97話 変わらない想いと変わった気持ちですか?

「か、鏡か?」


 恐る恐るそう聞くと目の前の少女は頷いた。


「久しぶり・・だね。イッセイ君。やっぱり来てくれてたんだね。」


 俺の胸元に飛び込んできた鏡。でもその姿、容姿はソフィーだ。

 鏡に会えたのは嬉しい。のだが・・・。


「いくつか聞きたい事がある。」

「・・・うん。」


 抱きついてきた鏡? ソフィー? を引き剥がす。

 そして、適当に転がっている椅子を2つ立てると腰掛けるのを促した。


 椅子に腰掛ける鏡? ソフィー?

 ・・・ややこしいな。


「その・・まずは、ありがとう。その、俺を止めてくれて。」

「ううん。これは、ソフィーの願いだから。それより、私の方こそありがとうございますだね。本当に・・・、本当にここまで追いかけて来てくれたんだね。」


 鏡は泣いているのか時々目を擦りながら話してくる。

 ずっと、探して居た鏡の筈なのだが・・・・何か釈然としない。


「あの後、俺に何があったんだ?」

「イッセイ君は、あの後・・・。」


 鏡の説明ではこうだった。

 俺は姉様の死を宣言された瞬間に体から黒い魔力を噴出させ天井を吹き飛ばしたらしい。しかも、その時何か怨嗟を口にしていたようだ。

 意識が鮮明になった鏡は、その状況で覚醒したようだ。

 眼の前で人を襲うでもなくただ、上空に魔力を放ち続ける俺が居て驚きはしたが直ぐに止める必要があると感じ、精霊の皆と協力して俺の精神に感応したようだ。


「そうか・・・という事は皆は寝ているだけなのか?」

「うん。君の魔力が溢れ出た瞬間に皆は気を失ったんだ。どうも、君に魔力を吸われたみたいだね。急な魔力が切れで気を失ったんだと思う。」


 鏡がそう言うならそうなんだろう。

 左右の手をグーパーしてみる。

 気がつけば、また魔力が使えるようになっていた。


 先程、姉様を殺したウラーギリ伯爵の亡霊が俺達に恨み節をぶつけているのが聞こえていたが、有無も言わずに消しておいた。


 成仏では無く魔力で消した。この場から居なくなったのか、消滅したのかは知らない。

 気持ち的には、二度と生まれ変わらせないつもりだった。


 誰にも知られずにゴミを処分した所で、鏡に質問をする。


「君は・・・どうして急に覚醒したんだ?」

「条件はいくつもあったと思う・・・。ミサキと契約したとか、私・・・この場合ソフィアと言ったほうが良いわね。ソフィアが一気に魔力を失ったとか・・かな。それに元々の表現が違うの、私は既にソフィアとして転生しているからどちらかと言うとソフィアが『過去の私【鏡 英梨奈】の事を忘れていた。』っていうのが正解かな。」


 正直驚いた。

 鏡がこんなにもずっと側に居たにも関わらず全く気付く事が出来なかったのだ。


 って、金○様もガブリエル様も教えてくれればいいのに・・・


「これから、どうするんだ?」

「ん? これから?」

「あぁ。覚醒した事でその子の意識を取り込んだんだろ?」


 何となくソフィーの名前を呼ぶ事に抵抗を覚えた俺は『その子』と表現する。


「うーん。表現が難しいけど・・・今は、過去の記憶の私が強く表に出ただけだから、そのうち元のソフィーに戻ると思う。それに記憶も知識もまだ曖昧な部分があるから・・・。」

「そう・・・なのか?」


 そして、何となくホッとした自分がいる。


「うん。鏡 絵梨奈と言われるよりソフィーと言われた方がしっくりくるもの。」


 俺には良く分からないな・・・。


「だけど、何て呼べばいいんだ?」

「今まで通りソフィーで良いよ。と言うかソフィーがいい。」

「でも、何となく喋り方・・とか・・・。」


 少し大人びた話し方をする様になったソフィー。

 仕方がないことだけど、急に変わってしまった事が気になった。


「大丈夫だと思う。女の子って急に成長するものだから。」


 ますます分からなかった。

 流石に急すぎるだろ? と思った。

 俺の顔が曇ったのがわかったのだろう。

 鏡は微笑んで自身をソフィーの一部だと言った。その笑顔はソフィーと同じだった。


「・・・そうか、分かった。外来種はどうする? 予定外の転位で地獄を味わっただろう? 聖剣も無いしここで「それは無いわ。」」

「・・・・。」

「イッセイ君。私は君達に追いつき隣を歩く為に頑張っているの。それに奴等外来種は私にとっても敵。それなのに大人しくなんて待てないよ。君だって逆の立場ならじっとしてられる?」


 鏡。いや、ソフィーは戦い続けるらしい。

 最も前のソフィーだったとしても同じ事を言ったかもしれないな。だが、この気高さこそ彼女の本質だ。

 まぁ、500年前は勇者として世界を守っていた訳だから能力的にも申し分ないのだけど。まぁ、今は鏡がここに居る事は理解出来た。今は、それだけでいいと思えた。


「その通りだ。俺が悪かった。」

「よし、許す。君のことずっと見てきたけど。ちょっと気負い過ぎかな。もうちょっと私にも頼ってほしいな。」


 鏡は俺を見る。先程からずっと笑顔のままだ。

 ・・・ふぅ。敵わないな。俺はこの笑顔が好きだったんだ。

 顔はソフィーだけど、中身は鏡だ。


「カレン姐さんの事とかもあるし、少し今後の事を話そうか。」


 鏡は今後の段取りを話し始めた。


 ミサキさんが力を使った事により幼児(ひよこ)になった。

 2〜3年は力も使えず人形に変化することも難しいって事だったので代役が急務だ。

 俺は皆に説明するものだと思っていたら、鏡が任せなさいと胸を張って叩いていた。

 なんと、鏡が開発した魔道具で誤魔化す事ができるらしい。

 その魔導具はミサキさんと共同で開発した神獣に何かあったら隠蔽するために開発していたものらしい。


 コイツ等はそんな事も計算していたのか・・・


 そして、鏡が取り出した魔導具に驚愕した。

 なんとミサキさんがこれまでしていたあの『ウサミミバンド』だったのだ。

 亜人に変装しているただの変態さん・・・・・・・だと思っていたのだが、あれは記憶を保管してる魔導具だったらしい。

 肌身離さないのは記憶の蓄積と魔道具を守る意味があったのだとか・・・。


 で、鏡の作った魔法でその力を解放するとア〜ラ不思議。


 −−ウィーン・・・カシャカシャ。チーン。


「あれ? 絵梨奈どうしたの? 魂戻ってるよ。」


 的な感じでコピーが出来上がる。今後はウサミミに記憶を溜めていきオリジナルに記憶を上書きをするんだとか・・・。これって、人道的にどうなんだ。と思った。


 唖然として見ていたら、ソフィー(鏡)がサムアップしながら


「○殻機動隊を見て思いついた魔法。」


 と言っていた。いや。別に今その話は要らないだろ。


 何となく目眩を覚えた。

 ソフィーがミサキ(サイクロプス)に話しかけていた。


「ま、色々あったのよ。それから、私ソフィーだからそこら辺間違えないでね。あっ、あと結構私の邪魔してたでしょ。しっかり覚えてるからね。」

「うっ、はいはい。分かりましたよ。はぁ、しっかしこんなに早く戻るとはなぁ〜。もうちょっと激しく色々揉んでおくんだった・・・失敗した。」


 淫獣は、淫獣のままだった。


「何か言った?」

「いえ何も~。で、私の背が高くなってる気がするんだけど・・・」

「あー。ごめんね。貴女転生したのよ。で、適当な魔導人形が居なかったから。そこら辺にいるモンスターで代用しちゃった。テヘ。」

「ちょ!? おい!! よりにもよってサイクロプスの子供かよ。どうりで視線が中心的だと思ったわ!」


 という感じにモンスターだろうが人だろうが魔導人形だろうがコントロール出来るようになるらしい。


 と言うかやっぱり一つ目族は視界は中心よりなのか・・・。意外な所で生態が学べた。


 つーか、目の前から消えたと思ったらサイクロプスの子供を捕まえて帰ってきた時はマジでビビった。


 鏡ソフィーつえー。


 帰ってきた鏡ソフィーが、


「うーん。この身体だとまだ幼すぎてあんまり無理できないな。暫くは身体づくりだな〜。」


 なんて言ってたがこれ以上強くなるのかと若干ブルった。


 と言うか、ちゃんと意味があったのかあのウサミミは。

 しかし、なんつー危ない道具だ。


「あっ、そろそろ皆が目を覚ましそうだからソフィーに戻るね。」

「う、うん。」


 −−う、うーん。


 色々、話をしたり今後を段どっていたら会場に居る人達が徐々に目を覚まし始めた。

 皆こめかみを抑えている。魔力切れのせいで頭痛が激しいようだ。



 ・・・



「カレン!!」「レイモンド様。」

「もう二度と私より先に逝くようなことが無いようにしてくれ。先程の時間は私にとって死と同じだった。」


 お義兄さんの熱い抱擁によって姉様は潰されそうになっていた。


「ちょっと・・・強いです。」

「あっ、ごめん。」

「でも、嬉しいです。」

「カレン!」


 と、完全に2人の世界に入っていた。

 まぁ、こんな時位は誰も文句言わないよね。

 この2人の光景を見て、姉様に黒い視線を送っていた貴族の娘達は毒が抜かれたように大人しく2人を見守っていた。他の貴族の皆さんも大体は死んだ筈の姉様が急に生き返った事に驚いており、2人の姿を見てボーゼンとしていた。


 ん?


 気付くとソフィーが隣に立っており俺の手を握っていた。

 目の前の2人を見て安心したのか優しく握ってきてくれた。その優しさが嬉しくて俺もそっと握り返した。


 ただ、叔父さんや女王陛下や父様、母様は違う。

 姿の変わったミサキさんを問い詰められたり、姉様の事を問い詰められたり、消え去った天井の事を問い詰められたり。と、色々だった。


 天井の件はミサキさんのせいにしようとしたら、逆にミサキさんから姉様を助けたのは俺だと言われ一時騒然となってしまった。

 栄誉を与えられると同時に天井とステンドガラスの請求をされることになった。


 何故だ? あんな物より姉様の助かった話のほうが大事だろ!?

 しかも、姉様を助けたの俺のお陰って事で国から称されるって、面倒くさいだけなんですけど・・・。


 コッテリ絞られた挙げ句に今度式典をやる事を聞かされてグッタリしていた所で、エリーとベネに合流する。

 2人はかがみ・・・ソフィーと話をしていた。


「随分雰囲気が変わったじゃない。」

「そーぉ?」

「何だか自信が付いたみたいに落ち着いてるわ。」

「一歩リードしたからそのお陰かもね。」


 −−バチバチ・・・。


 見えないけど見える。

 雷が2人の間で激しくぶつかっていた。

 鏡って誰かに対してこんなに敵意を剥き出すタイプだっけ?


 まぁいいや。今日はもうコイツ等の相手はしてられない。


「ベネ。僕は、後片付けに行きますね。」

「あ、うん。ほっといて良いの?」

「お腹が空けば帰って来るでしょう。僕は借金も負わせられたので、今後の準備と図書館を退院するので荷物整理でもします。・・・と、その前に」


 ベネに確認を取ってから椅子に腰掛けている父様と母様の所へ行く。

 憔悴しきった父様と女王陛下と楽しく談笑している母様が居た。

 性格の違いだろうがここまで違うとちょっと面白い。


「女王陛下。今日は色々と失礼致しました。」

「あぁ。イッセイ君。今日は助かった。」

「いや。僕は・・。」


 −−ボスン。


 後頭部に空気の何かがぶつけられた。


 あぁ。内緒にしろって事ね。


 ソフィーの意思を汲み取ったので、口裏を合わせる。


「いえ。その為に大事なお部屋を駄目にしてしまったので、まだまだです。」

「イッセイ。お前のお陰だったのか!?」


 父様が俺を掴んで抱きしめてきた。

 何度もありがとう。ありがとう。と言いながらプルプル震えていたのは、父様が泣いていたからだろう。

 心底喜べないのはソフィーのせいだ。


 意味のない事をさせやがって、ステンドガラスを破壊したこと以外全部嘘じゃねーか。


 父様の背中をポンポン叩くと嗚咽が聞こえてきた。

 子供を大事にする人だからなぁ。暫くは抱いたままにしておこう。


「イッセイ。ありがとう。」


 空いてる手を取って握ってくる母様。

 やはり嬉しかったのだろう。目には涙を溜めている。

 お団子になった俺達親子を見て女王陛下は笑っていた。


「でもね。本当に助かったよ。このままカレンが死んでいたらレイは立ち直れなかっただろうね。一生腑抜けになっていた。それは王家の死に直結する。」


 頭を下げてくる女王陛下。


「止めてください。」と言えない。

 これだけの大勢の人前で王に反論などすれば逆に不敬罪になってしまう。だが、こんな姿を見られてはそれも色々と問題が出るのでマジで辞めていただきたい。


 両親に抱きしめられながら、王に頭を垂れさせる。

 チラリと見渡すとこっちに気付いた貴族の顔が驚き顔になっていた。


 ダラダラと背中に冷たい汗が流れる。


「陛下。見に余る光栄です。」


 膝を着きたかったが両親が居るので最敬礼並に頭を下げ。

 小声で言う。


「止めてください。他の貴族が見ています。」

「うふふ。わざとよ。そろそろ君も有名人に仕立て上げないとね。」


 止めて貰う様にお願いのつもりだったが、そこには女豹が居て獲物を待っていたようだ。

 このままだと、ソフィーと婚約させられちゃう・・・って、鏡でもあるなら良いのか? いやいや。まだそう言う歳でもなかろう。


 いや。待てよ・・・なるほど。いい事を考えた。


「お義母様。もう少しだけお時間ください。」

「お、お義母? そこまで進んだの?」

「まだ、何もしてませんよ。今回の借金が返せたら発表しようと思います。」

「なら、あれはチャら「いえいえ。実績にさせて頂くつもりです。」」

「・・・分かったわ。言質は取ったわよ。」


 いつの間にか陛下の脇にいつもの書記官が俺たちのやり取りをメモって居た。

 この人、ブレないな・・・。


 顔を上げて「よろしく。」と言って来た女王陛下。満面の笑みだった。

 更にサムアップでこちらにアピールしてくる。「後は任せろ。」とでも言いたげなのだろう。


 俺は、最悪依頼を失敗させて先延ばしさせるのが1番だと思っていた。

 両親を引き剥がし立ち去ろうとした所でベネが言う。


「そう言えば、イッセイ君。足、いつの間に治ったの?」

「え?」


 あっ、本当だ。水晶化がきれいに消えていた。

 自分でもびっくりする位、すっかり忘れてた。

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