67話 今後のプラン

 図書館に着くなりヴィルが俺に突っかかってくる。


「お前な…ギルドを作るって、そんな簡単な事じゃねぇぞ。何にせよお前はまだガキ・・だ。そんなに簡単に物事が進むと思えないぞ。……それともお前。そこのハーフエルフの事で焦ってんのか?」


 ヴィルがため息混じりに言う。なんとなくヴィルの剣先がアリシャに向かっているように感じる。俺がアリシャを見ると彼女は申し訳無さそうに俯いていた。


「知ってるよ…。僕がまだ子供だという事もギルドを立ち上げる資格もそれに見合う身分も無い。でも、僕はずっと昔から考えて いた事だよ。その事にアリシャの事は関係ない……」


 これは嘘だ。先程のアリシャの告白が完全にトリガーになった。一度こみ上げた感情は収める事が出来ず俺は気持ちを打ち明けた。

 俺がギルドの立ち上げのきっかけになったのはとある獣人との出会いがきっかけだったが、道中で出会った獣人達は僻地に追いやられ、エルフであるエリーは(わざとだけど)拐われた。

 こんな状態で数年経っても種別間の差別は無くなるどころか、酷くなれば人族以外は生きていけない。

 自分の姿を隠しながら生きていくとしても限界が来るはずだ。

 俺はそういった人達を見捨てる事は出来ない。

 そういった弱者を守るためにギルドは立ち上げたい。


 話し終えるとヴィルやエリーにアリシャ、精霊の皆が俺の話を聞いていた。

 アリシャが若干熱を持った目で見てくるのが気になったが俺はヴィルから目を逸らさない。


「……それが理由か?」


 俺の説明を黙って聞いていたヴィルはそれだけ言うと、未だに宙でプカプカ浮いている。

 俺も黙って頷く。


「イッセイぼっ、あっ……」

「大丈夫。アリシャは何も心配しなくて良いよ」


 何かを言いそうなアリシャを俺が抱きしめるとアリシャは黙った。いや、黙らせた。

 だからその熱を持った目を止めてくれ。


「でも、それなら結局何をするの?」

「エ、エリー!?」


 ツッコんできたのはエリーだ。

 アリシャが驚きながら俺から離れた。


 エリーにまともなことを言われてビックリしたが、この娘は実は頭が良いんだった。

 リリコさん達に会ってから剣にハマりすっかり脳筋になってしまっただけで教養は高かったのを忘れていた。


『ガキンチョの俺に何が出来るんだい?』


 エリーはそう言ってきたのだ。アリシャもエリーを咎めているが内申ではエリーの話に関心がある様だ。こちらをチラチラ見てくる視線から不安げでありながら期待している視線を感じた。

 俺はもう実力を隠さずに前に進むと決めたため、これまでの事やこれからの事を皆に話すことに決めた。


「エリーの言うことは合ってます。僕に出来る事は少ないですが、僕は学園を出るまではギルドの運営資金を稼ごうと思います」

「おぉ?」

「ほぅ…」


 アリシャとヴィルは食いついてきた。どうやら、俺の考えに少しは興味があるようだ。


「実は昔出来たとあるツテがありまして、その方と色々お付き合いは続けていたのですよ」


 そう言って身に着けていたペンダントを外してみんなに見せた。


「あっ、あの方ですか?」


 アリシャは気づいたようだ。


「うん。そう、あの宝石商」


 3歳の時にお忍びでこの領地ここに来たソフィーのためにアクセサリーを作った時に場所を貸してくれた宝石商だ。

 その宝石商に俺の考えて持ち込んだ宝石の加工デザイン(魔石を彫金、宝飾、加工して)を売って貰い、領地で売ってきた。

 そこそこ人気が出てきているため本格的に王都でやることにしようと思うのだ。


「こんなのを作っては宝石商に送っていたんだ」

「こ、これは………」


 手のひらに乗せた物を見せる。覗き込んできたのはアリシャだ。

 手のひらに乗っていたのは指輪だ。と、言ってもソフィーに送った様なアーティファクト的なものでは無い。それどころか冒険者が求めるようなバフすら付いてない。


「今、この領地で流行っている『アーツ』の指輪じゃないですか!! この奇抜なデザインが良いんですよね」


 アリシャの食いつきが凄い。だが、それだけによく知ってるなぁ。

 そう、この指輪はデザイン重視で金属加工のみで用意したのだ。

 印籠等のこの世界にない奇抜なデザインが受けたのをキッカケに色々と知識のあるデザインをパク…リスペクトして製品を作った。

 この世界のデザインはエジ○ト文明のデザインに似ている為、高度なデザインだったのだ。

 俺の考案したデザイン(ダイヤモンドの形(たしかブリリアン何とかカットと呼ばれる形))の模造品や、ドクロの形をしたク○ムハーツ的なデザインの物を売った。

『アーツ』と言うブランド名を付けたのも他との差別化をしたかったからだ。


 物珍しいデザインかつ簡易的に複製できる、かつ価格もさほど高い設定ではないためそこそこ裕福な一般人でも手を出せるようになった。

 お陰で当たり領地ではちょっとしたご当地土産っぽくなってきている。

 俺はデザインの著作権料、加工マニュアル費を貰うだけで結構懐が温まる状況には持ち込めた。

 既に溜まっているアニマ(この世界の通貨)は、公爵家並の豪邸がいくつか建つ程は稼いでいた。(この国の公爵家の間取りが平均でだいたい3,000㎡(約900坪)らしい)

 それを基準に換算すると俺が持っているアニマは2~3棟は建てられる程は持っている。

 俺の話を聞き終える頃には精霊の皆もアリシャも目を丸くしていた。


「おぼ・・イッセイ様。貴方はいったい何者なのですか?」


 アリシャの目は尊敬を通り越してどこか疑う目をしていた。


「僕? 僕は元異世界の人間だ」

「い、異世界? なんですそれ?」


 俺の説明に付いてこれていないアリシャ。ヴィルは無言、エリーは興味が無さそうだ。


「まぁ、アリシャには前世の記憶が残ってるって言ったほうがいいかな……」

「そ、そう…ですか。前世ですか」


 アリシャには自分の正体が『転生者』という素性はごまかすことにした。

 話に理解出来ていない以上説明も難しいし、話がややこしくなると思ったからだ。

 アリシャは納得したようなしてない様な顔をしていた。


 アリシャの事をはお構いなしにヴィルが話を進める。


「考えは分かった。で、どうするつもりだ?」

「取り敢えず学園は卒業を目指すよ。学園で人脈と情報は出来るだけ集めたい。商売の方は王都に宝石商が支店を出してくれる事になったからそこに作成した物を卸していく感じになると思う。各国にも売りたいけどそこはマイクさんを頼ろうと思う」

「まぁ、良いんじゃねーか」


 ヴィルは妥協してくれたようだ。

 アリシャはまだ固まっている。


「アリシャ。ごめん。急にこんな話に巻き込んでしまって…」


 俺がアリシャに頭を下げると、我に返った彼女は姿勢を正し俺に目を向けて頭を下げてきた。


「おやめください、イッセイ様。私もギルドを立ち上げの際にはお手伝いさせて下さい。イッセイ様が学園を出られた後はお屋敷からお暇をいただく予定でした」


 驚いた。彼女は俺が学園を卒業したら屋敷を出るつもりだったらしい。

 彼女は優秀だったのでいずれを声を掛けるつもりだったが、今のタイミングで話が出来たのは幸運だったかもしれない。


「ありがとう。必ず声を掛けるよ。今は夕食の時間に遅れる事を伝えておいて、皆が心配すると悪いから」

「かしこまりました」


 アリシャが図書室から出ていったのを確認し再度セティの力で部屋内の音を消す。

 アリシャにもここから先の話は出来ない。


「ヴィル。ここに呼んだ理由は、何かあるのか?」

「あぁ。独特の力を感じるな。イッセイこの部屋にあの神々が作った何かあるか?」


 ヴィルに言われて考えてみると、確かに魔導書があった事に気づいた。

 俺が散々読み漁って絶望や挫折を味わったあの本だ。最も精霊の皆に会えたのもあの本のおかげなので今は感謝しているが。


「ある……」


 直ぐに見覚えのある本棚周辺を探す。

 俺の記憶が正しければこの辺にあったはず……。


 記憶を頼りに本の在り処を探して行くと直ぐに見つかった。

 本棚の一部分から恐ろしく強い魔力が漏れていた。


「めっちゃアピってる!?」


 本来、神々の図書館にある筈の秘宝中の秘宝なのらしいが、相変わらず主張の強い本である。


「見つけたよ」

「……いかにもあいつ等らしい装飾だな」


 ヴィルは魔導書を見るなり悪態を付いた。

 そう言えば、ヴィルは見るの初めてだったっけ。しかし、ヴィルの言い分も分かる気がする。

 いつ見ても純度の高そうな宝石に何の革か分からないが神々しい見た目に仕上げてある魔導書だ。

 こんなものが置いてあればどこでも目立つ、そんな派手な装飾なのだが、その癖選ばれた人しか視認出来ないらしい。

 豪華にしたいのか目立たなくしたいのかよく分からない仕様である。


「とにかく開くよ」


 魔導書に手を掛けるとまるで俺の探している頁がわかっていたかのごとく自然に開けた。

 そして、そのページには"魂の音色"と書いてあった。


「何だこれ? って、うぉ!?」


 魔導書を見ていると本の中の文字が自然と重なり合っていきどんどん絵のようになっていく、ジッと見ていて飽きない。

 暫くするとそのページには七色に光るガラスのはめ込まれた虫眼鏡に近い形の絵に変わっていた。


 虫眼鏡の光を見ているとその絵に引き込まれていく様だ。


「お、おい。イッセイ!?」


 バッカスの驚いた声が聞こえてきたが気にならなかった。

 目の前で輝く虫眼鏡(魂の音色)が俺に『手に取ってくれよ。俺役に立つよ』と囁いているようだった。

 もう俺はコイツ虫眼鏡(魂の音色)しか目に入らなかった。

 その本にゆっくりと手を沈めて行くと何と掌が本に吸い込まれていく。


 なんと言うかこの時の俺には『コイツを取れる』と言う自信しかなかった。


 ・・・


 本から回収した虫眼鏡(魂の音色)を手に持ち、魔導書に残っている文書の内容を読んで見ると『手紙や装飾品など保持者の魂の魂魄が残る対象物をこの魂の音色を通して見るとその前世等が見える』と、書いてあった。


「これって、凄い魔導具じゃない?」


 俺はテンションマックスになった。

 何故ならこれを持って勇者の縁の品がある所に行けば品物から『鏡』を探せるかもしれないからだ。

 誰でもいいし、何でも良いから見れば何かしらヒントは得られるだろう。

 どうやら俺は本能的にお宝を手に入れたらしい。

 と言うかこの魔導書はどうなっているんだ? 魔法の使い方が載ってたり、精霊の呼び方が書いてあったり、魔道具が収納されてたり……。

 もはや、ダンジョンがあっても驚きもしなそうだ。

 ま、それも一興かな。ダンジョンでもドンと来い。だ!


 と、変なテンションで小踊りしていたがバッカスが本を読んで1フレーズ口にした途端固まってしまった。


「どれどれ。あぁ、続きがあるな。なになに……。【※神でもこの魔導書内から持ち出す際には私に一声掛けること。勝手に取り出したら、私の渾身の右ストレートでぶっ飛ばす!! ガブリエル】と書いてあるな」


 ガブリエル様って随分ストレート(がお好きなん)ですね…。

 その一言で固まってしまった俺を見てヴィルは言い放つ。


「あぁ……、魔導具じゃなくて魔具だな。禁書ならぬ禁止された魔導具ってやつだ」

「ど、っどどっどどど」

「どどど?」

「どうすんだよこれ!!」


 俺が虫眼鏡(魂の音色)をヴィルに向かって差し出すと、ヴィルは。


「ま、出しちまったし一発殴られるしかねーだろうなぁ。じゃなきゃその辺に捨ててこい」


 他人事にように言い放つ。


 こんな危険な物簡単に捨てられるかよ!!

 はぁ、まぁ仕方ないか。一発殴られる覚悟でいるしかない。

 ガブリエル様の右ストレートって痛そうだ。


「まっ。どの道、王都に戻るならあいつ・・・にでも聞いてみれば良いんじゃねーか?」


 あいつ……ね。

 確かに、これは金○様に相談案件だな。


 ・・・


 あっという間に1週間が経った。


 この1週間はヴィルと一緒に森の奥に出かけてはモンスターを狩っていた。冒険者でもクラス3位が入ってくる辺りだ。

 と、言うのも魔闘技を覚えてからウリエル国の森の中に居た為いまいち自分の強さが分からなかった。

 父様や街の騎士達とモンスターの討伐に行ったがみんな無言で帰ってきてからも相手されずにみんな修練場へと行ってしまった。

 皆殺気立っていたが何か変な事でもしただろうか?

 後で父様に聞いたらなんでか知らないが褒められた。

 モンスターは問題なく狩れる。そう実感できた。


 叔父さんはギルドへ生存報告に行ったり、女王様に手紙を書いたり。忙しそうだった。

 もっとも、国王が一瞬とは言え消えたのだ。普通ならもっと大騒ぎしても良いはずなのに流石は女王陛下様様だ。

 とは言え宝石商の人が挨拶に来た時には女王陛下のために色々と買い込んでいる様だったのは叔父さんの見えない努力の賜物だろう。


 エリーはアリシャとこれまでの時間を埋めるように共に過ごしていた。

 二人とも笑顔が柔らかくなった気がする。

 そう言えば、エリシードさんとエレンハイムさんに自身の生存報告と消えた姉・・・・の所存の手紙で報告をしたらしい。

 エリンシアさんから返信が届き、更には使者が来たらしいので、ほとんど屋敷から出てないんじゃなかろうか。


 それぞれが、あっという間に過ごした1週間だった。しかし、楽しい時間とは直ぐに過ぎ去るものだ。


「王様……。お迎えに上がりました」


 次の日、屋敷の前にはソフィ付きの召使いのゴドーさんが叔父さんを迎えに来ていた。

 どうやら連絡がついた時点で陛下が手配してくれたらしい。


 馬車は問答無用で屋敷の前に横付けされておりゴドーさんからも叔父さんを命に変えても連れ帰ると言われた。

 どうやら勅命だったらしい。

 俺も当然同乗させられる事になり、更にはエリーも一緒の馬車に乗る事になった。


 アッという間に帰り支度が整った。


「姉様。また今度ゆっくりお話させてください」

「エリンシア様。勿体無いお言葉です。貴女のような高貴な方に姉様等と……」

「いいえ。お姉様とは共にスケコマシと言う性獣に苦しむ仲間です。今度一緒に討伐について策を練りましょう」

「そうですね。よろしくお願いします」


 何かの暗号なのか、2人共指をカニのようにチョキチョキしながら話をしている。

 何を企んでいるのかジェスチャーで分かるのが嫌だ。話を聞いているだけで下半身に寒さを感じた。


「フフッ」

「フフフッ。お姉様行って参ります」

「エリンシアさま……エリーさん。行ってらっしゃい」


 あそこは何だかほんわかしているな。手元は物騒だけど……。

 叔父さんは何かを諦めたのか馬車の中で1人影を落としていた。外から見ると豪華な馬車なのだが、中身は囚人が何処かに送られるみたいな雰囲気になっていた。

 叔父さんを見ていたら父様と母様がこっちに来た。


「イッセイ、無理をするな。と、言ってもまぁ……、何となくお前は言うことを聞かない気がするから先に言っておく。お前は自分の道を信じて進め。この先何があっても後悔はするなよ」

「父様……」


 何だか今生の別れの様なセリフを言う父様の目はいつになく真剣だった。

 その勢いに俺は、ハイと返事をするしかなかった。


「お前にだけ押し付けるような事になって申し訳ないとは思っている。だが、お前にしかできない事でもある。父は常にお前とともにあるぞ」

「母もね」

「……父様。……母様」


 しっかりと手を握る。

 父様の手がこんなにしっかりしていると感じたのは初めてかもしれない。

 まぁ、その内王都の屋敷で普通に会うと思うんですけどね。姉上の卒業式もあるし


「出発するぞ」


 馬車が走れだすと家族は手を振り、家臣の皆は一斉に頭を下げてくれた。

 叔父さんが居るからと言うのもあるだろう。その叔父さんは窓から顔も出さずに社内をダークマターに引きずり込んでいる訳だが。


「はいよー!」

「「ヒヒヒヒイイイイン」」


 ゴドーさんの掛け声で馬車が発信する。


「皆。お元気でーーーー」


 徐々にみんなが遠くになっていく。


「いい街ね」


 エリーがそう言ってくれた。

 素直に嬉しい。



 こまめに帰ってこよう。

 そう心に決めた。

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