98話 魔力についての秘密を知ったのですか?

『人は不自由さを知って初めて健康のありがたさを知る。』


 前の世界で、名前は忘れたがそう説いた医者がいたと思う。

 魔力が再び使える様になって俺はその言葉を思い出した。


 この世界における魔力は空気と言ってもいい。

 ここに生まれついた生命は大なり小なりいつの間にか魔力を身に付けているのだ。

 バフの効果が期待出来ない俺も何だかんだで魔力の恩恵を受けていた。

 俺はてっきり精霊の皆との連携時しか使わないと思っていたのだが・・・。


 魔力は使っていなくても無意識に力を発していて、私生活は補助されていた。と言う事だ。

 簡単に言うと魔力は生きている生物の軟骨に近い動きをしていると言いうこと。

 恐らくこれはこの世界で魔力の持つ全ての生物が共通している事だと思う。


 ただ、それに気づいている人がどれほど居るのかと言えば、分からない。が、正解だろう。何で人間は二足歩行なの? って聞かれて万人が納得する答えを出せないのと一緒だと思う。


 経験者で言えるのは、自由を奪われている事よりも魔力を使えない事は本当に不便だった・・・。いや、表現が悪い。正直体を動かすのが億劫だった。

 魔力が無く体を動かすのが怠かっただる(かった)のだ。体を動かす度に違和感を感じるのだから本当に気味が悪かった。


 で、今俺はミサキさんに最後の診断をして貰っている。


 通常の回復なのであれば問題が無かったのだろうが今回俺は怒りに任せ暴走した仮定で魔力を復活させた。

 そのためミサキさん・・・。いや、周りが心配なのだろう。


「・・・うん。問題は無いね。ただ、定期的には見せに来てほしいかな。」


 魔眼で俺を見ているミサキさんが言った。

 サイクロプス族に凝視されると指を刺してみたくなるのはあるある・・・・なのだろうか?


 っと、ミサキさんが俺を見て睨んでいる。ヤベェ、ヤベェ。


 見ているのは俺の身体のダメージと、暴走の危険性についてだ。

 俺の記憶にはほぼ無いのだが、妙な高揚感があった事は認める。

 気を失うまでの一瞬は興奮が抑えられなかった・・・。


 それで、そう言った危険性が顔を出さないか。

 それを診断して貰っているのだ。


「では、上着を脱いでくれるかい?」


 ミサキさんに言われた通り上着を脱いで裸になる。


「ハァー。君今いくつだっけ?」

「えーっと、この前やっつになりましたね。」

「はぁ。8歳の身体じゃないね。」


 そう。あの1ヶ月の間身体をイジメにイジメぬいた俺の身体は8歳とは思えないガチガチのボディとなっている。

 クライミングが楽しすぎて色々とアプローチした結果。

 肉襦袢にくじゅばんみたいな感じになってしまった。


 軽くポージングを決める。


「ただ・・・。あんまり鍛えすぎるとチビのままだけどね。」


 俺の腕が自然に下がった。

 もちろん。ショックだったからだ。


「え? 鍛えすぎると背が伸びないのですか?」

「まだ研究段階だけどね。必要以上に若い時に無闇につけすぎた筋肉は成長を抑制するって研究が着目されてる。」

「・・・そう。ですか・・・。」

「まぁ、成長に必要ない筋肉は落せばいいからまだ間に合うんじゃない?」


 フォローするのに疑問系だと不安になるんですが・・・。

 付け過ぎた筋肉のせいで将来チビのままだと言われ一気にトーンダウン。


 何とか筋肉を落とせないかと考えていた。

 そんな中、幽霊共が騒いでいた。


(まぁ、逞しい身体。奪いちゃいたい。)

(まぁ。サブちゃん本当ね。)


 角刈り青ひげの幽霊2匹が俺の体を舐め回すように見ている。

 ・・・気持ち悪い。


 どうやら、今回の件で魔力が増えたせいで霊体が見える様になったみたい・・・。

 今までは声が聞こえてくるだけだったんですが、今は目の前に数体の幽霊が何かを必死に訴えてくる。と、言っても大体自分勝手に好き好き喋るだけなんですけどね・・・。


((きゃぁぁぁぁ。ジュッ。))


 まぁ、適当にあしらっていれば勝手に成仏してくれるし、ウザったければ強制成仏もさせることができるので特に気にならなくなってきてるんですけどね。


 取り敢えず。今回は、強制成仏消してしておいた。


「まぁ、体に関しては後で対策を教えるとして、今はこれを持ってくれる?」

「おっとっと。」


 ミサキさんが俺に向かってボーリングの玉くらいの丸い水晶を投げてきた。

 いきなりだったので慌てて受け取る。


「うぉ? 何じゃこりゃ。」


 丸い水晶玉を手に持つと、魔力どんどん水晶玉に吸い取られた。

 水晶玉は俺の魔力を吸い取りながら、徐々に宙に浮かんでいった。


「あれ? ミサキさん。これ、何ですか?」

「・・・・。」


 ミサキさんは終始無言のままだった。

 無言のまま、怪しい水晶玉を回収し色や重さを測っている。


「・・・次は、精霊を出してもらおうか。」


 ん? さっきの結果は?

 ミサキさんは先程の結果について特に教えてくれず話を先に進めようとする。


「あれ? さっきの結果は?」

「後で説明するから、さっさと出して。」


 難しい顔をしてずっと前を向いていた。

 どうやら俺の意志は取り敢えず無視されるらしい。


「・・・分かりました。バッカス。出ておいで・・・えぇ!?」


 そう呼びかけると俺の横に大きな穴が開く。

 そこから、以前より大きくなったバッカス・・・・バッカスか? 

 妙にリアルな顔をしたおじいちゃんの精霊が顔を出した。


 恐る恐る聞いてみる。


「あのー? どちら様ですか?」

「おぉー。スマン。供給される魔力が高くなったおかげで自分自身をリアルに表現出来るようになったのでな。試しにやってみた。」


 ボワン。と、音と煙のエフェクトを出して出てきたのは、元のデフォルメされた姿に戻ったバッカスだった。


 何と意味のない効果だろうか・・・。

 わざわざ、俺の魔力を使ってやる意味があるのだろうか?

 遊んでいるバッカスに呆気に取られていた。


「って、なんか大っきくない?」


 出てきたバッカスの身長が140㎝位まで大きくなっている。

 前回は120cm位だったので20㎝の成長だ。


「ハハハッ、そうなんじゃ。イッセイの所に戻ったら何だか魔力が上がっていてな。ワシは神の末席に席を置く存在になっておったわ。」


 よく見ればバッカスは司祭の様なローブを身に纏っている。いかにも管理職っぽい恰好になっていた。

 手に持つ槌も蒼白い光を放っていた。所々に神々しさを感じさせる。


「他の皆も?」

「あぁ。それぞれ皆クラスが上がったはずじゃ。」


 Oh My GOD 正に神になっていた・・・。


 呆気に取られているとミサキさんが横から意見を述べた。


「精霊が神格化し始めてるね。これはまた・・・。君の魔力量が上がった証拠だね・・・。君はどこまで行くんだろか。」


 ミサキさんはウンザリした様子だった。

 俺自身にあんまり実感が無いんですけどね。



 その後も何個か検査を終えると結果発表を聞くことになった。


「うーん。よく分からなかったけど、確実に前より前より倍以上は増えているね。」


 との事だ。

 結局のところ、魔力に関してはどれ位増えるのかは分からないらしい。

 身体的にはすっかり歩けるようにもなったので、問題ないと言う事になった。


 帰り際には、


「臨床試験はやってるからいつでもおいで。」


 二度と来るか! と、心の中で叫んだが聖剣の事もあるし他にも色々聞きたいこともあるので、また来る羽目にはなりそうだった。


「聖剣の話もありますから。来るには来ますよ。」

「あっ、そ、そうだね。覚えてるよ。あっ、そうだ。ちょっと待っててね。」


 こいつ、絶対忘れてたな。


 そして、何かを思い出してどこかに走って出ていった。


 伸びをして席を立つ。

 先程の検査で減った魔力を回復させるため深呼吸すると、かなりの量の魔力が体に入り込んで来る。感覚としては運動した後で水分を補給した時みたいに『スッー』と入ってくる感じだ。

 以前より魔力を身近に感じるようになってきたみたいだ。


「いやー、お待たせ。はいこれ。」


 まったりと魔力の回復に努めていたらミサキさんが帰ってきた。

 手に持つ何かを渡してくる。


「なんですか。これ?」


 見せてくる荷物を警戒心MAXで見ていると、


「これ? さっき言ってた筋肉を減らす薬。調合してきた。」


 ・・・。何だそのご都合主義的なやつ。

 中を見てみると何かの薬草を固めた丸薬みたいなやつだった。


 すっごい怪しい。


 ミサキさんを見ると、「まぁ、試してみてよ。」と言ってくるだけなので渋々受け取った。



 ・・・


 図書館の外に出る。

 中世ヨー○ッパ並の街が並び、街の人の喧騒や馬車の音等が聞こえ、空は青々としていた。


「はぁ〜。やっぱりファンタジーならこうだよな。」


 図書館はまぁ、快適だったけど何か違う気がする。

 文明の塊のような作りが返って不自然だった。


 外に出て、壊れた道や喧嘩する人なんかを見ているとホッとする自分がいるのが分かった。


 図書館を出ると家の馬車が待っていた。

 馬車の傍らに燕尾服を着た若い男性も居た。


「イッセイ様。お待ちしておりました。」

「ゴランさん。すいません。迎えに来ていただいて。」

「いえ。回復おめでとうございます。」


 ゴランさんは新しく俺づきになった召使いの人だ。秘書と言っても良い。

 王家と繋がりが深くなったので今まで以上に気を使わないといけなくなったのだ。

 俺は要らないと言ったのだが、「これも王家と繋がりが出来たんだから馴れろ」と、一蹴されゴランさんに仕えて貰う事になった。


 金髪サラサラヘアーなイケメンでソバカスがキュートと言える。見たまんま○メリカ人みたいな人だ。

 歳も18とお義兄さんに近いと言うか、お義兄さんの後輩で友人だ。

 成績優秀な方で次期国王のお義兄さんの下で国政にガッツリ噛む人なんだとか。

 何でそんな人が家に居て、俺の下に付いてくれたのかと言うと箔を付ける為だ。


 ゴランさんは平民の出の人なのだ。


 この国の国政の中心は貴族だ。特に王家の側近には爵位を持った人で固められている。お義兄さんはそういった制度の中でも実力主義で固めたいそうなのだが、なかなか上手くいかないらしい。なので、今何かと騒がれているシェルバルト家の俺の下に付けてお義兄さんとの繋がりを密にしておきたいんだとか。


 そういう理由なら断る理由もない。実際にお義兄さんに言われて国政について色々行っているみたいなのだ。

 そういう理由なら所属だけ俺の下にして、国政中心で活動して欲しいと言ったのだが・・・。

 この御方、家の仕事もキッチリこなしてくれる。

「これも将来人を使う訓練ですから。」と、言われれば無碍に出来ない。

 実際は凄く助かっているしね。


 ただ、下手すると宰相クラスまで行っちゃう人だからなぁ。

 どうしても恐縮してしまう。


 因みに今までいた皆さんは姉様付きと言う事で再教育されている。

 執事長やメイド長だった方はまぁ慣れたもんだったが、下のメイド達はヒーヒー言いながら仕事や作法を覚えていた。


 馬車に乗り込むとゴランさんが口を開く。


「イッセイ様。女王陛下より事付を承っております。」

「はい。何でしょうか?」

「借金の為のクエストを発注したいとの事です。」


 来た。俺がこれをクリアするとソフィーと婚約させられるやつだ。

 どうにか引き延ばせないかと思っているが、まぁ内容によるだろう。


「分かりました。何時ぐらいにお伺いすれば宜しいんですか?」

「丁度、次の週ですね。5日後です。」

「分かりました。登城致しますとお返事してください。」

「かしこまりました。あっ、それとご当主様からも伝言です。」


 あぁ、そうか父様と母様はシェルバルト領へと戻ったんだった。

 なんでも急ぎで片付ける案件があるとの事だった。元々その用事で国から呼び出しされていたんだったしね。

 ゴランさんが両親からの『言付け』と聞いてなんの事か考えた。


 はて? 何かあったかな。


 考えてみたが思いつかなかった。


「ご当主様の伝言は、自分の心に従って物事を決めよ。との事でした。」

「はい?」


 ずいぶんアバウトな伝言だな・・・。


 この時俺は、ソフィーの事を言っていると思ってたが事態は全く違う方向へと進んでいるのだった。

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