一部 二章 森を護りし一族と亜人の勇者

35話 ドラゴンの墓場

「うわー。久しぶりの人里だぁ」


 俺は人が自由に歩き回る姿を見て思わず声に出してしまった。


「おいおい。そんなにはしゃぐなよ。目立つだろ…」

「レオ叔父さん。早く早く。何か食べよう」

「分かったが、ちょっと待て。コイツらを処分してからだ」


 レオおじさんは肩に担ぐ荷物を降ろしながら言った。

 大きなモンスターが三匹。道の真ん中に降ろされる…。

 それを見た人々が驚きの顔をして見つめていた。


 おじさんの方がすっげー目立ってますけど?


 俺達が立っているのは何の変哲もない街…に発展している最中かな?

 街にしては長閑な所だ。一応、冒険者ギルドや宿屋などはあるみたいだ。そんな感じでも嬉しいものは嬉しい。


 それは、約1ヶ月ぶりにこんなに多くの人を見たからだろう。


 とある事情から暫く人を見ない生活を送っていたせいかテンションが自然と上がった。しかも、人族より獣人や亜人と言った獣人やカエル、昆虫の様な両生類系や昆虫系の容姿の人も多い。そういう種族は初めてで、なんと言うか物凄い興味深い…ジュル。 


 さっきから街のあっちこっちから香る美味しそうな匂いが…俺の口の中にいっぱいによだれを溜めた。


 やったーー!! これで、まともな食べ物を食べれるじゃないかぁぁぁぁぁ!!


 この一ヶ月ずっと、お腹が減ったら。

 狩りをして ⇛ 焼いて ⇛ 食べる ⇛ 狩りをする。

 この繰り返しだった。味付けも単調…いや、有るだけマシだった。後半は調味料も切れてしまってただ、臭い肉を焼くだけの味気のない旅をしていたから…。


「やっとこの地獄から脱出出来る!!」


 両腕を天高くに突き上げる。俺を照らす太陽がいつもより眩しく見えた。へへっ、自分が眩しいぜ。


「オーバー過ぎんだろ…」


 ヴィルが呆れたような声を上げるがそんなのはどうでもいい。

 今は街に立ち込める美味いもののを食べに行こう!!


「ヴィル、叔父さん。早く早く。何か食べよう。久しぶりに香辛料の匂いがするよ」


 叔父さんの腕を引っ張る。


「おい。やめろ。エ**。コイツにおとなしくしろって言ってくれ」

「い、いや。わ、私も結構…」

「お、お前もか…」


 ふふふっ、やっぱりコイツは分かってるな。


 --キラキラキラ


「ははは。皆さん仲が宜しいですね。お陰さまでこの町に物資を届けられます。ありがとうございました」


 マイクさんは馬車に乗ってコチラに近づいてきた。

 と言うか、満載だった荷台の荷物は何処行った?


「ここでお別れか?」

「はい。次の予定がありますので、ここで失礼します」

「そうか、ここまでありがとう。おかげで助かった」

「「ありがとうございました」」

「えぇ。皆さんもお元気で」


 --キラキラキラ


 マイクさんは俺と叔父さんと俺の隣にいるフードを被った子の三人の手を何度も握り。何度何度も感謝の弁を述べてくれたのは、荷馬車に乗って次の町を目指していった。

 オーク種の人なんだけど、よくいる豚の化物っぽい感じは全く無い。

 豚鼻が付いてるけど…。紐みたいなのが付いている。

 スゴくシュッとしてて、美形なんだぜ。


 そうだな、【グットルッ◯ングガイ】にブタ鼻とブタ耳を付けた。と、言えば分かるかな? 兎に角超イケメンでしかも優しいんだ。キラキラも飛んでるし。


 それに、この人に合わなければ今頃どうなっていた事か…。





 ・・・時間はかなり前まで遡る。



 ヴィルのわがままに従って始まった俺の人生経験(短縮超濃縮版)は、王国の闇を採用する直前で、国王であるレオナルド=ララ=ガブリエル叔父さんに師事し続けて早1ヶ月。

 王都より東に数日行った所にある『ドラゴンの墓場』と呼ばれる渓谷にて修行をしていた。叔父さんは勇者で【勇猛◯】、【剣技◯】、【格闘◎】を持っていた。

 どちらかと言うと戦士系の勇者だったが、戦い方、剣の使い方をメインに体捌き、絞め技、格闘技、組み手、モンスターの捌き方、弱点、生体、食料………。


 …占めて全128項目という。

 脳筋と思わせつつもやたら細かい所までツッコむ科学者タイプの戦士だった。


 その他にも火の起こし方、寝床の作り方、川のない所での水の確保、拠点の防衛、モンスターの驚異を躱す方法。などなど、サバイバル的な事。


 極めつけは、街でのギルドの対応の仕方(ギルド嬢を口説いていた。)、絡んでくる冒険者の扱い方(裏に行くまで弱いフリしてボコボコにしていた…。)、商人との取引(難癖つけて来た商人を逆に脅していた。)、物の手配の仕方(大量に仕入れを行う変わりに販売価格を半値にしていた。)と、対人とのやり取り。


 …この一ヶ月で色々な事(主に国王が黒いって部分)を学んだ。

 最初はハチャメチャだと思ったが、何だかんだで楽しんでいる自分が居た。

 悪いことは楽しいって事だ。


 しかし、今日はもう王都へと帰還する日だ。


「そろそろ、約束の1ヶ月だな。我が息子イッセイよ」


 叔父さんは俺のことをたまに(ルビで)息子と呼ぶ。

 決して情にほだされたとかじゃない。単純に俺をからかう・・・・時に使う。

 でも、親子に間違えられるから冗談でも止めてほしい。

 実際に何度か間違えられてえらい目にあった。酒場のマスターとか、酒場のスタッフさんとか、酒場の常連さんとか…もうこの人は酒を飲むのをやめて欲しい。


「あの~。僕はまだそういう事を考える歳でもないので…。『息子と書いてイッセイ』と呼ぶの、止めてもらえます?」

「はははっ、そんなに謙遜するな。うちの家族は皆お前を気に入ってるし、今回の件でワシはお前を気に入った。戻ってソフィアがその気なら皆に公表しようじゃないか」

「絶、対、に止めてください」

「はははっ、照れるな息子よ」


 何笑ってんだ。息子って呼ぶなって言ってんだろ。

 と、言うようなやり取りが日常茶飯事になる位には打ち解けている。(いや、俺は割と本気だけどね)

 

「国王陛下。準備が整いました」


 俺と叔父さんを呼びに来てくれたのは城の兵士の一人。

 モブート・エイさんだ。モブートさんはエイ、ビィ、スィーの三兄弟で今回の遠征に参加してくれた。いわばバックアップ部隊だ。主に俺と叔父さんでこなしたクエストで手に入れた素材や印、身柄の引き渡しなどをギルドに収めたり、街で売ってきてもらったり、物資を補給してもらったりしていた。


「今までありがとうございます」

「いえいえ。俺たち兄弟にとってはお二人に仕えれたのは至極光栄です」


 俺が握手を求めるとエイさんは両手で握り返してくれた。はっきり言って俺の方がお世話になりっぱなしだったので恐縮してしまう。


「雑用ばかりで申し訳ないです」

「いやいや、いつもならもっと酷いんです。王の作る料理とか、酒に酔った時の評判とか、ドラゴンの墓場ここでも、有名人でしたから。でも、今回はイッセイ様が要らしてくれたおかげで大分助かりました。」


 辛い過去を思い出したのか、エイさんが遠い目をして教えてくれた。


 叔父さん…。なにやらかしたんだ。

 しかし、ドラゴンの墓場…か。


 俺は、この一カ月間を振り返る。


 凄く恐ろしい名前だが、実際はドラゴンの生息地ではない。

 遥か昔にこの地で息絶えたドラゴンの骨が渓谷に残っていてるためその様な名前で呼ばれているのだが、どういう訳かその場所は魔石や結晶化した宝石が採掘が出来きると共にモンスターの群生地になり易い場所だった。

 その為、この場所は国の管理の元、『重要資源鉱山』として稼働しており。採掘場所は国が安全・・を確保した所のみを採掘可能なポイントとして公開している。

 だが、そういう場所には一角千金を夢見て来る駆け出しの商人や冒険者が出現する。

 そして、欲をかく人は決まって度々(採掘量の多い)立ち入り禁止区域に侵入したり、レアドロップを狙って無茶な戦闘をする。

 しかも、運良く生き残ったものを狙う姑息な盗賊も数多く出没する。とんでもエリアだった。


『ドラゴンの墓場の秩序を守る。』

 叔父さん達の仕事は、そういったルール違反者の取締や盗賊退治といった業務を国とギルドで連携でおこなっていた。


 俺も業務の一部を手伝いながら、ギルドへの交渉や取り締まった人の説得などをおこなっていた。


 それも今日で一旦は終了を迎える。

 理由は俺の学園が始まるからとの事と、この1ヶ月でだいぶ違反者と盗賊を捕まえたので不正な行動を取るものが減ったためだ。

 叔父さんもにドラゴンの墓場で、人の面倒を見つつも保護などを行い。案件が減った際には王国でデスクワークしてた。

 まさか国王様が自ら警らに当たっているなど思うはずもなく。

 理由を知っているモブート兄弟以外からは王都から派遣されたおっさん兵士と言う認識だった。


「おっ、おっさん。おはよう」

「おっさんさん。チッス」

「おう、おっさん。飲みに行くぞ…」

「おっさん様。この前は愚息がご迷惑をお掛けしました。今日は黄金のまんじゅうを…」


 と、まぁ道行く人はおっさん(国王)に声を掛けていった。


「叔父さんは随分人気なんですね…」

「我々も最初は王の元から人を剥がしていたんですが、王はあの性格ですから。カリスマなのですね。王の下にどんどん人が集まるようになってまして…」


 目を離したら叔父さんに人が群れを作っていた。

 カリスマスゲぇー。


 ・・・


 叔父さんは集まった皆さんに丁寧に別れを告げていた。

 暫くは、交代で入るギルドの職員と補充で入る城の兵士さん達でまかなえるという。「数ヶ月後にまた会おう」と叔父さんが言うと涙を流す人もいた。

 カリスマ…スゲぇーよ。


 色々あったけど楽しい一カ月だった。

 次来れるのは夏頃になりそうだが、その時には更に深い経験が出来るだろう。


「レオ叔父さん。ありがとうございました」

「俺からも言わせてくれ。こいつにいい経験だった」


 俺がお礼を言うと、ヴィルも叔父さんにお礼を言った。上からなのはいつもどおりだがお礼を言うこと自体珍しいので思わず驚いてしまう。

 叔父さんも満足がいった結果だったらしく。ニンマリと笑顔を向けられた。髭面が濃すぎて顔が見えないからそうだろうって言う雰囲気だけどさ…。


「なぁに。こっちもずいぶん儲かった。モンスターの素材は倍以上の効率、盗賊団のアジト壊滅。結果をいえば俺たちのほうが得だった」


 台帳を捲り指を舐める叔父さん。こう言う所は割とチャッカリしている。


「では、そろそろ行くか…」

「了解!!」


 叔父さんの掛け声で王都に向け出発しよう。モブート・ビィさんが台車を押し進みだしたところで………、


 --ドダドダドダドダドダ!!!


「オラァ。邪魔だ」

「道を開けろー!!」


 こちらの道幅も考えずに真ん中を爆走する馬車が来た。と思ったら、通り過ぎていった…。


 何を急いでいるのやら。

 チラッと見た感じ王国の騎士のような格好はしているが、きっと偽物だ。

 だって、同じ国のモブートさん達を見て無反応だった。

 急いでいたにしても顔を見なかったのは可怪しい。


 そうなると奴等は…、


 他者から奪った物を着ている可能性がある。

 それに一緒に通り過ぎた馬車も怪しかった。すれ違いざまに見た馬車は目張りされていた。


 …あれは何かを隠している。


 と思った瞬間に俺の肩が重くなる。


「今のどう見る?」


 叔父さんが俺の肩にのしかかってきた。

「今のどう見る?」これは、最近の叔父さんは俺に何かを判断させたい時に良く言ってくる。しかも俺が答えを言うまで何も言ってこない。とっさに判断させるための訓練らしいのだが、一ヶ月で流石に慣れた。


「クロですね」

「だよな。…やれ」


 叔父さんの口元が妖しく歪む。


 …叔父さんの癖が読めるようになってきた。

 叔父さんは悪党を懲らしめることに悦を感じてるらしく、この笑みは今後の展開に楽しみを覚えている笑みだった。


 俺は苦笑いする。

 

「バッカス」


 名前を呼んでバッカスを呼ぶと俺の肩に重みを感じる。

 参謀になりつつあるバッカスが姿を消して俺の肩に乗ったんだと感じた。


「いくよ」


 右手を集中すると、土で出来た塊が出来てくる。バッカスの力を借りた物質生成だ。俺の魔力を糧にして無より物質を生成する。


 で、今考えたのは『粘土』をイメージした。モチロンくっついた瞬間に乾燥するスグレモノ・・・・・

 すると、右手にはゴムボール程の大きさの粘土が複数出来ていた。


「コイツを喰らえ!!」


 上空に向かって放り投げた粘土は、2階程の高さまで上昇する。

 そこからは俺の授かった加護【100発/100中グングニル】を発動する。


100発/100中グングニル!!」


 唱えた瞬間、空中に投げた粘土の弾が俺の魔力に反応し、空中で静止し『ブルブル』と震え、そして、そのまま物理の法則をガン無視した軌道で粘土の弾は彼方を走り去っていく馬車の両前輪にヒットし、くっついた。


 いきなりブレーキが掛かった馬車は、ガギッっと変な音を立てて頭から地面にツッコむ様な動きを見せる。100-0への慣性力。

 一度下に沈んだ車輪はその姿を破壊し、応用力を持って空に反発する。


「うわぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・ぁ・l…」


 まるで世界がスローモーションになったかの様に見えた。

 跳ね上がった馬車は前輪が重いもので潰されたようにひしゃげ、宙を舞い。

 馬車を引く馬が乗っていた御者が、馬車に引っ張られ一緒に宙を舞っていく。


「ヒヒィィィィンンン…!!」

「うわぁぁぁぁ…」


 馬車に乗っていた騎士の1人が叫んだ。


 馬車は数回バウンドして馬ごと横に倒れた。残念だけど馬は助からないだろう。

 ごめん…。


「ふむ。不幸な事故があったな」

「…えぇ。とても不運な人達です」

「仕方がない助けに行くか」

「しょうがないですね」


 フフッと笑う俺とニヤッとする叔父さん。

 この時、モブート三兄弟は「コイツラ似たもの同士だ」っと、思って苦笑いしていた。

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