
「しかし、君は随分と見た目が変わったね? もしかして中身も変わった?」
ブラフマと呼ばれた親玉っぽい方が話しかけてきた。
なんか、ムカつく顔だ。
「○■】*@?」
俺の言葉に一瞬ビックリした顔を見せる親玉。だが直ぐに笑顔になって話をしてきた。
「なるほど。僕はブラフマって言うんだ。いや、こうのほうが分かりやすいのかな? ◆○&▼『△」
返事が帰ってきた。割と的確な返答だ。
俺もニヤリとしたらブラフマとか言う小僧が近寄り手を差し向けてきた。
−−ジャッ。
持ってるメイスを振り抜く。
無防備だったブラフマの頬を擦り血が滴った。
「どういうつもり?」
ブラフマの気配が刺々しくなる。
ザックは獲物を抜いていて、ブラフマが止めて居なければ斬りかかってきていたことだろう。
「お前等が邪魔なんだよ」
「いつもせこい不意打ちばかりしてくるね」
「それ。俺じゃねーだろ」
「ブラフマ様になんて口の聞き方だ? 没落貴族」
クソガキに話しかけたのにザックって小僧が答えてきた。
しかも、没落貴族と来たもんだ。タイムリーな皮肉に薄笑いが出た。
「クククッ。没落貴族ねぇ…確かに間違いない。だが、言う相手が違うけどな」
俺の自重に同調して笑うブラフマと苦虫を潰した顔をするザック。まぁ、アイツは馬鹿だからなぁ……ただ、お前らが調子に乗るのは許せねえ。
「まぁ……落とし前は付けるつもりだけどな」
目を細く鋭くする。それだけで俺の中のオーラが暴れ地響きを起こす。地面に落ちている岩が宙に浮いて、ある程度宙に浮いたら細かく弾けた。
「フフッ。向こうは殺る気満々だね。折角だザック君、お相手して差し上げて」
「かしこまりました」
ブラフマに一礼するとザックは足を動かした。
中々の速度だ。剣筋も一本の線が向かって来る。武器は刀身の光る剣の様だ。
ほぅ。中々早いな。だが!
ゆらゆら刀身がブレている。あれを使えるとはなかなかいい腕だ。ザックの腕なら今すぐ2クラス。いや、3も行けるかも。それ位は強い。
「だが、俺には利かねーな」
「何!?」
ザックは非常に驚いた顔をしていた。まぁ、掴まれないと踏んでいた刀身を挟んで剣を止めたからね。しかも、親指と人差し指で挟んで止めた。
光る刀身は使用者の生命エネルギーを素に刀身を形成するタイプで魔剣の部類に入るやつだ。
本来掴むことすら出来ないだろうが俺の力を持ってすればなんの問題もなく掴める。
それよりも、こいつ等らえげつねーな。
年端もいかないこんなガキにこの武器を与えるって事は死んでも良いや位に思ってるだろ。
俺は、軽く回し蹴りをしてザックを寝かす事にする。
−−ドカッ
胸を蹴られたザックは壁にぶつかり前のめりに倒れた。一瞬で気絶したのか全く動かない。極力殺さないって約束みたいだからな…。死んじゃってたらゴメンだけど。
「あーぁ。やられた〜。ザック君はだらしが無いなぁ。しかし、君もえげつないね。相手はただの子供だよ?」
ザックを見ながら悲しそうな顔をして
「ヘラヘラ笑ってられるのも今の内だ。もうすぐその頬の傷みたいにツギハギだらけにして格好良く治してやるよ」
「フフフッ。いきがっているがイイよ。この傷の恨みは忘れない。絶対復讐してやるって決めていたんだ」
「俺じゃねーって言ってんだろ」
「待てぇ!」
ブラフマと殺り合おうとしたが、わりと瀕死なザックが、乱入してきた。
内心、心でなくてよかった。と、思ったのは内緒だ。
「何をしに来た?」
「ブラフマ様は僕が守る」
何と健気な話だ。これが、物語で相手がお姫様なら俺は死んだな。だが、今は現実だ。本の様に物語が自分に都合よく動くはずが無い。
「コイツはお前を切ろうとしてたぞ」
ブラフマを指差して教えてやった。当の本人は口笛を吹いて何処かを見ていた。
「そんな嘘は俺には効かない」
おうおう健気だね。でも面倒だ。
俺は身体から黒いオーラを展開させ手に纏う。
一瞬でザックの前まで移動し、手に纏ったオーラをザックの体にそっと被せた。
ザックは急な事に一瞬「えっ」ってなっていたが、俺のオーラに包まれるとシャボン玉の様に宙に浮いた。
「終わったら出してやるよ」
--ドンドンドン!!
ふははっ、俺の魔力で作り出した塊だ。
「…セティ。コイツを頼む」
「はいなー。」
全身真っ黒なボディに悪魔の羽が生え、目は赤く光っている淫靡な姿になった…セティが現れた。見た目も話口調も一番変わったのが彼女のような気が…
--パチン。
そのセティが指を鳴らすととてつもなく大きな黒い竜巻が起こり彼を飲み込んだ。
「マスターこれで良いんですか?」
…セティ。が、甘えた口調で言ってきた。
「セティ。気絶程度なら良いけど。こっちからは絶対殺すな」
「はーい。ちょっと風の中に入ってもらって、お空の散歩を楽しんで貰いまーす」
…セティは空の上へと飛んでいった。何をする気だ?
「君。そういう趣味あるの?」
ブラフマが上空の竜巻に消えた、…セティを見て言った。
「何の話だ?」
「まっ、良いんじゃない。趣味は人それぞれだしね。それよりも僕を何度も痛めつけても意味ないよ。
全く邪悪な笑みを漏らすクソガキである。
恐らく、奴の言ってるのは魔剣の事だろう。確か、ヴィルグランデとか言ったか? あれがなければ傷を一切負わせられない。
頭の記憶を辿ると今は精霊界に行っている様だ。暫く音沙汰が無いので何処で何をしているのか分からないらしいと記憶されていた。
こちらからの呼びかけに答えないので何かをやっているんだろうが。って、なんで俺がコンタクト取んなきゃいけねーんだ?
「別に居ても居なくても一緒だろ?」
「ん? なんだって?」
「試してみるか?」
『フッ』と、言う風切り音と共に飛び出した俺。一瞬でブラフマとの距離を詰める。
息が掛かりそうなくらい接近して、メイスを振り抜く。ブラフマは、避ける気も無かったんだろう。一歩も動かずに薄笑いを浮かべている。
面白い。そのナメた態度に俺も笑みが溢れた。
絶対泣かせてやる。
避けないみたいだからそのまま全力でいくか。
・・・ブラフマSide
正直ここまで上手くいくとは思っていなかった。
あの忌々しい魔剣の使い手をこんな辺境まで誘き出すことに成功したからだ。
前回、ポータルの調査にと王国に潜入した際、魔剣使いと遭遇し封印した筈だったのだが、ここ最近また噂が出回っていた。
「聖剣によって開放された地域がある」
よりにもよって聖剣…僕らからしたら魔剣だけど、それが活躍したという噂は地底の国々に一気に流れた。
そんな噂が立っちゃったからシバに手を抜いたんじゃないかとしこたま怒られた。
まったく、僕のおもちゃなのに勝手に動き出すなんて酷いよね。
だから、もう一回封印に行こうと王国に一番近いポータルを探したら転移先がたまたまこの街だった。
占領しようとしたら抵抗されたのでムカついて破壊したのがきっかけだ。
最初はただの腹いせでしか無かったが、この街は僕にとって幸運の重要な拠点となった。
なんと、あの忌々しい魔剣使いの親が統治する街だったのだ。
僕は狂喜に震えたね。こんな偶然あるのかと
僕が折角、家畜になるなら生きながらえさせてあげるって提案したのに、襲いかかって来たんだ。
これだから野蛮な人間共は嫌いだよ。
仕方が無いからここの統治者とか言う真っ先に襲いかかってきたバカな貴族の首を刎ねてやった。
それでも引く事のない冒険者や騎士たちは、僕が連れてきた家畜共に相手をさせた。
ま、僕らとしてはモルモットが
生きていれば養殖が楽だって位でね。どの道、色々弄っちゃうし。
そんなこんなで家畜と暴れまわってたら、こんな荒野になっちゃったけどね。(てへ)
ブタ一匹を様子見で逃してやったのはガスペンが不意打ちできるように用意した。あんまり役には立たなかったけど…僕がここに居るのが目的だったからね。結果オーライかな?
獲物の中身が変わっていたのは笑ってしまった。
しかも、僕が手塩にかけた
しかも、中身は同門か…
同門同士の争いってタブーじゃ無かったっけ?
まぁ、ちょっと遊び分には問題ないよね。要は先っぽだけってやつだよ。
気配を見ても大したこと無さそうだし、一発だけ受けてやろう。一発だけね。
・・・イッセイsaid
「ぐっ」
全体重を相手に乗せ振り抜きと同時にメイスを振り抜く。メイスは、ブラフマの左頬に突き刺さり上手い具合に炸裂した。ブラフマが変な声を出しながらキリモミして飛んでいく所だった。
−−ズダン。ザザザー。
吹っ飛んだあとも暫く地面を滑りながら飛んでいった。うーん。思ったより飛ばなかったな。
某ゲームのサンドバッグの様にお空の彼方に飛んでくれるのを期待したが実際は50mも飛ばなかった。
「なんだい? 君のその攻撃の威力は」
『シュウシュウ』と、顔全体を煙で包まれた形で不機嫌な顔をしながらこちらに歩いてきた。
何ていうか…それ、前見えてんの?
「目が覚めたか?」
「あぁ。バッチリとね。ぺっ」
口に溜まった血と抜けた歯を一緒に吐き出すと明らかに先程と雰囲気が違った。
隠す事をしなくなった殺気を露にし笑顔が消えた。
「なら。ここからが本番だな」
「良いね」
俺はブラフマを一瞬睨んだ後、どちらとも無く動いた。お互いに回り込むなんて事はしない。
真っ直ぐに進む。
−−バンッ、バチュン。ギリギリギリギリ…
空気が破裂する音がして俺の武器とブラフマの剣が激しくぶつかり、火花を散らした。
へし折ってやろうかと思ったがやつの武器も中々の物の様だ。
武器の性能ではお互いの戦いに決着は付きそうに無かった。
−−バチュン。バチュン。チッ…
何回か剣が交わった後、スキを見て蹴りも交える。
俺が蹴ると向こうも示し合わせたように蹴り出してくる。
−−ドボォ…
逃げ場の失った俺達の蹴りの衝撃を地面が吸収し抉れた。お互いに一歩も譲らない膠着状態が続くと、ふとあることに気づいた。
いや、もう一人の俺が持っている記憶と照らし合わせた結果なのだが、
…コイツってこんなに弱かったっけ?
率直に感じた意見だ。動きは相変わらずトリッキーだが無駄な動きが多く本命が読み易い。攻撃自体もあまり脅威に感じなかった。
逆に今まで吹き出すだけだった黒いオーラが俺の体にまとわりつく様になった。雲の様にフヨフヨと俺の周りに存在する。時々、ビリッと感覚がズレる。
そんな俺の事を見たブラフマは目を見開き。こう口にした。
「まさか……そんな、まさか!? お、お前は!?」
「うん? お前、俺の事知ってるのか?」
「え? まさか、お前…き、記憶が?」
「あぁ、そうだ。俺は記憶が無い」
話が終わると黒いオーラが鎧の様に俺に絡みついた。
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