68話 「&≫☆#】@「(:】)「!《*;#&!!」

 久しぶりに着いた王都は相変わらずの人の多さとその賑わいで騒がしかった。


「ふふさふてひひがふたひひ、ほへひはんのひほい……ふさい(うるさくて耳が痛いし、それに何の臭い……臭い)」


 鼻を押さえて顔を顰めているエリーはテンションがダダ下がり状態である。いつもはピンと反り立っている尖った耳まで下に垂れているという徹底ぶり。

 貴女あなた王都の近くまでついさっきまでテンションMAX状態だ ったじゃない。


「前に来たことあるんじゃなかった?」


 ほら、確か貴女のお母さんが学園に来てた時さあ、君たち馬車に乗って来たじゃない。もう一年も前の話であるが……。

 そんな事を思いながらエリーに言うと返って来た返事は、


「はのとーー」「それはもう良いよ……」


 鼻を抑えて話されるのは解読が疲れるので、セティに頼んで馬車の中の空気を変えてもらった。


「あの時はここまで近づかなかったもの……」


 と、言うのがエリーの返答であった。


 なんだ、結局人族の街に来たこと無いんじゃん。


「紳士的な街だから直ぐに慣れるよ」と言うとエリーは顔をしかめっ面にして外を見る。


 彼女の視線の先を見ると、


「安いよ安いよ」「おじさん。これ幾ら?」「冷やかしなら帰んな!!」

「なんだよケチ」「まいどあり」「ざっけんなコラー」「オラ殺れ!!」


「喧嘩だー」「ケンカが始まったぞ!!」「祭りだ!!」


 いきなり目の前で殴り合いが始まった。


「へぇ。この国の紳士って結構勇猛なのね」


 ……ここは今日も元気いっぱいだ。



「でも、賑やかな街だね」


 馬車から少しだけ顔を出したエリーが外の騒がしさに改めて驚いていた。

 って、言うか王族の馬車から女性が顔を出すのは良くないと思うよ。うん。あっ、町の人達がエリーを見て内緒話してる………。

 これ、絶対女王陛下に伝わるやつだ……。


 よし、何も無かったことにしよう。

 エリーを中に入れ、窓を閉めた。


「何で閉めるの?」

「そろそろ王都の門に着くから窓は閉じとこうか。

 ……で、この辺はどこもこんな感じだよ」

「あぁ…。なるほど」

「あぁ、なるほどって?」

「……だって、王都ってエルフ狩りがあるんでしょ? だから私を隠してくれたんだよね?」


 全然違います。


 この王国であれば大通りを一人で歩いていても、好機の目で見られる事はあってもエルフ狩りに遭うことは無いだろう。最もスラム街に一人で無防備に歩いていれば分からないけどね。もしくは何処かの変態貴族に目を付けられれば攫われるかもしれないがエリーなら大丈夫だろう。


 それよりもこれはちょっとエリーに教育が必要かも、これから学園に通う以上はこの国の空気には慣れる必要があるし、あのお母さんの言うことを鵜呑みにしてる時点で色々間違っている事を知って貰おう。。。


「あのね。こんな王都のど真ん中でそんな犯罪が起きたら衛兵がすっ飛んできて捕まってしまいます。ついで言うとこの馬車は王族のものだと分かっている人であれば何もしてこないでしょう」

「そっか」

「まずは女王陛下に謁見かな……。ソフィーにも会えると思うよ」


 馬車の奥で叔父さんの体が『ビクン』と跳ねた。

 いやいや、どんだけビビってんのよ。


「そう言えば、前も出てきたけどソフィーって従姉妹の子よね?」

「まぁ、そうなるね。何で?」

「いーーーーっつも楽しそうな顔をして喋ってるなー。ってね」

「そ、そう?」


 エリーがでかい声で言ったからビックリした。

 まぁ、妹って意味ではこの娘もあんまり変わらないんだよね。

 エリーの頭を撫でると真っ赤な顔をしてそっぽを向いていた。


 エリーの頭を撫でながらソフィーの事を考える。

 そうかな? 久しぶりに会いたいな。元気かな? 

 とは思ってたけれど、それが嬉しいかと言われればまぁ普通だしね。

 従姉妹って言うよりは久しぶりに会う妹って感じだし。でも久しぶりに頭ナデナデしたいなぁ。


「やっぱり、嬉しそうじゃん……」

「ん? 何か言った」

「何にも言ってない!!」


 えぇ、なんでキレられたの?

 エリーがむくれてた理由が分からない。


「まぁ、とにかくエリーは挨拶をキッチリしてね」

「ふん。私が挨拶で失敗したことないの知ってるでしょ?」

「う、うーーーん。まぁそうだね?」

「何で疑問系なのよ」


 エリーは元王族なだけあって礼儀作法はバッチリだ。

 バッチリなんだろうけど……そもそも、挨拶してるの見たことあったっけ?


「ま、まぁ。エリーはお姫様だからね。挨拶については心配してないよ。それよりもお城での暮らしになると思うからそういう意味での挨拶はキチッとしないと駄目だよって事」

「うん。当然。で、イッセイもそこに住んでるんでしょ?」

「いいや。僕は普通にお城には住んでない。ちょっと離れてるけど屋敷があってそっちに住んでいるよ。学園で会えるって感じかな」

「じゃあ。私もそっちに行く」

「そっちってどっち?」

「イッセイのお屋敷よ」

「え? お城に住めるのに?」

「嫌よ! 人族のお城なんてストレスで死ぬに決まってる」


 ストレスで死ぬなんて、うさぎや熱帯魚じゃないんだからさ。

 ちょっぴり脳筋なエリーさんにはありえない……。


「何よ。文句でもあるの?」


 どうやら俺は顔に出やすいタイプらしい。

 とりあえず笑顔でクビを横に振ったら。平手打ちされた。


 酷い・・・。


「と、とりあえず、お城で挨拶してから考えようか……」


 右頬がジンジン痛む。


「……そろそろ王城に着きます」

「……ぴっ」


 ゴル○13の様な鋭い視線を御者席から向けてきたゴドーさんが低い声で言ってくる。

 エリーは未だにゴドーさんのキャラに慣れていないのかゴドーさんが何かを話す度に俺の背後に隠れていた。


 ・・・



 本来なら国王が凱旋したとあれば国中の貴族を呼び国民は城前に集められ祭りとなって祝う筈だが……。

 今日…。いや、今回の件は王家でも穏便に済ませたいらしい。謁見の間とは違う小さな部屋で待たされていた。

 コッチとしても変に関わらせられると肩が凝るのでこの位の扱いの方がありがたい。


 確かこの部屋はヴィルの説明の時もこの部屋だったと思い出し辺りを見渡す。

 久しぶりに見るとこんなに狭かったのかと驚いてしまう。俺もこの一年で大分育った様だ。


 ちなみに叔父さんは着いて早々にお色直しにと言ってメイドさん達に何処かへ連れて行かれた。

 あの様子だと女王陛下の所へ直行させられたのかもしれないね。


 ……何も気にしないことにしよう。

 俺は何もしてないし、何も見てなかった。うん。そういう事にしよう。



 ・・・30分ほど経過した。


 俺とエリーが通された部屋で紅茶に口をつけながら談笑して待っていると……。


 --コンコン。


 部屋のドアにノック音が聞こえたと思ったら直ぐに入り口で待機しているメイドさんが扉を開ける。

 すると、上品なドレス姿の淑女が大人の笑み黒い顔を出しながら入ってきた。

 俺は立ち上がるとその場に片膝を付いて頭を下げる。

 エリーもワンテンポ遅れて俺と同じ格好になる。


「イッセイくん。久しぶりだね」

「お久しぶりです。女王陛下」

「久しぶりね。そちらのお嬢さんがエレハイム姫殿下ね」

「お初にお目にかかります。女王陛下。世界樹の守護者にして森の民であるエレハイム=ウィンズロッドです」

「丁寧な挨拶ありがとう。さっ、固い挨拶はここまでにして楽に話しましょ。冒険譚が聞きたいわ」


 ソフィア様がそう言い終わると先に席に座る。俺達はそれを見てから席に戻った。

 ドレス姿のソフィア様を見ると何ていうか……、風呂上がりの様な妙な艶っぽい空気を纏っている。

 人にこんな姿を見せる人だっただろうか?

 頭の中の記憶を探っているとエリーが肘の辺りを引っ張っていた。

 耳を傾けるとヒソヒソと話をしてくる。


「女王様って随分綺麗な方だね」

「う、う~ん」


 エリーの答えに俺は曖昧な返事しか返せない。

 だって、この人公務で人前に出る時はきっちりしてる人だと記憶していたのだが……。


 首を傾げていると入り口付近に枯れ木みたいにカッサカサになった叔父さんがチラッと見えた。

 直ぐに誰かに引っ張られて扉から消えて行ったけど……。まぁ、そういう事(精気を吸われた訳)ね。


 それより、陛下って以前会った時よりちょっと老け…


「イッセイくーん? 私に何か付いてる?」


 もの凄いプレッシャー殺気だ。今まで受けた中でで一番キツイ。

 吹き飛ばされそうになってしまうが、女王様から目をそらす息を飲む。


「女王陛下。先に行かんでください。探すのにどれだけ時間が掛かったか……って、おぉーイッセイ君か!? 久しぶりだな」

「お、お久しぶりです」


 未だ笑顔の仮面を貼り付け凄いプレッシャーでコチラを凝視してくる女王陛下。もう見ないようにしよう。


 俺を窮地から救ってくれたのはこの国の宰相のアレックス様だ。年中疲れている人で今日も疲れている。


 2人揃ったので先にお詫びしよう。


「女王陛下。宰相様。長らく留守にしていて申し訳ありませんでした」


 席を立ち貴族礼でお辞儀する。


「別にイッセイ君のせいじゃ無いでしょ」


 陛下が俺を制す。

 確かに直接は関係ないけどここまでの話になったのに色々あったからね。知ってて貰わないといけない話が沢山あるし、目配せで人払いを頼むと宰相がメイドさん達を部屋の外に出した。


 時系列で話をしていく。

 そんな中でも一際濃く話したのが、


 地底の国の冒険者が操られて世界樹がおかしくなっていたこと。

 そして、【外来種】の情報と外来種が新たなモンスターを創造していた事。

 この2点は慎重に話をした。

 500年前の災厄にして脅威である【外来種】が、エルフの聖域である世界樹で新種のモンスターを開発していたのである。

 更には王家の墓にあった魔法陣が稼働・・していた事実。

 これは外来種の驚異が去っていなかった事に直結した。


「幸い僕の手で排除……致しましたので、世界樹に不幸は広がらないでしょう」

「そうか……」


 女王陛下は何かを考える様にだまり。

 宰相が汗を拭きながら言葉を詰まらせていた。

 俺も初めて殺したを思い出す。

 場の空気が一気に重くなった。


「イッセイ=ル=シェルバルト!!」


 甲高い声に俺は背筋を伸ばしその場で起立してしまう。

 目の前には真剣な顔をした陛下がいた。


「イッセイ=ル=シェルバルト!! 貴様に準男爵の爵位を与える」


 よく通る陛下の声が『ビリビリ』と部屋の中に伝わる。

 俺は直ぐにその場に跪く。


 突然の事で驚いたが俺が上げた功績が高かったという評価の形でもある。

 別に欲しかった訳では無いが、


「奴隷の町の開放に他種族であり我が国の同盟でもあるエルフの里の救出、それから世界共通の敵である外来種を討ったその功績だ」


 陛下はお優しい。俺が初めて人を殺めた事を功績として良い方に考え方を変えようとしてくれている。

 俺は跪きながら陛下の優しさを噛み締めていた。


「謹んでお受けいたします」


 頭を下げたまま返事を返す。

 本来なら肩を剣で叩き陛下から受け取る事で儀式は完成するのだが、今回は肩を叩かれた。


「顔を上げていいよ。今回は略式的にやったけど、宰相が記録を取っているから追って爵位をあげるね。色々ありがとう……辛かったね」


 普通(OFFモード)の顔になった陛下が話しかけてきた。そして、抱きしめられた。

 母様と同じ優しさを感じる。と、思ったら耳打ちしてきた。


「(成人したら子爵をあげるけど、今はまだ子供だからね。準男爵で我慢してね)」

「(陛下、僕は身分は……)」

「(いやね、身分が低いままだと娘はあげられ……ゲフンゲフン)」

「(はい?)」

「(なんでも無い。気にしない、気にしない)」


 何の話だ?

 取り敢えず陛下は気にするなって言うのでそういう事にする。

 そして、陛下は先程座っていた位置に戻ると、


「実はイッセイ君とエレハイム姫をここに呼んだのは2人に会いたがっている者が居たからなんだよね」


 陛下が『パンパン』と手を叩くと部屋に入ってきたのはソフィだった。

 ほぼ、1年会っていなかったのに随分と女の子らしく綺麗になって……。


 妹の成長を楽しむ様な気持ちだった。


「イ、イッセイくん……久しぶり」

「ソフィア姫、お久しぶりです。長い間留守にして申し訳ございません」


 席を立ち丁寧にお辞儀をする。

 貴族礼は形式的要素が多いが相手に対して誠意ある行動の象徴としても扱われるケースが多い。

 ある程度知人で今回の様な非公式な挨拶の場では陛下や宰相などの爵位持ち・・・・相手でなければこの様な形式ばった行動は『他人行儀』と取られる事もあるだろう。

 しかし、俺にとってはかつてソフィーと交わした【入学式に一緒に出る約束】を破ったケジメでもあるため貴族礼を行ったのだ。

 目を潤ませて俺に近づいてくるソフィ。そして、そのまま俺に抱き着いた。


「もう黙って居なくならないで……」


 えんえんと泣き出したソフィーの背中を抱きしめて撫でる。よしよし寂しかったね。(主に俺のせいだけど)


「ごめん……ソフィー。ただいーーーーーってぇ!?」


 謝ろうとしたら背中を思いっきりつねられた。

 ソフィーそんな事する子じゃ無いでしょって思っていたらつねったのはエリーだった。


 お前。わざとだろ?

 俺が素直に謝るってるの邪魔するなよ。


「あっ、ごめん」


 エリーが舌を出しながら謝ってきた。こいつ……。


 ゴメンじゃないでしょ。その顔、明らかにわざとでしょ。

 っていうかいつの間に後ろに居たの?


「エリー。なんでこんな事するのかな?」

「だって、ここに来てから全然私にかまってくれないんだもん」


 あー、うん。

 まぁ、確かに報告やら外来種の件で全然そっちにかまって居られなかったのは事実だね。


 でも、君の為でもあるんだよ。


「悪かったよ、エリー。いい子だからもうちょっと待っててくれる」


 そう思いつつも、ほっといた事実もあるので俺はエリーの頭を撫でた。


「むふふ」


 エリーが気持ち良さそうに目を細め俺の背中に抱きついてきた。


 何で!? 空気読んでくれる?



「ほぅ……」

「なかなかにやり手ですな」


 じっとりとした視線を感じたので見ると俺達を大人の2人はニマニマとベタつく笑みで見ていた。


 ……なんすか?


 ーーいい加減離れなさいと押し返すがエリーは離れない。

 むしろ嬉しそうに抱きついてくる。

 エリーの引き剥がしをしていたら後ろから凄い闘気を感じた。いや、闘気にしてはトゲトゲとしたオーラだ。


 殺気とは違い単純な恐怖が俺の背中にブスブスと刺さっている。

 なんと、ソフィーが発している闘気の様だ。って、ソフィーってこんなに強かったっけ?

 ソフィーの闘気はエリーにも効いたみたいで彼女の動きが止まっていた。

 そして、ソフィーが俺とエリーの間に割って入るとーー


「折角の私とイッセイ君との感動的な再会のシーンを邪魔しないでください?」


 そう言った。

 どちらかと言うと受け身だった筈の彼女から出た発言に俺は戸惑った。


 エリーも戸惑うかと思ったがこっちの方は喧嘩を売られたと思ったのか、目を座らせるとソフィーを見てーー


「えー。だって、あなた達ただ・・の従姉妹でしょ。だったらさっきので良くない? 後は恋人・・の私とのじ か ん」


 等とソフィーを煽り始めた。

 誰が恋人じゃいっと突っ込みたかったがソフィーは直ぐにエリーに食ってかかった。


「誰が淫乱なエルフと恋人なんかになりますか?」

「いやーん。イッセイこの子怖い〜」


 俺はお前が怖いよと言いたかったが、エリーがさり気なく俺に抱きついてきた。

 それによりソフィーの闘気が先程より1.5割増位濃くなった。


「ほほーぅ、やるなぁ。イッセイ君」

「えぇ、若さですかな」


 おいこら大人達。茶を飲んでる場合じゃないぞ。

 この二人止めないと危けーー



 ブチッ。



 あっ、何か聞いちゃいけない音が聞こえた気がする。


「&≫☆#】@「(:】)「!《*;#&!!」


 パンツのゴムが切れたような音がした後、ソフィがフォールアウ○のハッキング暗号みたいな事を言い出し、エリーに向かって突進していった。

 フォール○ウト? ヒャハーな世界を青のツナギを着た冷凍人間が駆け巡るゲームだよ!


 ビュッ……


 なかなか早い速度で動くソフィー。既にエリー目掛けて2、3歩の所まで殴りかかりに行っている。


 この動きは魔闘技だ。


 独特の魔力の流れと動きをするこの技を見間違える筈がない。

 どうやら優秀な師に習っているようだ。何故ならこの技は、独学で学べるほど易い技ではないし、心なしか俺達よりも動きが滑らかだ。


 完全に油断していたエリーは対処が出来ずに、


 ーーバチン


 ソフィーの平手打ちを食らっていた。


「っ!?」


 よろけるエリー。

 そして興奮冷めやまぬソフィーはマシン語を話す。


「』(・"@*「≫!“』【)=¡@≫」

「何ーー言ってんのか分かんないのよ!!」


 すかさずエリーが平手打ちで反撃。

 完全な女の子2人のケンカに突入。


 ただ、普通じゃないのは女の子二人がお互い魔闘技を使っている点と、大の大人が二人でお茶を飲みながら観戦している点だ。


 いや、メイドさんも新しいお茶を注いでる場合じゃないでしょう……。


 しかし、女の子同士の喧嘩がこんなに激しいと思わなかった……。

 平手の応酬は当たり前、髪を引っ張りあったりケンカキックが普通に決まってたりとロープとコーナーがあれば某格闘技に見える戦いだった。


「イッセイくん。こっちこっち」


 陛下に手招きされたので直ぐに駆け寄る。

 心なしか嬉しそうな表情をしておりこれは完全に止める気ゼロである。と、確証した。


「良いんですか? 放っておいて」

「良いのよ。姫だからって自分が動かないと何も手に入らないって分かると思うから。まぁ、それなりに努力はしている様なんだけどね(この鈍感くんを落とすためにね……)」

「はい?」

「あ、いや。何も言ってないよ。それよりもこの決闘は止めてはいけないわ」

「け、決闘!?」


 陛下に喧嘩を止めるつもりが無いのは知ってたけどまさか決闘にまで発展しているとは……。恐るべし女性の喧嘩。


 肩で息をしている二人を見てイッセイは何となく美しい光景を目にしているようだった。

 前もって断らせて頂くならイッセイは特に特殊な性癖を持ち合わせている訳ではない。

 単純に目の前で本能のままに戦う姿に感動を覚えていただけだった。

 実力で言えば荒削りで無駄が多い二人だが心を打つある種カリスマ性的なものを感じていた。


「ソフィ…ア姫様は随分と力を付けたようですね。見違えました」

「クスクス。公式な場で無ければソフィーで良いわ。むしろあの子もそう呼ばれたほうが喜ぶと思うしーー

 しかし、親バカな面も差し引いてもあの子は頑張った。君に置いていかれたのがよっぽど堪えたのね」

「そこは深く反省しております……」


 なし崩しに始まった旅だったがそれなりに楽しんでいる自分がいた事に気付き反省する。

 しかし、陛下は慌てたようにーー


「勘違いしないでくれるイッセイ君。君があの時、あの場に居てくれなかったらと思うと今でも冷や汗が出るのよ。あのまま攫われて殺害…ううん、強姦でもされた時点で戦争になってた可能性もあるの。

 タイミングが悪かったソフィアにはそう話したわ。今のままの貴女では足手まとい。だから彼の旅に参加するタイミングを逃したと……」



 ・・・ 女王side ・・・


 私は、ソフィアのイッセイ君に対する依存率が日に日に増している事に懸念を抱いていた。

 今はまだ子供だから良いのだがこのまま成長していくとイッセイ君無しでは生きられないダメな子になってしまう。そう考えていた。

 モチロン、イッセイ君がソフィアを選んでくれるなら後は何とでもなるし、なんとでもするつもりだ。

 寧ろ彼がソフィアとこの国に残ってくれるならこの国は安泰だ。あの子と共に大きくしてくれるだろう。


 しかし、選ばれなかった時はどうなる?

 あの子は良くて廃人。最悪自分で命を絶つだろう。


 しかし、あの子(イッセイ)は紛れもなく英雄だ。これから先は、世界の物事にもっと多く関わっていくだろう。

 そうなれば、諸外国どころか国という国は自ずとイッセイ君を繋ぎ止めようとしてくる筈だ。出会いの機会は増えるし、より能力の高い人が彼にあてがわれるだろう。


 こんな頭にお花畑が広がっている子で大丈夫か?


 私は不安でいっぱいだったのだが、、、

 そんな時に王都で攫われた・・・・エルフ族の王妃救出の情報が入ってきた。

 これまた頭を痛めていた案件だったが、たまたま・・・・その場に居合わせたイッセイ君とダンナ(王)がが助けた様だった。

 そして、そのままエルフの里付近まで送り届けるという話だった。


 私はコレだと思った。


「ははぁ、ソフィーの想い人は旅に出てるのですか」

「……何でそうなるのかしら? ーーまぁ良いわ。今はそういう事にしててあげる。……でも、ソフィにも喧嘩出来る友達がやっと出来たか」

「……ありがとうございます」


 イッセイ君の表情を見て察した。彼は何か隠していると……。これで今後どうなるかは神のみぞ知る事になったわね。あなた達の頑張り次第よ。


 目の前の愛娘と他国のお姫様で愛娘の友達に優しい笑みを向けた。



 ・・・ イッセイ side ・・・



 妙にグイグイ来るなとは思ったけど、俺が意図的にソフィーの好意を避けているのは気付いた様で何となくこの話題からは遠ざかって行った。


 気まずい空気が漂っていたが、二人は元気に喧嘩を続けていた。

 手を組みあってスクラムを組んで牽制しあっている。

 美少女二人が揃えば何をしても美しいと言われていた(悪友カズヤ談)が目の前の二人はそんなに美しい光景でも無い。


「;!&・="#*)☆”*#="+≫」

「』&》『@&*!》≫”&》・』・¡!#≫」



 二人ともまともに会話も出来ていない。

 しかし、陛下は嬉しそうに笑っていた。



「さて、陛下。そろそろお見えになるのでは?」

「あっ、うん。そうね、そろそろね」


 うん? 誰か来るのか。

 陛下と宰相の二人が何やら慌ただしく用意を始めたと思ったら。部屋の外が段々と騒がしくなってきた。


「………!!」「……!!」

「……じゃろ!」「ですから、一度見てください」

「ふん。良いじゃろ」


 バタン。


 いきなり扉を豪快に開けられたが、既に外で大声を張り上げていらした・・・・ので驚きもしなかった。


「ほぉー。ワシが来るから体を温めておったんかのう?」

「いや……、何も言ってないので普通に会談してるだけだと思いますーーーーって、うぉ? 何だ! ソフィア。エリー。何で喧嘩なんかしてるんだ?」


 レオ叔父さんと見知らぬ女性の声がした。

 そして、女性からは何も言えなくなるほどの圧を受ける。


 何だこのプレッシャーは……。


 どうやらプレッシャーは俺だけではなく喧嘩していた二人にも放っていた様で喧嘩する2人もピタリと手を止めた。

 俺も振り返り叔父さんを見ると固まってしまった。

 正直、プレッシャーを放つ女性より叔父さんの顔(主に下の部分)に目が行った。


「おいおい。何だよお前達。人を変な目で見て?」

「いや。って言うか……」

「先程お会いしたお父様ってこうもっと野生的と言うか……」

「そうかな? 随分さっぱりしてワシは気分が良いんだがな。」


 某魔法使いの世界のハーグリ○トみたいな熊から人になれば皆驚きもするだろう。もっとも俺はその青髭がーー


「ホ○っぽいんじゃよ。その青髭が……」


 女性(と言っても結構なお年の様だ)が俺と同じ意見を持っていた。叔父さん申し訳ないけど……保毛田○毛男みたい。


 そんな女性にフルボッコにされた叔父さんは、ショックで壁にもたれかかってシクシク泣いていた。


「師匠……」

「ソフィア。やるじゃないか、そんだけ戦えれば取りあえずは合格だな。それにーーーー」


 お婆さんがクルクルと回転しながらコチラに飛んできた。


 シュタッーー


 軽快に地面に着地した婆さんを見ると、その姿は頭にお団子が2つ乗っていて赤色の胴長服に刺繍があしらわれてる服を着ていた。

 袖の中に手を通してソフィーに一礼すると、俺とエリーに向かって顔を上げた。


「お前達のその技は『魔闘技』だな?」


 ズアァァァァァーーー


「ぐっ……」


 とてつもない気を当てられた。俺は顔が歪んだがエリーが苦痛に耐えられずその場に崩れ落ちる。

 抱き上げるとエリーは気絶していた。


「ほほぉ~。貴様はなかなかやるな、気絶した子も失禁するかと思ったが気絶するだけか」

「…あ、貴女は…何……者です……か?」


 すごい気だ今目の前に居るのがやっとで動くことも出来ない。

 下手すれば気を失いそうだ。


「師匠。もうその辺で許してあげてください」

「かかか。ソフィアがそう言うなら良いだろう」


 プレッシャーを緩められた瞬間、気を抜いた俺はその場に崩れ落ちた。

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