118話 やっぱり無理を言ったら嫌ですか?

 一瞬、ポカンとなった。

 だってそうでしょ。何がどうなったらここで世界樹の種が出てくるのか分からない。

 と言うか何でエリーがそんな物を持っているのかも不思議だった。

 ベネも流石に『世界樹の種』なんてキーワードがこんな所で出てくると思っていなかったらしく口が開いたままになっていた。


 ちなみに世界樹の種とは読んで字の如く世界樹が生える為の種である。

 一説には世界樹が数千年に一度、花を咲かせるらしくその花から種が取れる事があるのだとか・・・。そして、その種は煎じて飲めば不老不死になる等と伝説とも言える胡散臭い伝記が多かった。(そもそも不老不死になるなら伝承者がいるっつうの!!)

 まぁ、超簡単に説明すると伝説級のアイテムの一つである。


 何れにしてもこんな物を今までペンダントに隠して持ち歩いていたのかと、今はエリーを小一時間ほど説教したい。


「何故このタイミングでそんな物を見せたのか話は聞きましょうか?」

「何で敬語なのよ。止めてよ」


 イヤイヤ待て待て、俺だって動揺してるんだ。この世界樹の種が本物なら泣きながらこの場で小踊りしたって不思議じゃない。だが、これが本物と言う確証が無い以上俺の反応が普通だと誰もが思うだろう。


 だが、この何とも言えない存在感。全く無視出来ない。

 何も感じなければ、「ウッソだろお前」位は言ってのけたかもしれないが、これの存在感からそんな軽口は言えない。


「分かりまし・・・分かったから今これを出した理由わけを話してくれ」

「いや。この種を使ってイッセイが錬金すれば誰も犠牲にならなくて済むんじゃないかな〜って思ったのよ」


 おうおう。伝説級のアイテムを惜しげもなく使うって男前ですねエリーさん。


 −−バキッ。


 殴られた。殴られた右頬を抑えてエリーを見ていた。

 俺。また、思わず口に出しちゃった?


「なんか顔がムカついた」


 ヒドイ!?


「でもさ、そう言うのって代々王族が守ってきたとかそう言うのってあるんじゃないの?」


 殴られた俺を無視して、ベネが最もなこと言った。そこは無視なの?


「確かに、こういうアイテムは大抵は未曾有の有事があった際の『ノアの箱舟的』な救済アイテムなんじゃないかと思うが?」

「うん。お祖父ちゃんが世界が破滅の向かいそうな時使いなさいって言ってた」


 いってた、いってた、いってた・・・・


 また、ポカンとしてしまった。

 最後のフレーズだけずってエコーかかっており何時までも消えなかった。


「「「・・・・・」」」


「・・何よ。何か言ってよね」

「・・・バカね」

「うん。なかなかのね」


 ベネが言ったことがぴったり過ぎて思わず肯定してしまった。


「何でよ!! ヒドくない? 目の前で死にそうな友達が居るのに救いもしないで、何時滅びるか分からない世界なんてどうでも良いでしょ!!」


 エリーの頬には雫が流れていた。

 あぁ。なんか懐かしい感じがする。コイツって何となく鏡に似てる部分があるんだよな。

 実際にはソフィーが鏡な訳だからソフィーに似てるといって良いのか・・・て、それは良いか。エリーの生き様が彼女に似てるって話だ。


 そして、俺は鏡のこういう態度にはめっぽう弱い。

 それを見て困っていた俺を一也って言う悪魔と恵っていう悪魔が何時もイジメてきたっけ。


 何だかんだ懐かしい面子を思い出した。


 でも・・・。まぁ、やっぱりバカだな。でもカッコいいと思うよ。

 俺は泣きじゃくるエリーの頭を撫でる。


「そうだな。友達も助けられない奴が世界なんて救えないよな」

「イッセイ君。正気? 世界樹の種だよ」


 ベネが俺に驚いた顔を見せた。肯定されたことが驚きだったのかな?

 なんて奴だ批判されるのを前提で話をしていたのか・・・。


 俺は頷いたあとで首を振る。


「エリーが決めた事に乗ることにしたよ」

「でも世界樹が・・・・」

「僕達が生きている間にそうなったら僕達が止めればいいだけ。そうじゃないなら僕らの子孫に任せよう。な、ベネ」

「うっ、そ、その目はずるいわ。それに子孫って・・・」


 俺がそう言うとベネは黙った。しかも顔を真赤にして? 大丈夫。

 今回は時間も無いし、皆に色々手伝ってもらう事があるからこのまま話をするけど。


「時間も無いから移動しよう。段取りは馬車で話すよ」


 取り敢えず行動あるのみだ。



 ・・・


 兄様に訳を話したところ、


「何から何まですまないな。こちらは私が済ませておく、向こうにはこの紹介状を見せてくれ。終わったら私も駆けつけるからカリーナとイリーナをよろしく頼む」


 流石イケメンお兄様。段取りもアフターフォローも完璧で話が早いすんなり話を理解し、渡りの資料も直ぐに準備してくれた。


「では後ほど」


 手を振り見送ってくれた兄様を残し俺達は先程の錬金出来る工房を目指す。


「い、イッセイ。そ、そんなに慌てなくても大丈夫・・・ウワッ」


 エリーが操縦席の俺に声を掛けてくる。

 それもその筈だ、只今街を爆走中で上流階級の人達が楽しそうにしている横を土煙を上げながら急いでいた。

 お陰で馬車はガタガタいっており寝ているカリーナさんをイリーナさんと精霊の皆が抑えてくれている。


「いや。時間が足りるか分からない」


 出来上がりのイメージはあるけど、出来上がるまでカリーナさんが保つかは分からない。ベネにはソフィーを迎えに行ってもらっている。


「よし着いた」


 店の前に横付けしたせいで店の中からは何事かと人がワラワラと出てきた。俺は工房の人を見つけると直ぐに偉い人を呼んで貰うようにお願いする。

 特に時間も掛らず店の店主らしき人が出てきた。


「遅い時間に申し訳ないです。まずはこの書類をご覧ください」


 兄様が書いてくれた手紙を渡す。

 店主は受け取り字を読み出すと食い入るように中を確認していた。


「誰か今すぐワッツさんを呼んでくれ」


 手紙を読み終えると店主さんは直ぐに行動してくれた。


「皆様はコチラにどうぞ。もちろんカリーナ様もお連れいたします」

「ありがとうございます」


 通されたのは日中来てた応接の間だ。

 俺達が部屋に通された時には既にお茶が用意されていて、くつろげる準備がされていた。休み無しで来たのでこれは助かる。


「ささっ。取り敢えずはお掛けください。ワッツさんももうすぐ来ると思います」


 お茶を飲み少し待っていると、ワッツさんが勢いよく部屋に入ってきた。


「おぉ、若旦那。指輪を忘れたのを思い出したか?」


 指輪? ・・・指輪! そうだ、さっき創ってて、回収するのを忘れてた。

 エリーを見ると『なんだっけ?』って顔を返された。まぁ、エリーならそうだよね。


「ゆ、指輪もそうですが、今はあの工房を貸して頂いのです」

「おういいぜ。って昼間も使ってただろ?」

「いえ。正確には工房の人達全員の力を借りたいのです」

「詳しく話してもらえるかい?」


 指輪の時の破顔した顔から一転職人の顔を見せるワッツさん。

 まさにプロって感じだ。


 俺はワッツさんに経緯を話しした。



 ・・・


「なるほどするってえと、まだ見ぬその世界樹の種を使った何かを創りてぇって事だな」

「はい。魔力を使って創りたいので、こんな感じの物を造ってもらえませんか?」


 ワッツさんに紙を1枚見せる。道中イメージを紙にまとめたものだ。

 そこに描いてあるのは円形の管が東西南北に置かれた椅子に繋がっていて、椅子から真ん中にある台座までそれぞれ4方向から伸びている。


「・・・若旦那? 一体これはなんですか?」


 紙を見ても全く分かっていないワッツさん。ですよねー。

 正直だろうなとは思った。だって、俺の描いた絵普通に下手くそだもの・・・。

 マルを描いて東西南北に四角を描き、真ん中にマルが描いてある・・・・。

 即興で思いついた装置をメモ程度でイメージを描いただけだから。

 後でもっとわかり易い絵を描く予定だから。


「これから大規模な錬金及び錬成を行いたいので、魔力供給するためのイメージです」

「なるほど。このミスリルか何かの金属で繋ぐ事で4人の魔力を継続的に供給しているのか・・・」


 と、思いつつもあれこれ口で説明したらワッツさんが理解してくれた。


「なるほどな。まぁ、どうせ炉に繋がっているなら後ろのこの棒はいらないんじゃないか?」

「その辺の細かい部分はお任せしたいのですが」

「ふーーーん・・・」

「ワッツさん。イッセイ様の依頼出来ますか?」


 このお店のオーナーさんも心配してくれているようだ。


「技術的には何の問題もねぇが、明日から暫く休みになるくれぇか?」

「そんなことなら心配いりません。公爵家は恩のある家系です。当店で対応可能ならご協力致しましょう」

「なら俺達は異論はねえ」


「ありがとうございます!」


 俺は立ち上がり目の前の2人と握手をかわす。


「ただ、ちょっと無理を言うご相談が・・・」


 ・・・


 職人さん達に急造で作って貰い出来上がった特殊な炉。

 今は俺達の椅子の調整をしてもらっている。


「・・・若旦那。これでどうだい?」

「ありがとうございます。大分楽な姿勢が保てます」

「分かった。おいお前たちはどうだ!」

「こっちも完了ッス」

「大丈夫だ」

「今終わるっす」


「よーし、お前ら急な残業で悪かったな、終わったらもう上がっていいぞ」

「「「ウェーイ」」」


 現場合わせのワンオフ仕様。店に飛び込んで来てから2時間ちょっとで仕上げて貰った。部品の加工については手伝ったのだが、無理を言ったせいかワッツさんは少々不機嫌だった。まぁ、今日中に組み上げろとかイラッとする気持ちは分かる。

 しかし、請け負った仕事に手を抜かないのはやはりプロ。

 出来上がった炉は俺のイメージ通りでかつ使用効率も良くなっていた。


「皆さんありがとうございます」


 お礼を言って直ぐに魔導炉に腰を降ろす。こっからは俺達の時間だ。

 真ん中の特殊な炉は通常の形状と異なる。まずは竈のような形はしておらず山形になっている四角柱で下から魔力を受ける形にしている。また、金床等の鍛冶設備が一切無いのが特長だ。

 では、どうやって形を創るのかと言えば俺の魔力を使って創る為、指図め【魔導炉】とでも言うべきだろうか。

 向き合う4つの椅子はそれぞれ中央の炉と繋がっており誰でも炉を操る事が可能になっている構造だ。これによって最小1人から最大4人まで魔導炉での制作に関わる事が可能なのだ。

 俺達4人もその夜なべに付き合って位置調整やら魔力伝達効率やらを調整していた。

 エリーとベネが若干落ちかかっているが、後から合流したソフィーはまだ元気そうだった。


「イッセイ君は何を作ろうとしているの?」


 右手の薬指にはめた指輪を何度も撫でているソフィーがいつの間にか近くに寄ってきていた。渡した時の泣いて喜んでくれた姿は一生忘れられそうにない。


「折角、世界樹の種を使わせて貰えるならばそのままオーブにしようと思っているよ」

「オーブ? って何でしょうか?」

「あれ? この世界にオーブって無いの。・・・と、こんな形をした宝石で魔力とかが入ってる魔導具だよ」


 俺は手を使って大体の形のイメージを見せた。って、言っても俺も見たことないけど・・・。

 だが、イメージは固まってきた。オレのイメージが高まるのに合わせて魔導炉も勢いよく噴き出していた。


 うん。なかなか良いものが出来そうな気がする。



「よし。三人共魔力を込めて」

「はい」

「うん」

「分かった」


 俺の掛け声とともに三人は炉に向かい魔力を込めた。

 炉の口からフォォォと言う音共に凝縮された魔力が噴き出てきた。


「何これ!? キツイ」

「うぐぐぐ」

「・・中々魔力が吸われ・・ますね」


「三人共出力が強い。もっと弱めて」

「そんな事・・」

「言ったって・・・」

「勝手に吸われます・・・・」


 今何をしているかと言えば、三人の魔導炉への出力調整中だ。今回は俺が一人で創るにはちょっと荷が重い。

 休憩に入る際には他の皆にサポートを頼まないと駄目だと思っている。常に魔力を込め続けて貰い創った物が劣化しないようにする為だ。

 で、魔力の出力を調整しているのだが三人の出力の波長が合わない・・・。


「うーん。三人の気持ちが合わさるような事があればなぁ」

「「「あっ」」」


「おっ、今波長が合ったね。出力は高かったけど・・・」


 俺が炉を動かすのに近い位出力が出てた。

 だが、こんなに力が出過ぎると何の意味もない。


「でも、何だかコツは掴めたかも」

「あっ、分かる分かる」

「でも、抑えるってどうすれば・・・」


 女子三人組が身を乗り出し話し始めた。

 内緒話しているらしい。


「よし。その手でいこうよ」


 エリーが声を高らかに上げる。

 他の二人もその言葉に合わせて頷いていた。


 で、実際にもう一度試してもらったら。

 どうしたのよ皆、バッチリじゃない。

 って、三人してなぜ俺を見つめてくる? しかも、皆せつなそうな顔をして・・・


 何だよ。


「じ、じゃー。30分後に開始しようか」


 視線に耐えられない俺はそそくさとその場を後にした。

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