100話 魔力を使わないキャンプって難しいですか?

(「ねぇねぇ。私の恨みを晴らしてよ〜。」)

「・・・・。」

(「ギャアアアアアア。ジュッ。」)

「・・・・。」

(「おい。アンタ。俺の金を取り返・・・ぎゃあああああああ。ジュッ。」)


 出発して早、半日以上が過ぎていた。

 何か問題が発生することを危惧して早朝に王都を出たのだが、拍子抜けとはこういう事を言うのだろう。


 ものすごく平和な旅だ。


 しかも通ってみれば凄くよく分かるいい道だ。金を掛けて造られたって意味がよく判る。周りを開拓して作った見通しの良い人工的な草原、道に石を組んで舗装された道路、魔除けに埋められている退魔草に魔力を供給する魔石。

 これならば出てくるモンスターは雑魚しか出ない。良くてスライムか動物系のモンスターのみだ、たまにはぐれが出たとしてもそのモンスター達は直ぐに山へと引き返すだろう。


 と、言うくらいモンスターに襲われる心配のない道をパッカパッカと馬車が走る。

 程々に休憩を取りながら進んできたため、疲れや怪我は当然無い。


 そのおかげかずっと平和な時間が流れていた。


「ふわぁ・・・・。」


 皆も自然とあくびもでるってもんだ。


「ちょっと気を抜きすぎじゃない?」


 エリーがベネにツッコまれていたが、仕方がない。

 こんなに平和では退屈が一番の敵だ。

 時間も結構経っていて西の空からオレンジ色の光が青空を侵食し始めていた。


 で、俺は何をしているかと言えば近寄ってくる魂魄共を片っ端から昇天させていた。

 南の公爵領地に入った辺りから霊たちの声が多くなった気がする。

 王都付近等に比べて亡くなる人が多いみたいだ。ただ、真面目に話を聞く気にはならない・・・。


 何故かって? そりゃあ、至極自業自得な怨恨持ちが多いからだ。

 王家の魂魄は、まぁ恨み節を吐くやつもいるが、大体はこの世の未練はあんまり無い奴が多い。だから俺にも絡んでくるし、情報も提供してくれる。

 しかし、ここの奴等ときたら・・・。

 始めは真面目に聞いてたさ。そりゃ貴重な情報を持ってるやつもいる時があるからね。

 でも大体の奴が、

 やれ「ギャンブルで負けた」 だの

 やれ「お穴狙いの商売で失敗した」 だの

 やれ「男に貢いだ」 だの

 完全に自業自得での結果が殆どだった。

 しかもこういう奴らほどなかなか自然に成仏しないんだな。


 だから鬱陶しいので物理的に成仏させていたのだ。


 ただ、何故か登っていくときは皆が口を揃えて、「我が生涯に一つもくい無し。」と言う感じに腕を片方空に向かって伸ばして登っていく。(ドヤ顔で(怒))


 どこぞの王の最後のようなポーズで調子こくんじゃねぇ!!

 って言うかつい数秒前まで世の中に恨みを吐いていたじゃねーか!

 と、思いっきりツッコんでやった。(心の中で)


 しかし、冗談抜きに金に困って死んだ奴がかなり増えている。

 商業で発展している領土であるため、それだけ勝負する場面や命の危険が多いのだとある程度は理解出来るが金が理由で死んでいる魂魄が多い。

 そして、南の領地に近づくにつれどんどん増えていっている。


 これは、街道の魔物より南の公爵の方が問題なんじゃなかろうか・・・


 あぁ、因みに【魂魄】とは幽霊共の総称にした。

 いちいち良い悪いで名称を変えるのも面倒だし、ややこしいのでね。


 また、脱線してしまった・・・。話を戻そう。

 石畳はさほど破壊もされておらず凸凹でこぼこも少ない。

 気になるのは最近使っていないせいか石の隙間から草が生えている位だ。

 これなら手入れをすれば直ぐに使えるようになるだろう。


 それにしても誰もいない道路を1台で走っている気分は最高だ。

 この辺一帯が自分と一体になった様な感じを覚える。

 1人で来ていたら確実に道路に寝転んでいる事だろう。

 そんな気分で道をカッポカッポまったり進んでいる。

 馬達も気持ちいいのか時たま"ブルル"と嘶くいなな(く)が疲れは無さそうだ。むしろ、「いい運動したぜ」って顔を時々見せてくる。


「イッセイ君。後どのくらい?」

「うーん。どうですかね明日の昼頃には着くと思いますが・・・。」

「そう。じゃあ適当な場所で一回キャンプしましょ。」

「了解。川を見つけたら止まります。」


 馬車の荷台から顔を出したのはソフィーだ。

 丁度日も落ちてきたのでここら辺でキャンプするのもいいだろう。


 適当な場所を探すことにする。


「イッセイ。私もちょっとあの森に行って色々試してもいいかな?」


 エリーが指差す『森』とは、遙か遠くにポツンと見えている山だ。ここからだと片道20kmは離れているかな? まぁ、そんな距離だ。


「そうしたら、何か食べ物もついでに探して貰っても良いですか?」


 行きたいって言うならついでに何か取ってきてもらおう、あの山なら食べれる山菜や動物も居るだろう。


「分かった。何か狩ってくる。ベネはどうする?」

「うーん。暇だから私も行こうかな。」


 と、ベネも行くらしい。なら道標でも作っておくか。


「分かりました。キャンプを始めたらカズハに頼んで光の塔でも作っておきますからその辺を便りに来てください。それと、暗くなるから気を付けて。」

「「はーい。」」


 ーーザザッ・・・。


 エリーとベネは馬車から降りると森の方へ走っていった。

 2人はあっという間のスピードで小さくなっていく。

 あの分ならすぐにでも山に着くだろう。


 一見するとただ遊びに行ったように見えるが、実はとても大切な鍛錬だ。

 メイヤード流武術は自然にある気の流れや空気の張り、温度等を感知してその場で判断する行動も多い。

 その為、サバイバル技術にて自然と一体化するのはとても大切な鍛錬なのだ。


『自然の摂理に触れ、その行動原理を学ぶ。』


 メイヤード様の口癖でもある。

 そういった事からメイヤード流の修行には魔力を使わない状態で山に数ヶ月籠もるとかそう言った修行もある様だ。

 最近の上級者ヘビーユーザーの流行りは、魔力を遮断した状態でキャンプをするらしい・・・。

 それ、普通のキャンプなんだよなぁ・・・。


 まぁ、この世界では珍しいのかもしれないが・・・。

 それに門下生が何人いるのかすら分からないから何とも言えないんだけどね。

 もっとも、エルフであるエリーは元々野生児っ気があるし、ベネもああ見えてお転婆だ。

 お淑やかな人形遊びより森でモンスターを狩ってる方が多かったと本人も言っていた。

 自然の流れを大切にするメイヤード流は2人にも合っている様だった。


 気づいたら既に見えなくなった2人を見送ってキャンプ地を探しに行く。

 5分ほど馬を走らせるとソフィーが指を指して、


「あっ。あそこ川が見えたよ。」


 俺が操っている馬車の荷台からソフィーが顔を出す。

 彼女が指差す先にはさほど大きくないが川がありそれをまたぐように道には橋が架かっていた。


 あそこなら確かに良いだろう。


「分かった。そこに付けるよ。」

「うん。お願い。」


 川の近くで馬車を停め、馬車を引いていた馬達を解放する。

 ストレスが無くなった馬達は川で水を飲んだり、その辺の草をモシャモシャ食べていた。


 馬が逃げないことを確認してから、荷台から薪や藁を下ろしキャンプの準備をする。

 馬が落ち着かない場所はモンスターがいる可能性がある為、馬の警戒度を利用した探知の訓練だ。


 あぁ、そうだ。まだ言って無かったけど今回枷と言うか縛りというかメイヤード様から『今回のクエストは魔力を使わずクリアしろ』との仰せのため皆魔力は使っていない。

 当然さっきの山へは2人は走って行ったのだ。まぁ、10分位で着いたと思うけどね。


 魔力も戦闘になれば使用は可能なので、必要に応じて使っていく。

 戦闘にならないのが一番なのだが・・・。


 その為、馬をガン見してリアクションを待っていた訳なのだが・・・。

 馬達は「ん?」って顔をしてこちらを見ていた。その呑気さが平和の証拠である為、苦笑いしか出ない。


 テキパキとキャンプの準備をする。

 手頃な石を準備して土台を作り、薪を適当に組んでいく。

 この時空気が中に入りやすい様に隙間を開けるのがミソだ。そして、その隙間の中に解いた縄を押し込んで隙間を閉じる。

 詰めすぎず隙間に差し込む程度が俺の好みだ。


因みにソフィーは食べ物の下ごしらえや水の補給なんかをしてくれている。何かと足りないものに気づいては探しに行ってくれた。

ソフィー姫といい、鏡といい。

なんでこう良い生活をしている人達のはずなのに庶民と同じ香りがするのか分からない・・・。


まぁ、こっちは助かるからありがたいけど。


 いきなり大きな薪に火が移るわけじゃないので、種火を育てる必要がある。

 火をつける前の段取りをしていると後ろからソフィーが覗き込んできて・・・。


「イッセイ君。随分こだわるね?」


 首を傾げながら言ってきた。

 どうやら、魔力を使わずアナログな方法で火起こししてるのが珍しいようだ。


 今俺は、絶賛火種作成中。


 解いた縄で鳥の巣みたいな物を作り薪を削って木の切子を作る。

 切り子を作った溝に木の棒を突っ込み・・・・


 後は気合で擦るのみだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。


 --ボッ。


「うおおおおおお・・・・うぉ?」


 気合を入れ過ぎた・・・。

 擦っていた木に火種どころか普通に木が燃えた。


なまじ魔力があるから力の加減が難しい・・・。


「イッセイ君。凄い凄い。」

「・・・・いや。ははは。」


ソフィーがはしゃぎながら褒めてくれた。


・・・そう? ありがとう。


 気合を入れて作ったキャンプの基礎が痛々しいが、ソフィーが褒めてくれたからま、良いか。

 気にせず燃えた薪をキャンプに突っ込んだ。


 後は簡易的なテントと言うかシェルフみたいな物を作る。

 どうせ荷台で寝る事になるし、交代で見張りを置くので寝るのは大体3時間程度。

 ツーマンセルで火の番するので、20時に寝てもどっちかは2回は起きている計算になる。当然、俺が2回起きるつもりだ。

 別にフェミニストだからでは無い。将来冒険者になる為の経験を少しでも積みたい。それが理由だ。


 おぉそうだ。これを忘れるとあの2人がこっちを探す羽目になるな。


「カズハ。」


 俺の呼びかけに対して空から優雅に螺旋階段を降りてくる登場方法でカズハが現れた。

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