61話 例のアレ(ギルド編)

「おーい、イッセイ。何をボーッと突っ立ってやがる。先に入るぞ」


 叔父さんがそう言って中に入っていった。

 俺は目の前にそびえ立つ建物に違和感を感じ顔を引くつかせていた。


 マイクさん。本当にここがギルドなんですか……。


 教えて貰った場所を見上げると、とーーーってもウエスタンな創りの建物が建っていた。

 通常、ギルドは石造りで四角い建物(いわゆる豆腐建築)が多くゴツゴツしたイメージで統一されている事が多いのだが、ここは木造建築の酒場のデザインだった。

 2階建てで、上にはオープンスペースのデッキがあり。ガラの悪い冒険者が数名コチラを見下ろしていた。店の外には簡素なベンチが置かれており馬車の車輪やら樽が沢山並べられここにも冒険者らしき人物達が酒を飲んでいた。


「店の前に馬柵うませまであるのか…」


 ど子からどう見ても西部劇で出てきそうな酒場の雰囲気そのままだ。まるで前の世界から持ってきた様な造りにボーゼンとしていたのだ。


「イッセイ。どうしたの?」


 エリーが聞いてきたが、この気持ちは誰に伝えても伝わらないだろう。


「いや…。ナンデモナイデスヨ」

「何でカタコト!?」


 カランカラン。


 エリーについて、とっても・・・・ウエスタンなスウィングドアを抜けるとそこは、とってもウェスタンなまんまの建物だった。


「………」


 中を覗いても俺以外にこの世界に来たやつが居るんじゃないかと勘ぐってしまうほどの出来だった。

 怪しい音がするオルガンを酔っ払いながら弾く獣人のおっさんとお立ち台で踊っている獣人と虫人の女性。


 お立ち台の下にはボロいテーブルに腰掛け酒を飲んだり賭け事をしている冒険者ばかりだった。

 そして、汚いバーのカウンターでは受付嬢だか定員だか分からない人が一人だけいてずっとコップを拭いている。

 それらの視線が俺とエリーが入った途端に注がれた。


(随分と熱視線を感じるね)

(上の連中でしょ。ワザと弱めの殺気をこっちに直で送って来るのがうっとおしい・・・・・・んだけど)

(ま、子供だと思ってナメてるんだろうね。適当に笑顔を振りまいてシカトしよう)

(それもそうね)


 恐らく1階の冒険者はクラスが低い。

 と、言うのも脅そうとしてるのは分かるが殺気と言うか気配が薄い。まぁ、ガン見はウザいんだけどね。

 それに比べて2階の冒険者達は送ってくる視線が真っ直ぐで気配が濃い。明らかにコチラ(主には叔父さんを)を観察している目だった。


 俺達は2階の冒険者にニッコリ微笑んで返すと叔父さんの後を追った。


 まぁ、見事に人族は居ないね。


 辺りを見渡した際に確認したが獣人が一番多く。続いて樹人や虫人が多かった。

 確かにそこへ屈強な人族と人族の子供更に若いエルフが居れば問題としか思えない。


 叔父さんがカウンター方面ヘ歩いていくと意図的に足を出してくる奴がいた。足の差出人を見てみると全身革ジャンを着た獣人で頭はモヒカン。口に咥えた何かの骨をクチャクチャ言わせており。いかにもヒャハーって叫びそうな奴だった。


「……」


 叔父さんが黙って止まっていると、その獣人は噛っていた骨をこっちに飛ばして来た。完全に粋がった行動である。

 しかも、そいつには仲間が居るらしく建物内からそいつの行動を讃えるように笑ってくる声が聞こえた。


 普通の冒険者なら……


「うらぁ。何晒とんじゃワレェ(↑↑)」


 的な売られた喧嘩を買うパターンが普通だと思うが、叔父さんは2味も3味も違う。


 無言で迂回すると遠回りしてカウンターを目指した。


「お、おい。テメエら待ちやがれ! こういう場合、喧嘩に発展するのが普通だろうが!!」


 見事に無視された冒険者の一人が俺たちに向かって叫んできた。恥ずかしかったのか、お顔をまっかっかにしてツバを飛ばしながら必死そうだった。


 俗に言う「テンプレ行動お約束」を叔父さんが無視した形だ。


「…ぷっ」

「ぷぷっ…」


 一瞬この場の全員がポカンとした顔をしていたが、ついには2階の冒険者が吹き出していた。


「何じゃワレェ(↑↑)。何か臭え(↑)と思ったら人族のよそもんかよ。あんまりでけえ顔してっと、シメ(↑)っぞゴラァ」

(訳:おいおい、新顔さん。お困りかい? でも人族は大人しくしてたほうが良いよ。)


 いきがった冒険者は、緊張のあまり声を上ずらせていたが、行動は至って冷静で俺たちの前に立ちはだかり凄い顔で凄んできた。殺気とか圧が弱いので怖いと言うか…逆に面白い。


 俺が必死に我慢していたのに対してエリーは俯いてプルプル震えていた。止めろバレるって。


「「「ゲラゲラゲラ…」」」

「良いぞ。もっとやれ」


 1階と2階の冒険者たちが騒ぎ出し、目の前の冒険者が煽られ初めていた。


 とまぁ、こんな感じのやり取りが繰り広げられる訳で、大体の返答コマンドはこんな感じだ。


 ① 殴る。(訳:はははっ、困って無いぜ。ブラザー)

 ② 顔をそむける。(訳:はぁー。空気読めよ。うぜぇー。)

 ③ お酒を頭からかける。(訳:Go To HELL)


 冒険者が居て酒がある場所での会話の方法だ。

 パッションとパッションのぶつかり合い。血と涙が友情の証。コレがデフォルトのはずなのだが…。

 しかし、叔父さんはそのどれもチョイスしなかった。

 相手が全く見えていないと言わんばかりに、どこ吹く風と言った顔で口笛を吹きながらズカズカとカウンターを奥に向かう。

 いきがっていた冒険者は叔父さんに肩をぶつけられ尻もちを付いていた。


「うっ」

「あっ、ワリィ」


 叔父さんの肩に乗るモンスターの死骸が白目を向いて舌を出していたのだが、冒険者をバカにしたようなアホヅラだった。


「くっ、きさ……。うぁぁ」


 倒された冒険者が起き上がると同時に顔色を青くした。叔父さんの殺気が彼に突き刺さったのだろう。

 起き上がった冒険者の仲間は叔父さんの殺気に気づかずこちらに向かってくる様だが、2階の冒険者はピタリと動きを止めた。


 やはり。上は上位冒険者のたまり場か。


 俺とエリーも向かってきた冒険者達に殺気をぶつける。

 すると、向かってきた冒険者達もたちまち腰を抜かして立てなくなった。


 室内の空気は一気に氷点下へと落ちる。

 これは2階の冒険者達が俺達・・を認めた証拠。向こうが警戒し始めた為に場の空気が重々しくなったのだ。


「おい。何だか寒くないか?」

「あぁ…。何だかここに居ると背中がゾクゾクしてくる」

「あぁ…。そろそろ帰るか……。って、足が動かねえ」


 1階の冒険者達はスッカリ大人しくなってしまった。

 動くと死ぬかもって、本能で感じたのだろう。

 硬直した時間が流れる。何かが起これば一触即発の空気が肌にビリビリと感じた。


「たらららーん……って、何が起こったんですか!? このギルド始まって以来の静けさですよぅ」


 こんなにも色々な出来事が起こっていたにも関わらず全く気にした素振りを見せない者がいた。カウンターの中で物事今までの事を見ずに背に作業している子犬のような受付嬢が、現状の静けさに驚いた顔をしていた。


「ふっ」


 叔父さんが殺気を緩めた。と、同時に俺とエリーも殺気を緩める。いくらか1階の重圧が軽減された様だ。

 2階の冒険者達も徐々にだが警戒を緩めていき。1階も先程のガヤガヤ感が戻ってきた。


「換金を頼みたい」

「はいはい。ちょっと待ってよぅ。っとぉ!?」


 犬耳の小柄な受付嬢が叔父さんを見るなりその場に尻餅を付いた。


「ななな、ひ、人族!! ま、まさか私の美貌目的で人攫いかよぅ!?」


 え? 今。


 叔父さんの顔が怖かったのかな? 小型犬の受付嬢カタカタ震えて真っ青な顔をしている。そして、壮大に勘違いをしている。


 「ワシ。そんなに厳つい顔はしてる?」


 叔父さんは少々ショックを受けたようだ。

 叔父さんの顔を確認すると


 …あぁー。


 顔に無数の傷が付いていて、髪もボサボサ、髭もボーボー。なるほど、確かにアウトだな。

 長い間の移動の生活で手入れをしてない叔父さんは秋田犬の様なけむくじゃらになっていた。


 確かに、これではただの不審者だ。


 怯える受付嬢を見て叔父さんの人相ではもう無理だと判断した叔父さんのギルドカードを出しながら俺が説明に入る事にした。


「あっ、僕達冒険者です。これから祖国に帰ろうと思ったのですが、露銀が尽きたので換金をお願いしようかと」

「君みたいなちんちくりんが冒険者!?」

「「「「どわっはははははは」」」」


 叔父さんのカードを俺の・・だと勘違いした受付嬢がカードも確認せずに笑ってきやがった。

 それに乗じて1階の冒険者共も大笑いしていた。


 …コイツ等もう一回大人しくさせるか?


「そうだぜ坊や。ここはおっかない亜人の世界だ。食っちまうぞ!!」


 余裕が出てきたのかテーブルに座って笑っていた1人が絡んできた。で、そいつが顔の部分だけ動物のサイに変化させたのだ。先程の獣人の姿よりも威圧感が増していた。


 おぉ。これが獣化と言うやつか。


 吠えると一々衝撃波が放たれる様だが、そこはやはり実力が伴うらしい。

 初めて見たので少々興奮してしまったが、大したことはなかった。


「どうだ。小僧!! 恐ろしいだろ」

「初めて獣化を見ました。ありがとうございます」


 と、笑顔で言って受付嬢の方へ向き直す。

 さっさと換金してくれないかなぁ。と、急いでる風な雰囲気を醸し出して。


 受付嬢どころか1階の冒険者達は再度固まっていた。

 いや、受付嬢は叔父さんのギルドカードを見て固まっている様だ。


「なっ!? ガキがザッけんなよ!」


 ブンッ。


 右腕を振り抜いて来た。フックのつもりなんだろうけど、すっごい、遅いけど…。


 ジャイアントアントやゴブリン程度なら倒せるだろうがヒューマンノットリザード辺りは怪しい。

 クラスは1か2になりたて位なものかな。俺は攻撃を受け止める躱すかで悩んでいると、


「何やってんだ!!」


 2階から大声が聞こえる。

 声がした途端に衝撃波が飛んできて、風を受けた様に髪や服がバタついた。すっげぇでかい声。

 冒険者の中には腰を抜かしていたり、ガタガタと震える者も居たが俺達と言えばエリーと俺がちょっと耳が痛かったので、2人で耳を塞いでいたがだけで叔父さんは涼しげな顔をしていた。


 いきなり叫ぶなよ!! 子供の耳はデリケートなんだぞ!!


「ふっ。俺の獣化の遠吠えスタンハウンドが全く効かないか…」


 2階を見るとターバンらしき物を深くかぶった男が立っていて、俺達を見るなり笑っていた。


「何よ。大きい声出して!! 耳が痛いじゃない!」


 おォーと、流石エリー。早速噛み付いた。


「な、何なんだよぅ。こいつ等はよぅ…。(ガクッ)」


 あっ、ちんちくりん犬が落ちた。なお、叔父さんのカードはしっかり握ったままだ。その精神には感服だ。


 完全なとばっちりだが衝撃波を受けた受付嬢はカウンターの下で白目を向いて倒れピクピクと痙攣していた。その他にもギルドの1階は同じく衝撃波を食らって白目を向いた者達で溢れかえっている。


(衝撃波は)そんなに強く無かったでしょうに…。


 ん?


 2階から先程の男が飛び降りてきた。

 それを見たパーティメンバーの一人が叫んだ。


「アクセル! 急にどうしたのよ? って、ふーん」

「なるほど。かなり出来る集団の様だ」

「かかかっ。なるほど、確かに出来るのう。それよりここのギルドの奴らは、まだまだじゃのう。暫くは、1階レベルじゃわい」


 更に2階から声が聞こえる。

 現れたのは3名ほどの冒険者だった。

 気配をギリギリまで感じなかったのは、結構な手練の証拠だ。


 油断できないと思い残りのメンバーを見ると、先頭は猫耳の女性で赤い髪が特長的、後ろに立っている男性は牛の角を生やした糸目な人と頭に大きな花を咲かせたおじいちゃんだった。


 俺の視線を感じてか直ぐに警戒レベルを上げた女性獣人。と、言うかこっちを値踏みするように妖しく笑い手を振ってきた。


 吠えてきた人含め他の3人も下の人たちとは格が違うようだ。


「何あのオバサン。キモいんだけど」


 エリーだけはご立腹だった。


「さっきは急に悪かったな。俺達は【疾風の青狼団】俺はリーダーのアクセルだ。君達はマイクと一緒にここまで来た奴らだろ?」


 ターバンを巻いた冒険者の人が話しかけてきた。

 おぉ、マイクさんの知り合いか。


「うん。あいつの知り合いか?」

「あぁ。幼馴染だ」


 叔父さんが話しかけると相手も笑いながら話しかけてきた。


「ワシはレオ。コイツ等がイッセイとエリーだ。一応ワシの弟子として冒険に同行させている」

「よろしくお願いしまーす」

「よろしく」


 俺達もアクセルさんに挨拶した…。アクセル? 何処かで聞いた名だった。何処だか忘れたが……。


「なーんだ。彼等が護衛対象だったのね。って小娘さっき変な言葉が聞こえてきたけど次言ったら容赦しないよ」

「さっきの言葉って、子供に色目使ってた人に言った『オバサン』ってやつ?」

「…クソガキが」


 冒険者の一人、ネコ科の女性がアイサツ・・・・してきたが、早速、エリーが喧嘩を売っていた。早すぎるだろ。


 しかし、止めるのも面倒…なんだし暫く2人で話をしてて貰おう。


「ふぉふぉふぉ。おなごは元気じゃのう。ワシはアトラ。桜系樹人じゃ、皆がアトラ爺と呼ぶでな。そう呼んでくれると助かるわい」

「オデは、カーウスだ。見たまんまミノタウルス牛男だ。力仕事は任せてくれ」

「後はあそこで遊んでるのが、ネコ娘のナンナだ」


 いつの間にか戦いに発展した様で、2人でグルグルパンチを見舞い合っていた。何故その状況に至ったかすっごい気になる。


「…そう言えば随分と安い金額で受けてくれたのだな」

「まぁな。マイクからは将来の有望株だからと言って紹介料で随分と値切られたよ」


 叔父さんが驚いたように話すとアクセルさんがため息混じりに肩を落とした。流石マイクさん。タダじゃあ転ばないらしい。


「あの方らしい…」

「だが、あの者の目は本物じゃからな。このパーティに何かを感じたんじゃろう」


 カーウスさんとアトラ爺はウンウン頷きながら話す。随分とマイクさんと親しい人達なんだな。


「追加がいるんじゃないか?」


 叔父さんが言うとアクセルさんは首を振った。


「気にしなくていい。アイツと持ちつ持たれつ共に助け合うそう言う仲だ」

「そうか、それならば感謝する。コイツは換金して旅支度代にでも当てるか」


 叔父さんはモンスターの死骸に視線を落とす。

 疾風の青狼団の面々もモンスターを見て息を呑んだ。


「なっ!? こ、これは【キングヴァイパー】、【フロッグマージ】と、【フロッグファイター】まで居るじゃないか…。しかも殆ど外傷が無いぞ!! これだけ綺麗に倒せるものなのか…」


 これらは俺が倒したモンスターだ。

 魔闘技を使ってグングニル俺のスキルを使ったらどうなるのか検証した結果がこれらだ。

 最初はそこそこの大きい石で試したのだが、モノの見事に爆発飛散してしまったのだ。これではモンスターを狩っても旨味がないため石のサイズを小さくして調整した結果、眉間に少し穴が空いただけの死骸を作る事に成功したのだった。


「確かにこれほど見事な死骸は初めて見たぞい」


 アトラ爺さんが死骸の肌を見て驚いた声を上げた。

 ま、本来このクラスのモンスターはパーティを組んでも無数に斬り刻む傷が付いているものだ。一突きで殺るなどクラス4以上のマスター級がいて初めて実現可能なレベルだ。


「……この人達に護衛って必要なのかしら?」


 ナンナさんが呆れた顔で呟いた。

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