一部 三章 侯爵家の長女とアーティファクト

75話 2年目の春と学園の人気者ですか?

 あれから数ヶ月経ち春になりました。

 今日から学園に復帰です。


 うっかりと1年生のところに行かないようにしないと・・・。


 え? 鏡のことは金◯様に聞いたかですって?

 聞いたなら結果報告しろですって?

 えぇ、何度も会いに行きましたよ。ほぼ毎日参拝して金◯に会いに行きましたよ。


 その度に、


『只今、電波の届かない場所にいるか電源が入っていないためお繋ぎ出来ません。』


 って返答が返ってくるんですよ。

 あいつはきっと携帯か何かの電波的なやつなんでしょうね。


 まぁ、電波っていうのは否定しませんけど。

 足繁く通っていたおかげで司祭さんや従者さんなどの教会スタッフさんとは仲良くなった・・・。あいつが出てこないので必要以上に通ったお陰でもある。


 だんだんアホらしくなってきたので、最近は1週間に一回くらいの割合に減っていた。

 空いた時間は基礎トレーニングに充てていた。

 エリーと一緒に森に出かけておこなったり、リンさんとモッブさんに会いに行って彼等の依頼で食事であるモンスターを狩りに行ったりしていた。

 報酬はモッブさんが割符に入金してくれるのだ。お陰様でこの休みの間に割符が2つになりました。

 白銀の割符が一本に金の割符が一本。これらは今後の冒険者になったときの費用にするため自室にへそくりしている。

 そんなこんなで、教会に通いながら筋トレ兼バイトをしていたら春になっていたという感じだ。



 いそいそと準備を続ける。


 復学初日から遅刻するなんてありえないからね。(と言うか俺は初登校だ。)

 こう言う時、焦って曲がり角で人にぶつかれば運命の出会いがある。

 なんて思っている人が居たらゲームやマンガの見過ぎだよ。


 この世界では普通に怒られて赤っ恥かいてクラスから浮いて終了どころか、下手すると上級貴族やら皇女やらにぶつかった瞬間に投獄される可能性があるので、その辺は注意が必要だ。

 ちょっと早めに行って皆に挨拶して回る。コレのほうが現実的だしとっても大事だ。


 制服に腕を通して詰め襟を正す。

 今まで来てた服が冒険者スタイルに限りになく近かったせいかこの制服は偉い窮屈だ。首元がキツイ・・・。

 叔父さんと冒険に出かける以前は良くこう言う服を着せられていたが、冒険中に出てからはいちいちそんな格好はしていなかった。

 王都の屋敷に戻ってからもよほど大きい集まり以外はさほど着飾った格好はしていない。


 ーーコンコン。


 ドアがノックされた。


「はあい。」

「イッセイ。見てみて〜。」


 俺の部屋に入ってきたのはエリーだ。

 銀色の髪と尖った耳を携えたスタイル抜群(一部は除く)、美少女がクルクルと回ると白を基調としたセーラー服とスカートがいい感じに揺れていた。


「おぉー。エリー似合ってるよ。」

「えへへ。ありがとう。・・・イッセイもかっこいいよ。(小声)」

「えっ? なにか言った。」

「何でもない。何でもない。」


 真っ赤な顔をして手をワチャワチャと振っているエリー。

 何だ? 昨日興奮しすぎて熱でも出たか?


 こう見えてお子ちゃまな所があるのがエリーだ。

 初めての学園(学校)でハジケ過ぎなければ良いのだが・・・。

 さり気なくフォローするか。


 そう思ってジッとエリーを見つめていたがエリーは、顔を赤くしたまま俯いていた。


(イッセイがずっとこっち見てる。さっきも似合ってるって言ってくれたから。もしかして私に気があるのかな? うぅ・・・。恥ずかしくなってきた。)


「ゴホン。イッセイ様。エリンシア様。そろそろ出発のお時間です。」

「は、はひっ!?」

「分かりましたって、あれ? お姉様は一緒では無いのですか?」


 カレン姉様。3つ年上で今年10歳になる。

 姉さまは次の年から学園の選択授業は取らずシェルバルト領に戻り研究に没頭する予定らしい一応王都魔導研究所『通称:魔導図書館』からお声が掛かっていたらしいが自身の契約精霊の力を地元の領民のために使いたいんだとか、かなり立派な志だ。

 ただ、魔導図書館の連中は姉様の闇属性の精霊は謎の多い属性なので未だに諦めていないとの噂もある。一応、警護も頼んでいるが姉さまの契約している【あんしんセ◯メエ】がかなり凶悪なので必要も無いのかもな・・・。


「カレン様は既にお出になられております。本日は新入生への挨拶がありますので。」

「あっ、そうでした。」


 そして、姉さまは学園の生徒会に所属していて今年、会長になったんだった。

 人付き合いが苦手な人だった筈なのに、【あんしんセ◯メエ】のお蔭でかなり真人・・・ゲフンゲフン。立派な淑女になっている。

 そして、今ではファンクラブ的なものも出来ていた。隠れたダイヤなんて言われてるが皮肉にしか聞こえない。

 そして、確かソフィーも生徒会に入ったとか言ってたな。副会長とかやっているのだとか、流石王国の姫。やっぱりリーダーシップの勉強とかやっているんだろうか。


 学園は一部生徒による自治が認められており生徒会は自治の議会の役割をしている。会長とは小さいながらも小国の王と言う事もあり代々、王族や上位貴族と言った卒業後に国に使える人がやる事がお多いのだが、姉様は何故か抜擢されたらしい。


 噂では【あんしんセ◯メエ】が姉様を真人間に変えるため裏で手を回したという噂があるが、まぁ今が良いのなら触れなくても良いのでは無いだろうか。


「エリー。そろそろ出るよ。」

「はぁい。」


 馬車に乗り学園へと向かう。

 と言っても5分もかからない場所なので歩いて行きたい所だ。

 だが、それを以前執事長の人に言ったら。


「お家柄と我々使用人が無能だと噂されてしまいます。どうかどうか、馬車に乗ってください。」


 と、泣きながら懇願されてしまった。


 偉そうにするのも貴族の仕事なのだと言われれば従わざるをえない。

 皆に迷惑を掛けてまでわがまま言う内容でもないので仕方ない。


 なんて言う間に学園の前まで着いたりする。本当に非効率だな・・・。


 馬車の扉が開かれる。馬車係の人が手を差し出して来たので、手を取って下ろしてもらう。恥ずかしいけど男児も成人するまではこうやって降ろされるんだって。

 世間様にもそう区別させる為らしい。そんな事やってると【子供乗せてますよ】って公表しているだけの様にも聞こえるが、そもそもそんな事しなくてもバレてるらしいので拐われる子は何しても拐われるらしい。


 まず最初に俺が馬車の外に出ると学園の校舎から無数の視線を感じた。

 あっ、これ。あれだ。


「あれ。あいつ誰だっけ? あぁ、そうだ。ずっと来てなかったやつだ。」的な。確認と好機で見てくる視線のやつだ。

 歯がゆい感じもするが仕方ないよね。まさか一年経ってるなんて俺も思わなかったからさ。暫くは客寄せパンダなのは仕方ないだろう。


 俺は諦めたつもりだったのだけど、エリーが馬車を降りたことで空気が一変する。


「「「「おぉー!! 天使だ!!」」」」


 多人数による声の地響きが学園を包んだ。


「やっぱりこうなりましたか。」


 俺はエリーを見ながらつぶやいた。

 エリーは変装せずに学園に通う事を選んだ。そのため、エリーを見た生徒が騒いだのだろう。エルフのエリーの容姿は妖精そのものだ。うちのご近所さんも初めてエリーが来た頃は皆正門に張り付いて”ハァハァ”言っている奴も居たくらいだ。


 学園の校舎にも居ても何ら不思議ではない。

 どよめきと歓喜の交じった声が地響きのように聞こえてきた。


「えっ? 何? 何?」


 突然の声にビビったエリーは俺の後ろに隠れた。

 そして、その光景をみた途端に俺に向けられる視線は嫌な冷気を感じた。



 ・・・その頃、ソフィアは


 "わー"、"わー"


「え? 何? どうしたの?」


 イッセイのお姉様であり私の将来お姉さまになるカレン様お姉様・・・が外か聞こえてきた歓声に驚いていた。

 私には分かる。あの子私の敵が学園に着いたことを告げる音、聖戦が始まるのだ。


「イッセイ君が着いたんだと思います。」

「あー。エリーちゃんも一緒ってことね・・・」


 頬を掻きながら呆れた様子のカレンお姉様・・・

 イッセイ君に少しでも近づくためお姉様を生徒会に引きずり込んだ(王国パワーを使って)、おかげでお姉様からたいそう可愛がって頂いている。

 そうした私の基礎づくり(イッセイ君との婚姻のため)もあの女のせいで少し危うくなっている。


 私は負けない。

 あの子は生まれて初めて負けたくないと思った相手だ。

 どうやら相手も少なからず同じ考えのようだが、ずっと一緒に旅をしていた分彼女の方がイッセイ君に近い。

 だから、私ももっと頑張って、あの子よりも先に・・・て、て、手位は繋いでみせる。


「おい。あの外の女の子見たか? エルフだぜ。」

「初めて見たけどめっちゃ可愛いなー。」

「俺、ちょっと頑張ってみようかな。」

「俺も。」

「俺も。」

「何だよ。お前達全員ライバルかよ。」


 ちっ。もう色々と動き出しているのね。

 部屋の外では男の子が桃色な会話をしていた。

 でもむしろ好機。あの子が他の男の子にチヤホヤされて調子に乗ってくれれば、イッセイ君は私が独り占め出来る。


「ふふふふふふふふふふっ・・・。」

「・・・・・・。」


「でもさ。無理じゃね?」

「何が?」

「馬車に一緒に乗っていた男が手を引いて歩いてるの見たってよ。」


「ふっ!!?」


 男の子の会話で私の目標がガラガラと音を立てて崩れ去った様な気がした。


「!! あの・・・。ソフィア様落ち着いて。ね。」


 お姉様が私を宥めてくれている。

 あれ? おかしいな。何だか体が震えてきた・・・・。


「・・・・。」

「・・・・。」


「イッセイ君のバカー!!」


 私の中で何かが弾けた瞬間だった。

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