124話 治癒魔法ですか?
ソフィーSide
イッセイ君が先行してくれたので私とベネは道中の街に寄って必要そうな物資と馬車を調達した。と、言っても馬車は簡単に手に入ったが回復薬と特に食料はろくに手に入らなかった。どうも、王都からくる物資が滞っているらしい。それと王都から流れ着いた人も何人か居た。
「あそこは地獄だ。悪いことは言わない近づかないほうが良いぞ」
色々情報を仕入れてみたが皆同じ様なコメントを言っていた。
それに、今立ち寄った街から城下に近づくにつれて逃げる人がどんどん増えている様だった。
モンスターに襲われている人を助けたりお腹を空かせた人や怪我をしている人を助けたりしている間に買った物資は底を付いた。結局、ベネと手分けして現地調達しているのが現状だった。
ユキマルもアニマルセラピーとして子供たちと遊んでくれている。正確には子供から逃げている。
子供たちはそれが楽しいのか全力で追いかけている。が、道具を使うのは止めて。周りの人にも迷惑だから。
「ソフィー。このままだときりがないよ」
ベネが言う。
確かにそうだ城に近づけば近づくほど外は逃げた人が増えている。凄い所は天幕が張られておりその中は怪我人などで溢れていて、もはや野戦病院化していた。
「分かってる。でも、見捨てられないよ」
「ま、そう言うとは思ってた」
ベネは優しい。自分を持っているからブレないし、かと言って私が話をすれば断ったり嫌がったりもしない。むしろフォローしてくれる。
今の事だってぶっちゃけてしまえば私のわがままだ。
本当の意味で元を断つのであればさっさと城下に行って敵を倒す方が早い。
だけど、見捨てられないんだモン。
もう少し踏ん張れば状況は落ち着く。そう信じて、必死に色々やっていた。
でも、兵士達は一向に来ない。私達の噂を聞きつけて集まってくるのは怪我をした人やお腹を空かせた人達ばかりだった。
「姫様。助けてくだせぇ」
「姫様。子供たちに恵みを」
「姫様。民を見捨てないで」
「姫様」「姫様」・・・
期待されるのがこんなに重いと感じたのは初めてだ。
胸のあたりがムカムカしてきて・・・。
・・・うげぇ。
「ソフィー!」
追いすがる民の皆がドス黒い闇の塊に見えた。
近寄ってくる姿は、悪意しか感じず。
伸ばしてくる手は、私の魂を奪う悪魔の様に見えた。
でも、こんな時だからこそ皆が王族を頼るんだよね。
ここで逃げたらイッセイ君に笑われちゃう。
私、逃げないよ。
「大丈夫。大丈夫。ちょっと雰囲気に酔っただけ。さっ、治療から始めましょう」
ニコッと笑う。
私が無理して頑張ってるのを気にしてくれているのか、民の皆が少々身じろいでいる。
「ソフィー。口を拭ってからにしてくれる。ちょっと出てるから」
−−ピシッ
笑顔が引きつったのが分かった。
気を取り直して治療に専念する。ご飯の要望はベネに頼んで狩りをして貰っている。
回復剤が心許ないので、薬草などで補いつつ光の魔法で回復を促進する。これで軽傷者や骨折程度の重症者はまかなえる様になった。大分コツを掴んできましたよ。
でも、それでも救えない命もある。
それは、公爵領に来た伝令兵ジョンソンさんと同じ症状だった場合だ。体の一部がケロイド状となっており回復剤や薬を一切受け付けない。光魔法を使ったが再生と分解の速度がほぼ対なのだろう。苦しむだけで一向に改善する余地は無かった。
一段落し少し休憩を取る際、私は目を瞑り意識を集中させた。
・・・
目を瞑り意識を集中させる。
体が今いる場所とは違う場所に着いた感覚があり目を開けると廊下のような場所に着く。壁の両方からカーテンが垂れ下がっているような廊下を抜け奥に進むと周りが本棚で囲まれており、まるで図書館の様な本棚が奥まで続く場所に来た。
フロアーの真ん中にテーブルと一輪の花が活けてあった。あの人の趣味だろうとても可愛い花だった。
「あれ? ここに来るのって珍しいね」
その人は私が来た事に驚いた声がする。
声がした方を見ると本棚の高い位置から美しい女性がこちらを見下ろして屈託のない笑顔を見せていた。
「ごめんなさい。英梨奈さん。私の力が未熟なばっかりにこんな所に幽閉する形になって・・・」
ここに居たのは、もう一人の私である『鏡 英梨奈』の
「謝らないで貴女は私だし。私は貴女だよ」
「本当にごめんなさい」
彼女は500年前に世界大戦で外来種と戦った【真の勇者】で、イッセイ君の
「なんか失礼な事考えてない?」
「そ、そんな事考えてないです」
ブンブン手を振って答える。ちょっと過剰なリアクションかなぁ? バレるかなと思うと、何故か行動が怪しくなるものだ。
「あははっ。ウソウソ。で、どうしたの? その様子だと一生君とケンカした訳でも無さそうだけど。あっ?ごめんごめん。そこの椅子に掛けて」
促されるまま椅子に座ると英梨奈さんがお茶を出してくれた。私の意識の中なのにちゃんと飲んだ気になれるのは凄く良かった。ハッと気づくと心配そうに私を見つめる英梨奈さんの顔があった。
そうだ、今日は大事な相談があったのだ。
「実は英梨奈さんに相談が・・・」
回復薬で直せない傷がある事を話した。
出来うる限りの事をしたが傷が深い人は絶命し、そうじゃない人もいて今も懸命に戦っている。だが、未だに治る気配がなく消耗していく体力のせいで確実に死の音が近づいていた。
私の話を聞いた英梨奈さんは少し考えると、魔法で一冊の本を取り出した。
【初心者から上級者までこれ一冊】っと書かれた辞典の様な本だった。 うん? 可笑しいな。何処かで見た事がある気がするんだけど・・・
「あったーー」
そんな風に思って頭を抑えていると、英梨奈さんが目的の頁を見つけたようだ。
私も覗き込んでみると、【( う ほ ま ゆ ち )・・・】と書いてある。なんのことかサッパリ分からなかった。
私とは反対にニコニコ笑顔の英梨奈さん。
−−ササッ
私にの方に向けたとき本を反転させて見せてくれた。
あっ、逆でしたサーセン。
「治癒魔法。これなら治せるはず」
「へ? 治癒魔法ってなんですか? 聞いたことないですよ」
「そうだね。隠されていたからね。で、この本は太古の昔神々が封印した魔法、または禁術を記した本で神々の図書館にあるアーティファクトだよ。だから、治癒魔法は封印された禁術って事になるね」
アーティファクトだよ。って言われてもそんな物が何で私の頭の中にあるのかすっごい気になるんですが・・・
と、言うか禁術をあっさりと覚えてしまおうって凄い勇気ですね。
私が考える間もなく英梨奈さんが話を続ける。
「それより今はこれだね。禁術って位から凄く効きそうだよ」
効きそうってだけで選んだんですか? 私、不安になってきました。
でも、文字の内容を見る限りだと効き目はありそうだ。
【治癒魔法(ちゆまほう)】
・熟練度と魔力量によって変わるけど、かすり傷や擦り傷はモチロン素人さんでもOK。打撲にケロイド状態、欠損、モノが紛失してても大丈夫。君の遺伝子から左右のバランスを計算し元の形に戻すよ。誰にでも出来る簡単な魔法です。
欠損からは上級位にならないと治らないから気をつけて。
※あっ、そうそう。失った体力や液体は戻せないから山盛りご飯を食べてグッスリ寝ておくれ。オススメはマンガ肉とかミートボールスパゲティだよ。あっ、死人は生き返らないからその辺もヨロシク(`・ω・´)ゞ
と、書いてあった。半分以上は意味がわからなかったが何となく凄いのは分かった。
「説明文が、ブラックな内容だけど、まぁこれを使えばほぼ全快出来るみたいだね」
英梨奈さんはこの文が理解できたようだ。流石、頭脳明晰。私には逆立ちしても勝てない・・・
「何で凹んでるのか分からないけど、結構簡単に覚えられそうよ。どうする? 取得する?」
「あっ、はい。覚えます」
「分かった。手伝ってあげる。でも気をつけてねこの魔法。結構魔力を使うみたいだから数回使えば魔力切れを起こすわ。かなり絶望的な人のみに使う事。分かった?」
「はい。英梨奈さん」
偉い偉いと頭を撫でてくれる。お姉さんみたいで嬉しいといえば嬉しいんだけど。
「ん? どうしたの」
「いえ。何でもないです」
イッセイ君の好きになる理由も分かるな。
英梨奈さんがずっと手招きしているので近付く事にした。
・・・
「・・・・・・ブツブツ。よし」
私に何かしらの儀式を終えた英梨奈さんがガッツポーズして喜んでいた。
どうやら、終わったらしい。
「英梨奈さん。終わりました?」
「いや。まだよ」
まだなのかよ! さっきの『よし』は何だったんだ。
と、ツッコんだのがバレたのか英梨奈さんが説明してくれる。
「やっと、基礎の構築が終わった所なのこれからソフィアちゃんの中にある光属性とこの魔法構築を繋ぐ必要があるんだけどこれが厄介でね」
「面倒なんですか?」
「いや。何か媒体になる物があれば良いんだけど」
「ばいたい?」
「あぁ、ごめんごめん。媒体ってのはソフィアちゃんと繋がるもの。例えばネックレスとかブローチとか指輪とかでも良いわ」
指輪と聞いて直ぐに思い付いたのが、右の薬指にはめた指輪だった。外して英梨奈さんに見せる。
「これは・・・」
英梨奈さんは指輪を取るとマジマジと見つめていた。何処か懐かしい物を見ている様にも感じる。
暫く見ていた後で指輪を私に返してくれた。
「なるほど。一生君が創った指輪ね」
ちょっと見て気付いたらしい。
私とは意識が一緒ではないので普通なら気づけないはずだけど、ここで気づくのが英梨奈さんの凄い所だった。
「良いでしょう。これなら効果が増幅されつつ魔力も抑えられるね。繋げていい?」
「お願いします」
二つ返事でお願いをする。
ブツブツと英梨奈さんが呪文を唱えると指輪の中の黄色い石が輝き出した。
「ふぅ・・・。これで、オッケーかな」
え? もう終わり。
もっと、儀式めいた事をすると思っていたんだけど意外と普通に終わった。
「じゃー。試してみよっか? エィ」
−−ブシャーーー
英梨奈さんは自分の腕に傷を付けた。って、えぇーー。急すぎる。
「ソフィアちゃん。痛いから早くお願い・・・」
「は、はははははは、はい。で、でもどうすれば?」
「取り敢えず治るように祈ってみようか」
「は、はい」
指輪をはめて、言われたとおり英梨奈さんの傷口に手を当てて祈ってみる。なるべく傷を残さないようにイメージする。
黄色い光が英梨奈さんの腕を包むと傷口が徐々に消えていった。
「凄くくすぐったいね。でも、傷は完全に癒えたみたい。ありがとう」
治った腕をグルグル回してアピールしてくる英梨奈さん。行動が唐突すぎてドット疲れた。
これって魔力のせいなのか、英梨奈さんのせいなのか分かんないね・・・。
「うーん。魔法には名前が無いと不便よね?」
「ま、確かにそうですね」
この世界はイメージが大事だ。自分の得意な魔法には唱えやすい様に自分で名前を付ける。英梨奈さんが悩んでくれているのでいい名前が付きそうだ。
「うーん。回復って言ったらべホ◯「止めてください。この物語が終わってしまいます。」」
「えー。良い名前なのに〜。じゃあ、これなんかどうかな? ケア◯ガ「止めてください。この物語が(以下ry)」」
「えぇー。そうしたら思いつかないな〜」
早い、英梨奈さん。早いよ。諦めるのが早すぎるよ。
「もうちょっと考えましょうよ」
「あははっ。ゴメンゴメン。一生君が好きそうな名前を言ってみただけ」
ぐぬぬ。イッセイ君の好きな事って言われるとその名前でも良いような気がする。
「じゃあね。こんなのはどうかな? 『セイントキュア』」
「せいんと・・きゅあ?」
「そう。私の居た世界で、セイントは『
「慈悲による治療・・・。」
そう心に噛みしめると見つめた掌が淡い光を放った。
どうやら私の中で治癒魔法を『セイントキュア』と認識したようだ。
兎に角これで目処はたった。
直ぐに戻って皆の治療を再開しなくては、
「英梨奈さん。ありがとうございました」
「ソフィアちゃん。頑張ってね」
何だか用がある時だけ来て申し訳無い気持ちになる。
次回はもっとゆっくりできる時に来よう。
出口に繋がる廊下の方へと歩いていく。
英梨奈Side
「ふぅー。一生君。私の髪留めと同じデザインで指輪作んないでよ・・・。泣きそうになっちゃった」
ソフィアちゃんが見えなくなったと同時に椅子にもたれ掛かり深く息を吐く。
指輪を見て直ぐに気づかなかったが見ているうちに嬉しくて涙が溢れそうになった。
咄嗟に治癒魔法の話で逃げたがソフィアちゃんがもう少し大人だったらバレていたかもしれない。とても危ない所だった。
それよりもだ・・・。
「今のは不味かったわ」
ちょっぴり無理をしすぎたようで私自身の存在が少々危うい。手や足を見ると少し薄くなってきていた。
このままだと消えてしまう。
ソフィアちゃんと融合する予定だった私は彼女とは融合することは出来なかった。と言うのは正確じゃない。半分は彼女に融合した。魔力の量であったり魔力を正確にコントロールする感覚であったり。魔力的なところが多く彼女に適合した。
だが、逆に体力的って言うと脳筋みたいに聞こえるからここは戦闘スキルと呼ばせてもらうわ。その戦闘スキルに知識を持っている私の部分はあの子に一切受け入れられなかった。
最もまだミサキしか契約できていない為かもしれない。ユキマルが契約出来れば私も融合するだろう。だが、今回の治癒魔法の封印はちょっとやり過ぎた。魔力がほぼ無い私では魔力の代わりに自分の存在を削ってしまったのだ。
肉体の持っていない私は、回復するという概念が無い。枯れてしまえばそこで終わりだ。
そして、今回ほぼ存在を削ってしまったのでもう少ししたら消えてしまうだろう。
「・・・失敗した」
もう少し、一生君の話を聞いてから消えるんだった。と言ってもソフィアちゃん私に話すのがあんまりスキじゃないのね。
私と話す時必ず警戒しているもの・・・。このまま消えるのも悪く無いかもね。
「それは困るなぁ~」
「誰!? って、君か。レディの秘密に土足でズカズカ入り込んでくるとは、殺されても文句言えないんだよ」
「ふふふっ。私は・・・だからね。別に何人でも相手出来るよ」
「こっちが願い下げだよ。って、そんなどうでもいい話をしに来たんなら。もう帰りなよ。私は一生君意外には許すつもりが無いからね。それに今から最後の時間くらい私のために使わせてよ」
「もう、抱かれる事も無いのに?」
「うっさい! 用がないなら帰れ!!」
「ふふふっ。そんなに怒らないでよ。まだ、君に消えられると困るんだ。だから存在の力を戻してあげるよ」
ニヤリと笑うコイツの顔。いつか思いっきり殴ってやりたい。
そう思った瞬間、ふと思いついたことがあった。
「この、
「さぁね。私は特に何もして無いよ。たまたま、本を隠したくて何処かに忘れちゃったかもしれないけどね」
むちゃくちゃクロじゃねーか。
「はぁ、一応お礼は言うけど。悪さばっかりしてたら堕天させられるよ」
「おっと。それも面白そうだね」
私は、呆れて何も言えなかった。
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