59話 全てはイケメンの掌の上

 コトコトコト…


 野営地に戻ってくると良い匂いと火に掛かっている鍋から良い音が聞こえてきた。


「あぁ…いい匂い」


 エリーは戻ってくるなり食べ物の匂いに釣られていた。


 キラキラキラ…


「おや、おかえりなさい。仲直りは出来ましたか?」


 料理をしていたのはイケメンのマイクさんだった。

 どうやら、俺とエリーが湖に行っている間に晩御飯を作ってくれていた様で、俺はマイクさんに向かって指を立てるとマイクさんはニッコリ微笑んだ。


「美味しそうなスープ」


 鍋をかき混ぜるお玉を掴むと口元に進めていく。

 あぁ、つまみ食いを始めちゃった。


「エリー。お皿に移したほうが絶対に良いよ」

「大丈夫ちょっとだから…」


「あぁ…、エリーさん。それは…」

「あっつ!!」


 予想通り火傷を負ってしまった様だ。だから言ったのに。

 俺も味見させてもらったが、フロッグファイターの肉を使ったシチューを作っている様だ。鶏肉と同じ味がしたので聞いてみたフロッグファイターだと教えてもらった。

 心の中で、『フロッグファイター=牛ガエル』と言う事が刻まれた。


「いやぁ。キングヴァイパーにフロッグファイターが手に入るとは、ラッキーでした。特にフロッグファイターはこの辺のモンスターの中では絶品でして。高く売れるんですよ~♪」

「へぇ。そんなに珍しいんですか?」

「えぇ、団体戦になりますからね。しかも賢いので冒険者も嫌がるんです。ですが、肉は絶品なので先にある街にはパブやギルドで卸すと喜ばれるのですよ」


 俺が今回相手したのはファイターだけだったが、他にもマージ、プリーストと居て連携してくるらしい。確かに2匹でも面倒くさかったのに魔法で牽制されたり、回復されて戦場に戻ってこられたら面倒くさい。

 連携をシュミレートしたら確かに戦いたくない敵ではあった。


「本来ならこの森ではキングビートルの角を拾うくらいしか出来ないので、今回の横断は大儲けですよ」

「え? キングビートルですか?」

「はい。ここいら一帯では最強クラスのモンスターで角は武器の素材になるんですよ。ちょうど今の時期生え変わりがあって落ちているのですが…」


 キラキラキラ。


 俺は少し言いよどむと固まってしまった。キングビートルってさっき湖で戦ったあれの事だよね。ここいら一帯のモンスターの中で最強なんだ…。

 ここから先のことは言ったほうが良いのか悩んでいた。

 なんとなくお互い黙ってしまい微妙な空気が流れた。


「おい。イッセイ。このデカイカブトムシの死骸はどうするんだ」


 叔父さんが治療に行っていたエリーと一緒に戻ってきたが、俺が刎ねたキングビートルの頭を掴んで叫んでいた。それを見たマイクさんが驚いた顔をしていた。


「…まさか、キングビートルまでも」

「そうなのよね。イッセイってあの昆虫から私を守ってくれたのよね。一匹は素手で倒してたし」


 エリーが何故か偉そうな顔をして答えてきた。


「素手で倒した…だ、と」

「あはは…。はい」


 目が飛び出しそうな位剥いたマイクさんの顔が何より恐ろしかった。



 ・・・



 …気まずい雰囲気と、そしてマイクさんの料理は続く。


 何か気に触ったのかマイクさんは無言のまま、料理をしている。


「おい…。イッセイ何かあったのか?」


 叔父さんが小さい声で喋ってくるが俺だって何でこんな事になったのか知りたいくらいだ。俺がキングビートルを倒した事を知ったマイクさんがおもむろにキングビートルの死骸から何かを剥いでいき再度黙々と料理をしていた。


 キラキラキラ。


 星は消えてない。寧ろ輝いている。


「コイツの肉をぶつ切りにして、鍋に入れてっと。ちょっと、香草を入れる。…後はこのキングビートルの甲羅を削ったものを煮込めば…」


 キラキラキラ。


「…」


 ブツブツと何かを言いながら料理しているマイクさんだが、この人料理しててもイケメンなので、イケメン料理番組を見ているようだ。と、言っても決して豚が寸胴に入っている姿を想像した訳ではない。

 マイクさんで想像したらイケメン色が強過ぎて料理番組じゃなく温泉番組になってしまうわい。


 そんな事を考えていたら更にに美味そうな匂いが辺りを立ち込めはじめた。


「キングビートルを入れたスープってこんなにいい匂いがするのか?」


 叔父さんがシチューの匂いを嗅ぎながらそんな事を言ってきた。

 それについては同意だ。キングビートルを足してからか凄く美味そうな匂いがしてきた。叔父さんとエリーがだらしない顔をしている。


 ちなみにこんなに美味い匂いがしていたらモンスターに気付かれるのでは? という疑問が生まれそうだが、何も気にしなくても良い。と、いうのもマイクさんのお陰ではあるのだ。

 マイクさんが持っている『結界を発生させる魔導具』を使ってくれているためよほどモンスターが接近しなければ気付かれることは無い、さらに言えば近づかれないためにモンスター避けを設置しているため近寄ってくる事は無いのだ。

 しかし、魔道具が強すぎる。両親から受け継いだらしいが、元々は遺跡の発掘品らしい。こんなに強いアイテムが手に入るなら何れ俺も発掘に行ってみたいものだ。

 

 これだけ自由にしていてずっとモンスターに気づかれた気配は感じないのは、チート級だな。結界の近くを通るモンスターが数匹いたが、ここの場所を避けるように進んでいく姿は慣れるまで落ち着きませんでしたよ。平和過ぎて精霊の皆もここに出てきている。


「がはは。何が出来るんだろうな」

「いい匂いしてる、ね」

「マーリーン。近付きすぎですよ」

「別にいいでしょ。気になるならアクアが早めに近くに来ればいい」

「なんですって」


「騒ぐなら二人共離れてください」


「私達は親友」

「えぇ。マーリーンさん末永く友で居させてください」


「どうだ。バッカス殿。久しぶりに飲まぬか?」

「ほほっ。良いのう」


「セティ。アクア。あっちでお話しましょうよ。私の妖精も呼ぶから」

「僕もエリーには用事があったんだ」

「奇遇です。私もですよ」


 こんな感じで、皆自由である。

 幾ら安全だからといってもここがモンスターの発生する場所だと言う事を忘れてやしないかい? まぁ、既にお祭り騒ぎ状態だし特には突っ込まないが。


「いやはや、皆が何となく距離が近い気がするのだけど」


 精霊の皆が楽しんでくれるのは良いんだけど、俺から離れる子が居ない。トイレに行こうとしても必ず誰かが付いてくるので落ち着いて用も足せない位だった。


「それは、お前から目を離さないためだろ」

「だから、何でさ?」


 ヴィルの言葉に俺はぶっきらぼうに返す。

 だって、質問を質問で返すって失礼だと思わない?

 俺の不機嫌感が伝わったのか知らないけど、ヴィルが教えてくれた。


「あのなちっとは自分で考えろよ。お前ら人族だって契約した主が死んだら不名誉だよな?」

「…まぁ、そうだね」


 ある日、兵士の目が覚めたら王様が死んでた。とかなってたら色々問題だ。


「それと同じだ。お前と言う主をしかも自分たちの不在時に失い掛けたのだ。それは過剰になっても仕方ない」


 確かに先程の襲撃時に皆が出払っていた為、俺が思うように応戦出来なかった。

 俺の未熟さ故と思って反省していたのだが、視点が変われば内容も変わってくるもの。俺は油断から来た自業自得だと思っていたが精霊の皆は、そう思っているらしい。


 自由にしている風だが、皆から何となくこちらを警戒する気配を感じる。


「だが、今回は勉強にもなっただろ?」

「うん。皆が居なくてもある程度は動ける様にしないと」

「アホか、そもそも呼べるだろうが…」

「あ”っ」


 しまった。魔力で呼び出せるんだった。


「そういう所が足りねーんだ。…だが、その考えは必要だ。何かの都合で精霊が使えない場合も有るだろう。その時のために力を付けておくことは間違いじゃない」

「そうか…、そうだね」

「あぁ、体術もそうだが身を守る武具も探したほうが良い」


 ヴィルが優しい…。何か企んでいるのでは? と思ってしまう。

 だが、ヴィルの言うこともご尤もだ。俺は、自分の手をグーパーグーパーさせて見てみる。武器はともかく防具は必要かもしれない。


「確かに…身を守る術は多いほうが良いかも」

「はっ。現金なガキだ。女を助けて急に現実主義になったか?」

「ただ、仲間を助けたいためでしょうが」


 いきなり何を言っているんだ? エリーとはそういう関係じゃ無いっての。


「かぁー。お前を………な奴は苦労するなぁ」

「何?」


「なんでもねぇ」


 ヴィルが黙ってしまったので会話はそれっきりになってしまったが引っかかる言い方で終った。ヴィルはこうなるともう何も言わない。


「出来た!!」


 いきなりマイクさんが叫んだのでビックリしてしまったがとても良い匂いがしたので料理が出来たんだろうなと理解出来た。


「さて、どなたか手伝って貰えますか?」


 マイクさんの元へ行って手伝いをする事にした。どうやらマイクさんは料理のことになると目がないみたいだ。


「うまあああああああああああああああ」


 叔父さんが顔を醜く汚しながら叫んだ。結界の外のモンスターが叔父さんの声にビクリして左右を警戒していたくらいだ。

 その後、皆でマイクさんの作る天にも登るかと思うほど旨いご飯を食べた。


 カエル普通に旨いな。



 ・・・



 食事も一段落し、皆がまったりとし始める。

 久しぶりなのか疲れ切った精霊4人の娘達が俺の膝の上で目を擦りながらゴロゴロ転がっている。食っちゃ寝はやめなさいって、いつも言ってるでしょ。


「何かズルいね」


 自分の妖精を呼び出し背中を撫でているエリーがこちらを見て羨ましそうな顔をしていた。


「良かったら。1〜2人ならどうぞ」


 膝上でゴロゴロする4娘をエリーに見せる。うにうに動く姿は猫鍋を彷彿させる。

 くそっ、可愛いのに気づいたか。しょうがないから貸してやろう。


「いや。そうじゃなくてって、なんでそんなに恨めしい顔をしているのよ」


 じゃあ、全員か?

 そりゃ無理だ。俺だって1人くらいあやしてたい。俺が警戒した顔を見せていたらエリーは何故かガッカリした顔を向けてきた。


「???」


 そんな風にエリーと遊んでいると叔父さんが口を開いた。


「さて、そろそろ。今後の方針について話をするか」


 俺達は帰る方法を探さないといけない訳で、いつまでもマイクさんの護衛をしているわけもいかない。叔父さんとは一段落したら今後の方針について話そうと段どっていたのだが…。


「あれれ? マイクさんも参加されるんです?」

「マイクの好意でシェルバルト領まで送ってくれるそうだ」


 キラキラキラ。


「はい。皆さんのお陰で今回の行商は大儲けすることが出来そうです。それで、私も人族の街まで商売に行くことになりましたので皆さんにはシェルバルト領まで護衛をお願いしたいと思います…ですので、現状の位置も踏まえてご説明いたします」


 キラキラキラ。


 手を高らかに挙げて口を開いたのはマイクさん。

 既にいろいろ考えていてくれたらしく口にした内容は割と具体的だった。

 マイクさんから受けた説明だと現在地は海に近い国【ウリエル国】の領地なんだとか。(因みに【ウリエル国】は世界樹の北東に位置する。)

 これから向かう国境の街は獣人や樹人(体に植物が生えている人)が多く住んでいる街なんだとか、元々この国は魚人や漁師、船を扱う。水に近い人が地位の高い生活をしており、獣人や樹人などの陸に準じる人は地位が低い。マイクさんもあまり人族も見ない事が多く。

 見たとしても時々来る【ウリエル国】の兵士達くらいな様だ。


 そいつらも陸の民には興味が殆ど無いらしく何年に一度見ればいいレベルらしい。

 そのせいで、野盗や人さらいなどが多く居て冒険者が治安を守っている。


 そのたまに現れる兵士に嘆願しても聞いてもらないらしく。寧ろ暴力を受けるのだとか胸糞悪い話だが、獣人や樹人などを半奴隷扱いにしているのだ。

 下手に手を出そものなら【勇者】が出張っってくるためても出せない様だ。


 キラキラキラ。


「次の街で整えたら早急に出ましょう。奴らに感づかれたら皆さんを自国へと連れて行き兵士として働かされるでしょう」


 キラキラキラ。


「なるほど。異議はあるか?」

「「ないでーす」」


 旅慣れている叔父さんが納得しているのだ文句の言い様など無いのだろう。

 胃袋も旅支度もこのイケメン便りになってしまうが問題ない。

 俺とエリーも強く追従した。


「よし。マイクその方法でよろしく頼む」

「畏まりました」


 叔父さんが言うとマイクさんは頭を下げて答えた。


 キラキラキラ。


 この後は美味しい料理を食べて皆でどんちゃん騒ぎをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る