120話 これが、結果とオチですか?
ザワザワとお店の周りが騒々しいのは俺のアーティファクトが火を噴いたからだ。
と言っても決して『下半身に付いている俺のアーティファクトが』とか言う下品な内容では無く。先程完成した正真正銘の創ったアーティファクトの事だ。
アーティファクトには名前が必要らしく、俺が名付けた。
そして、名前を付けたら溢れんばかりの光が錬金工房だけでは無く街のほぼ半分を埋め尽くしたのだ。
明け方と言うことでクレームまでは言われなかったが、光に驚いた住人たちが店の前まで押し寄せてきていた。
「いやー。とてつもない物ですな・・・」
と、ため息混じりに口にするのは錬金工房の店主である。
「す、すいません。」
「いえいえ。攻めてる訳では無いんですよ。ただ、普通にとてつもないモノだなと褒めただけです」
下顎に生えた髭を手ぐしで解かしながら俺達が居る工房までやってきたオーナーさん。外の騒ぎも相まってどうやら起こしてしまったようだが、一点だけ・・・。
そのパジャマ何?
Yシャツに虎の絵が描いてあるパジャマだった。
凄くダサいです・・・。
と、どうでもいいオーナーの趣味にツッコミを入れていると。
「ついに出来たのですな」
ナイスミドルな爽やか笑顔でアーティファクトの件を喜んでくれた。
本当にパジャマのセンスだけが残念です。
「はい。これで彼女を助ける事が出来るとおもいます。」
彼女とはカリーナさんの事で今は呪いのせいでずっと眠ったままだ。
「残念ですがお売りはできないです」
申し訳ないが、こんな物を一般の人に渡すなんて出来ない。
普通に扱えないのもあるが、変に流通させては【外来種】共の手に渡る可能性がある。
扱えない者には観賞用位にしかならないが、扱える者にとっては兵器にもなる。
創っておいて何だが、今回で壊れてくれれば良いのだが・・・・。
そんな事を思いながら答えると店主さんは、
「いえいえ。当店では扱いきれません。王城か然るべき機関で保存すべきでしょうな」
「ご理解感謝します」
ありがたい。そこら辺の安っぽい奴らなら欲に飲まれて是が非でも手に入れたいと言ってくるものだが、この人は分かってくれた。
最も俺にしか発動出来ないので最悪盗まれても問題は無いが、
改めてアーティファクトを持ち上げてみてみると光はすっかり安定したようだ。
淡い虹色の光が
虹色の淡い光がアーティファクトから漏れるようになったのも、原理がいまいち分からないがバッカスの見解ではどうやら世界樹の種が関係しているらしい。
「イッセイ様。そろそろご準備を」
店主さんとアーティファクトの話をしていたら結構時間が経っていたみたいだ。
カズハが俺を呼びに来てくれた。
「では、後ほど」
「はい。私はこちらで成功を祈らせていただきます」
カズハを肩に乗せカリーナさんの所へ行く。
工房のオーナーが使っている一室を借り、そのベットに寝かされているカリーナさんが居た。そして、その周りをイリーナさん、兄様。そして、公爵様が囲んでいた。
「イリーナ。目を冷まして欲しいでおじゃる。」
「パパ。そのふざけた喋り方止めてよね」
「何がでおじゃる? ミーは至って普通に喋っているでおじゃるよ」
「その喋り方が普通じゃないってんでしょうが!」
「まぁまぁ。二人とも落ち着いて」
何やら仲良さそうにしていた。家族のためにスッと集まってくれたし、案外家族のわだかまりは元々無かったのかな。
今回の儀式は、呪いの上掛けになるので相手を思う気持ちが強いほど成功率は上がる。なので、家族仲が良ければ良いほど、数が多ければ多いほど良い。
これだけ想いが強い人達がいれば大丈夫だろう。
「では、皆さん。始めましょうか」
公爵家(+兄様)の話のキリが良さそうな所で口を出した。
「イッセイ君・・・いや、イッセイ様。私の命はどうなっても構いません。カリーナを。いえ、妹をお助けください」
「私からもお願いするよ」
イリーナさんと兄様は深々と頭を下げてきた。
「ミーも頼むでおじゃる。プリーズで、おじゃる」
公爵様も必死さは感じるんだけどいまいちウザいんだよな・・・
まぁ、気持ちがあれば良いか。
「モチロンです。・・・カズハ。始めよう」
「はい。イッセイ様」
ベットの上にカズハを降ろすと彼女はカリーナさんに近寄っていく。
そして、カリーナさんの顔の近くに座ったカズハが祈りを始める。
一応これからの段取りを話しておくと、カリーナさんに近い三人(公爵様、イリーナさん、兄様)の祈りをアーティファクト『虹』が増幅させ、『虹』によって増幅された祈りをカズハが一回取り込んでから『力』に変換する。そして、その力を使って呪いの重ねがけをするのだ。
「では、皆さんカリーナさんの事を強く思ってください。出来るだけ強く想ってください」
俺がそう話すと三人は各々祈り始める。
「カリーナ・・・」
「戻ってきてくれ」
「ミー達の元に帰ってきて欲しいでおじゃる」
・・・三人の祈りが『虹』が反応し増幅され、虹色の光が天井や壁に反射するようになってきた。だが、まだ足りない。
「もっと! もっと! 強く想って」
「・・・」
「むむっ・・・」
「おじゃ、おじゃ・・・」
更に強く想ってもらえたお蔭で、光はかなり強く増してきた。
今ではこのフロアー内に虹色の光が漂う様になってきた。
もう少しだ。
目標は名前を付けたときと同じくらいの光をはなつ位。そうすればカズハの力で呪いを上書き出来る。
「もっと、カリーナさんにどうなってほしいのか強く祈って!!」
「「「カリーナ!! 帰ってきてくれ」」」
三人が同時に叫ぶと『虹』は名前を付けたときと同じ輝きを放つ。
「イッセイ様。いけます!」
「うん。カズハお願い」
「はい。 『・・・神の器『虹』に命ずる。その
カズハは手を組みアーティファクトに向かって祈りを捧げた。
アーティファクトが反応し輝き続けていた光は思いを受け取ったとばかりに天井を抜けていった。
光が消えていく際、
「あり・・・がとう・・・」
「???」
光が消える直前に女性と老エルフが微笑みながら空に消えるのが見えた。
話に聞いていた公爵様の奥さんと老エルフの二人に似ていた。・・・が定かではない。
アーティファクトから光が完全に消え、視界が徐々に戻っていく。
すると、部屋の中にもだんだんと落ち着いた空気が漂ってきた。
その場にいた皆はカリーナさんの容態を知るべく固唾を飲んで見守っていた。
「カズハ・・・」
「はい、無事に終了いたしました」
「そうですか! 娘はカリーナは助かりますか!!」
「「しーっ」」
「あっ、すまん」
カズハの言葉に反応した公爵様だったが、大きな声を出したため咎められていた。
公爵様の気持ちは分かる。だから、
「もうじき目を覚まされると思いますよ」
俺はそう答えた。
「う、うーーん」
タイミングよく起きた様だ。
カリーナさんが声を発した。
「カリーナ!?」
「お、お姉さま? お母様は?」
「貴女もお母様の夢を見たの!?」
「夢・・・?」
「カリーナ。目が覚めたのか」
「お、お父様!? その喋り方は正気に戻ったのですか? ・・・それにアレン様まで? って、どうして? 拠点に居たはずなのにどうしてここに?」
「・・・よかった。カリーナよかった」
目覚めたカリーナさんに駆け寄っていき抱きしめるイリーナさん。ウザったいメイクのママ素の対応をする公爵様と、近くで公爵家を見守っているお兄様。
こういう家族愛を見ると心が温かくなるな。フッと父様達のシェルバルト家の事を思い出した。もう少し片付いたら領に戻ろうかな。
ま、何はともあれ今はうまくいって良かった。
「取り敢えず僕たちはここを出ようか」
「はい」
家族団らんの邪魔をしないようカズハと俺は部屋から出ようとする。
すると、ここのオーナーさんが妙にニコニコしながら近付いてきた。
「イッセイ様。貴重な体験ありがとうございます。この様な奇跡に立ち会えたこと私は今後一族に語り継いでゆきます」
「え”? いや・・・」
「大丈夫です。出来るだけ英雄視させて伝記させますから」
「いや・・・・。まってええええええええ」
一体何を作ろうと言うのだ?
止めようとしたが、そそくさと部屋を後にするオーナーさんは速かった。
あっという間に見えなくなった。
その瞬間に色々と悟った。もう間に合わないのだと・・・。
もうどうでもいいです。
色々終わったと思うと疲れがドッと出てきた。最も、最後のが一番疲れたが。
取り敢えず皆がいる工房へ行って俺も休憩する事にしよう。
「ただいま。」
「・・・おう。若旦那。おかえり」
静まり返った工房。先程までここが修羅場だったとは思えないくらいに静まり返っていた。そして、俺を迎えてくれたワッツさん達職人さんがなぜだかめちゃくちゃ小声で喋っていた。
俺は『なんで?』って顔をしてワッツさんを見たら。
ワッツさんが魔導炉の方を指さした。
「すー。すー」
「・・・くぅ」
「うーん。もう食べられないよ」
三人は魔導炉に腰掛けたまま眠っていた。
「若旦那が出てって行ったあと直ぐに寝ちゃったんですよ」
あぁ、そうか皆頑張ってくれてたものなぁ・・・。
「ありがとう。おやすみ皆」
そうとだけ言うとワッツさんが手招きしてくれた方へ進む。
階段を上に上がるとそこは職人さんの宿舎になっていた。
そして、既に祝賀モードになっていた。
「若旦那。ご苦労さまです。いや凄かったですね上手くはいったんでしょ?」
「はい。無事カリーナ様は目を覚ましました。これも皆さんのご協力のお陰ですよ」
「year!!」
「foo~」
職人の皆さんがハイタッチしたりガッツポーズしたりして喜んでくれるのは良いんだが・・・。何で? 英語。この世界の職人さんは喜ぶ時は英語を喋るのがしきたりなのか?
そして、俺の言葉がそのまま乾杯の合図になったのか、皆が各々グラスをぶつけて飲み始めた。って、まだ朝になったばっかりだよ?
「どうせ、材料が無いですから今日は休みですぜ」
「あっ、どうも。そうか、魔導炉のせいで材料無くなっちゃったんですね・・・ぶー」
渡されたコップに口を付けると顔や胸がカッと熱くなる。
「これ・・、お酒・・・ですか?」
「おや。若旦那はじめてですか?」
直ぐに吐き出したのは良いものの口に残っている酒が気持ち悪い。それに目の前の視界がグニグニしてきた。
頭もボーッとしてきて意識も飛び飛びになってきた。
「・・・はい。はじめて・・・れふ・・・」
全身に力が入らなくなりその場にぶっ倒れてしまう。
意識は辛うじてあるが数分は持たないだろう。
主役が乾杯直後に倒れたとあって場が騒然となる。
「お、おい。ワッツさん。シェルバルト家のご子息に何を飲ませたんだ?」
「俺は別にその辺にあった弱い酒を渡しただけだぜ」
「おい。これ、ドワーフ殺しじゃねーか」
「アチャー、そりゃやべえ」
薄れゆく意識の中、『ドワーフ殺し』って品目存在するんだ。そう思った所でぷっつり記憶が途切れた。
また・・・このオチか・・・。
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