111話 公爵家のお嬢様ですか?
「・・・はぁ。」
明らかに分かる。
『何かヤバイもの』を創ったという感覚・・・。
案の定、次に手に取ったベネの指輪を見て。また、ため息が出た。
ベネの指輪もやはり変わっていた。
魔石は【火属性】をベースに【土属性】と【風属性】が混ざり合いファイヤーオパールの様な宝石のような色になっていた。
しかも、エリーの時と同じく魔石の中は液状化しており。
小さいサイコロのような黒い宝石(おそらく闇属性)と水色(おそらく水属性)の宝石がエリーの時と同じようにユラユラ揺れていた。
・・・もはや何も言うまい。
ソフィーの指輪は【月属性】と【闇属性】が混じり合いより深い色をした琥珀の様な色になっていた。
ソフィーはやっぱり琥珀になるのか・・・前に創ったブローチも何故か琥珀色になっていたよな。
細かい所は割愛するが、他のみんなと同じように水色(おそらく水属性)とオレンジ色(おそらく土属性)それと、緑色(おそらく風属性)の宝石がユラユラと揺れていた。
内容の説明が頭に流れる。
効果としては毒無効。麻痺無効。がデフォルト。宝石への追加色分の属性が使用可プラス強化。
更に中で浮かんでいるサイコロ状の宝石分の致命的なダメージの肩代わりされるらしい。(効果が発揮されると中のサイコロが消えていく様だ。)
おまけにサイコロは消えるまではその属性の耐性までもっているそうだから中々にチートアイテムとなっている。
そして、最後に頭に浮かんだ言葉。
仮に道具屋に持っていっても値段は付けられないだろう。
って、商人の目利きか? 最初から売る気など無いから別に良いけど。
精霊の皆が関わった時点で性能なんてこんなもんだろう。
それに・・・だが、3人はなかなかの良家出身者。
何かあってからでは遅いのだ、寧ろこれぐらいが当たり前だと思う・・・。
出来上がった3個の指輪を持って工房を出ると、工房の入り口には職人さんで溢れかえっていた。そんな中、代表でワッツさんが出来上がった指輪を磨きたいので貸して欲しいと前に出てきた。
確かにそのまま渡すより、ちょっとは拭いたほうが良いか・・・。
そう思い差し出された台に指輪を乗せる。
「Foooooo!! これだよこれ」
--ビクゥ!!
ワッツさんは変な奇声を上げた事で、俺は驚き身の毛が逆立ってしまった。
すると、周りの職人さんも「Yaa」だの「yeah」だの奇声を上げていた。
しかし、なぜ英語?
「な、何ですか? いったい」
「いえね。良いものが出来た時のお祝いの言葉みたいなもんですぜ。俺達職人は皆こんな感じに声が出ちゃうんだYo!」
俺に人差し指を指しながらバックで指輪を持って行ってしまたワッツさん。
他の職人さんもワッツさんを追いかけて行ってしまった。
何だろうか、今すごくワッツさんに渡したのを後悔している。
代わりに寄ってきたのは、アレン兄様とエリーとベネだった。
「イッセイありがとう。早く身に着けたいわ」
「って言うか、結構凄いものだったみたいだけど?」
「そう? イッセイなら普通じゃない?」
エリーとベネの会話ではまぁいつも通りといった感じ。
アレン兄様だけが何だか納得のいかない顔をしている。
「アレン兄様。どうかしましたか?」
何食わぬ顔で聞いたが兄様の顔は彫りの深い顔になっていた。
「い、イッセい?」
兄様の声が裏返っていた。
何をそんなに焦っているのだろうか。
「どうされました? あっ、そうだ。デザインはどうされますか?」
「い、いや。その事何だけど忘れて貰っていいかな?」
はて? 何をそんなに拒否っておいでなのでしょう。
俺には理解出来なかった。
「いや。ほら。た、大変だろ。こんなの何個も、つ、作るってさ」
兄様から滝のように汗が流れ出ていた。
って!! 汗。出過ぎですけど大丈夫ですか!?
凄い勢いとしか表現できない。
雫が服からポタポタ垂れていた。
「いや。ちょっと疲れた・・・」
兄様はそう言うと座っていたソファーにもたれ掛かるようにして腰を落とした。
ふむ。もしかすると先程の指輪を見て残念だったのかもしれないな。
予想したより大したことが無くてショックを受けたのかもしれない。
そうだな。その可能性が高いな。
よし。兄様の指輪はみんなの力を借りて最高傑作に挑戦してみよう。
「エリー、ベネ。兄様を頼むよ。僕は兄様の納得する『最高傑作』を創るよ」
「おぉー。そうなのじゃあお兄様が目を覚ましたらそう伝えておくね」
「いや・・・。多分、お兄様はそういう意味で断った訳じゃないと思うけど・・・」
「じゃあ。ベネはいらないわね」
「そんな訳無いでしょ。絶対貰うわ」
「ははは、じゃあ。後はよろしくね」
言い争いを続けるエリーとベネを横目に再び工房へと足を踏み入れた。
・・・・
兄様と未来の御姉様の為に何が良いのかを考えると以外に考えが浮かばない事に気付いた。
ソフィーやエリーやベネについては四六時中一緒なので割と簡単にイメージ出来るのだが兄様はまだお会いして一週間も経っていないのだ。
イメージが出来るはずも無かったのだ。
「うーん。困ったな」
「何じゃ。まだ創らないのか?」
素材を前に胡座をかいて唸っているとバッカスが出てきた。SD化しているので手の平サイズだ。目の前で素材を持ち上げたり周りをウロウロして物色していた。
「うん。兄様の事を考えていたんだけど、何も思いつかないんですよ」
両手を頭に載せる。
「なるほどのう。何か手掛かりが掴めそうな物は手に入れられんのか?」
「うーん。どうだろう? 兄様はさっきの指輪を見て残念がっていたみたいですから」
「何とそうなのか。うむむ・・・そこまで鑑定眼が高いのか!?」
バッカスも唸っていた。
兄様がコチラに期待していない以上、情報をくれるとも限らない。だが、集められる情報も多くある。
相手は公爵家のご令嬢だとここの職人さんも言っていた。だったら人となりも大体はわかる。
イリーナ=ラ=ウッザー嬢。ウッザー家の長女で今14〜15歳位のはずだ。父親の事もあって非常にまともで美人だと言う噂だ。非常に気立てがよく公爵家と言う権力を笠に着ない人として有名な方だ。
学園時代ほうぼうの貴族から求婚されるも首を一度も縦に振らない人でも有名であった。らしい。
現在、隣国のサリエル国の三男坊辺りから求婚されているとの噂もある。
(※この情報は空気中に漂っている魂魄の皆から聞いた話。)
兄様と仲睦まじいと言う事なので脈はあるんだろうが、躊躇するのには何か訳があるのかもしれない。
今手に入る情報はまぁ、こんな所だろう。
「・・・・。どうすれば良いんだ?」
結局思いつかなかった。
いっその事病気だの呪いだのイベントが発生してくれれば管理も楽だったのに・・・。とりあえずはその辺から固めるしかないか。
残念ながら何も思いつかなかったため一度、工房から出ることにした。
「ふぃー。どうしよう」
「・・・お兄ちゃん。ここにいらしゃいましたの?」
「い、イリーナ。どうしてここに!?」
工房を出ると兄様の所に来客が来ている。
うん? イリーナって呼んだか。
サッと見る限り兄様から歓迎ムードが出ていない。寧ろ引き気味だった。
どんだけ甘く見積もってもとても、仲睦まじいって雰囲気では無さそうだ・・・。
「おニィチャン。イリーナは寂しゅうございましたよ」
イリーナさんが冷笑を兄様に飛ばしていた。
兄様は話しかけられる度にどんどん死んだ魚の目になっていった。
「・・・イッセイ。」
エリーとベネが腰をかがめて小走りでこっちに向かってきた。
2人とも気配を殺している。
「何かあった?」
「あったなんてもんじゃないよ。あの人のよく分からない力が凄く強いんだもん。逃げてきちゃった」
どうやらベネの『ヤバイヤバイセンサー』にバッチリ、イリーナさんが引っかかったらしい。
確かにあの笑顔を見ると今すぐ兄様を殺しそうな勢いがあるな。
「あら? おニィ・・チャン。これって誰かと一緒に居たのかしら?」
イリーナさんが気になっていたのはさっきまでエリーとベネがいた場所だ。クンクン匂いを嗅いだり、ソファーの上をくまなく弄っていた。
ヤダ、何あの人。ヤバくない?
見た感じ、ストーカーかヤンデレな感じの人。そのどちらかに見える。
暫くソファ-物色した後、固まって動かなくなり。
直ぐに兄様に向き直る。
「オニィーチャーン。これなーにー?」
「あばばばばば」
般若の顔をしたイリーナさんが手に持っているのは、2本の髪の毛だった。
何故ピンポイントで拾えたのかは知らないが持っているのは、エリーとベネのものっぽい。
こわっ! 実は
「浮気は許しませんわよ」
「浮気なんて、そもそも私と君・・・うわあああ」
髪の毛を両手に持ってアレン兄様に近づいていくイリーナさん。兄様が恐怖した声を出している。
顔が見えないのが更にホラーだ。
「お待ちください」
悪霊が兄様にのしかかる前にこちらから打って出よう。そう思った俺は声を掛けた。
「あら? おほほ。お客様がいらしたのですね?」
兄様から離れるイリーナさんは、身なりを整えていた。その際、こっちを見る目がなんとなく品定めされている様な気がした。
何だこの人・・・
こちらの存在を認識したイリーナさんは兄様の隣に腰をかけた。こっちにも座れと言う事なのだろうか。
俺はイリーナさんの誤解を解くためソファーに近づいていった。
・・・
「まぁ。アレンお兄ちゃんの弟さんですの」
「はい。イリーナ様。兄がいつもお世話になっています。」
ソファーの対面。アレン兄様の隣に躊躇なく座ったイリーナさん。俺の両隣はエリーとベネが座る。
イリーナさんが来たことで新しいお菓子とお茶が出された。エリーが好きなお菓子だったらしくがっついていた。
「すみません。何か誤解させるような事があった様で」
もう一度、頭を深く下げるとイリーナさんは笑いながら制止した。
「良いんですよ。アレンお兄ちゃんの事は信じてますから」
嘘をつけ! メッチャ嫉妬してたじゃねーか。
顎の下まで出かかったが止めることに成功したようだ。
たまに声に出てる時があるからな。気を付けないと・・・。
「兄様はイリーナ様の様な方に好意を向けられて幸せですね」
社交辞令で返す。
なんかこの人胡散臭いって言うか小さい嘘がちょこちょこ入ってくるんだよなぁ。
俺はイリーナさんを警戒して見ていた。
微笑むイリーナさんと目を剥き出して否定顔をした兄様。そのギャップが妙に面白かった。
って、兄様が指輪を渡したいのはこの人じゃないのか?
何となく安心した自分が居た。
その後もジッとこちらを見ているイリーナさん。
何かあるのかな?
「ところで、イッセイ様の隣の方は奴隷ですか?」
「ブゥーーー」
兄様が飲みかけていたお茶を吹き出した。
俺っすか? えぇ。まぁ、一瞬でこの人が嫌いになりましたとも。
「イ、イリーナ様。失礼ですよ!!」
「えっ、あぁ。エルフが居たのでつい」
エルフが居たら即奴隷って随分な発言ですね?
「イッセイ君。顔、顔」
横からベネが小突いてきた。
顔が何ですか?
イリーナさんは止まらない。
「エルフが奴隷以外で歩いているところは初めて見ましたわ」
オホホって口元を隠しながら笑う。
いや。オホホじゃねーよ。
「イリーナ様。ご冗談をエリーは大切な仲間です。間違っても奴隷などと表現されるのは不愉快なのですが」
「うん。でも私はイッセイの奴隷みたいなもんかな。身も心もね」
俺が否定したのにエリーが俺にくっつきながら茶化してきた。
そんなちょっと筋肉が付いた断崖絶壁を押し当てられても腕が痛いだけだから止めてください。って、腕に力を入れないで痛い痛い。
「あんたは黙ってなさい」
−−パシン。
「アイター」
いつの間にかエリーの背後に回り込んだベネがハリセンのような物で突っ込んでいた。
「うふふ。王国の方々は面白い方が多いのですね。父上が盲信してお笑いを学んでいるのが理解できますわ。でも」
急に目つきが鋭くなった。
イリーナさんは隠れていた目を向けながらこちらを睨む。
「あまり調子に乗らない事ですわ。この街では亜人は奴隷以下それ以外の扱いは許しません。即刻首輪で繋ぐか何処かに監禁してくださいませ」
なるほど。ここに来た理由が分かった。
この店の従業員がイリーナさんに通報したのだろう。
って、ここの職人さんもその亜人(ドワーフ)が多いけどその辺は対象外なのか?
ふと、疑問に思ったがどっちも悪いのでどうでもいい事だ。
どうも、出直したほうがいい雰囲気なので席を立とうとした所。
「イリーナ、無礼は許しません。お客様に謝ってください」
「イ・ヤ・よ。亜人なんてこの街から追い出してやるわ。ここの職人も含めてね」
あっ、ここの職人さんも駄目だったっすか。
と、言うかイリーナさんのそっくりさんが立っている。急な状況の変化に付いていけない・・・
ただ、イリーナさんとは違いコチラの方はクリッとした目で可愛らしく何とも大人気な雰囲気を出していた。
ここで1個閃いた。頭の上に裸電球が出てきたと思ってほしい。
あぁ、双子か。なるほどそれで職人さんは・・・
先程兄様をからかっていた職人の言ってる意味がやっと分かった。
「カリーナこそ。挨拶もせずにお客様に対して失礼ではなくて?」
「そうですね。イッセイ様、ベネッタ様、エリンシア様。公爵家
優雅な貴族礼で挨拶頂けたので、こちらも貴族礼で返礼する。
カリーナさんは挨拶が終わると俺達とは90°回転した位置にある一人掛けのソファーに座った。
兄様とカリーナさんが一瞬目を合わすと微笑みあっていた。
なるほど。こっちの
「で、イリーナ。お客様に謝罪はどうなのですか?」
「ふん。私は用事があるからもうここを立つわ。後は貴女がご案内しなさい。それではイッセイ様先程の件早めに対処くださいね」
「イリーナ!!」
さんざんまくし立てていったイリーナさんはサッサと出ていった。カリーナさんが深いため息を付いたがいつの間にかアレン兄様がカリーナさんの手を握っていた。
「申し訳ありません皆様。姉のイリーナが無礼を働いたようで・・・」
「ま、ああいう人は何処にでも居るから気にしてもしょうがないですよ」
エリーに向かって深々と頭を下げるカリーナさん。
確かに腹はたつが件のエリーが全く気にしてないのでこちらとしてはこれ以上何も言わない。
「ありがとうございます。エリンシア様の深いお心に感謝いたします」
「あれ? 私を知っているんですか」
「はい。一応はこの街に来た貴族等の方は身分を調べさせて頂いてます」
「ふーん、そうなんだ」
再び頭を下げるカリーナさん。
エリーは気に入ったお菓子をバクバク食べていた。
いや、エリーさん。チョットは遠慮しましょうよ・・・。攻め手相手が喋っている間くらいさ。
「すまないね。イリーナが来るとは思っていなかったんだ」
「イリーナ様があんなに他種族を嫌うのは何かあるのですか? カリーナ様にはそう言った偏見が無いように見えますが?」
アレン兄様とカリーナさんがお互いを見つめ合ってため息をついた。
???
「その事についてだが、過去に彼女がおった心の傷が関係しているんだ・・・」
アレン兄様が重々しく口を開く。
・・・
・・・宝石店の店の外
「ちょっと。何でカリーナも呼んだのよ?」
「いえ。私共はそんな」
イリーナが亜人の存在を連絡受けたのは今朝だった。
「当店に奴隷でない
こう一報を受けたため薄汚い亜人を追い払うため私は足を運んだのだが・・・
亜人との共存派の妹カリーナが現れたのだ。
私達姉妹は亜人の排除派と共存派で別れている。
こう見えても昔は亜人に対して特に悪いイメージを持っていなかったが、あの事件からは別だ。
あの忌々しい事件からは私の亜人共に対する考えは変わったのだ。
「で、あのエルフについてはどう対処するの?」
腕を組み目の間で挙動不審な2人を見る。
コイツラも一応は排除派だが下っ端も良いところだ。
「どう対処 とはどのような事でしょう」
男Aは頭は上げずに下を向いたまま質問をしてきた。
ふん。そんな事も思いつかないのかコイツラは。
「さぁ。もしもこの街で人が居なくなっても探せる人は居るかしら?」
「かしこまりました」
無能な2人はスススッと店の中へと消えていった。
ふふふっ。これで良いわ。
後は結果を待ちましょう。
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