76話 新学期から目を付けられたのですか?

 ーーザワザワザワ・・・・


 外が一気にざわつき出した。

 恐らく入学式が終わり生徒達が教室へと移動を開始したのだろう。

 エリーは意識を外に集中させていた。


 早く着いたのは良いが俺達はある意味転入生扱いのため、生徒たちとは別室で説明を受けている。


「えぇー。ゴホン。宜しいですかな? 君たちは本来1年から進むはずなのですよ・・・。成績次第では落第もありますし、貴族の・・・・・」

「えぇ。どうぞどうぞ、先に進めてください。彼女は人族の世界に来たばかりなので、きっと外が気になるんだと思います。」

「えっ。ちがっ・・・・モガ!?」


「そういう態度が悪いと言っているのですが!」

「ハハハ、すいません。」


 エリー君の言いたいことは分かってるよ。

 色々説明してくれているこの人の話が無駄に長い。って言いたいんでしょ。

 だからこそ大人しくしてて欲しい。話がどんどんややこしくなっていくから・・・。


 こう言う場合は聞き流して終わらせるのが一番早い。

 余計な事を言うとその分何倍にもなって返ってくる。

 そう、エリーに視線でアピールしておく。念を押してね。

 この前の様な事になれば面倒だからだ。流石にエリーも理解したのか手を話しても大人しくしていた。


 訝しげに俺たちを見るメガネの叔父さん先生。俺は苦笑いで場をごまかす。


 俺達は王女殿下のお蔭で留年せずに2年目に進学できている。留学生のエリーも俺と同級生扱いのため同学年となる。

 本来の冒険の結果であれば進級どころか既に卒業クラスの実績なのだ。だがそれでは色々な問題が発生するため。

 一応、国の依頼ごとを受けて一年間留守にしていたという事実を出しているが、裏の設定では俺は山賊に拐われそれを救出しに来た王都軍に1年ぶりに助けられた事になっている。年齢と実力を考えれば、後者が普通の反応でそれを題材に一部で『不幸な辺境伯の子』と揶揄されているのも聞いているがありがたい。

 そうやってデマで惑わされてくれる人は何も気にならないからだ。


「・・・では、クラスにご案内しましょう。」

「やっと、おわ・・・たぁ~い。」


 先生が眉を顰めてこちらを向いてきた。俺は満面の笑みで返す。

 エリーのおバカ。

 最後の最後で気を緩めんじゃない。もう一回最初からになる所だったじゃないか。


 エリーが涙目でこっちを睨んでいるが無視する。自業自得だからだ。


 その後、小うるさい先生の小言をずっと聞かされながら割り振られたクラスへと足を進める。エリーと一緒でAクラスとのことだった。


 Aクラス。この学園の入試で高い成績を収めたもの、その他の功績を収めたものが選出されるようだ。簡単に言えば【勇者】の特性が強いものがこのクラスに集結していると言うことだ。

 実はあの時の試験なのだがどういう仕組みかしらないが【勇者】特性が強いものほど多くの問題が見えていたようだ。点数を稼ぐには【勇者】特性が必要になるので貴族だろうが無かろうが特性の低い子じゃそもそも入れないという事らしい。


 ソフィーもAクラスだと聞いているので会うのが楽しみだ。



 ・・・


「ここがあなた達の学び舎まなびやです。詳しくは担任の先生に聞くといいでしょう。マルス先生入っても宜しいですか?」


 既に移動を終えている生徒達は俺達の事を説明を受けているのだろう。

 初老の先生がドアをノックするとどうぞと、声が聞こえた。扉を開けると目の前には教壇が見え段々畑のような長机に大体20人位の生徒が2〜3人程度広々と使っていた。


 マルスと呼ばれた男の先生が俺達を手招きする。

 七三分けの青ひげで四角いメガネが妖しく光るその姿は、マルスと言うよりももっとこう醤油感のある名前・・・。

 例えば「山田 太郎」的な名前のほうが納得できる感じのサラリーマン風のオジサンだった。この世界にも名前負けってあるんだなと思ってしまった。


「皆、先程話した通り1年間国の仕事で席を開けていた主席のイッセイ君と留学する事になったエリンシアさんだ。2人共挨拶を。」

「初めまして。イッセイ=ル=シェルバルトです。国の仕事で学園を休学してました。僕はまだこの学園を何も知らないので色々教えてください。よろしくお願いします。」


 クラス内に拍手が起こる。異性の生徒から値踏みする様な視線を向けられ、同性からは睨む視線と舌打ちが交じっていたが。転校生みたいなものだし多少はそう言うのもあるだろうと思った。


「続いて、エリンシアさん。」

「はい。私はエルフの里より留学させて頂くことになったエリンシア=ウィンズロッドです。人族の皆様はエルフをよく思わない方もいると思いますが私を通してそう言った考えを改善していけたらと思っています。ヨロシクね。」

「うおおおおおおおお。」

「可愛いいぜえええええ。」

「きゃあああああ。なんて可愛いの。」


 凄い人気だった。先程の事もあり何となくは想像出来ていたがすごい人気だ。笑顔で照れたように手を振る姿が外行きの顔で無ければ尚良いのだが・・・。

 エリーが挨拶した際、ほぼ全員が黄色い声を出していたが1人だけ黒に近い紫色のオーラを放っていた。


 この国のお姫様であるソフィーだった。

 俺が手を振るとヒマワリのように笑顔を見せてくれるのだが、俺を覆いかぶさるようにエリーが前に出るとゾンビ系のモンスターの様な不快オーラを顔に出した。


 やれやれ・・・。


「さて、挨拶もすんだところで席だが、エリンシアさ・・・」

「はい。」

「はいはい。」

「はーい。」


 一斉に男女ともに奇声を上げながらアピールしていた。


「うーん。拉致があかないな。では、先にイッセイ君。」


 しーん。


 おい!! なんのイジメだこれ。

 泣くぞ教室の隅っこでシクシク泣いてやるぞ。


「おっ、ソフィア姫の隣か、ではイッセイ君。姫の隣に移動してください。」


 ソフィーのおかげで救われた。

 もう少しで俺の心がポッキリと折れて叔父さんを誘って2人で自分探しの旅に出るところだった。

 イソイソとソフィーの隣に進む。何人か見覚えのある顔がこちらを見ていたようだったが今はまぁいい。後でゆっくり挨拶しよう。


「ソフィー。ありがとう。もう少しで心が折れそうだったよ。」

「いえ。大丈夫です。その、イッセイ君を他の人に取られなくて良かった。(小声)」

「え? 何?」

「ななな、何でもないです。」


 長く伸びた髪を恥ずかしそうに梳くすくソフィー。

 この前はゆっくりと話も出来なかったが、何とも可愛くなったっものだ。

 そう言えば鏡も良くこうやって恥ずかしがっている時に髪を梳いてたっけ・・・。


「ちょっと。2人の世界に入らないでくれる。」


 声がしたので見上げるとエリーがいた。


「ちょっと良いですか?」

「ちょっと。何で入って来るのですか? イッセイ君とお話しているのです。邪魔しないでください。」


 ソフィーがエリーに喰って掛かっていく。

 どうしてこの2人は会う度にいがみ合うのだろうか・・・。


「良いじゃない。ここ、空いてるもの。」


 エリーはソフィーの話も聞かずに俺とエリーの間に入って来ようとする。


「ちょっと!! 空いてる所なら、あっっっっっっちの誰もいない所に行けばいいじゃない。」


 ソフィーの指をさす方向を見るとこの教室の端。誰もいない隅っこを指差す。


 あっ、あそこ使っても良かったのか、空いてるのかなら俺が行こうかな。

 コッソリと移動しようとすると。


「「イッセイ(君)どこ行くのかな?」」


 こういう時は息ぴったりな二人。


「いや・・・。空いてるなら僕が行こうかと・・・。」


 2人の視線が俺に座れと訴えかけている。

 こうなると俺は人形の様に意識の外に逃がすしか方法がない。

 学園に住む幽霊達が「大変だね。」って声を掛けてくれるのが、とっても嬉しかった。


「いい加減にしなさい!!」


 うを!?


 メガネを輝かせる山田・・じゃなかった。マルス先生が大声を挙げる。


 まぁ、怒られるよね。


 やいのやいのやり続ける2人+(何故か)俺が怒られる羽目になり。

 話し合いの結果、俺がソフィーとエリーに挟まれる形になった。



 その後、同級生の皆が若干冷たい態度を取ってくるようになったのは言うまでもない。





 ・・・???視点


「アイツ。どの面下げてこの学園に戻って来たんだ!!」


 男の子の1人が机を叩く。


「と言っても山賊に襲われて無事ってのも中々だぜ?」

「山賊に襲われたのか? かっけえーな。」


 違う男の子は興奮した男の子に諭すように話しかけ、更にもう1人の男の子はイッセイの経験した(嘘の)情報に興奮していた。


「そんなのは自業自得だろ!! 俺達は仕えるべき主を失ったんだぞ!! 我らが仕えるべきロード アレス=ラ=クロスライト様を。」

「別に失ったって訳じゃないだろ!」


 あの忌々しいシェルバルトの家の小僧のお蔭で俺達の仕えるべき公爵家のアレス様は学園を休学なさってしまったのだ。


「仕方ねえだろ。アレス様は農業開発に目覚めちまったんだから。」

「そうそう。新しい品種を作成するアレス様。かっけぇーな。」

「ぐっ。」


 そう。アレス様は謹慎で訪れた農地で農業に目覚められてしまった。

 一ヶ月の謹慎予定だったのだがアレス様はお一人で残り数年間は農地で頑張るとの事だった。


「くそう。これはアイツに一泡ふせないと。」


「止めておけ。アイツが俺達の相手する訳がないだろう。」

「その話。僕にも聞かせてくれるかな?」


「だ、誰だ!?」


 この部屋は我が主ゆかりの者しか知らない隠れ家だったがそこに見知らぬ声が聞こえてきたのだ。


「僕も君と一緒で主の敵に恨みがある者さ。」

「なんと君も奴に恨みがあるのか!?」

「おい、待て。何者だ。姿を見せろ!!」

「五月蝿い!! 俺は何者だろうと関係ない。主の敵あるシェルバルト家のアイツに復讐してやるのだ!!」


「ふーん。シェルバルトっていうのか・・・。」

「あぁ、そうだ。共に恨みを晴らそうでは無いか。」

「あぁ。良いとも僕が色々と手伝ってあげるよ。」

「おぉ。期待しているぞ。」


 奴はいつもそうだ。人の話は何も聞きやしない。

 今回だって八つ当たりもいいトコだ。アレス様はずっと公爵家のしきたりで押しつぶされそうだった。

 それを助けたきっかけを作ってくれたのがアイツ、シェルバルト家のイッセイだ。少なくても俺は彼に感謝している。

 そんな彼に復讐だと!! 俺はアレス様に連絡を取ることにした。


「悪いが俺は抜けるぜ。」


 隠れ家を後にする。

 この選択が後に明暗を分ける事になるとは、この時は全然知るよしも無かった。

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