一部 四章 【外来種】襲来と消える希望
123話 王都陥落ですか?
ゴウゴウ、ビュウビュウと耳に風の音が纏わりつく。
何故なら今、王都に向かって移動中だからだ。
「出来るだけ急いで走るんだ。」
「「「了解」」」
「くそっ、何だってこんなタイミングで」
「焦らないでイッセイ君。この速度なら後一時間位で付きそうだよ」
一時間か・・・。オレ一人なら半分は短縮できそうだ。
今は一秒でも早く王都に戻りたい・・・。
俺達四人は公爵家と一緒に凱旋するスケジュールをキャンセルし王都へと向かっていた。何でそんなに焦って戻っているかと言うと、公爵領にたどり着いた一人の兵士の伝令が切っ掛けだ。
・・・少し前まで遡る。
公爵領にて奴隷解放宣言が発令された後、王都から伝令を持った兵士がやってきた。しかも、その兵士は自身が死の淵にありながらも公爵領まで来てくれたのだ。
「ジョンソン。ここまでありがとうございます。伝言を聞かせてください」
ソフィーが満面の笑みを見せて答えると皆が幸せそうな顔になる。それが例え死ぬ間際であろうとも、だ。
そして、このジョンソンという兵士はまさに最後の力を振り絞って答えた。
「王都は今、モンスターの襲撃を受け壊滅状態におります」
「!? そうですか・・・ジョンソン大義でした。直ぐに王都に向けて兵を派兵しましょう」
「おぉ・・・。姫様。私も最後に王家のためにお役に立てて幸せです・・・」
と、自分の命を使い教えてくれたのである。
・・・時間は戻る。
王国兵ジョンソンの最後。その光景を思い出し奥歯を強く噛む。
奥歯がギリリッと軋む音がしたが、その音も俺には不愉快にしかならなかった。
走るペースを上げる。兎に角時間が惜しかった。
「みんな、もう少しペースは上げれるかな?」
「ごめん・・なさい。私はこれ以上は無理です。イッセイ君。先に行ってもらっても良いですか?」
「イッセイ君。私もこれ以上は無理。先に行くならソフィーと共にペースを落とすわ」
「わかった。エリーはどう?」
「私は、合わせられると思う」
「よし。エリーは僕と一緒に行こう。ソフィーとベネは後から合流しよう。場所は王城で二人は着いたら魔法か何かで合図をしてほしい」
「「了解」」
「エリーは、僕の後ろにピッタリくっついて付いてきて」
「了解」
俺とエリーはソフィー達と別れて先を急ぐことにする。
セティのちからを借りて前方の風除けにし空気の抵抗をゼロにして走ることにした。
エリーが後ろにピッタリくっつかせるのはスリップストリームとして空気抵抗を無くさせるためだ。
風の抵抗を無くしたお陰で身体にかかる負担も減るし、加速力も大幅に増やせそうだ。
ただ、体温が冷やされなくなったのでアクアの力も借りて俺とエリーの体を冷却していく。
「ありがとうイッセイ。大分楽だわ」
「より真空に近い状態にするからキツかったら言ってくれ」
「し、しんくう?」
「あぁ、まぁ。空気を消したと思ってくれればいいよ」
外から見ると風の塊の様になった事だろう。
出来るだけエリーには負担をかけさせないように走ることにした。
・・・
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「エリー。大丈夫?」
「な、何とか・・・はぁ、はぁ。」
30分も掛からず王都付近まで来ることが出来た。
王都に入る為の城門が見えてきたのでペースを普通にする。
「はぁ・・・何だか随分人が多くない?」
エリーの言うとおり城門から結構離れているこの場所にギルドの冒険者以外の人々がキャンプをしていた。
そんなに強くはないがモンスターの出る地域である為、危険と言えば危険な地域だった。
「確かに、ちょっと聞いてみようか?」
近くでキャンプしている人達。さしずめキャンパーとでも呼ぶか、
で、キャンパーに城下の現状を聞いてみると皆顔色を青くしてカタカタと震えだした。トラウマでもあるのか?
「バケモノスライムが出たんだ」
大人達は顔色を悪くするだけで話すら嫌がっていたが、元気の良い男の子が大声で教えてくれた。膝を付いて話すには俺の身長が・・・低かった。
これでは見上げる格好になってしまうので、中腰になって話しかける。
「どんな奴だった?」
「すんげーでっかいスライムがいきなり屋根の上から降ってきたんだ」
降ってきた?
「そんで、俺の仲間も皆散り散りに逃げたんだ」
身体を使ってジェスチャーで教えてくれる男の子にポケットに入っていたお菓子をあげる。子供は嬉しそうにどこかへ走っていった。
「スライムが降ってきたってどういう事だと思う?」
エリーにも意見を聞いてみるが、エリーも手を拡げて。
「そのまんまの通りでしょ」
と、言った。
ま、そうなんだけど。降ってきたって何か引っかかるんだよね。
考えながら城下の方に歩いていくと。一番最初に話しかけたおじさんが。
「お、おい。何処に行くんだ?」
って聞いてきたので、
「城下ですけど何か?」
っと、言い返した。
で、おじさん達テント付近に居た人達は俺の言葉を聞いてドン引きしていた。そんなに?
「悪い事は言わねえ。もう、あそこは諦めな兵士達が避難のために色々してくれて居るらしいが状況は芳しく無いらしい」
「ナルホド。貴重なご意見ありがとうございます」
「なら・・・」
「ますます急いで行かないとですね」
「お、お前。オラの話聞いてたか?」
「えぇ。」
「なら。危険なのも分かるだろ!」
子供に対して心配してくれている大人の顔だ。俺を心配してくれているのが分かる。だが、行かなければならないので何とかこの場を穏便に済ませたい。
何か恩でも売れれば情報をくれそうだが、そんな都合よく事が動くかな?
−−ガサガサ。
この時時代が動いた・・・。と言わんばかりに都合よく物事が動いた。
草むらに何か獲物が現れたようで、キャンパー達の目の色が変わった。
「食いもんだーーーー!!」
「ブモッ!?」
誰かが騒いだ。その声に反応したモンスターの鳴き声も聞こえた。
「何? 逃がすな。絶対逃すなよ。絶対だぞ!!」
3回言うのは逃がすフラグですね。分かります。
俺に忠告してくれていたキャンパー達も声がかかった獲物の方に急行していた。去り際にも。
「兎に角。危険だから城下には近付くなよー」
と言って走って行った。どうやら相当優しい人が俺達の相手をしてくれたようだ。
冒険者クラスでそれなりの実力を身に着けている俺達な訳だが、見た目は子供なので俺達がそこら辺の兵士より強いって分かる訳もない。
キャンパーのオジさん達は、ギラギラした殺気を出しまくりんぐで、声のした方へ駆けていった。
気持ちが先走った人達を心配そうに見守る人達が居た。キャンパー達の奥さんだろうか。俺と目が合った人もいたので、軽く会釈しておいた。
そんな中、奥の茂みから顔を出したのはこの辺のザコモンスターの『ボア』だった。イノシシみたいなモンスターで、調理すると何故か『ボタン肉』って呼ばれてる。
まぁ、ぶっちゃけ
だが、あくまで
ちょうど逃げていく小ぶりなボアが見えた。どうも子供のボアの様だ。キャンパー達の殺気に驚き逃げていったのだろう。
子供ボアの無防備な後ろ姿を『HAHAHA。待て待て~』みたいな顔をして追いかけていくキャンパー達。
キャンパーは勝ちパターンにハマったと思っているようだが、
実は罠です。
ボアってモンスターは、子供が囮になって必死に愛くるしい姿で逃げる
で、倒れた相手から食べ物を奪って逃げる様なモンスターだ。
戦い系の勇者の加護を受けている冒険者ならそんなに苦戦しないけど、ここに居るキャンパー達の加護は恐らく内政系か生産系。そんな人達だと死にはしなくても大怪我する可能性だ大だ。そこに気づいたのは俺だけじゃなかった。
エリーは俺の裾を掴むと、
「イッセイ。多分あの人達・・・」
「分かってる。仕方ない手伝うよ。そらよっと」
予め作ってある弾丸をポケットから出す。奥で控えているボアの分だけグングニルを使って指で弾くと物理の法則をガン無視した軌道を描いて弾丸は飛んでいった。
--ピュッ、ピュッ・・・
「プギィ~!」
「ピギィ~!」
2匹も倒せば大丈夫でしょ。子ボアも美味しいんだけど罪悪感レベルが半端なく上がるので今回は逃しておいた。必要ならキャンパーが狩りをすれば良いのだ。
もっとも、大人ボアはそこそこ大きいはずだからここら辺のキャンパーと取れた肉を共有しても2~3日なら持つと思う。俺達もそれ位までには城下内を落ち着かせたいと思っている。落ち着かせられるか?
「取り敢えず先を急ごうか」
今の内に城下に侵入してしまおうと思ったのだが、
「お待ち」
恰幅のいいオバちゃんが立っていた。さっき俺と目があった人だな。
(別に見た目で言った訳じゃないぞ。なんか、かーちゃんってイメージだったんだ。宿屋の店主みたいなイメージ。)
「えーっと、まだ何か?」
キャンパーの男性陣がボア相手に狩りに行ったので、今は女性陣しか居ない。
「王都に入るにしても正門は兵士さん達によって破壊されて通れないのさ。だから、
そう言って鍵みたいなものを渡された。
「これは? 何・・・」
エリーは貰った鍵をみて、女性に質問した。
「王都の脇の泉の畔に小さな水門小屋があるから、その中で地下室への入り口の鍵がこれさ」
あぁ、あの水門のカギか。
叔父さん愛用の脱出通路なので知っている。
「ありがとうございます」
「頑張ってね」
お礼を言うとオバちゃんはにっこり微笑んだ。
・・・
これは大惨事としか言えない状況だ。
ポンプ小屋から城下に侵入したエリーと俺は、目の前に広がる惨劇を見てそう思った。
−−ウジュル、ウジュル。
あちらこちらに居る黄色みのかかったゼリーの様な存在。こいつが件のスライムだろう。なぎ倒した建物だろうが捕獲した生物だろうがお構いなしに飲み込んでいる。
これだけの数(?)。量のスライムが迫ってくれば当然何処かで詰まって波のように押し寄せた事だろう。先程の子供はその光景を降ってきた。と、表現したのかもしれない。
「たああああ」
見かねたエリーがスライムに飲み込まれた人を助けようと持っている剣で魔法で助けに行った。
−−ピュッ、ピュッ。
耐性があるかと思いきや、以外にあっさりと切り刻まれたスライム。こんにゃくタイプの『ぷるっ』っとした方では無く寒天タイプの『ぼろっ』っとしたタイプだったようだ。えっ、何の話だって? 別に良いじゃないか。
エリーが倒したスライムの中から人が流れ出てきた。ドロっとした液体に漬けられていた様な感じで、黄色いベトベトしたモノが張り付いている。
「大丈夫?」
「・・・・」
エリーが声を掛けるが助けた男の子に反応は無かった。俺はとりあえず、アクア汁を使って体の内外を洗浄する。分かりやすく言えば今度はアクア汁の中に浸かってもらっている。結構時間が掛かりそうなので、エリーはその間引き続きスライムに捕まった人々を片っ端から助けに行ってもらった。
俺は、戦闘面をエリーに任せ拠点づくりをする事にした。
スライムに侵されてなさそうな適当な建物にベースを作る。幾つか建物を見て回ったが殆どがスライムに侵食されており機能自体は死んでいた。
「お。ここは使えそうだ」
スライムの侵食が薄い建物があった。元は2階か3階だての宿屋か何かだったのかもしれない。2階にかけては損壊が激しかったが1階までは侵食されていなかった。
俺はプロメテで屋根に群がるスライムを焼くとバッカスで外壁を補修した。更に補修した外壁を再度プロメテの力を使って焼いている。こうしておけば新たにスライムが来てもプロメテの炎が焼いてくれるのだ。単純構造体なので学習能力が無い。夏の虫みたいにバチバチ言って燃えるあれと一緒だ。
よし出来た。外から見てみるか。
・・・外から見ると燃えている洞窟にも見えなくはない。
が、今はここがベースになれば良いので気にしない。気にしたら負けだ。
そこにエリーが助けた人を運び込みアクア汁漬けにする。もう既に30名は助けただろうか・・・アクア汁漬けを並べていると何かの研究施設のようだった。
しかし、もう少し何か手を考えないと駄目だな。助けた人数に対して生き残る命の数が少ない。俺も懸命に延命治療を行っているが、残念な事に全員が助かることは無い。助かるのはせいぜい1割にも満たない。連れてきても既に絶命している人や手の施しようがない人。そんな人が多かった。(怪我の具合は割愛させて欲しい。丁寧に説明したら18禁になる具合と言えば察して貰えるだろう。)
残念ながら助けられなかった人は、プロメテ焼却した。
「ウッ。ゴホゴホ。ウゲー」
「頑張れ!」
一人息を吹き返せそうな人が居た。最初にエリーが助けた男の子だ。
子供は積極的に助けたい。大人も当然助けるが大人しかいない街なんてそんな悲しい結果を残したくないから・・・
カズハにも手伝ってもらい回復薬をかけていく。
あまり心もとないから後で城下の道具屋でも探してこよう。
「う、うーん。・・・ここは?」
「大丈夫。安全な場所だよ。今はしっかりと休んで」
「うん。祖父さん居る?」
あたりをキョロキョロしながら誰かを探しているようだが、目が見えていないのだろう。彼以外寝てるのは一人だけだ。
「大丈夫。お祖父さんも無事だよ。ただ、今は外が忙しいからね。外で手伝いをして貰ってる。君はもう少し休んだほうがいい」
「分かった・・・」
身体を横にすると男の子は眠ってしまった。無理もないさモンスターに襲われて怪我もしてるんだ。疲れていないはずもない。
男の子の寝息が聞こえたのを確認してエリーの手伝いを続けた。
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