66話 過去の告白と概要説明

「これで良い?」

「うん。ありがとうセティ」


 取り敢えずはセティの力を借りて部屋全体に空気の幕を張る。これで室内の音は外に漏れなくなった筈だ。更に念には念を入れ、廊下に収音する魔力の石を投げておく。これで誰かがここに来ようとすればアラームが鳴るのだ。

 ここまでしておいて、バレたら其処までだな。と思いながら話を進めることにした。


「じゃあ。皆に集まって貰ったことだし話を始めようか」

「何の話?」


 精霊界から来てもらった皆は俺と向き合うように好きな所に座ってもらった。マーリーンだけは俺の膝の上って状況だが別に真面目だが重要な話でも無いので話さえ聞いてくれれば何処でもいい。

 ついでにヴィルも元の大きさに戻した。念の為にこいつにも事情を聞いておいて貰いたかったからである。


「何だよ。折角自由な時間を堪能しているっていうのに…」


 邪魔されたヴィルがめちゃくちゃ怒っていたが、ヴィルがペンダントサイズ時に何をしているのかは全くの謎であるし、一瞬だけ考えて深く考えないようした。


「俺の過去についてみんなに話しておきたいんだ」

「まぁ、お主は昔から妙に達観しておったからな。『ちょっとやそっと』じゃ驚かんよ」


 バッカスの言葉に連動する様に他の皆も頷いていた。

 どうやら普通の子には思われていなかったらしい。

 そんな風に思われていたのか……。

 それはそれで悲しい。


「……」


 ヴィルからは反応が無い。何も考えずに漂っている感じだった。特に何か話しをする気配もない皆が続きを聞きたいようだ。


「今から話すのは俺が今イッセイと名前を授かる前の話。前に居た世界の話だ」

「イッセイの前の話?」


 セティがコテンと首を捻る。話を理解出来ていない様子だった。

 唐突に俺の前に居た世界とか言われても普通は理解できないよね。

 特にこの世界では真っ当に生きた者は輪廻転生を繰り返すと言われていて、いい事をすれば精霊や人族に転生し、悪い事をするとモンスターや動物となって罪を償うのだとか。

 なので、普通に生きていれば精霊は精霊、人族は人族、獣人は獣人と同じ者になると言われている。

 この話を基礎にすると俺の話はにわかに信じられないだろう。


「そう。俺がイッセイである前の人間の話」

「と、言うのは前に生きていた記憶があるという事かの?」


 流石はバッカス理解が早い。


「そういう事だね」

「へぇ……。って、ワシらも今の姿が長いから大抵のことは知ってるがの。もしかしたらその前のイッセイとやらにもワシらは会っているかもしれんな。名前はなんと言う? やっぱり貴族か、魔導師か」

「おぉー。流石はお爺ちゃん」

「伊達に歳は取ってなーい」


 マーリーンとセティがはしゃいでいたが……。


 全く理解出来てねぇ!


 俺は肩を落とした。

 うーん。微妙に説明が難しいな。

 どうもこの世界以外っていう認識が薄いのか、ここしか世界が無いと思っている。


 その後も意見が食い違ったまま精霊の皆とすったもんだしていたら。ヴィルが叫んだ。


「おい。ビックボアども説明してやるから少し黙れ」


 ヴィルが大分お怒りの様である。

(『ビックボアども……』とは、揶揄の1つで『この猿……』って言うのと同じである)


「「「はーい」」」


 ヴィルに低姿勢な精霊の皆は直ぐに静かになった。

 ヴィルの言うことは(俺より)めっちゃ聞くんだよなぁ。ジェラシーを覚えるじゃないか。


「そうだぞ皆。ちゃんと話を聞かないとなんの話か分からないだろ」


 ん? 何だコイツ。

 何かメガネを掛けた精霊が1人紛れ込んでいた。

 七三分けでインテリっぽい眼鏡を掛けてクイクイ上に押し上げていた。


「あれ。君は誰? 初めて見る気がするけど」

「そんなのはどうでもいい。早く話の続きを話してくれ」


 俺の昔話を聞きに迷い込んだ精霊かと思い周りの皆にジェスチャーを送ってみたが、周りの皆は首を横にブンブン振って否定してきた。じゃあ誰だよコイツ。


 −−クイッ

 インテリ君が眼鏡を持ち上げ意味ありげにこちらを見た。その顔は早く話を始めろと言いたげな顔だ。


 イラッ☆


 生意気な精霊の態度に俺のおデコの青筋が光って唸りそうだった。


「何だ。僕の事を分からないのか?」


 キラリと眼鏡が妖しく光る。

 ウザっ! …正直、部外者ならお引き取り願いたい。


「あー。誰だか知らない…「僕はプロメテだ」……嘘でしょ!?」

「嘘もへったくれもあるか! 正真正銘僕はプロメテだ。いつもと変わらんだろが!」


 いつものランプの魔神でヨダレを垂らしながら白目向いて追いかけ回してるいつもの・・・・貴方から想像できない程に今は聡明そうな容姿をしている。今のプロメテは「いつも真実は1つ」とか言い出しそうなほど賢そうだ。


「何でお前、そんなに小さく……」


 いや。って言うか他の皆も幼い・・…の?

 アクアもカズハもマーリーンもセティも…。バッカスは若くなっていた。何で!?


「ふふふっ。こうすると魔力の消費をグッと抑えられるんでちゅよ」

「でちゅ!?」


 急に赤ちゃん言葉になったセティに違和感を覚える。


「おい! お前ら話を聴く気があるのか」


 やべっ。ヴィルを忘れてた。

 俺達は刀身が赤くなり始めているヴィルに謝りながら話を聞くことにした。


「……と、言う訳でイッセイは別の世界から来たって事だ」

「なるほどのう」

「えぇ。まさかイッセイが【外来種】と同じカテゴリだったとは…」


 いやいや、そこは一括にしないでくれるかな。

 アイツらは敵だからね。ね。


「しかし、そうなると何でこの世界に来たのか気になるのう」「やめて〜」

「あぁ、それなんだけど俺と一緒にその【外来種】に対抗する勇者も居るはずなんだ」「何で、セッちゃんのせいでしょ」

「……本当にいるのか? 噂すら聞かんぞ」「マーちゃんもセッちゃんもケンカしない」

「でも、もしもこれからならその勇者には戦う術があるのか。無いなら早く探さないと危険だぞ」「ねぇ。アーちゃんも止めてよ」「邪魔しないで、あたち今から炎の鳥になるの」「えぇ…。アーちゃん水の精霊だよ…」

「……だから皆に正体を教えることにしたんだ」「カズちゃん。何でそうやってイジメるのよ」「アーちゃんがアホだからじゃない」「アホって言うなアホ」「うえええええ。アーちゃんがアホって言った」「「カズちゃんとアーちゃん。うるちゃい」」


 どうやら暇になった娘達がケンカを始めたようだ。

 長い時間ほっておいたからなぁ。


「すまんが後は任せる。−−こーら。皆ケンカしない。向こうでお菓子を食べようか」

「「「「はーい」」」」


 精霊の4娘を抱きかかえイッセイはお茶を貰いに行ってしまった。


「カオスな光景じゃの」


 バッカスの言葉にヴィルとプロメテは頷いた。



 ・・・ ヴィル side ・・・


「と、言うのがここに来た経緯でその後でお前達に出会ったってわけだな」


 何故、私が説明しなければならんのだ。と、思いながらもコイツラには教えておかないと色々不味い。

 そろそろ本腰を入れて白の聖剣の後継者を探さなくてはいけないからだ。

 先程言った通り野たれ死ぬ可能性もあるし、修行も始めなければいけない。

 一応、その者にも師がつく事になるらしいのだが、あの金○の事だ。当てには出来ない。

 早目にイッセイと合流させ白の聖剣の封印を解かねばならん。


「なるほどのう。イッセイの力が何でそんなに強いのかもこれで納得したわい」


 私が話した内容で理解したのかノーム種の精霊が納得顔を見せていた。


「だが、手伝うのは良いが手がかりが足りん」


 続いてやたらとメガネをイジっているサラマンダー種の精霊が言った。


「そうじゃのせめて魔力の色とかが分かれば探しやすいんじゃが…」


 ふむ。この2人話が理解できている様だし協力的だ。


「図書室に行ってみろ」

「へっ?」

「図書室へ行けと言ったんだ。あそこに行けば何か情報が掴めるはずだ」


 私らしくないと思った。明らかに喋り過ぎだった。

 だってほら、精霊たちがポカンとした顔で私を見ている。


「いやぁ。ヴィルグランデ様。イッセイの為にありがとうございます」


 ノーム種の精霊が破顔して言った。

 バッ、別にイッセイの為とかじゃない。


「バッカス。ダメだよ。そう言うのは知らん顔してないと」

「……お前ら何を言っている?」

「いやぁ、ヴィルグランデ様。イッセイの事お気に入りでしょ?」


 ゲスい顔をしたノーム族が変な事を言い出した。


「だ、だだだ誰があんな小僧を気にいるかぁ!」


((うわぁ。そんなにムキにならなくても良いのに……))


 刀身を真っ赤にしてクネクネ動く聖剣を見てドン引きになった2人であった。


「と、とにかくこの屋敷にある図書館に行け。イッセイには魔導書を見ろと言っておけば分かる」


 −−シュン

(何で私が逃げねばならんのだ!?)


 そう独り言を言う。


「帰ってしまわれた」

「バッカスからかい過ぎだぞ……」


 急にペンダントに戻ったヴィルをどう扱うか決めかねる2人が居た。


 ・・・イッセイ side・・・


「いやぁ。悪い悪い遅くなっちゃって、てヴィル帰っちゃった?」


 お子ちゃま達を大人しくさせて戻ってきたが、既にヴィルの姿がなかった。


「え? あぁうんヴィルグランデ様なら一通り説明したから後は頼むって言って帰られたぞ」

「…何で抑揚もなく、ひと継ぎで言うんだよ」

「ははっイッセイお前の考えすぎだぞー」

「だから何でひと継ぎなんだよ」


 怪しすぎる2人を見ながらペンダントを拾うと、


「熱っつ」


 ヴィルが発熱していた。おいおい。何か無理でもしてたのか?

 心配になりマジマジと見つめると鎖の方まで熱くなってきた。


「熱っつ!」


 急いでティーカップの中に落としたら一瞬で中のお茶が無くなった。どんだけ熱いんだよ。


「イッセイ。取り敢えず図書館に行けって話だった。魔導書を見ろと仰せだったぞい」


 バッカスが教えてくれた。


「ふぅん。何かあるのかな?」


 俺達は図書室に向かう事にした。が、


「ぼっちゃま。そろそろお風呂の時間です……が」


 部屋の外でアリシャが立っていた。


「あれ、アリシャ。何故ここに? って、へっ」


 満面な笑みを浮かべたアリシャが抱きついてきた。


「いつの間にかこんなにも背が伸びたのですね」


 抱きつくアリシャの硬いお胸が俺の頭を擦る。この痛み懐かしい。

 なんて思ったら急に締め付けが厳しくなった。


「いだいいだい……」

「おほほ。久しぶりにぼっちゃまに会いましたのに、愛くるしくて絞め殺したくなりましたの」


 ゾッとする様な冷たい笑みを向けられ恐怖を覚えた。ご、ごめんなさい。


「あはははは。で、本当はどうしたの?」

「……その、お坊ちゃまに最後のご挨拶を」

「え? なんで…って」


 突然の別れの言葉に戸惑ってしまった。

 アリシャが出ていく理由が分からない。


「私がハーフエルフだからです」


 あぁ、そういう事。そんな事を気にしてるのか。


「それって、何か問題なの?」

「えっ! わ、私ハーフエルフなのですよ」

「そう。そこ。ハーフエルフだから何かあるの?」


「それは……」


 口籠るアリシャ。理由はヴィルから聞いて知っているけど、アリシャはある年齢に達すると凶暴になるとか、体の一部が変貌するとか。あっ、ぷるるんは変わらなそうだけど。


「早く図書館へ行け」


 痺れを切らしたヴィルが低く唸る。っていうかそんなに怒る事あるかぁ?


「なっ!? なんの声ですか?」


 ヴィルの声に戸惑うアリシャ。仕方がないのでアリシャを連れて図書館へ行った。


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