110話 錬金したらまた、勝手をされたのですか?


「何だい。随分上が騒がしかったけど? 何か問題かい」


 俺が皆の元に戻ると兄様、エリー、ベネは客室に案内されソファーでくつろいでいたが、俺に気を使ってくれた兄様は一番に理由を聞いてきた。


「・・・特に何でも無いです。もう直に収まると思いますよ」

「そうか。問題ないなら大丈夫だ」


 俺は抑揚の無い言葉で返すのが精一杯だった。

 上の階で何があったかと言えば、あった。いや、今も起こっている。

 おそらく職人さんと販売係の人が言い争い肉体で会話している。


 ワッツさんが、「若旦那。ちょっと下で待っててくだせぇ。ちょっくら店のものを説得しまさぁ。・・・おいオメーラ日頃の恨みここで晴らす。腕の一本は覚悟しておけよ!!」 って、言ってたので、今頃話し合いは白熱していることだろう。


 まぁ、下で待っていろって事なので大人しく待っていることにする。

 おっ、お茶が用意されている。俺はみんなが座るソファーに腰掛けると注がれていたお茶に手を伸ばした。


 で、この空っぽの皿は? 何か乗っていたのだろうか。

 ベネが横目でエリーを見る。あぁ・・・、その瞬間ベネが何が言いたいか分かった。

 まぁ、エリーの口に食べかすがいっぱい着いていると言えばわかりやすいだろう。


「そう言えば、皆は何を造るか決めたの?」

「「指輪!!」」

「指輪かぁ~」


 --ブゥーーーーー。


 俺達の話を聞いていたお兄様が突然飲んでいた紅茶を吹き出した。


 ・・・お兄様汚いです。


「お兄様汚いですよ」

「汚い!!」


 ベネとエリーものけぞって避ける。


「す、すまない。ちょっと驚いてしまった」


(・・・最近の子達は進んでいるな。)

「何か不自然ですか?」

「いや。だってねぇ」

「???」


 変な兄様。

 俺の質問に対してエリーとベネが指輪と言ってきた。

 まぁ、アクセサリーであまり場所を取らないしな。メイヤード流の使い手なら当然っちゃ当然か。

 などとは思っていたが兄様の見解は違ったらしい。


「いや。君達指輪って、ソフィア姫は知っているのかな?」

「えぇ。ソフィーも確実に指輪をねだると思うよ」

「絶対にねだるね」


 そうか。てっきりソフィーにはネックレスっぽいのとかが良いかな? と思っていたがエリーとベネの話し通り指輪にしようかと思う。

 ぶっちゃけ3人同じ物のほうが作りやすいし俺としても助かる。


「い、いや。イッセイも納得しているみたいだから。まぁ、良いか・・・・。後でどうなっても知らないけどな」


 アレン兄様はどこか呆れたような、諦めたような顔をしていた。

 なぜそんな顔をただの指輪ですよ?


「まぁ、後でソフィーには説明します」

「そうか・・・。で、いい職人は捕まえられそうかい?」

「はい。前にお世話になった職人さんがこの街にいらしてました。その方の工房をお借りしようと思います」

「そうかそれは良かったな。うーむ、折角だから私も1つ作って貰おうかな」


 アレン兄様が迷った口調で言い出した。

 おや? 兄様から何やら桃色の香りがいたしますぞ。

 ちょっぴりニヤッとにやけただけなのだが、


「イッセイって、他人のことだと嗅覚が凄いよね?」

「あれを見てると絶対自分の事も演技だと思われかねないよ」

「朴念人ってレベルじゃない」


 ベネとエリーの2人が何やらブツブツ言っていた。

 それに今は兄様だ。


「そのアクセサリー。僕に用立てさせて貰えませんか?」

「何を言ってるんだい。私の私情にイッセイを巻き込めないよ」

「兄様の幸せに一役買えるなら別に苦じゃ無いですよ」

「イッセイ。難しい言葉を知ってるんだね・・・」


 悩む兄様。ジッと考え込んでしまった。


 まぁ、俺が創ったアクセサリーだと不安なのは分かるけど、【毒無効】位は付けようかと思っている。その他、何かあれば付けようと思うがどうしようかな? 

 兄様って何か付けたい能力とかあるんだろうか? 後で聞いてみよう。


「是非、僕にやらせてください」

「う、うーん。まぁ、せっかくの好意だし甘えようか。と言っても頑張るのはイッセイお気に入りの職人だしな。せっかくだ、その腕を見させてもらうか」

「はい。頑張ります」

「ははっ。よろしく頼むよ」


 俄然気合いが乗った。

 3人のアクセサリーも丹精込めて創るつもりだったが、兄様のアクセサリーは更に幸せを願う物にしたい。


「兄様も指輪ですか?」

「そうしようかな」

「では、皆好きな宝石を選んでください。その宝石がベースになりますから」

「「はーい」」

「分かったよ」


 皆が各々好きな色を選んでいく。

 エリーは緑の魔石。

 ベネは赤の魔石。

 ソフィーは黄色の魔石。

 兄様はピンクの魔石。

 そして、俺は兄様用にピンクの対になるブルーの魔石を選択。


 台座はミスリル銀を使用する。

 ミスリル銀は魔力に反応して形を変えるから指のサイズを気にしなくていいのだ。


 うーん。異世界って便利?


 宝石と台座のミスリル銀の代金を支払う。

 支払い方法? 物々交換に決まってるでしょ。

 割符あんまり貯まらないから面倒臭いし。


 カバンから拾ってきたコレクションをいくつか出して店員さんに見せたら奥にすっ飛んで行ったので、足りなかったのかな? と、思ったが偉そうな人が2〜3人出てきてある物を鑑定していた。


「本当にこの中から選んで宜しいのですか?」

「えぇ。どうぞ」

「本当に本当ですか?」

「えぇ。どうぞ」

「後で返せって言っても返しませんよ」

「・・・・どうぞ」


 若干イラッとしてきたが、まぁいいや。

 ここの店主かな。身なりの良い人がはしゃいで部屋を出ていった。


 それなりに価値があったのだろう。


「イッセイ。良いのかい? あれ・・・」


 アレン兄様が俺に何か言いかけた途端に部屋の外から


「ヒャッホーイ。見ろ立派なこの素材を『ドラゴンアイ』だ。こんなに綺麗なものなかなか出ないぞ!!」


 先程、部屋から出た店主が騒いでいた。

 しかも、キャラが崩壊してるし。


「やっぱりか・・・。イッセイ悪いことは言わない今からでも取り返したほうがいいぞ」


 アレン兄様が席を立とうとするが、俺は兄様を静止させる。


「あぁ。あれってそんなの高価なもの何ですか?」

「ドラゴンアイだぞ。この領内で家が一軒建つ」


 へぇ。あれってそんなに高価なのか。

 俺がぼんやり手に入れた時の事を思い出していると。


「あれって、ウリエル領内で取れた木の実よね?」


 エリーが言った。


「そう。あの森で拾ったやつ」


 マークさんと言うオークの商人と一緒に旅をしていた時、とある出来事があって空から降ってきた物だ。

 マークさんはホクホク顔で馬車に積んでたっけ。


 小さいのを俺が貰ってきた。


「ドラゴンアイが簡単に取れる・・だと」


 アレン兄様がショックを受けていた。

 簡単ではないけど恐らく取ろうと思えばいつでも取れる。

 しかも、あれ大分小粒ですけどね。とは言えない。

 エリーにも視線で釘をさした。


 マークさんは元気かな?

 あれ? そう言えばあの時、マークさんとえ・・・


「お待たせしました!!」

「おわ!? ビックリした」


 ホクホク顔の店主が俺達を呼びに来た。

 大声にビックリして今思い出した事を忘れてしまった・・・まぁいいか。


 俺達は導かれるまま部屋を移動した。


「おう。若旦那待ってたぜ」


 工房部屋のあるフロアーに着くとワッツさんを先頭に職人さん達が総勢でお出迎えしてくれた。


 待ってなくてイイですから。


「こちとら工房を清めて待ってましたぜ。」


 ザザッ。っと音を立てて海が割れる我の如く左右に職人さんが分かれるとやけに神聖度の高い工房がこちらに向かってオーラを飛ばしていた。

 知らぬ間に意識は工房へと向けられる。


 背中がゾクッとする。


 怖気づいたのではなく逆だ。

 これだけ神気が集まっていれば予想より遥かに制度の高いものが創れる。


 早く創りたい衝動に駆られる。

 工房へと足を進めようとしたらアレン兄様が俺を呼び止める。


「チョット待って、え? イッセイが造るのかい?」


 って言われた。

 あれれ? さっきからそう言ってましたけど。

 って、説明はしてたっけ?


「おぉ。領主の婿様か、若旦那の知り合いかい?」


 職人の一人が兄様に答えた。


「いや。婿はまだ決まってないから止めてくれ」

「かー。領主の娘さんと仲睦まじいって巷じゃゆうめいだぞ」

「いや。その・・・」

「何だ。ヘタレか」


 兄様はシュンとしてしまった。

 ムカッと来たが何か理由がありそうだ。


「まぁ、兄様。最高傑作を創りますからそれを持って挨拶に行きましょう。僕にとっても御姉になる訳ですから」


 そう言って工房へと足を進める。

 凄い。目の前の工房に近付くにつれて神気が強くなっていく。その威圧感で押し戻されそうになる。


 その威圧に負けない様に工房へと入っていくと白漆喰を全面に塗った2畳ほどの工房が姿を現した。

 音といえば炉にくべられた(くべる=ものを火に入れて燃やす)炭が『ショッー』っと心地よい音を立てていた。

 また、炉から漏れる蒼白い光が工房全体を照らしているため暗く無かった。


 以上の独特の配置と設備が凜とした空気と緊張感を創り出していた。

 少し高めの上がりかまちを靴を脱いで上がる。

(上がり框=玄関の段差)


 奥には程よい高さの長机が置かれておりそこに腰掛ける。

 そして、持ってきてもらった材料を並べる。


 まるでここの工房を知っているかのような安心感。

 使うわけではないがどこに何があるか手に取る様に分かる。


「まずは3人の指輪から・・・」


 3つ並べた宝石と台座の金属と対峙して意識を集中する。イメージ的には真っ暗な闇の中に俺と素材だけが居るイメージだ。他の景色と音はなるべく遮断する。


 その感覚が掴めれば後はそんなに難しくない。

 素材達の望む形に整形してあげればいい。

 俗に言う素材の声を聞くってやつだ。


 素材達に意識を集中しているとモヤモヤとしたオーラが立ち上がる。もう少しで形が掴めそうだ。



 ・・・・



「ガハハ。イッセイのやつ久しぶりに面白い事をしているぞ」

「ほほぉ。錬金かそれならワシらも手伝わないとじゃな」

「何なに? あぁ。皆に指輪創ってるんだね。僕もエリーに力を貸してあげよっと」

「俺は、ベネッタだな。アイツは火の属性が得意だしな」

「私はソフィーですね。月の力は彼女には相性が良さそうですから」

「それなら私は皆に均等に力を貸す。闇の力は皆に平等」

「私もそうしますね。水は均等に優しく寛大なのです」


「「「「「「ふん」」」」」」




 ・・・・



 よし。大体のイメージは掴んだ。

 頭に現れた指輪のイメージ。3人それぞれに力が付与されるようにする。


 後は魔力を調整・・・・ぐっ。あいつ等また何かしてるな。


 急に背中から凄い力が押し込まれる。

 狭い穴の中に大きい物を押し込もうとする感覚に近い。


 受けきった精霊達の魔力が俺の手を通って指輪へと流れ込んでいく。


 あっ、これチョット不味いやつじゃない?

 指輪の魔石の形が色が物質が・・・変化している。


 エリーの魔石は【風属性】をベースに【水属性】と【土属性】が混ざり合いサファーリンの様な緑と青の宝石色を放つ魔石となっていた。

 宝石の中が液状化しているのか、動かす度に黒い宝石(おそらく闇属性)と金色(おそらく月属性)の宝石がユラユラと左右に移動していた。


 手に取って炉の炎に透かしてみると炎を色を透して光った指輪の光が青緑に乱反射して工房の室内全体を眩い光が彩った。

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