119話 アーティファクトを創ろうとして死にかけたのですか?

「では、行きます」

「おおさ」


 俺が魔導炉に魔力を込め起動させた後に材料を抱えたワッツさんに声を掛ける。

 すると、ワッツさんは元気よく返事を返してくれた。


 ワッツさんが魔導炉に素材を入れてくれる係を買って出てくれた。

 何でも魔導炉を始動した時にどんな物が出来るのか想像出来ない動きをしたらしく途端に興味が湧いたのだとか。こちらとしては大助かりだ。

 材料の調整から何から全部俺達4人でやろうとしてたので人手が多いのは助かる。


 そうしている間に俺の魔力に反応した炉も温まってきた様だ。

 てっぺんの部分に空気中の魔力が吸われていき、炉の奥から魔力の光が漏れ始めた。

 うん。起動はバッチリ。後は、ワッツさんと連携して素材を足していくのと・・・今回新たに創るために必要不可欠なのが、


「皆。出ておいで」


 当然、精霊の皆だ。これから彼らには各々の属性の力を新しく創るアーティファクトに注いで貰う予定だ。

 俺が声を掛けるとワームホールが開き精霊界から皆が次々とこちらの世界に現れる。

 バッカスを筆頭にプロメテ、アクア、カズハ、マーリーン、セティと順番に出てきた。出てきて早々だがバッカスの機嫌が悪い。


「飲みすぎですか?」

「飲んどらん!! ワシがこんなのはイッセイお前のせいじゃ。お前アーティファクトでも創る気か?」


「それ位には、・・・なると思ってます」

「バカもん。お前、そんなもん創ったら死ぬぞ!」

「バッカスのお爺ちゃん。そんなに・・・」


 珍しく大声を上げるバッカス。せティが嗜めるがバッカスはずっと怒った顔をしていた。そういえば、俺自身大声出されたのは初めてかも・・・。

 怖さ? めっちゃ怖かったよ。怒ってる時だけは劇画みたいな顔になってたし。

 それと、余談だがプロメテがビビってちっちゃくなってるのよねー。

 SD化してて優等生プロメテになっている筈なのに普段からバッカスに叱られているから遺伝子レベルで怖いらしい。SD化から更にちっちゃくなってへ魔導炉の隅でガタガタ震えている。


 虫みたいにちっちゃ!?


 確かに顔は怖いが俺にも信念があるから負けるわけにいかない。

 ましてやエリーが友達のために差し出した宝だ。使わない訳にいかないよ。


「それは分からないよ。休憩は取るし、皆もいる」


 俺は怯む事なくバッカスを見つめ返す。


「ワシは手伝わんぞ」


 バッカスが腕を組んでソッポを向いた。

 かぁ、ヘソ曲げた~。うーん。バッカス頑固そうだしな、下手なこと言うと余計に怒りそうだし・・・。ちょっと様子見るか。


「イッセイ様。おまかせくださいアクアはこの機会にレギュラー・・・じゃ無かった。バッカスの変わりに全力を尽くします」

「アーウン。ヨロシクネ」


 空気も読まずに意気込んでるアクアには悪いけど一属性だけ頑張ってもな〜。

 俺が創りたい物は出来ないんだよな。

 そのアクアも精霊女性軍団に取り押さえられて大人しくさせられている。


「・・・取り敢えずは始めましょう」


 バッカスは後でなんとかしよう。兎に角、今は時間が勿体無い。

「作業を始めるのが先決だ。」と、思いワッツさんに声をかけたつもりだったのだが・・・・


 ワッツさんはポカンと口を開けたまま微動だにしない。と言うかそのバッカスを見て固まっていた。ワッツさんもバッカスの顔にビビったのかもね。


「あのー、ワッツさん?」


 声をかけたがまだ呆けている。眼の前を手でブンブン振ってみたらちゃっかり手だけ振り払われた。集中してるんじゃないのか・・・。


 いや、でもちょっとお願いします。魔導炉って可動しているだけで地味に魔力を使うからそろそろ素材を入れるために動いて欲しい。

 さっきも言ったとおりワッツさんが材料の運搬業務を請け負ってくれたから、三人は仮眠をとっている。なので、俺がここを離れる訳にいかないので魔力は減っていくばかりだ。

 マジで・・・お願いします。


 −−ガスン!


「ホわっ?」

「職人が請け負った仕事に手を抜くんじゃねーよ。」


 バッカスに殴られたワッツさんが我に返った。

 そして、俺が見つめているのに気付くと急いで素材を魔導炉に運んできた。


「わ、わりい。精霊様を見たら感動して固まっちまった。でも、精霊様に殴られるなんて幸せだな」

「そ、そうッスね。・・・じ、じゃあ、改めて始めます」


 バッカスに殴られて喜ぶワッツさん。子供みたいに爛々とした目をしていた。

 そんなバッカスさんを脇目に俺は魔導炉に魔力を込めていく。

 炉の出力を調整しつつ魔力を高めると炉から粒子が吐き出され、炉の奥の方からより強い光が漏れる。炉も安定してきたようだ。

 ワッツさんが素材を運んでくる。


「おーい。ここに入れても良いのか?」

「いえ。近づけるだけで大丈夫です」

「こうか?・・・って、おぉーすげぇ!!」


 ワッツさんが炉に素材を近付けると、アーラ不思議!! 素材は炉に近づけただけで粒子分解されて炉に吸われていき、粒子分解された素材は炉の上部に再構築されていく。

 俺がイメージしたのは世界樹の種を包み込む球体の宝石。いや、世界樹の種を中心としたこの世界そのものをイメージした。

 実は、球体なのは前いた世界が球体だったのでイメージしやすいからと言う単純な発想。

 そして、世界に絶対必要不可欠な水、風、火、光、闇、それと土を精霊の皆で表現したかったのだが、バッカスは絶賛拒否中だ。


 後ほど、バッカスの説得をどうするか考えないとな。


 取り敢えずは土台である素材を魔導で溶かし、混ぜ合わせ、加工する。

 素材については珍しい物はない。特殊なもの集める時間なかったからね。銀、『りん』、硫黄に砂鉄。球体を形成出来るありきたりな素材が中心だ。

 ワッツさんがせっせと運んでは魔導炉に放り込んでいく。

 最初は雫みたいだった金属の塊も徐々に大きく。それでいて不純物の少ない物になっていった。


 1時間程で出来上がった土台の玉は、掌を2つ合わせた位にまで大きな金属の塊になった。この頃にはミスリルも少しづつ入れていく。魔力の伝導率の良い金属なので混ぜ合わせて使うと全体に魔力が行き届いて良いのだ。


「よし。土台はこんな物だろう。バッカスどうですか?」


 何かとバッカスを巻き込む。そうしないと本当に関係なくなっちゃうからね。都合がいい時だけお願いすると職人さんへそ曲げちゃうからね。

 なんてことは思っていない。ホントだよ。

 ただ関わってもらうってのは本当で、なんやかんやお願いすると必ずふてぶてしい顔をしながらでもわざわざこっちに近寄って来てくれて色々チェックしてくれた。

 アーティファクトの精製は俺のことを心底心配してくれているだけで、反発心からではなさそうだ。


「ふむ。これなら魔力はキッチリ伝達されるわい」


 と、言いながらこっちに投げ返してきた。

 渡した後でプイッっとそっぽを向いてしまう行為につい笑顔になってしまう。


 バッカスのお墨付きが出たので次の工程に進む。

 再び魔導炉に土台となる玉をセットし魔力を送り込むと、土台の玉はミルククラウンの様に液状化を始めた。再度、粒子化させたのだ。


 さぁて、ここからが本当の戦いだ。


 ここからは精霊の皆から魔力を注入してもらう必要がある。

 俺の役目は暴れて破裂しないように調整する役だ。


「おっしゃー。バッカス以外の全員の魔力。受け止めてやりますよ!」


 気合を入れて待ち構える。


「じゃあ。みんなよろしく」

「「「「「は~い」」」」」


「ま、待てイッセイ!!!!」


 −−ドンッ!


 魔導炉の周りを囲む様に位置どった皆が一斉に魔力を注入してきたお陰で俺への負担が一気に高まった。俺の体を何かが突き抜けていく感覚とそのまま体をえぐる様な感覚があった。

 戦っている最中だってこんなに魔力を消費してる事は無いのに・・・。


 あっという間に魔力切れを起こし意識がぷっつりと切れた。


 ・・・


「大丈夫か?」


 意識が朦朧というか目が回っていると言ったほうが良いのか意識が定まらない。

 声を掛けてくれたのはバッカスのようだが・・・。


 あぁ、バッカス何でか知らないけどバッカスが9人に見える。


「バカタレ。生きてただけでも奇跡だわい。人の忠告を聞かんからだ」

「はぁー。はぁー。はぁー。はぁー。んあ"あ。大丈夫。はぁー。ふぅー。」


 喉はカラカラで体中の血液が沸騰したように熱い。

 それより魔導炉はどうなった? 止まってたら直ぐに動かさなきゃならない・・。って、何で? 既に魔導炉にはソフィー達三人が炉のコントロールしてくれていた。なかなか安定している様だ。

 ちょっとは回復したか? 頭がズキズキと痛いが少しなら役に立てるかもしれない。


「バカもんが、これで分かったじゃろ」

「バッカス・・・」


 疲労した体を休めて居ると目の前まで来て声を掛けてきたのはバッカスだった。

 まだまだ。こんなんでへこたれる訳にはいかない。


 何とか立ち上がろうとするが足が言う事を効かなかった。


「バカもんが無茶をするな! アクア。カズハ。ボーッとするでないイッセイを助けんか! もう少し休んでろ愚か者が」


「「は、はいっ!!」」


「セティはソフィー姫をプロメテはエリーのお嬢ちゃんをマーリーンはベネお嬢ちゃんをフォローしろ」


「「「はいっ」」」


 テキパキと指示を出すバッカスに驚いたが、他のみんなも逆らう事なく従っていた。

 アクアとカズハが俺の元に来て色々世話を焼いてくれたお陰で呼吸を整える事が出来た。

 休憩しながらバッカスを見ていると精霊の三人だけで無くソフィー達にもアドバイスをしていた。

 内容も恐ろしく的確で精霊の三人がキッチリフォロー出来る内容だった。


 すっげー詳しいじゃないか。


 過去に何か創ったことがあるのかもしれない。

 そう思いながら俺の意識は闇に落ちていった。



 ・・・・


「はっ!」


 目が覚めると音の前は戦場と化していた。

 精霊の皆が総出でソフィー達をフォローしている。


「お嬢ちゃん達もう少し踏ん張れ。イッセイが起きたら直ぐに替わるからな」


 バッカスが現場の総監督の様になっていてタイムリーに対応してくれていた。

 サボって居られないと俺は体を起こす。

 若干気怠さは残っているが先程の感覚に比べれば楽なんてもんじゃない。


「ごめん。皆」


「イ、イッセイ。遅い」

「流石に限界・・が」

「き、キツかった」


「こらー。イッセイが用意するまで気を抜くな!!」

「「「はいっ!」」」


 何があった? すっかりバッカスの部下みたいな反応をする様になった三人。バッカスに怒鳴られて集中していた。

 よく分からないまま体を起こし魔導炉に腰を下ろすと、バッカスが近寄ってきた。


「バッカス。一体何が?」

「お前さんが最初っから飛ばしてるから調整したんだ。」


 目の前に浮かぶ創りかけのアーティファクトを見ると俺が触っていたときより大分安定しているのが分かる。

 イメージで言うと海で高波が立っていたのが俺の状態。それが、今では波なんか全く立っていないまっさらな状態だった。


 驚いて凝視しているとバッカスが、


「まぁ、お前さんは大分無謀にやってくれたお陰で半分は進んだ」

「僕はどれくらい寝ていたの?」

「もうすぐ夜明けじゃからな、2時間って所か?」

「えっ、そんなに」


 かなりマズイんじゃないだろうか、カリーナさんの事を考えると夜明け頃には創っておきたい。俺の心が読まれたのかバッカスは笑いながら。


「安心せい。後はワシが魔力を注げば完成じゃ」


 と言ってくれた。

 バッカスには感謝の気持ちしか生まれなかった。


「ワシだけだと言ったがアーティファクトは最後が肝心じゃ。世界樹の種を守る為のコーティングもするから一発勝負じゃ。出来るか?」

「モチロン」

「いい返事時じゃ。ワシが指示を出すから合わせて魔力を注入してくれ」

「了解」


 俺とバッカスの仕上げが始まる。

 バッカスが送ってくる魔力を俺が調整するという単純な内容だが地味に細かい作業だ。

 しかも、最後なだけあって一気に進めることが出来ない。ミリ単位で進めるしか無かった。


「エリーお嬢ちゃん。今だ」


 バッカスの声に合わせてエリーがペンダント内の世界樹の種をアーティファクトの中に落とす。


 アーティファクトの中心に来た世界樹の種は下に落ちきるのでは無く真ん中辺りで宙に浮いた。そして、勝手に閉じられていく穴を見守っていく。


「イッセイ。今じゃ!!」

「よっしゃああああああああ」


 世界樹の種を包んでいくバッカスの魔力が完全に閉じた瞬間を狙って一気に包み込む。


 虹色の光を放ちながら俺の掌の上に降りてくるアーティファクト。

 今、俺の掌にすっぽりと収まった。


「出来た・・・」


 魔導炉の中心で神々しいオーラを放つオーブが浮いていた。


「いやはや本当にアーティファクトを創ってしまうとはな」

「これがアーティファクト」

「キレイ・・・」

「す、凄いわ。これを見せたら里でも文句を言う人は居ないわ」


「まだじゃ。さぁ、イッセイこのアーティファクトに名前を付けてくれ。それで完成じゃ」


 目の前に浮かぶアーティファクトを手に取り中を見ると世界樹の種を中心に各属性が段々になっている。

 これは俺がイメージした通りの物だ。

 そして、この世界で見たことの無いものだ。


「このアーティファクトの名前は『虹』だ」


 名前を呼ぶと部屋を埋め尽くすほどの光に包まれた。

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