58話 ほっぺに感じた柔らかい感触は…
キラキラキラ。
休憩がてらに倒した3匹のモンスターを馬車に積んでいたらマイクさんの星が飛んできた。近くに来た証拠だ。
振り返ってみると満面の笑みのマイクさんが居た。
俺はヴィルから聞いていた話からマイクさんにお礼を言うことにした。
「マイクさん。ヴィル…喋る僕の剣から聞きました。マイクさんは僕たち三人の命の恩人だったそうで…ありがとうございます」
「いえ。良いんです。当然のことをしたまでですから、それよりも貴方はお強いんですね」
「いえ、師が良いので」
「ご謙遜を。あぁ、そう言えば正式な挨拶がまだでした。改めまして、マイク商会会長のマイク=パンサーです」
「………」
「………」
…キラキラキラ。
マ、マイク=パンサー……だ、と!?
面と向かって子供の俺にすら丁寧なお辞儀をしてくれたマイクさん。取引先でもキチンとしている証拠だ。
「私もビックリしたわ。あの有名なマイク商会の会長さんだったなんて」
エリー曰くエルフの里に入れる数少ない業者がマイク商会さんなんだとか、なるほどエリクシールについて知っていた意味も納得だ。
それよりも、そんな事より気になる事がある。
俺はマイクさんの手を掴むとお願いしてみる。
「ま、マイクさん。ぶしつけなお願いがあるのですが、次の言葉を言って頂けませんか?」
キラキラキラ。
「ええ。良いですよ」
キラキラキラ
「『そろそろ季…』」
「うおぉぉぉ。モンスターの群れが現れた!!」
突然、現れたモンスター達を討伐する。
「はぁ、はぁ。な、何だったんだ今のラッシュは…」
叔父さんは何の前触れも無く現れたモンスターに驚いていた。全くだ。気を取り直して再度確認してみよう。
「マイクさん。先程の件ですが、『そろそ』」
「きゃあああああああ。今度は地面から水が吹き出してきたわ」
「何!! この辺に水脈なんてあったのか!?」
一通り吹き出した水は直ぐにピタリと止まった。
「……」
これが神の意思なのだろうか。
「マイクさん。『そ』」
ゴゴゴゴゴ……ドスーーン。
メキメキメキ…
急に空から隕石が降ってきた。
少し離れた場所の木々がなぎ倒されている。
よし。止めよう。この話はなしなし。
荷馬車を移動させるついでに倒したモンスターと倒木と隕石を馬車に積み込む。
マイクさんは、ホクホク顔で荷馬車を紐でくくっていた。
「いやぁ。儲かりました」
モンスターの革や部材は剥いでまとめ。折れた材木は加工して積めるだけ積んだ。
つい数分前までは空だった馬車は満載になりマイクさんは大儲け出来ますと喜んでいた。
色々、あったので今晩はここで野営する事になった。本来日の光も差し込まない薄暗くジメジメした森なのだが、先程降ってきた隕石(?)のおかげでちょど良い空間が出来ていた。
そこに積めずに余った木を使って簡単な小屋を作成する事にした。ココに生えている木はゆうに10mはあり、太さも直径で5〜6mはある。
残った幹を平らに削りそこを小屋の基礎とした。
さっくりとした建築知識しか無いがイメージしたのは舟屋。まぁ、門のない蔵に近いと思ってもらえれば十分だ。骨組みを立てて板を貼る。防腐加工は魔法で出来るらしい。魔法って便利だね。俺は使えないけど。
なんだか暇だって理由で出てきた(精霊の)皆が野営地作りを手伝ってくれたおかげで結構直ぐに建った。
・・・
キラキラキラ。
「そうですか。エリー嬢も知らない事とは。しかし、私も商人の端くれ。この様な地でお会いしたのも何かの縁です。私にできる事は何なりとお申し付け下さい。価格に見合った仕事させて頂きます」
キラキラキラ。
話していたのは俺の故郷。シェルバルト領の事だ。
俺がそこの三男坊と言う事にエリーが驚いていた。
ちゃんと言った筈だけどなぁ…
「貴族っぽい長い名前だとは思っていたけど、あのシェルバルト領だったなんて一言も言わなかったじゃない…」
あのシェルバルト領が何個あるかは知らないが家名は言ったはずである。
まぁ、あの時は俺はまだ人さらいのレッテルを貼られてたからなぁ。
で、俺とエリーがこんなやり取りしていたが、マイクさんは楽しげに俺達を見ていた。
爽やかな笑顔の中、マイクさんの口がいちいち光る。歯を出して笑っただけでダイヤの輝きのように眩しく光っていた。歯が光る人、テレビの編集以外で初めてみたよ。
「長い間旅をしていますがこんなに楽しい事は久しぶりだ。改めて宜しくお願いします」
「よろ「宜しくお願いします」……」
握手をしようとしたが、エリーが俺を押しのけてマイクさんと握手していた。まぁ、イケメンの手なんてそう簡単に触れないからね。気持ちは分かるよ。
でもね。向こうの挨拶の邪魔しちゃ駄目でしょ。
「エリンシア姫? お行儀が悪いですよ」
ちょっとキツめに怒ってますオーラを出して言った。
「な、何よ。せっかく貴方を心配してたのに!」
エリーは拗ねるとそのまま何処かに行ってしまった。
…あいつ何を心配していたのか分からん。
プンスカと怒りながらエリーは森の方へと歩いていった。お、おい。そっちは危ないぞ。
キラキラキラ。
「フフフッ、仲が宜しいんですね」
キラキラキラ。
そのキラキラってグラデ○ウスのオプションか何かかい? いい加減ウザいよ。
「いやぁ。どうなんでしょうね? 初めて本格的に旅をするんで興奮してるだけかもです」
キラキラを払い除けながら返答する。
「フフッ。そうかもしれませんね。でもここは、レオ国王様も手伝って下さっています。イッセイ君にはエリーさんの事をお願いしても良いでしょうか? この先に湖がありますので、きっとそこにいると思いますよ。それで、これ渡してください。もちろん、イッセイ様が用意した事にして」
マイクさんが手渡してきたのはハンカチの様な布に何かを包んだ物だった。
「これは?」
「レディーに効くおまじないですよ。とっても甘いのです。先程の話の続きはまた後ほどにでもいたしましょう。あぁ、お代は結構ですモンスターの素材と木材、それと空から降ってきた物で足りますから」
キラキラキラ…。
マイクさんは叔父さんの居る野営地へと歩いていった。
「………」
渡されたハンカチを開いてみると中にはお菓子が入っていた。見てみるとできの悪いクッキーの様な卵ボーロの様なお菓子が入っていた。
この世界のお菓子は高級品だ。砂糖は無いわけではないが甘いものを好むのは人だけじゃない。甘いものを主食にするモンスターや甘い液体を罠にするモンスターが居るのだ。
そうして苦労して手に入れた原料も大抵は権力者に流れる。甘い物は金にも匹敵するのだ。
そんな高級菓子をポンと渡してくれるって、どんだけイケメンだよ…。
遠くから優しく微笑むマイクさん。
ヤダこの人。思わずキュンキュンしそうになっちゃう。
ここまでされて何もしない訳にいかない。取りあえずはd言われた通りに湖を目指した。
よくよく考えればここは見慣れない土地で何があるのか全然わからない。
薄暗い森は高い木々によって囲まれており物陰からはギラギラした視線を感じる。
草花が自由なまま生い茂っており。小型パックン○ラワーの様な雑草が数多く生息していた。中にはアグレッシブな奴もいて『キシャー』とか言いながら襲いかかってきた。
茎を捕まえてポィ。
っと、道の脇に投げると『キィキィ。』言いながら逃げていった。
二足歩行できるんかーい。
そのモンスターも数メートル先で違うモンスターに喰われていた。エルフの里付近のモンスターよりこっちのモンスターの方がギラギラしている。
虎視眈々と俺を狙っているのが殺気で分かった。
エリーは良くここを行けたね…。
いつの間にか強くなっていたエリーに複雑な感情を抱いた。森を抜ける。
「コレはすげぇ…」
思わず息を飲み込んだ。
目の前に広がるのは確かにマイクさんに言われた通り湖だった。
この森は、本来明かりが一切差し込まない場所なので基本は暗いがこの湖は別だった。ホタルのようなモンスター…なのか虫。いや、生物や自生している植物が淡い光を放ち湖を照らしていたため明るかった。
更にこの湖には滝があり、打ち付けられ霧状となった水しぶきが湖全体に飛散しているため。幻想的な雰囲気を創り出していた。
ふわぁ……。まるで、ファンタジーの世界に来たみたいだ。
今更何を言っているんだとツッコまれそうだが、それ位にThe,ファンタジーな世界だった。
「イッセイ。お願いがあります。少しの間、お側を離れる無礼をお許しいただけませんか?」
何事かと思ったがそんな事。僕が普段から厳しく接してるみたいに聞こえるから正直止めてほしい。
「あのね、アクアさん。行き先さえ言ってくれれば自由にしていいって言ってるでしょ。他所の人が聞いたら誤解するような事言わないでくれる?」
と、言いつつもアクアがお願いしてくること自体珍しい。余程、この場が気に入ったんだと思い自由にさせてあげた。折角なのでみんなにも自由に遊んでもらうことにした。
「ぷはぁ。やっと出られた」
「はしたないですわよ」
「そう。ここは大人の対応が求められる」
「ガハハ。バトルもお預けが多いからな」
「ワシなんて最近出番が無くて忘れらてる気がするんじゃが…」
思い思いを口にする面々。みんな遠回しに不満げだった。そんなに自由度少なかったかなぁ?
「せ、折角だから自由時間にしようか」
苦し紛れでセリフを言うことしか出来なかったが皆、久し振りだと言うセリフを吐いて出かけていった。
たまには自由な時間を作ってあげよう。そう、心に決めた。
完全に1人になった俺はエリーを探す。魔力探査した事であっさりと見つけることが出来た。
「…エリー」
湖の
「エリー?」
話しかけながら近付いたが顔を隠してしまった。
これは相当ご立腹だぁ。
長期戦を覚悟した。
「勝手に座んないでよ」
曇ったような声が聞こえてきたが、無視してエリーの隣に座る。
マイクさんから貰ったお菓子がほんのりと美味しそうな香りを放ち存在をアピールしてきたが、お菓子の出番はもう少し後だ。まずはエリーとお話ししようか。
「あー。さっきはごめん」
「……」
「折角、エリーが気を使ってくれたのに素っ気ない態度を取ってしまって…」
エリーからリアクションが無いため重い空気が流れていた。エリーは喋ろうともしない。
仕方がないので湖を見ていたらある事を思い出し、その思いにふけっていた。
初めて爺ちゃんと婆ちゃんに連れられて、父さんと母さんの墓に行った時の話だ。
親の死を受け入れられる年齢になったらと言う事で連れてこられた墓参りだったが、親戚が集まる父さんの実家で、周りの親族の哀れみの目や気味の悪い顔で『うちに来るか』と聞いてくる酒臭いオッサン連中。(今考えれば爺ちゃんと婆ちゃんに失礼な話だ)
人を『親なし』と罵るいとこの子。俺は耐えられず外に出た。
道の反対に出ると海になっていた為、俺は波の音を聞きながら夕日と海をボーッと眺めていた。
で、海を見ていたら声を掛けられたんだ。
「ねぇ、何を見ているの?」
そうそう。こんな風に…って。
言葉を発していたのはエリーだった。
「それは、エリー…後っ!!」
エリーを見たら彼女の後ろからモンスターが二匹迫ってきていた。カブトムシが大きくなった様なモンスターだ。
剣スコップの様な形の角を突き出してエリーの頭部を狙って来た。
「きゃっ!」
俺は咄嗟にエリーを抱きかかえるとそのまま地面に倒れた。
ブブブッ!!
俺の背中を少しかすめながらも何とか回避に成功する。
「イッセイ? 血が!」
「かすり傷だ」
ブブブッ!!
通り越した2匹のカブトムシが少し離れた場所で旋回行動を取っている。
「あれは、キングビートル!!」
エリーは名前を知っていたらしい。
しかも驚き方から結構危険な部類に入りそうだ。
「この、ウィンドー!!」
エリーが魔法を唱えるがキングビートルはエリーの魔法を跳ね返すとそのまま突進してくる。
「全然、効かない!?」
「硬い甲殻を持つモンスターに風はダメだ。土か木を使わないと…」
ブブブッ!!
うわっ。また、飛んできた。
しかも一匹が近くの木を斬ってこちらに投げてきた。
「あぶなっ! ぐわぁ…」
ゴロゴロ転がり木を躱したが、残念ながら躱しきれなかったようだ。足が気に挟まってしまい動けない。
そうだ。精霊の皆を呼ぼう。
「バッカス!! えっ!? プロメテ。あれ? アクア…」
名前を呼ぶが誰も出てきてくれなかった。皆が居ない? って、そう言えばさっき、自由時間にしようかなんて話していたっけ。
俺は、バッカス達精霊が近くに居なければ魔術は使えない。技を使おうにもポケットに魔石が入っていなかった。
「あ、あれ? 魔石が無い」
「あっ、治療に邪魔だから抜いちゃった。テヘッ」
下にいるエリーが教えてくれたが、『テヘッ』っじゃねー。マジかよ…。
適当に投げれる物を探すが砂地で投げる物が直ぐに見つからなかった。
エリーが魔法で応戦してくれているが、時間稼ぎにしかならなかった。
マズイ。このままではジリ貧だ。二人で魔闘技を発動させて何とか攻撃を躱すがなかなか足が外れない。
寝転がりながらキングビートルの攻撃を躱し続けていたエリーに攻撃がヒットした。
「あぅ…」
「エリー!!」
「大丈夫。脇の武器ホルダーが取れただけ。スパイクニードル」
エリーの咄嗟の土魔法で木が外れた。
俺達は立ち上がり一匹は俺が相手する。
勢いよく振られた角の一部を掴んで止めて、横にひねる。
魔闘技を使っても中々横に倒れない。こんな時、前居た世界の知識が役に立つ。
モンスターに背中を向けると一旦腰を落とす。次に背中を密着させ掴んだ角を上に押し上げながら腰を起こし前方に向かって引き下ろす。俺が腰を落とすとキングビートルの体が宙に浮き仰向けにひっくり返すことに成功する。
キングビートルがギチギチ言いながら足をジタバタさせていた。
「体育の授業が役に立つとは…」
ブブブブッ…。
耳障りな羽音を立てて暴れているが、しばらくは起き上がれそうに無い。
エリーは無事か?
「いやあああああああああ」
「エリー!!」
俺は床に転がるエリーの武器を拾う。
エリーに襲いかかるキングビートルの背中越しにエリーの剣を突き刺す。
--ドバッ!!
キングビートルの腹から剣が生えていく。
背中の羽の部分からエリーの細剣を突き刺した。
「ギチチチチチチチチチ………」
エリーを襲っていたキングビートルは動かなくなった。
「ギ、ギギギギギ」
起き上がったもう1匹が突然飛び立ち逃げ出そうとしたが、
「へっ。ガキが自分で立ち直るとはな」
宙に浮かぶヴィルが、一瞬でキングビートルの頭を刎ねた。
ゴロゴロと俺の近くに落ちてきたキングビートルの頭と体。ちょっと気持ち悪い。
もうちょっと落とす位置を考えて倒して欲しい。
空から降りてこないヴィルを睨んでいると、
ぷにっ。
ほっぺに柔らかい餅を押し当てられた様な感覚を得た。
何かと思って見てみると、エリーが赤い顔をして唇を押さえながら立っていた。
「…イッセイ。ありがとう」
「ヒュー。見せつけてくれる」
ヴィルがからかうように言ってきた。
「あ、あの。エリー?」
「あ、貴方が頑張ったから……、そう! ご褒美よ」
顔を真赤にしたエリーは野営地の方へズンズン進んでいった。
俺は頬を抑えながら固まってしまった。
「よかったな」
「うぉ!? ビックリした。いるなら言ってよ」
「…いや。ずっと居ただろ」
ヴィルに呆れたように言われたが耳には残っていなかった。
しかし、たまたまでほっぺにキスするのか? こっちの人は進んでるな…。
ほっぺを摩りながらそんな事を考えるちょっと残念なイッセイであった。
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