60話 1ヶ月ぶりの人里


「うわー。1ヶ月ぶりの人里だ」


 俺は目の前を歩く人の姿を見て思わず声に出してしまった。

 道行く獣人や樹人のお姉さん達が俺を見てクスクス笑っていたが、久しぶりに見る人の姿に興奮しガン見してしまう。


「おいおい。そんなにはしゃぐなよ。目立つだろ…」

「あいたぁ!」


 叔父さんにげんこつを食らってしまった。が、俺のテンションは下がらない。


「そうですね。何だかんだで1ヶ月も旅をしてましたからね」

「ですよね。エリー、何か食べに行こうよ」

「こんなに小さい町にご飯を食べる場所なんて有るのかしら?」


 ここは、【カブリエル国】と【ウリエル国】の国境付近にある小さい田舎町だ。以前話した通り国の兵士も代官もいや、人族すら見当たらず町中は獣人や樹人、虫人といった亜人ばかりだった。【ウリエル国】は選民意識が高いらしい。

 俺たちは全く気にしないって言うかガブリエル国では差別は処罰の対象だし、そもそも民も教育が進んでいるお陰で差別がダサいと思っている人が多いからなぁ。


 キラキラキラ。


こここの街で食べるならギルドに併設してある食堂、ですかね…」


 キラキラキラ。


 マイクさんが教えてくれた。

 へぇ。ギルドでご飯が食べれるのか。凄く行ってみたい。


「レオ叔父さん。早く早く。何か食べよう」

「分かった、分かったから。ちょっと待て、コイツらを処分してからだ」


 ドスン、ドスン。ドスン。


 叔父さんは道の真ん中で両腕に抱き肩に背負っていたモンスターを下ろす。

 この村に来る途中で仕留めてきた【キングヴァイパー】、【フロッグファイター】、【フロッグマージ】だ。


 コイツラはいつもワンセットで遭遇するんだよな。

 でもってこいつ等は害悪モンスターに分類されている。この町の周辺で畑で暴れまわっていると、通りがかりの農民に頼まれたので蹴散らして来たのだ。


 --ピピピピピ!!


「コラーーー!! 道の真ん中にモンスターの死骸を置くんじゃない。って、何じゃその荷物は!!!?」


 この街の自警している冒険者さんに怒られてしまったが、それよりもマイクさんの荷物に驚いていた。荷車に満載に積んでいたら俺より目立つに決まってるんだよなぁ…。なにせここ1ヶ月で溜めた荷物。結局捨てることが出来ず持ってきた材木を使って荷馬車を増やしながら来たわけだが、いつの間にか山盛り3台に増えていたのだ。

 どれだけ山盛りかと言うと2階建ての屋根位まで積んでいた。

 筋トレと称して俺と叔父さんとエリーが交代で馬車の2台を引く形でここまで持ってきマイクさんのたのだが、まぁその反応は普通だと思うよ。

 兎に角、蛇とカエルがくっそ多くて、時々カブトムシやてんとう虫みたいな奴も居たなぁ。

 で、そんなのを持ち歩いていれば目立つ、目立つ。

 叱られた冒険者にマイクさんが訳を話して街の中に入れてもらった際も受付の冒険者はガタガタ震えていたし、通行人もこっちをガン見していた。


 入る際もめっちゃ見られてた。って言うか引いてた。俺たちを見て完全に引いてたよね。ほら、あそこの人達コッチ見て「うわっ」って顔してるよ。

 何故か叔父さんとマイクさんは引いた目に対して誇らしげだったが、俺はせめてエリーは辱めを受けないように荷台に座らせて俺が荷車を引いた。


「こ、ここがギルドだ…」

「おう。あんがとよ」


 今日の叔父さんはやけにワイルドだ。

 ギルドに連れて来てくれた人にモンスターの素材を投げて渡していた。

 うわぁ…。勝ち誇ってる叔父さんがちょっと痛いわ。

 と、思っていたが案内してくれた冒険者はモンスターの素材を受け取ると嬉しそうに走っていった。そんなに欲しかったの?


 俺はこの時はまだ素材の価値について何も知らなかった。



 ・・・


「おーい。イッセイ。帰ってこーい」


 エリーが俺の目の前で手を振って意識を確かめていた。

 何故なら目の前に積まれたアニマがすごい事になっていたからだ。この世界の通貨は電子マネーの様な通貨でギルドや露店などで売買する事によって専用の端末にアニマが貯まる。で、この専用の端末は一本貯まればガブリエル国の王都で1ヶ月何もせずに暮らせる位の価値があるのだが、目の前にその端末が五本置かれていた。


 キラキラ。


「ありがとうございます。少ないですがそれが皆さんの取り分です」


 キラキラ。


 ブタ…鼻のマスクを付けたイケメン商人マイクさんが頭を下げながらこちらに出してきた。


「いや。礼を言うならこっちだ。だからこれは受け取れん」

「いえいえ。正当な報酬ですよ」

「だったら、尚更受け取れん。道中のお前さんの行動を見れば…な」


 ズイっとアニマ入りの端末を押し返す叔父さん。

 マイクさんがそれを押し返してくる。お互いに押し合いへし合いになっていた。


 マイクさんは今回の売上で目の前にある端末の10倍位の儲けは出たのだが、資産を聞くと商家としては最低の現状維持出来るかどうかレベルだった。

 どうしてそんな事になっているかと言えば、


「道中立ち寄った村に寄付をしてただろうが、旅の商人に先付けで品物を出してもらったり。結構、出資がかさんでるだろ?」


 これが問題だった。

 マイクさんは貧しい村ではボランティア商売をしておりアニマを取らない。むしろ足りない食料や薬は自分の私財や手に入れた商品を売ってまでして買っていた。だから意外とこの人は金が無い商人なのだ。この人、このままだと危険だな…。時間が出来たら前の世界にあった投資のことでも話ししておこう。


 因みに俺も心情的にはお礼なんて要らない。

 ここまで連れてきて貰った身だしモンスター退治はリハビリの様なもの。そして、何よりマイクさんは命の恩人だ。エリーも俺と同じ考えなのか強く頷いている。


「おっ、半端もんのマイクじゃねーか。商売は儲かってんのかぁ〜? って、豪い儲かってんじゃねーか」


 そう言って表れた冒険者の様なやつが満額溜まった端末の一本を奪い取った。


 −−ゲラゲラ。


 ガラの悪い獣人の冒険者達がマイクさんに絡んでくるし、虫人や樹人の取り巻きが笑っていた。

 どうやら、マイクさんのは知り合いのようではあるがどうも様子がおかしい。


「…ははっ、ボチボチだよ」


 マイクさんが笑顔で返すが、


 −−ボクッ!!


「あぁぁ? ボチボチじゃねーよクズが! ぶっ殺されてーのか? あぁ!」


 マイクさんが、いきなり殴られた…。

 俺とエリーは今すぐ立ち上がってこの冒険者をぶん殴ろうとするが叔父さんが俺達に殺気を送ってきた。

 俺とエリーが叔父さんを見ると周囲には殺気を漏らさないように我慢している叔父さんがいた。…叔父さん。久々にMAXキレてるね。


「…君達には十分報酬を払ったじゃないか」


 殴られたマイクさんは、冒険者を諭すように話す。

 だが冒険者の反応は、【┐(´д`)┌(こんな感じで)】肩をすくめると自分の仲間に対して呆れたような顔をしてため息を付いていた。


「おいおい。テメェが寄り道した村でバカ共にタダで素材を配ったりしなきゃもっと貰えただろ? なぁ、そこの薄汚ぇ人間よ。お前らもこいつがタダで素材を配ったお陰で……おぉっと、コイツはエルフか? 人間と一緒って事は性奴隷か。どうだ? 俺様のとこに来ねぇか、天国に送ってやるぜぇ」


 獣人の冒険者はエリーに触れようとしたが、手の甲で払い除けられた。

 しかも、手の甲は【木】が巻き付いていてその先から赤い液体がポタポタと滴れていた。


「イテェ。何だ」


 手を引っ込めた獣人は自分の手に棘が刺さっており、そこから血が滴っていた。


「リ、リーダー!」


 虫人の冒険者が叫ぶ。

 だが、アドレナリンたっぷりな獣人の冒険者も叫ぶ。


「臭え人間の便器の癖にナメんなよクソエルフが!! お前らやっちまえ!!」


 --おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


 獣人冒険者の怒号に合わせて部下の冒険者が襲いかかってきた。


「臭えにおいを撒き散らす人間風情が亜人の街に来て偉そうにしてんじゃね-ぞ!!」


 口角から唾を撒き散らしながら獣人の冒険者も襲いかかってきた。


 ・・・


 ーーうぅぅ…。


 襲いかかってきた冒険者は地面でのびている。


 はっ、その程度の実力の癖に俺達の仲間であるマイクさんに手を出すなんて100年早えーんだよ。


 皆仲良くボコボコにしてやった。本当は二度と悪さ活動出来ないようにしてやろうと思ったが、マイクさんに止められたので、今は地面でネンネしている。


 キラキラ。


「本当に申し訳ないです。私の同胞の無礼をお許しください」


 キラキラ。


 謝ってくるマイクさん。こんなクソ共のために頭を下げるのか…。

 彼が謝ってくるならこれ以上はコイツ等を痛めつけるわけにはいかない。

 でも、あれ? なんだか、マイクさんのキラキラがいつもより少なくない?

 明らかに疲れているマイクさんからキラキラが少なく感じた。


 マイクさんの表情を見ると明らかに曇っている。

 どうやらこの人はその時の気持ちによって飛んでいる☆の数が変わるらしい。

 …つくづく謎な人だ。


 兎に角、こんなのは俺たちにとっては挨拶みたいなもんだ。

 相手の力量を見極められず絡んできたコイツ等はボコられても文句は言えないのだ。

 とは言え今回はマイクさんを傷つけられているため多少強めにボコったんですけどね。テヘッ。


「別にマイクさんの責任じゃないですし、冒険者なんてこんなものですから」 

「そうよ。結果的にマイクさんがここまで連れてきてくれたじゃない。私達だけだと遭難してたし、そもそも死んでたね」

「エリーの言う通りだ。俺たちはお前に命を救われているなので金勘定じゃない」

「ううう…。みなさんありがとうございます」


 マイクさんは感動して心があらわれたのか、☆が若干面倒臭い数に増えた。

 この☆はコントロールしてくれると嬉しい。


 しっかし、寒いな…。そろそろ建物の中に入りたい。

 ていうか今は何月だっけ? エルフの里から出た時点で何月かわからない。

 この世界は一年があまり長くない。前の世界では1年が12ヶ月あったが、この世界ではそれが10ヶ月しかない。【春夏秋冬】はあるので大まかな計算だと大体2.5ヶ月で季節が変わる事になる。

 

 冷える体を擦りながら、マイクさんに聞いた。


「今って何月なんですかね?」


 キラキラキラ。


「今は【ウリエル国】が夏ですから、世界樹より南の【ガブリエル国】は冬の真っ最中ですね。もうすぐ春になると思いますよ」


 キラキラキラ。


「えっ?」


 何だって?

 聞き返そうと思ったが叔父さんが俺より早く反応していた。


「何だと! ワシら1年も旅をしてたのか?」

「そうですね。早いものでそんなに経ちますか…」


 しみじみと言うマイクさん。それに対して叔父さんが絶望的な顔をしていた。

 俺だって叔父さんと同じ気持ちだ。


「どうしよう。 ワシ、ニルに怒られちゃう」

「僕は、結局学園に一回も登校していない超問題児になってしまいました」


「「はぁ…」」


 ため息しか出ない。

 落ち込んでいる俺たち二人にマイクさんは目尻を下げながら。


「はははっ…。すいません。皆さんとご一緒することが出来なくなりました…」

「「はっ?」」


 マイクさんから突然の別れ言われた。


 ・・・


 話を聞いた所、マイクさんはギルドから緊急の依頼が入ったようだ。


「いや、こちらこそ色々済まなかった」

「そうです。お世話になりました。マイクさんありがとうございます」

「いやぁ、色々と話が変わってしまってすいません。また、辺境の地に物資を届ける依頼ですが私にはこういう依頼は助かるんです。イッセイ君。色々教えてくれてありがとう。君が教えてくれた方法を街で試してみるよ」


 マイクさんには投資の話しを噛み砕いてしておいた。

 今までタダで提供していた村には特産品を作ること、貿易で出来た村で野菜や果実の種を仕入れて別の場所でも農作を試してもらうとか。幾つか民芸品になりそうな物の作り方(木彫りの形やニスなど)を樹皮紙じゅしひに記した。

 それらを僻地の村で作り、街で売ることで得た利益を村に還元するのだ。


 後は、この子だ。


「ほら、エリー」


 モジモジしているエリーを引っ張りマイクさんの前に連れて行く。

 ここ最近、エリーは何かとマイクさんにくっついていた。彼氏彼女…と言うには程遠いけど、エリーの初恋かなぁ。と、親心で見守っていた。


 そんなに仲のいい相手では離れるのも辛いだろう。

 実際、エリーは顔を赤くしてうつむいていた。


 キラキラキラ。


「エリー嬢。お世話になりました」


 キラキラキラ。


「マイクさん、ありがとう。私、私…」


 キラキラキラキラ。


「エリー嬢。……………ですよ」


 キラキラキラキラ。


 楽しそうにエリーに耳打ちするマイクさん。

 今度はキラキラが増えていた。


 折角慣れてきた☆が今後無くなるのは少し寂しいかも…。


 イッセイを見ていたレオがヤレヤレと首を振っていたが気付く素振りも無かった。

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