101話 追加特訓の恐怖と魔力蓄電ですか?
カズハ・・・さん?
俺の呼びかけに対して空から優雅に階段を降りてくるのは良いだが・・・。
俺の真上から降りて来る必要なくない?
普通そういうのってちょっと遠くからやってくるものなのでは? と思う。
遠くから『あの子何でそんな所から来るの?』的な表現のシーンを見ていればかっこいいのかもしれないけど、下から見てると地味だし。
・・・スカートの中見えてるし。
「見ちゃだめ!」
上を見上げ何とも言えない空気に包まれている俺に、ソフィーが突進してくる。
そして、ソフィー自らの手で俺を目隠ししたのだ。
--むにゅ。
ソフィーが丁度俺の後ろから抱きついている恰好になっていた。
いや。精霊に欲情しないし。
今回の話ってそういうの想定して無いし。
「カズハちゃん。イッセイ君に見えてるから。って何処に手を振ってるの?」
ソフィーの手で目隠しされているお陰で状況が分からんが、かなりカオスな状況の様だ。後ろから回してくるソフィーの温もりと匂い。それと、首元に当る柔らかいぽにゃんぽにゃんした感触が気になった。
ソフィーのぷるるんかな? そうか、順調に育っているんだな。
・・・
「イッセイ様。お久しぶりですね。」
「うん。元気だった? と言っても2週間位しか経ってないけど。」
「はい。お陰様で新たな力に目覚めました。」
改めてカズハの姿を見るとドレスが神々しく光っている。
デザインもなんと言うかパーツが増えた斬新なデザインになっている。
お姫様だった頃とは見た目も変わっている。子供っぽかった容姿は大人へと変わろうとしているいわば中学〜高校の間位に見える。大きさも140cm位となっておりやはり成長したようだ。
「早速だけどこの場所が目立つようにして欲しいんだ、だけど・・・灯台「分かりました。」」
「えっ?」
俺がお願いし終わる前にカズハは動いた。
祈りのポーズを取って地面にしゃがんだと思ったら体が発光した。
眩い光は俺達周辺を包み込むと俺達はその光に飲み込まれていった。
光の中は俺達と馬車、連れてきた馬達と起こしたキャンプ以外は全て光に飲まれていた。
突然の状況に唖然としてしまう。
「・・・。」
「ちょっと、イッセイ君。こんなんだと色々バレちゃうよ? 敵味方だけじゃなく余計なものまで呼び寄せそう。」
同じくこの状況に驚いているソフィーが頭を抑えつつ近寄ってきて、俺の肩を揺さぶる。
フリーズしていた俺より早く状況を飲み込んだのだろう。
「あっ、ああ・・・そうだね。カズハ。この状況は何だろう?」
俺もソフィーのお陰で気を取り直す事が出来たが、まだちょっと微妙な感じがしてる。
「はい。ここら辺一帯に聖域を築かせていただきました。ですから外からはエリー様、ベネッタ様以外の者は見えないと思います。」
「「聖域!?」」
ニッコリと微笑むカズハから歳相応の笑みがこぼれる。
美少女なだけについ見惚れてしまうが、今はそれどころどころでは無い。
「って言うかこんなに強い力を使ったら魔力が凄いんじゃない? メイヤード様に
慌てるソフィー。
ソフィーが慌てたのも『メイヤード様の楽しい楽しい追加特訓』が嫌だからだ。
ルールはとっても簡単だ。
気を失うまでマラソンして、気を失うまで組み手して、気を失うまで瞑想させられるなどなど。全部で7つあるコースのどれかを気を失うまで行うと言う至極簡単な鬼畜ルールとなっている。
ただの拷問かな? と、思うだろうがメイヤード様だってただの鬼ではない。
「一応は耐えられる生命力がある門下生にだけだよ。」と悪意のある笑みを見せられたのだ。まぁ、一部の
そういった信仰修行もメイヤード様ご本人の実績があってからこそだ。
過去にこの修業を繰り返した事で今の地位に登りつめた・・・らしい。
メイヤード様自身も過酷だと知っているから【補修】として遠方に出る時の修行のプレッシャーとして使っている様だ。
課題をクリア出来なかった『
で、何故ソフィーが慌てたのかと言うとだが、この『補修』は先程も言った通り
俺の契約精霊が行った事なので俺がペナルティを受ければ良いじゃん。等とはメイヤード様の目の間では口が裂けても言えない。
【チームとは血よりも濃い繋がりが無いとダメだ。】
とは、メイヤード様の好きな言葉だった。
『旅において仲間とは苦楽を共にするだけでなく。時には親に、時には壁になること。』
この道場に入るとまずはそう教えられる。
と、話がそれてしまった。
カズハの魔法の力によって生み出された聖域は予想以上に魔力を使っているのだろう。七色にどんどん変わっていくソフィーに察してカズハが口を開いた。
「大丈夫ですわ。ソフィー様が懸念されるほどイッセイ様の魔力は使っておりませんよ。メイヤード様のお言いつけはきちんとお守り出来ていると思います。」
ニッコリと微笑むカズハ。
「えっ!?」
驚くソフィー。
カズハの言葉を聞いて俺も自分の魔力量を確認する。
た、確かに俺から出ていく魔力の量は微量だった。
これならば通常の生活で減る魔力量と変わらない。
これならばメイヤード様の補修は受けなくてもいいだろう。
『ちっ。久々に特別メニューが出来ると思ったんだけどねぇ。』
今、何処からか舌打ちからの呪いの言葉が聞こえた気がしたが空耳だろうか?
いや、あの婆さんなら俺達の魔力を感じれたりするかも。
「なんで?」
からくりが分からない。微妙な顔をしてたんだと思う。
それに気づいたカズハは変わらない笑みを溢しながら。
「ふふふっ。私達も神の末端に鎮座する精霊になりました。ですからそんなに魔力をご負担頂かなくてもある程度は自分達で溜める出来るようになったんですよ。簡単に言うと【魔力蓄電】ですね。イッセイ様の魔力を微量で頂いて自分たちで貯蓄出来るようになりました。皆も出来るようになってると思いますよ。緊急で敵の殲滅を行う様な場合は魔法を使う分の魔力をイッセイ様から沢山しますけど。」
どうやら皆は新たな能力に目覚めたらしい。
バッカスとプロメテから一切その辺の説明がなかったのだが・・・。
後で問い詰めよう。
しかし、今はカズハの事だ。彼女は俺の中で完全平和主義の地位を保っていたのだ。
「へ? カズハは攻撃魔法覚えてないですよね?」
「いえ。私これまで皆の足を引っ張っておりましたが、ついに使えるようになりましたの。【攻・撃・魔・法】を。」
カズハは顔を赤らめて言うが、随分物騒な言葉だ。
待て待て。君は非戦闘員だっただろ?
「戦いの時は私をお呼びください。私、イッセイ様のために敵を殲滅する方法を取得しました。」
俺は苦笑いしか出来なかった。
「か、カズハちゃん。そんな物騒な事言わないでよ。」
ソフィーが泣きそうな声を出している。
ついこの前まで俺の代わりに精霊召喚が出来ていたので愛着もあるのだろう。
って、今もやろうと思えば多分出来るよな? って、今はそんな事どうでも良いか。
ソフィーに向かってカズハが話をしている。
「いいえ。ソフィー様。イッセイ様と皆様を守るため願った力ですわ。貴女が求めている力に私も近づいているだけですわ。」
カズハはそう力強く言った。
そこまで言われれば否定も何も出来ない。
俺は内心ため息が出ていた。ソフィーは目を見開いていた。
・・・
聖域の中で火の番とかって意味があるのだろうかと、自問自答して数回目にエリーとベネが帰ってきた。
「ただいまー。って何これ? すっごい聖なる気が満ちてるんだけど。襲撃でもあった?」
と、開口一番にエリーが呟く。
「いや。カズハにお願いしたらこうなりました。」
俺は、エリーに返答する。
「こんなの作ったら魔力が半端じゃないんじゃない? これは補習あるんじゃない?」
「げっ。そしたら全力でイッセイのせいにしましょう。実際何かやらかすのイッセイだけだし。」
げっ。とか言うな。元王族だろ。
ベネがさっきの俺達と同じ反応するがまぁ、後で対応しよう。
「まぁ、後でまとめて説明します。それより結果はどうですか?」
「モチロン。大量。」
「肉だけじゃなくて薬草も取ってきたわ。」
我が物顔で捕まえた食料様モンスターを広げるエリーと香辛料など関節材料を取って切ってくれたベネ。
エリーの降ろしたモンスターは鹿や猪といったモンスターだった。
ベネはウサギのモンスターの他に小包に薬草が多数あった。
似ているモノで表現すると、キクラゲ、行者にんにく、セリ、自然薯、びわ、ベリー系といった具合だ。
デザートまで取ってくるとは・・・流石に女子力が高い。
エリーごめん差別とかする訳じゃないんだけど・・・・。エルフだよね?
肉ばっかり取ってくるのはなんで?
いや、独り言だけど・・・。
と、エリーとベネの獲得率を聞いてふと思った。
「じゃー。ぱぱぱっとスープでも作りますか。」
「手伝います。」
「ありがとう。ソフィーはスープの完成を頼むよ。僕はこっちで肉を焼くから。」
「了解。」
「・・・・。」
そんな感じでソフィーと段取りしていたんだけど、何故かエリーが俺をジッと見ていた。
「エリー? どうしたんですか? ご飯ならもうちょっと掛かりますよ?」
「・・・。」
俺の問いかけにまったく無反応なエリー。
「元気ないですね? 疲れました。ちょっと休んだらどうですか?」
「フンだ。何よ。どうせその態度も演技でしょ。」
??? 何だ。今日のエリーは随分擦れてるな。
フォローの何が気に入らないのかエリーはずっとむくれていた。
「・・・だって、ソフィーと話す時はそんな喋り方じゃないじゃない。」
エリーはそっぽを向いたまま怒った声で話してくる。
??? 俺、ソフィーと話す時そんなだっけ?
「あっ、分かるかも。」
ベネが話にのってきた。
「皆で居るときはそんなに出ないけど、ソフィーと2人の時は結構フランクに話してるよね。」
「そうなの。私も昔、イッセイに「敬語は辞めなさい」って言った事があるんだけど、いつの間にか敬語を使う話し方に元に戻ってたの。最初は、敬語が良いのかなと思ってたんだけど。この前のあの時から考えが変わったわ。」
「あの時? どの時?」
ベネの意見にエリーが愚痴を言うとソフィーも興味を示し話しに参加し始めた。
「「カレン(姉)様の婚約の時。」」
「「!!?」」
エリーとベネが声を合わせる。
ソフィーが反応していた。
「あっ、やっぱり反応した。ソフィー。反応したよね。」
「あーあ。先越されちゃった。」
「チョット! イッセイ君とは、何にも無いよ。」
ソフィーがそんな事を言っているが、俺と何かあったっけ?
まぁ、良いか。取り敢えず皆合流出来たから普通のキャンプに戻すか。
「・・・カズハ。この結界って消せる?」
もう、不要だろ。
しかし、ソフィーから声がかかる。
「あっ、カズハちゃん。待ってチョット小さく出来るかな・・・・ゴニョゴニョ。」
「かしこまりました。それでしたら可能です。」
ソフィーがカズハと何か話していた。
「イッセイ君。ちょっとこの結界使わせて、あんまり時間とらせないから。ねっ。」
上目遣いに俺に言ってくる。
どうぞとしか言いようが無いけど。口を開く元気が無かったのでジェスチャーで"どうぞ"とだけ返した。
先程よりかなり小さくなった聖域はスーパーハウス一軒分位までになった。
まぁ、ガールズトークでもするんだろう。
俺は山積みにされているモンスター達を解体して夜を過ごした。
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