121話 新しいビジネスと挫折ですか?

 カリーナさんに呪いの上書きをしてからゆうに五日が過ぎようとしていた。


『まだ、公爵領に居たんかい。』って、ツッコまれそうな気もするが、実は滞在しないといけない理由が出来たんだ。


 実は、公爵領内では再度『奴隷解放宣言』を行うことになった。


 あの日、反対派であり犯罪奴隷商達の重要拠点となっていた場所を潰し、傷付いた人族を救うため世界の至宝である『世界樹の種』をあっさりと差し出したエリーは俺達の思惑通り亜人の中で英雄視される事になった。それに加えて亜人初の【勇者】としても発表され人族からも人気が出始めていた。この度、亜人族代表として式典に出る予定になったのだ。

 それと、壊れること無く残ったアーティファクトを式典に出してほしいのだそうだ。

 まるで、何かの美術品と勘違いしてないか? と、ツッコミそうになったが何とか飲み込んだ。それよりもエリーが式典の最後の方でアーティファクトを天高く掲げる役割を担ったんだとか、なんだそりゃ。と思ったが恥ずかしそうにしているエリーを見て何だか面白くなりそうだった。

 そんなこんなで『奴隷解放宣言の仕切り直し』と言うことになり街は連日お祭り騒ぎだった。これが帰れなくなった理由。ぶっちゃけ面倒臭い気持ちもあるが出ないって選択肢はないのだ。


 式典まで暇を持て余していたので、皆で街にも繰り出した。

『英雄焼き』と言う名の山賊焼きが並んでいたり、英雄となったエリーとその相棒ベネの小芝居も連日演じられている。

 内容は人と亜人が手を取り合って人と亜人攫いの魔物を討伐しに行くという物語だ。

 見に行ったら結構エリーが中心に物語は出来ていた。ベネ相棒はどっちかと言うと助けられる役だったな。毎回冒頭で攫われるのでセリフは「あれ~~」位しかない。その他、俺達モブを助けるために鉄球を食らっただとか色々可怪しいおか(しい)内容だったが、一人水戸◯門だと思えば、善悪が分かりやすくて良いだろう。当のベネは自分の魔法が悪役側の技で表現された事に怒っていた。あんだけ派手な魔法だ。悪役が使うにはわかり易い。


 芝居の締めの言葉は、何はともあれ亜人は皆この様な志で生きているって話だった。

 C級映画みたいにあからさまだったけど、あからさま過ぎるのが逆に良かった。世間でも、なかなかに好評だった。


 意外と人って単純なのか? と、思ってしまった程だ。


 効果があったのにはそれなりに理由もある。

 物語が公表されると同時に亜人の奴隷化、売買、迫害、惨殺等を繰り返している者が告発された。豚のような伯爵とその子供。それと行方不明だがゾンビの様な子爵が主犯格で、ブタ親子は亜人のロリ、若い子を無理矢理に奴隷にし、犯して殺している事が発覚。

(エリーに迫ったとき筆おろしとかほざいてたのは何だったのか・・・)

 また、ゾンビ子爵の方は老若男女関係なしに攫った亜人を解体し何かの黒魔術の研究材料にされていたようだ。乗り込んだ兄様の部隊の人が山のように発見した死体や継接だらけの死体を見たと言っていた。


 両家とも死臭が凄かったともあった。


 と、公爵家は隠す事もなく公表した。裁判が執り行われる予定だが、二家ともお家は取り壊しにされ一族は処刑されるだろう。共存派による会計予算もだいぶ横領していたようだし色々駄目だろう。

 亜人共存派の二家が亜人反対派の筆頭貴族でしかも非人道的な事を行っていたと暴露されるや否や街民は反対派の貴族たちを避難するようになった。

 お蔭で反対派の日和見だった貴族達は掌を返したように亜人の人達に接し、数的に不利になった貴族も徐々に寝返っていった。面白いように簡単に崩れていった。

 露骨な態度で取り付こうとしてくる連中は、裏で何かと繋がっていた(いる)・・・・・・・・・・可能性が高いので後で取り調べをさせ、内容によって豚と同じ運命を辿るだろう。


 そんな貴族の醜態を見てか街の人がより一層亜人の人達に関わるようになっていた。

 良いことだと思う。それに亜人族の皆も中々に我慢強い。そんな醜い人族の対応にも亜人族の皆が冷静に対応していたのも良かったと思う。

 文句は何も言わず逆にお礼を言う姿なんて、なんとも言えない美しさがあった。

 お陰で亜人の人々の株が連日ストップ高を記録している。このまま行けば式典は何事もなく無事成功するだろう。


 で、俺は何をしているかと言えば、ソフィーとベネと組手をしていた。

 俺達は今日・・・あっ、式典が今日の夕方位からなので・・・。

 俺は裏方(護衛)に回るので調整に二人の力を借りていた。無事に成功すると思うが慢心はスキを生む。それに何だかんだで一番狙いやすいのは式典時だ、俺がヒットマンならその時を狙う。だから、『あの時、ああすれば良かった。』などと、言う事が無いように調整していたのだ。


「ぜー。ぜー。はいぃ」


 ベネが俺に向かってパンチを繰り出して来たが軽く流してそのまま投げる。


「あれー。何で?」


 ドシンと尻餅を着いたベネが投げられた事に不思議がっていた。


「はいーやああああ」


 続いてソフィーも死角から飛び蹴りを出してきた。

 だが、俺はソっと躱すとソフィーの足を掴んでベネに向かって投げた。


「ベネ。避けて〜!」

「ちょっと!?」


「「あぎゃ」」


 女の子二人がなんつ〜声を出してるんだと思ったが、二人はフラフラにながら立ち上がろうとする。

 もう一本とも思ったが、何か気配を感じたので一度中止する。


「ここまで」


 俺が声を掛けるとその場にしゃがみ込んだ。

 アクア汁を二人に渡す。


「イッセイ君。目隠ししてるのに何で当たらないの?」


 ベネがボヤいた。

 そう俺は目隠ししながら二人と戦っていた。

 何でかと言えばハンデと自分の修練の為だ。

 あの一ヶ月の闘病生活明け辺りから普通の方法では3人とも相手にならなくなってきたので、自分に枷を付けている。

 俺が本気を出してまともにやり合えるのは、叔父さん(ちょっと手を抜く)とメイヤード様(全力全開で行っても歯が立たない底なしババア)位なものだ。

 この前戦ったユキマル位がちょうど良かったりするがそうお手頃の敵も居ない。まぁ、今のユキマルはあんなだしな。

(呑気なもんだ。岩の上に腹を出して寝そべって昼寝していやがる。)


 だが、ただ枷を付けただけだと何の修練にもならないのでセティに頼んで俺の周りに風を纏ってもらっている。(空気の濃度をちょっと変えてね。)

 で、俺に近づくと周りに漂う空気が変わるので、その変化を感じて反応出来るようにしていたのだ。


「二人もやろうと思えば出来るんだけどね」


「「どうやって!?」」


 食い気味に聞いてくる二人。

 何だ興味があったのか・・・、もっと早く教えれば良かったかな?


 −−パチパチ。


 拍手が聞こえてきた。

 音のする方を見ると兄様とカリーナさんが姿があった。

 どうやら、俺達の訓練を見ていたようだ。


「いやはや、凄いね。素人の私でも戦いのレベルが違う事が分かったよ。でも何故こんな人気のない場所で訓練してるんだい?」


 兄様達が近寄ってきた。俺達は出来るだけ型を隠す。

 兄様やカリーナさんと言えどそう簡単には見せられるものじゃないからだ。


「元々、この武術は門外不出なんですよ。訓練するにも人気の無い所でやらないと駄目なんです」


 メイヤード様の顔を思い出して話をしていると、既に一ヶ月近くここに滞在している。

 そろそろ戻らないといい加減ヤバイ気がしてきた。色々、外に漏れ始めてる。


「なるほどな。イッセイの事も実力を見るまでただの弟だと思っていたが、これだけ凄いと自慢ができそうだよ」

「いえ、それは・・・。あんまり目立った行動をしたくないので止めてください」

「はははっ。冗談さ。・・・イッセイ。カリーナの件は本当にありがとう」


 兄様とカリーナさんが頭を下げてきた。

 って、何で!?


「ちょっ!? カリーナ様。兄様も止めてください」


 前にもこんな事があった気がするがあの時もマジで止めてほしかった。


「いや。これは私の愛する人を助けてもらった礼だよ。肉親だからと言うわけじゃない。一人の男として礼を言ったんだ」

「はい。私の命とアレンの命、イリーナ姉様の命を救っていただきました」


 そう言って手を差し出してきた兄様。横でカリーナさんが再度お礼を言ってきた。兄様の呼び名が変わっている。


「「キャー。アレンだって」」


 女性陣も直ぐに気づいたようだ。

 きっとそういう事だろうと想い俺も意を組んで握手で返す。


「兄様。おめでとうございます」

「うん。ありがとう」


 その後、休憩がてらに兄様の話を聞いた。

 ソフィーとベネがカリーナさんとキャピキャピしていたので、俺は兄様と会話をしている。


 兄様の話は今回の式典が済んだらカリーナさんと婚約し、ゆくゆくは公爵家に婿入りするのだとか・・・って、長男がそれで良いんかい!イリーナさんは無罪とはならない様だ。数年は公爵家の犯罪奴隷として街の修道院で奉仕を余儀なくされるらしいが本人は既に罪を認め反省の意志も見せているらしい。真面目に取り組めば一年も掛からず許されるかもしれないな。


 と、今は兄様の話だ。


「私は武力がからっきしだからね。ジョシュアが後を継いでくれるって話も既についている」


 おぉー。父様太った腹いや違った太っ腹。

 このような世界で長男以外が家督を継ぐとかすげーな。

 ろ、思ったが兄様から。


「最もイッセイの実力を知ったら跡継ぎはイッセイのものだと普通は思うんだ。父様でも覆せない何かが、あるんだろ?」


 鋭いツッコミの兄様。ご明察です。

 内容は言えませんが・・・


「はい。そんな所です」


 流石にヴィルの話は出せない。

 丁度、精霊界に行っててくれて助かったぜ。


 話を誤魔化すために爽やかスマイルで返したが兄様の笑顔も大概だった。


「まぁ、良いさ。さて、私達はそろそろ会場入りする。皆も着替えて会場に来てくれると助かる。」

「「「分かりましたー。」」」


「カリーナ行こうか」

「はい。アレン」


 兄様とカリーナさんが仲良く歩いていった。

 ソフィーとベネが暫く二人を羨ましそうに見つめていた。



 ・・・



 飲めや歌えやの式が始まって既に一、二時間は経っただろうか。夕焼け色に染まった空が哀愁を漂わせ、どこか物悲しい気分にさせる。

 楽しい時間が経つのは早いもので、式としてはもう最後の場面まで来ていた。

 街が一体となったこの式に終わる事の寂しさからか拍手も少し弱めだった。


 壇上には公爵様とカリーナさん。

 エリーと代表の亜人族の人が上がった。

 ここまでは表立った動きはなく、会場内でヒートアップした人が喧嘩していた位だ。(最も兵士さん達に連れられて強制退去させられていたが)


 イタチの最後っ屁があるとすれば前回と同じこのタイミングなのだろうが、何が起ころうと俺が全力で阻止するつもりだ。

 既にセティの風、マーリーンの力によって姿を消したユキマルを亜人族の人の側に配置済みだ。


 今回は、代表者を解放する前にエリーによってアーティファクトを天高く掲げると言う謎の儀式があるためそれが終わってからが勝負だ。


「では、『森の勇者 エリンシア様』より亜人と人族の叡智の賜物であるアーティファクトを掲げていただきます。どうぞ」


 司会の人がエリーを紹介すると壇上にエリーが姿を現す。


 --おぉー。美人じゃ。

 --ピー、ピー。

 --あの娘、かわいいな。

 --私、ファンになりそう。


 手を上げて声援に答えるエリーは何処か誇らしげだ。

 ふむ。グッズを作ったら売れそうだな。


 --エリーちゅわぁん~。

 --L・O・V・E エ リ ー ィ ! !

 --ほ、ほ、ほぁ~。


 中には少しコアなファンも居るようだ・・・。

 下手にグッズ化するのは止めよう。


 民衆の皆さんが次々に声を挙げ、おおいに盛り上がっていた。

 そんな中、祭壇の上には夕日を浴びて爛々と輝く『虹』が飾られていた。

 その後、公爵様の演説が始まり民衆の皆さんは公爵様の言葉に耳を傾けていた。


「・・・と、言うようにエルフ族の姫君が惜しげも無く・・・。」


 ダラダラと長い話で場を白けさせていた。

 ご高齢の校長先生とかが喋ってるあれ・・ね。時々無限ループしてるあれ。


「と、まぁ・・・。」

「ほほほ。皆様アーティファクトを御覧ください。」

「こ、コラ。カリーナ!?」

「あぁ。アーティファクトが輝いている!!」

「い、イリーナまで・・・。」


 しょんぼりと肩を落として壇上から下がっていく公爵様の背中には哀愁が漂っていた。

 まぁ、しょうがないよねー。


 代わりにいきなり話を振られたエリーが戸惑いながらも壇上へ進む。

 民衆の皆も退屈な演説から開放されたテンションとエリーがアーティファクトを持ち上げた事で大歓声になっていた。


 エリーが天高らかにアーティファクトを持ち上げると夕焼けの光を吸った『虹』は何とも言えない美しさを放っていた。

 俺にはこの儀式が何の意味を示しているのかが理解できなかったが、いつの間にか出てきていたカズハが俺の服の袖を引っ張っていた。


「カズハ。どうした?」

「イッセイ様。『虹』に力が溜まっています」

「え? 何で」

「分かりません。信仰によるものなのか? 違う力なのか・・・兎に角、あれを排出させないと何が起こるか分かりません」

「そんなに物騒なのか? マーリーン頼む!」

「はーい」


 カズハの注意を受けて直ぐに俺はマーリーンに姿を消してもらった。

 何で隠れるかって? そりゃ、『虹』を発動させるのをエリーの実績にするためだ。

 あれは俺しか使えないがエリーはこのまま亜人族のシンボルとして表舞台に立ってもらう必要がある。


 そこに現状部外者の俺がでしゃばったらどうだろうか。


(ファンに)確実に殺されるわい!!


 不毛な死を遂げたくない俺は密かにエリーに近づいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る