64話 キングオブ KEN☆RYO☆KU

「ここを抜ければ後は一本道ね。アクセルが手続きしてるから終わったら通れるわよ」

「じゃあ。俺達はここまでだな」


 そう言葉を発したのは獣人で疾風の青狼団の団長であるアクセルさんだ。

 あれから2ヶ月間の旅を経て旅を続けシェルバルト領まで後半日も掛からない距離まで来ていた。実際に少し遠目にはシェルバルト領と国境を隔てる門が見えている。


「最初は貴方達に対して護衛の意味があると思っていなかったけど、一緒に旅が出来て結構楽しかったわ。エリーも元気でね」

「ナンナさん。私も楽しかったよ」


 この旅ですっかり意気投合したエリーとナンナさん。

 近接戦担当の二人はモンスター退治するに連れ、退治方法の改善について話し合っていた。


「あぁ、またな…」


 ナンナさんとエリーは拳と拳をぶつけ合う。

 俺的には、別れの挨拶はもう少し違う方法があっても良いと思うのだが…。


「レオ殿また胸を貸してくれ」

「いやいや。カーウス殿もなかなかのモノだったぞ。ワシの方でもいい酒を探しておくからまたゆっくりと飲もう」

 

 叔父さんはすっかり出来た飲み友達に別れを言っていた。


「イッセイ。エリー。ワシと別れるの辛いじゃろ? 戻ってもつまらんじゃろ? ワシらと一緒に冒険しようのう? のう?」


 やや聞き分けの無い事を言っているのは、樹人じゅじんのアトラ爺さんだ。

 疾風の青狼団の他の3人が爺さんを冷ややかな目で見ているが、爺さんはそんな3人の視線などお構いなしのマイペースだ。


「じいさん。じいさん。そんな事言ってもしょうがないでしょ。この子達にしか出来ない事もあるの」

「嫌じゃ。嫌じゃ。儂と一緒に旅に出るんじゃ~」


 聞き分けの無く駄々っ子の様に喚いているのは、一応、このギルド青狼団の知恵袋的存在なのだが…。


「結局、アトラの爺さんが一番懐いたな」

「そりゃ。あれだけ子供たちにオジーちゃん。オジーちゃん。言われればね……(私的にはあの子供達のほうが恐ろしいけどね)」


 ギルドの皆は引いた目でアトラ爺さんを見ている。(特にナンナさんはゴミを見るかのような目だった。)


「じいじがぁ・・・・・・・・・・・」


 アトラ爺さんは止まらない……。

 こうなったのには理由わけがある。それは、オラクルさんの店の一件からだった。

 俺達に対して警戒度がMAXになったアトラ爺さんは事あるごとに俺達を監視する様になった、魔法の力なのか四六時中視線を感じるようになっていた。

 更には何をするにも着いてくるのがいい加減ウザったかった。


 それで、俺とエリーでアトラ爺さんに向かって「爺ちゃん」だの「ジージ」だの言って言葉匠に甘え、何処に行くにも爺さんを連れて行く様にして懐柔作戦を決行したのだ。


 そうしたら、1週間もしない内にお菓子や小遣いをくれるようになり。2週間を過ぎることには俺達を監視するのでは無く、俺達に敵対する者・・・・・への監視となっていった。

 監視の目が俺達からズレた。と、思ったのだが……


「爺ちゃんが護ってやる」

「あそこに危険なモンスター(ゴブリン(最弱))が居る!!」

「あそこに怪しげな奴がいる(普通の旅人)」

「あそこに危険物がある(石っころ)」

「あそこに」「あそこに」「あそこに」「あそこに…」


 と言う感じに行き過ぎてしまった。

 今も目をむいて話しかけられているが必死過ぎて怖い。それに、先程から爺ちゃんから飛んでくる唾が俺とエリーにメチャクチャかかっていた。


「お前達のお爺ちゃんは世界一ぃぃぃぃぃ!!」

「おい。爺さんいい加減にすろ。アクセルだって暇じゃないんだ。迷惑かけんじゃねぞ」


 おっとりしているがこのギルド1番の人格者である牛の獣人のカーウス(妻子持ち)さんが、アトラ爺さんを咎めるが、アトラ爺さんはどこ吹く風で受け流していた。


「って、おい!! 仲間の言うことさ聞けぇ!!」


 カーウスさんが怒っていた。割とマジで。


「……むぅ。仕方ないのう。お前らはワシの大事な孫じゃ。だから、これを持っていけ、これはワシが作った御守じゃ。1度だけ何かあればお前達を守るじゃろう」


 ーーブチィ!!


 そう言うとアトラ爺さんが自分の花を毟った。


「ほれ」


 笑顔で毟った花を渡してくるアトラ爺ちゃん。

 すっごいキレイな花で心が和むが、爺ちゃんが毟った所からだくだくと変な液体が出ていた為受け取りを拒否したくなってきた。

 しかも、ムシった音が嫌だったのかエリー心底嫌そうな顔をしていた。仕方がないので俺が代表で受ける。


「何故エリーはこんのじゃ?」


 あんたが怖えぇからだよ。とは言えないので、


「エリー爺ちゃんがいなくて寂しいって言ってたから向こうに行かせた」


 実際、叔父さんの方へ向かわせていたのでバレることは無い。むしろ、うれかなしそう(嬉しそうな、悲しそうな)表情だった。


「じゃあほれ。イッセイ来い」


 両手を広げハグをねだる爺さん。

 謎の液体は止まっていないので、正直行きたくない。


「しょうがないのう」

「ギヤアアアアアアアアアア」


 躊躇してたら向こうから来た!! 恐ろしい速さで寄ってきた。

 俺は必死に逃げようとしたが、気色悪い速さと謎の触手を出しながら爺が寄ってくる。



 ・・・ レオ side ・・・



「うちのは…あれだからなぁ」


 イッセイがアトラの爺さんと必死に逃げているじゃれ合っているのを見ていたワシにカーウスが愚痴ってきた。

 確かにあそこまで必死なイッセイは久しぶりに見たが、まぁ懐いていたのも本当の事なのであれも喜んでいるのかもしれないな。


「いやいや、実際、疾風の青狼団の皆には世話になった。ここまでの旅は楽しかったからなワシも名残惜しい。ガブリエル国に来る事があれば何時でも呼んでくれ」

「いやいや、それはこっぢのセリフだぁ。リーダーに変わってオデからも礼を言わせてくれ。レオ王、イッセイ、エリー。お前だちと過ごせたのは幸運だった」


 カーウスと話しをしていると関所で話を通していたリーダーのアクセルが戻ってきた。


「レオ殿」

「おぉ。アクセル世話になったな」

「いいや。世話になったのは俺の方さ」


 アクセルはフッと笑うと昔話を始めた。


「実は俺は過去にイッセイと会っているのだ。あいつは俺の事を覚えていないようだが、あいつは命の恩人でな。俺は世話になったあいつには一生かけても恩を返すつもりだ」

「アクセルの命って、あの密命を届ける時の話?」

「そうだ。あのウリエル国が盗んだと疑われた宝石をラファエロ国に届けなければ、我等が姫殿下の命が危うかったあの事件だ」

「なんと! その件に関わっていたのか」


 あれは、我が国のギルドの落ち度の一つ。とある冒険者が個人的な感情でウリエル国の特使を襲撃したという何とも情けない事件だ。あの件で我が国の陰謀かと両国から非ぬ疑いをかけられわれたのだ。

 もちろん問題を起こした冒険者は然るべき罰を受けている。炭鉱で新しい鉱脈を見つけた主任功労者となっており本人も幸せらしい。という話は今はどうでも良いか…。

 

「そうか…。言わなくても良いんだな」

「あぁ…。機会があればまた会うだろう。そして俺はその時も必ずイッセイに付く」

「分かった。今は儂の胸に秘めておく。また再会する日を楽しみにしている」

「あぁ。では、達者でな。行くぞアトラ!」


「良いか。寂しくなったら爺を呼ぶんじゃぞ」

「アトラ。行くぞ!!」


 アトラ爺さんはアクセルさんに引っ張られながらもずっと手を振っていた。


「イッセーイ。エリーーー。カムバーック」

「やかましい!」


 辛い(?)別れを惜しみつつ。引きずられていくアトラ爺さんを見送る。


「いい人だったね」

「まぁ、最初は警戒心MAXなお爺さんだったけどね」


 そして、久しぶりに会ったアクセルさん。

 アクセルさんは多分、昔の夜の散歩(筋トレ)中に出会った獣人だ。

 王都のギルドの冒険者に襲われってたんだっけか? 久しぶりに会ったが前より結構強くなってたな。また、機会があれば会えるだろう。 


 去っていく疾風の青狼団の皆を見送りながら、コレまでの旅をしみじみと思い出していると。


「おぉーい。置いてくぞ」


 先に進んでいる叔父さんが叫んでくる。


「「はーい」」


 俺とエリーはおじさん達の所へかけて行った。



 ・・・



 俺達はシェルドバルト領の国境となる門に向かって歩いてく。

 既にガブリエル国は季節が冬になっており領内には雪が積もっていた。

 叔父さんが先頭で足場を作ってくれていたお陰で俺たちは無理せず叔父さんの後をゆっくりと付いていけた。お陰で日も高いうちにシェルバルトの門が見えてきた。


 やっと帰ってきた…。凄く長い間旅をしてきたような気がする。


 ヴィルをペンダントにして身につけ、叔父さんとエリーと一緒に門の前まで進んでいく。隣国の長年使われていなかった道から人が出てきたとあって門の周りは既に兵士達が緊張した面持ちでこちらを牽制していた。普段あまり人が来ない道だからか城門の上の方が凄いざわついている。


「そこで止まれ!!! お前達は何者だ!!」


 シェルバルト領の兵士が声を高らかに叫ぶ。


「イッセイ=ル=シェルドバルトです。母上かアリシャでも良いです。取次いでください」


 俺も自分の家の名を名乗り出る。本来なら領主の子に対して不敬な態度であるが俺が交易の止まっている地域からやってきたため怪しまれるのはしょうがない。

 てっきり簡単に通してくれると思っていたのだが、今まで人が来なかった所から急に領主の息子の名前を名乗る奴が出てきたと門の周りは騒然とし始めた。


「確認のためそちらに人を派遣する。しばし待たれよ!!」


 門までの距離約100m。これ以上不用意に近寄れば、襲われる可能性があるボーダーライン。確かそれが父様から聞いていた近づける距離だ。

 その手前で止まっていると門の方から使者と思われる兵士がやって来た。


「うむむ…。若に似てはいらっしゃいますがもっとこう小さかった筈なのですが、申し訳ないが何か証拠になる物をお持ちでは無いですか? 領主に見せに行きますので」


 証拠品と言われてもピンとこない。

 身分証明書なんてこの世界で聞かれたことなかったしな・・・。あっ!! あった。あったよ。


 ガサゴソ。バックを漁る。確かこう言うときに役に立つアイテムがあったはずだ。

 あった、あった有りましたよ。コレを出すにはここがいいタイミングでしょう。


 カバンの中から取り出したものを天高らかに掲げる。


「家紋の入った薬箱がある。これが目に入らぬか!!」


 決まった。これ、気持ちいいな。


 なんとも言えない高揚感が俺の全身を通り抜けた。

 全身がブルブルと震え。おしっこが漏れそうになる。

 俺の賢王タイムに水を差すコメントが聞こえてきた。


「イッセイ。今のその変なポーズは何? 正直頭の悪い人みたいだけど」


 何だと!? この素晴らしい権力主張のポーズが理解出来ないだと??

 エリーはまだいい。眼の前の兵士も隣に居る叔父さんもチラチラこっちを見るだけでなるべく見ないように気を使っている様に感じる。


 何故だ!? 前の世界における 『キングオブ KEN☆RYO☆KU』だぞ!!


 エリーだけじゃなく兵士達も俺を痛い子を見る目で見てきた。

 お前ら不敬だぞ!! 


「早く出せ。このままだと信用不十分で入国拒否にするぞ」

「あのー。これが証拠です。確認してもらえますか?」


 俺は素直に荷物で持っていた印籠を渡した。


 無言で頷き、気持ち俺との距離と取った兵士さんが俺から印籠を受け取ると一瞥もせず無言で去っていった。


 平和主義になんて仕打ちだ!! 訴えてやる。

 心がとても寂しい感じになる。


「で、イッセイ。さっきのポーズは何?」


 エリーさん。お願いします。その事はもう聞かないでください……。


 その後道端で談笑していると、ゴゴゴッと大きな音を立て目の前の門が大きな口を開けた。


「おっ、やっと身元確認が取れたかな?」


 中に入ろうと荷物を持って進もうとした所で門の先から人影がこちらに向かって走ってきた様だ。


「イッセイ様ーーー」


 走って来たのはアリシャだった。おや、懐かしい。


「アリ…シャ………ぐぇぇ」


 走ってきたアリシャが少し離れた場所からこちらに向かってダイブしてきた。

 躱すわけにいかないので抱っこする形でアリシャを抱きしめると、アリシャに抱きつき返された。


 ……返されたのは良いんだけど。アリシャ久しぶりに会ったら力持ちになってない?い、い、い、い、いだだだだだだだだだだ。


 アリシャの見事なサバ折は俺の背骨をへし折ろうとミシミシと気味の悪い音を立てる。


「アリシャ。ギブ、ギブギブギブギブギブ………」

「イッセイ様。もっとですか? そうですか、私ももう離しませんよ」


 俺のタップしながらの抗議は、まさかの追加要求へと勘違いされてしまった。

 アリシャの力が更に強められ俺の背骨はもうすぐ壊れそうなほど結果となってしまった。


 ギャアアアアアアアアア。


 その日、少年の断末魔がシェルバルトの街に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る