63話 伝説の防具?

「エリー」

「ん?」

「こっちに来い。だって」

「了解」

「それは…、置いてきて」


 室内を物色していたエリーと一緒に店の奥に入る。

 怪しく高そうな金ピカの兜とか持ってたから早めに気がそらせたのは大きい。未練がましい顔は止めてぇ〜。


 のれんを潜り奥の部屋まで行くと別世界だった。

 今までいた部屋と同じくらいの広さだったが、飾られている物は表の物とは比べて段違いだった。


「この中から好きな物を持っていくといい」


 オラクルさんはそう言うとカウンターの向こう側で腰掛けた。その目は今までの胡散臭いオーラと違い俺を品定めしている様に感じた。

 妙な雰囲気に若干飲まれつつも室内を物色していく。すると、赤い宝石から削り出されたダガーや黒いオーラが吹き出す鎧など魔道具が並んでいる。驚いた俺がオラクルさんを見ると薄笑いが帰ってきた。絶対に普通の方法で手に入ったと思えない笑みだった。

 ここにあるのは、表に飾ってある武具より明らかに高級の武具が数多く陳列されていたからだ。


「ここは…」

「まぁ、ワシのコレクションとも言える品々だ。中にはワシが打った物もあるんだが」


 オラクルさんは、ケケケッと笑いながら俺の言葉に反応していた。打ったと言っていたが魔剣や魔防具達だぞ、ホビット族でここまでの名工が居たとは…


「私には扱えるものが無いみたい」


 ガックリと肩を落とすエリーが部屋を一周して戻ってきた。


「嬢ちゃん。あんたエルフだよな」

「えぇ。そうよ…」


 オラクルさんの質問にエリーが警戒した。

 また、奴隷と言われるのを警戒しているのだろう。

 しかし、オラクルさんの反応は違った。


「そんなに警戒しなさんな。別に人族と一緒にいたって驚きやしないさ……ふーん、軽剣使いレイピアか。ウチじゃ今物はねえな」

「…そっか」


 オラクルさんはエリーを少し見ただけで使っている武器を当てた。腰に武器を携えていないにも関わらずだ。

 オラクルさんの言葉にあっさりと納得するエリー。

 この子、戦い関連の事になると妙に素直なんだよなぁ。


 逆に俺は、この人について警戒心を高めてしまった。


「ケケケッ。そう警戒しなさんな。別に事前に調べた敵とかじゃーねーよ。姿勢とか体さばきとかを見ればある程度適正な武器が分かるとかだけだ」


 俗に言うブラックスミスって奴か?

 相手の体をや特徴を見て武器防具を作るっていう。


「嬢ちゃんなんて普通だよ。問題はお前さんは、面白い戦い方をする奴だな。近距離大好きって感じの筋肉の割に遠距離物理なんて聞いたことがねえ。変な筋肉の付き方をしてやがる」


 うぅーむ…。オラクルさんに言われるとまずい気がしてきた。


「ま、今後良い師匠でも付けば直して貰えるだろう。それよりもお前さんにはコイツを試してほしいんだ」


 ゴソゴソと荷物箱を漁るオラクルさん。箱から取り出したのは、金属で出来た中身の無いチョココロネのような形をした物体だった。


「ほらよ」

「うぉ!?」


 オラクルさんがポイッと投げてよこした物は意外と重く、受け取った時に前につんのめった。


「おいおい。大丈夫か? まぁ、そいつは俺が若い頃に作ったもんだが使いこなせる奴が居なくてなぁ……。でも、お前さんから他とは違うオーラを感じたんだ、だから一度試してほしいんだ」


 オラクルさんの顔が妙に真剣だったので、断り辛かった。


「ま、まぁ。試すだけでしたら……」

「よし!! まずはお前さんの利き腕じゃない方にそいつをはめてみな」


 着ているコートを脱いで、言われたとおりに左腕を入れてみる。


 ガチャン。


 腕を入れた瞬間、ロックがかかった様な鈍い音がする。

 左手がドリルみたいな感じになった。チョココロネに食われてるみたいとも言えなくない。


 えっ、マジか!?


 急いで外そうにも硬く固定されて取れない。

 魔闘技を使っても一向に取れる気配が無く。


「そんな事しても取れねーぜ」


 オラクルさんが笑いながら言ってきた。呪いのアイテムかよ!!

 嵌められたと思ったが、死ぬ程魔力を吸われるでもなく、俺の腕を潰そうとしてる気配もない。どちらかと言うと俺の魔力と混ざり慣れようとしている気配も感じた。


「イッセイ!!」


 駆け寄ってくるエリー。

 オラクルさんが、エリーの目の前に剣を出し地面に突き刺した。


 いつの間に出したんだ?

 エリーも同じ事を思っていた筈だ。冷や汗を掻きながら固まっているし。


「…お嬢ちゃん。もうちょっと待ってな」


 オラクルさんがそう言うと俺の腕に巻き付いていたチョココロネが無視の繭のような形になった。


 ………なんだこの状況。


「おぉ。やっぱり俺の目に狂いは無かった」


 この状況でオラクルさんだけが嬉しそうだった。

 状況が掴めない俺はどうする事も出来なかったし、エリーも動けずじまいだった。


「坊主の思うままに防具を考えてみな」


 オラクルさんが意味深な笑みを浮かべて俺を見てきた。

 そう言われて咄嗟に思い浮かんだのは、『小手』だった。何で? って自分でも思ったが、そう思った瞬間には左腕の繭が動き、モノの数秒で『小手』に変わった。


「ふほーん。…なかなか珍しい形になったな。見た事が無い形だ。因みにそいつは持ち主の潜在意識を汲み取って自在に形を変えるんだ。針を想像すれば尖るし、鎧を想像すれば全身に纏える。試しに盾の形を想像してみな」


 オラクルさんの言うとおり盾を想像してみる。

 盾が欲しい。タワーシールド並にデカイやつ。


 思った瞬間に小手が形を変える。

 あっという間に広がって畳2枚分並みに大きくなった。


「うぉ! マジか」


 俺は物凄く興奮してしまった。

 だって、考えてみてくれよ。これで、○トの盾とかイ○ジスの盾とか何でも作れるんだぜ。


「さて、嬢ちゃん。こいつでその盾を斬ってみな」


 俺が興奮している間にオラクルさんは、エリーの目の前に刺した剣を渡し襲いかかることをけしかけていた。


「これ、ミスリルの剣?」

「そっ、昔手に入れた剣だけどあんまり面白くないんでな試し斬り用にしか使ってねえんだ」

「え…。これ、結構な名刀…」

「良いから坊主を斬るつもりでやっちまえ。アイツを倒せたらその剣は嬢ちゃんにやるよ」


 何やら物騒な言葉が聞こえてきた。

 って、コラコラ。エリー目が本気だぞ。


 しかし、正直言うとこの防具がやられる気配が無い。

 何でか知らないがそういう自信があった。

 タワーシールドから○トの盾に形を変えて構える。


 くはぁ…。このブルーメタルの色といい。鳥の絵柄といいなんてかっけーんだ。この盾の重さを伝説の勇者は持っていたって事か(注:想像です)


「坊主。集中しねーと死ぬぞ!」


 ーーシュッ。


 エリーの剣筋は迷いもなく鋭く、俺が構えていた盾を斬った。


 ーーカランカラン……。


 袈裟斬りされたため斜めに斬れた盾の破片が地面に落ちる。あぁ、折角の○トの盾が…。


「坊主。その防具はお前のイメージの強さがそのまま強さになる。嬢ちゃんの攻撃より思いが弱いからやられたんだ」

「クッ、僕の信じる○トの盾はこんなに弱くなーい!」


 俺が叫ぶと構えた盾が輝き出した。



 ・・・ ナンナ Side ・・・


 ーーガシャーン。ガラガラガラ・・・


 奥の部屋で大きな物音がした。


「おい。大丈夫かって、何じゃこりゃ!?」


 アトラ爺さんがジジイと思えない動きで奥の部屋を覗きに行ったので、私も後を付け中を覗く。

 すると綺麗に陳列されていた高そうな商品・・・・・・は、ガラガラと音を立てて床に落ちており。部屋の中は激しい何かに襲撃された様に悲惨な状態になっていた。

 そして、何故か床に身を隠すようにしている護衛対象のガキンチョが居た。


「おい。何があった。敵か? 敵じゃな。爺ちゃんが倒しちゃるけーの」

「いやっ、あの。わざとじゃないんです」

「何、それが敵の名か!!」


 何だか話が噛み合ってない。


 しっかし、物騒だね。こんなに高価な物が地面に散乱しちゃって、無くなっちゃうよ…。


 ………。


 …あのホビットのオッサンも居ないので1個拝借してもバレないか?


 その辺にあった魔道具っぽいのに手を掛けると。


「10万アニマだ」

「ギニャアアアアアアア!!」


 いきなり話しかけられて焦る私。

 猫はビックリすると寿命が縮まるんだよ!!


 ・・・ イッセイ Side ・・・


 やっちまった…。


 目の前に散乱する品物類。えぐれた地面等を見てヤバいと思った。


「なんの音じゃ!?」


 アトラ爺さんが部屋に入ってきてあれこれ言ってきたが、俺は身を隠すようにするしか無かった。


「なんじゃ。この惨劇は、何か失敗したんか?」

「いいや、失敗などしてないそれどころか大成功だ。これでやっと俺の。いやコイツの悲願が達成されるかもしれん」


 オラクルさんは興奮した顔で俺を見てきた。



 ・・・


「そいつは俺が打った武具で真ミスリル金属で出来ている。使い方はさっきの様な感じさ。願った形にそいつが変化する。その分、お前さんから魔力を貰うがな。で、お前さんは付与を使えたりするかい?」

「一通りの属性なら」


 精霊の力を借りれば何の問題も無い。

 崩れた品物の下敷きになり気絶していたエリーを寝かせるとオラクルさんの質問に答える。


「それならば話は早い。その小手には付与出来るんだ。と、言っても特殊でな、その形腕に付いている形に戻ると付与は解除される」

「え? それって」


 付与し直しっていうのは面倒に聞こえるが、逆に言ったら。毎回付与を変えられるって事だ。

 それって強すぎないか。


「クククッ。その顔だと気付いたか? 付与はしたままの方が良いとされているがそれは間違いだ」

「まさにそのとおりだと思います」


 流石はブラックスミスである付与に関する懸念事項をしっかり捉えていた。

 オラクルさんは話を続ける。


「付与した物は消耗品に変わる」


 これは基本中の基本。ブロードソードで例えれば普通の剣でも消耗品は消耗品だが、鍛え直したりメンテナンスをしっかり行えば折れるまではずっと使える。だが、属性を付与したブロードソードは魔剣扱いとなり付与された魔力が剣から消えると本体も炭となって消えてしまうのだ。

 俺は、知っているとばかりに首を縦に振った。

 そして、その話の先のある、ある過程を口にする。


「…まさか、戻る度に全修復しているのですか?」

「おっ、そこに気づくとはなかなかだな。そうだ。そいつが主と認めた相手が生きている限り一番最初にイメージした形が原形となる。そして、その原型を特異点として記憶し後はいくら加工しても原型に戻る際時間も戻してるんだ」


 なんちゅう物を…


 オラクルさんは笑いながら話を続ける。


「ま、その為には特殊な魔力が必要で今までの奴はコイツの起動すらさせたことがない。たった一人の奴を除いてな……」


 そう言うとオラクルさんはタバコに火を付け深く吸った。

 ゆっくりと吐き出した煙は天井で薄い靄になって消えていった。


「??? 誰なんです。僕以外に使えた人って」

「あぁ…、そうだな。ソイツを使っていたのは黒い聖剣を持つ女だ」


 え? 誰それメチャクチャ気になる。

 オラクルさんの切り出した話は聞いた事のない勇者の話だった。


 黒い聖剣を持つ勇者ねぇ……。


 一瞬ヴィルが頭によぎった。アイツは自分を聖剣だと呼んでいるしね。


 神話では、4つの神獣を仕え、神々の地を渡り歩き神の力を分けてもらい後に『白の聖剣』と呼ばれる剣を持って外来種を打ち倒した。その子は白の勇者と呼ばれ各王国建国のシンボルになった。

 これがこの世界における神話だ。


「まぁな。勇者召喚された日、実はこの世界に来たのは2人だったからな…」


 と、オラクルさんの話によると500年前の対戦で外来種からこの地を守るため勇者が召喚されたのは、一人では無かった。・・・・・・・・・


 …って、ちょっと待て。なんでこの人そんな事知ってるんだ?


 怪しい男。オラクルさんをチラリと見ると、妙に貫禄のあるホビットがタバコを吸い時間をかけながら吐き出し、ぼんやりと天井を眺めるオラクルさん。

 その行動はまるでその時を思い出そうとしている様だった。


「ま、その勇者が使った物だ有名じゃねぇが効果は保証するぜ」


 オラクルさんは歯を見せながら笑った。…って、終わり?


 そこで終わったら気になるじゃん!!

 続きが気になるって顔をしていたが、恐らくこれ以上は何を聞いても教えてくれないだろう。そんな気だけはした。


 何れにしても頼れる防具を手に入れた。


「ありがとうございます。探していた物が手に入りました。で、お支払額は?」


 こんな良いもの相当高いだろうが素材全部置いて行っても欲しい。最悪、マイクさんが超おすすめだった変な玉っころも置いていこう。


 鼻息を荒らし意地でも持ち替える気分だった俺は、次の瞬間気が抜けた。


「タダでいい」


「はぇ?」

「まぁ、あまりにも特殊な魔力じゃないと反応しないんで、今まで誰も使えなかった代物だぢな」

「でも、僕が魔力を持ってる話なんて…」

「だから言っただろ。俺には視えるんだ」


 オラクルさんの目がくすんだ金色の様に光っていた。

 その瞳は深淵の様な深さがあり、目を離せなくなる色をしていた。


「その目は…」

「魔眼だ。…で話を戻すが俺の悲願はその防具に死に場所を作ってやってほしいんだ」


 オラクルさんは物騒な事を言い出した。


「し、死に場所!?」

「あぁ。すまん。変な言い方だな…。アイツが死ぬ事があればこいつの方が先に壊れる様に作ったつもりが奴は生き延びた。だから今度コイツを扱えるような奴に会えたら同じ様に死ぬまで守らせようと思っただけだ」


 いい話だけど。言い方が縁起悪い。


「ありがとうございます。大事に使いますよ」

「まぁ。せいぜい頑張りな」


 オラクルさんの目は元の色に戻っていた。

 

「しかし、特異点の内容を理解できているとは大したもんだな」

「すごく為になりました」

「何年かしたらまた来い。それまでには嬢ちゃんの武器も作っておいてやろう」


 俺とオラクルさんが談笑しているその横では、


「ねぇ。理解できる内容だった?」

「わし。分かった。お前は勉強不足じゃぞい」

「チッ。これだから年寄りは嫌なのよ」


 ナンナさんをからかっていたアトラ爺さんは嬉しそうにはしゃいでいた。


 ・・・


 意識は戻ったが未だに体力が心許ないエリーをおぶってオラクルさんの防具屋(?)を後にする。

 武器を作るとかもう防具屋じゃないよね。ここ。


「さぁ、今日はここまでだ。また来いよ。そんときは嬢ちゃんの武器を創っておいてやる」

「ほんと!? 期待するわよ」

「あぁ。とびっきりのな」


 エリーはオラクルさんに硬い握手をかわすと、腕がもげそうな位ブンブン手を振っていた。


 そして、見送られながらその場を後にする。





「あいつ等何もんじゃろうな? ただの小僧と嬢ちゃんにはみえんわい」

「今更!? さっき私がそう言ったでしょう」

「あぁ。いや、お主を信じて居なかったわけではないよ。ただちょっと確信が持てなかっただけじゃよ。だってお主早とちりするし(ペチャパイじゃし…)」

「貴様には地獄すら生温い」


 ナンナは『無想転○を使えそうな人』みたいな低い声でアトラ爺さんを見下ろした。


「ぶべらぁ」


 イッセイとエリーの少し離れた場所でお爺さんが一人天に帰りそうになった。

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