99話 最後に笑ったのはやっぱり狐ですか?

「イッセイ様。こちらのお洋服をどうぞ。」

「ゴランさん。ありがとう。」


 洋服を受け取り袖を通す。

 格式張った服は何度も着ても馴れない。

 容姿のせいもあってか着せられてる感が半端ない。

 まさに『馬子にも衣装』って感じだ。


 屋敷に戻ってから1週間が経ち登城する日を迎えた。


 この1週間は色々忙しかった・・・・。思い出すだけでも目眩がする。


 まずは学園。カレン姉様の事があったのも大きく教室の周りには絶えず人が来た。俺に取り入ろうとする人、派閥に勧誘する人。それから、婚約者になりたいと言う人達だった。意外にもこれらの人はクラスメイトが率先してお断りしてくれていたので涙が出そうになった。

 婚約者関連はソフィー、エリー、ベネがやたら張り切ってお断りしてくれていた。


 持つべきは仲間だな。心からお礼を言おう。


 そして、先程の件からもクラスメイトの俺に対する空気が一変した。なぜかと聞いたらからこの前の襲撃でクラスメイトを守ったことが大きかった様だ。

 ピッカピカに磨かれた『ヘイケ』を返してもらったときには二重の意味で涙が出そうだった。(どこに行ったか分からない『ヘイケ』は返ってこないと思っていた。)


 そして、メイヤード様のしごきもレベルが上がった。

 俺が魔力を使えなかった経験談を耳にしたメイヤード様は自身の流派に新たな風を吹き込んだ。


「これからは意図的に魔力を遮断して体を動かすトレーニングをするよ。」


 と、言う事だ。

 魔力を0にするトレーニングって何だ。と思ったが、門下生上級者ヘビーユーザーからはウケがいいらしい。

 今まで鍛えられなかった場所も鍛えられるのだとか・・・


 って、門下生何人いるんだ?


 それから、自分の新たな武器も模索した。

 魔導を強化し手元で創らなくてもイメージで宙に弾を創れる様になった。


 目下練習中だが、これで攻撃の幅は広がる筈だ。


 こんな感じで5日なんてあっという間に過ぎた。

 ぶっちゃけ。図書館で過ごした1ヶ月が一番楽だった気がする・・・。


「よくお似合いですよ。」

「そう・・・ですかね。」

「えぇ。ソフィア姫もイチコロでしょう。」


 ゴランさんは笑顔で言ってきた。

 この人、人をその気にさせるのがうまい。

 言葉のチョイスは若干古いけど・・・。


 ゴランさんに促されるまま外へと向かう。


 お城に行くのは、王家から(借金返済の)クエストを受けるのが目的だ。仰々しいぎょうぎょう(しい)服を着ているのは、いつも身に着けている様な動きやすい服で出かけようとした所、ゴランさんに。


「王家と繋がりが出来たのですから身なりはそれなりに整えませんと・・・」


 と、諭されたのだ。

 正直、面倒ではあったが姉様の為と言われれば何も言えない。

 一応それなりの格好をする事にした。



 でも、格調高い服は首元がキツイから嫌だ。

 四苦八苦している所で外から元気な足音が聞こえる。


 ーーダダダダダッ。


「イッセイ。城に行く前に人勝負よ。」


 空気の読めない元気な子がいる。エリーだ。


 退院してからの1週間、俺も修練に復帰していたのだが思いの外強くなっていたためエリーでは相手にならなくなってしまったのだ。

 プライドが少々お高いエリーは色々許せなかったのだと思う。何かと俺と張り合うようになっていた。


 気持ちは分かるが今はそれどころじゃー無い。


「エリーお嬢様。イッセイ様は今からお城に行くんです。そんな事やってる暇なんか無いんですよ。」


 ゴランさんがエリーを咎める。ゴランさんはエリーをお嬢様と呼びシェルバルト家の一員扱いで接してくれる。本来客人なのでお嬢様と呼ぶ必要は無く多少他人扱いするものだが、

 無いのだが彼なりの気配りだ。

 エリーはそんな事お構いなしなのが残念な所ではあるが・・・。


 そして、エリーはゴランさんの指摘についてはどこ吹く風だった。


「良いじゃない。城に着くまで競争しましょ。」

「汗かいたままで女王陛下には会えません。今日は我慢してください。」

「ぶー。ぶー。ゴランさんには言ってないよー。」


 天真爛漫が売りなのは良いのだがちょっと自由過ぎる。

 最初に会った頃の聡明さは緊張と警戒によるものなんだと今ならそう思うよ。

 だって、最近はただの駄々っ子だもんなぁ。信頼してくれた事で本来の姿を見せるようになったのは嬉しいけどね。


 それが、俺の彼女に対する見解だ。


 うーん。

 このままだと時間だけが無駄にすぎるな・・・・そうだ!!


「そうだ。プロメテ。」


 ーーボワン。


 プロメテを呼ぶと無駄に豪勢な煙のエフェクトが出てきた。


 最近、こういう無駄な演出を見た記憶がある・・・


 エフェクトから見えるシルエットが代わる代わるポージングを取っていた。


 当然、俺達はボーゼンと見ていていた。


 エフェクトが収まるとその中から180㎝位にでかく、腕組みしたランプの精・・・もとい、武闘家っぽいのが出てきた。

 無駄に強調されている筋肉が暑苦しい。が、新調された装備から神々しさを感じさせる。

 彼も今回の件で神格化した影響だろう。


「何だ。イッセイ。筋トレか?」


 見た目が神格化したからと言っても中身が神格化するとは限らないようだ。


「ま、そんな所だ。エリーがトレーニングをご所望だ。鍛えてやって欲しい。」

「ちょ、まっ!? えぇー!」

「心得た。さぁ行くぞ。筋肉は待ってくれない。」

「イッセーーーイ! 覚えてろーーー。」


 謎のセリフを吐いたプロメテに担がれ、エリーは恨めしそうな顔をしていた。


 俺は手を振って応えてあげた。


 その後すぐにプロメテはもがくエリーを高笑いしながら何処かに連れて行った。


 なんだかんだでうちの精霊は俺より強いからな。

 みっちり鍛えて貰うが良いさ。


(女の子にはもっと優しくしないと駄目でしょ。ジュッ。)

(鬼畜だな。ジュッ。)

(私はこういう子にもっと早く出逢いたかった。ジュッ。)


 周りにいる幽霊達が五月蝿い。

 消える前に好き勝手言いまくって逝きやがる。

 でも、こういう事笑い事があるとわりと楽しそうに逝ってくれるやつが多いので良い事だとは思う。


「よし。これで準備を邪魔する人は居なくなりましたね。」


 俺が笑顔を向けるとゴランさんは苦笑いしていた。



 ・・・





 王城に着くと直ぐに騎士さんに案内されいつもの部屋に通される。

 するとそこには既に女王陛下と宰相様。レイモンドお義兄様とソフィーが席に座って待っていた。


 おじさん以外オールスターである。


「イッセイ君。こんにちは。」

「女王陛下。お待たせして申し訳ございません。」

「良いのよ。貴方は家族・・、も同然なんだから。」

「は、はぁ・・・」


 やけに家族を強調されたので驚いて聞き返してしまった。

 ニンマリとする女王陛下とソフィーは顔をうつ伏せにしていた。何か話をしたに違いない。

 レイモンド兄様と宰相のアレックス様に助け舟を求めたが2人は苦笑いだけだった。


 気が早い事だ。でも女王陛下甘いですね。

 このクエストが成功するとは限りませんぜ。

 何せ俺の狙いは時間を稼ぐ事、ですから。


 口に出せば不敬罪に当たるが腹の中なら何とでも言える。

 苦笑いの中に今後の段取りを張り巡らせていく。


「さぁて、冗談はさておき。依頼を出す事になったので呼び建てした訳だけど。今回から君に依頼を出すのはここに居るレイから出させるから。」

「え? どう言う事でしょうか?」


 お義兄さんを見ると緊張した面持ちで俺を見ていた。

 何かいつもと違う緊張した面持ちだった。


 何となく嫌な予感がした。


「文字通りよ。貴方が依頼に失敗すればレイの評価が落ちる。そして、今回は記念すべき第一回目よ。」


 女王陛下はニンマリとする。

 まるで俺の考えを知っていた。かのようだ。


 き、汚え。大人汚え。


 狼狽える俺を見て女王陛下は更に嬉しそうな顔をした。


「じゃっ。そういう事だから。レイ。後は任せるわね。」

「はい。お、お任せ下さい。」


 緊張か初めての政務への意気込みかは分からないが気合十分のお義兄さん。

 震えてるのを必死に隠そうとしている。


「お義兄さん。そんなに緊張しないで下さい。僕も緊張してしまいます。」


 と、言うのは嘘だ。

 叔父さんと冒険中に交渉事等を任されていた事もあり特に気にはならないが、年上相手に考えれば立ててあげるのが良いのだ。ある程度の人はこれで大丈夫だ。


「それもそうだね。イッセイ君は弟だから気にする必要は無いのか・・・。」

「えぇ。弟に話す位の気持ちで十分だと思います。」

「そう言われたら随分楽になった。」


 緊張が和らいだお義兄さん。手の震えは消えていた。

 お義兄さんの後ろに座っている女王陛下からもサムアップが上がっていたのでこれで良かったのだろう。

 自分で追い込んでる気がしないでもない。


「ここから南に行った先にとある公爵領があるのだが知ってるかい?」


 俺は頭の中でマップを作成すると南にある貴族の領地を思い浮かべた。確かウッザー公爵家が統治する領土が広がっていた筈だ。

 ウッザー公爵は産業で国に貢献する家で綿や塩、鉱石に農機具までありとあらゆる物を世界中から集めてくる商人の様な人だったと記憶していた。

 学園に息子がいたと思うが名は体を表すと言うのか兎に角ウザかった記憶がある。


 それを思い出しただけで何となく嫌な気分になった。


「・・・えぇ。一応は存じております。」

「その様子だと彼等の性格も知っているで良いのかな?」

「公爵様とお会いしたことはありませんが、噂はかねがね。」

「そうか。まぁいいよ。彼等一族は王国にとってのまさに血だからね。下手な事があると国の商業が止まる。」


 真面目な顔をするお義兄さん。

 合ってるだけに何も言えない。


「では依頼内容と言うのは?」

「商業用の馬車道路に何か出るらしい。それの調査と驚異なら討伐を願いたいと言う依頼だった。」

「驚異である事が確認できて討伐が負荷な場合はどうすれば宜しいですか?」


 これは冒険者なら絶対に確認しなければいけない事だ。

 万が一得体のしれない何かがはぐれだった場合一段も二段も上のクラスである可能性があるからだ。

 その場合、自分の力量を上回っていたら逃げる事も想定しないといけないのだ。

 王家クエストだと逃げられない事も有るのだが・・・。


「逃げていいよ。」


 あっさりとお許しが出た。

 拍子抜けしすぎて危うく椅子から落ちそうになった位だ。


「今は完全に商人達にも通行禁止の命令を出してるみたいだからね。危ないなと思ったら近寄らなくてもいい。戻って報告を受けたら騎士団を出す手筈になってるから。」


 本当にただのお使いじゃねーか!!


 どうせ、ウッザー公爵辺りが冒険者を出すだけ金のかな無駄だとか判断したんだろう。遠目に見てくるなんて誰でも出来るじゃん。


 女王陛下を見たら普段使わない扇を使ってこちらを何度も見ていた。


 クッ。あの女狐め・・・完全にハメられた。

 こんな事で借金がチャラとか世の中の借金持ちがぶっ倒れるレベルな話だ。普通であれば罠としか思えない。


 まぁ、罠だった訳だが・・・。

 ソフィーが終始顔を赤くして俯いていた意味が分かった


「・・・では、明日にでも出掛けるように致します。」


 俺は頭を下げる事しか出来なかった。

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