間話 現代の世界にて



 俺の名前は前田一也。こう見えても都内では有名な高校に通う17歳だ。


 ある人が言っていた。


「17歳は大人と子供の間で一番微妙な年齢だけど、この曖昧感が一番好きなんだ」


 とても良い言葉だと思った。俺にも彼女がいる勿体ないくらいに出来た彼女がいる。そんな彼女と過ごす17歳。くぅ~最高だ。

 そんな幸せいっぱいの俺に悩みなんて無いだろう。と人は言う。まちな。

 こんな俺だって悩みくらいはある。それは、俺の親友であり悪友である"山本 一生"の事だ。アイツはイケメンの癖に彼女も居ないんだ。


 えっ、そんなの個人の勝手だろうって?

 ちちち。アイツはな好きな女がいるんだけど、告白しないんだ。ただ奥手なだけなんだよ。

 それに親代わりの爺さんが他界してあいつは更に暗くなった。休日は自分の家から出ない怠惰でネガティブな生活を送っている。そんな親友のために一肌脱いでやろう。アイツには楽しく笑い合える彼女が必要だ。そんなアイツの事を好きだと言ってくれるあの子のためにもな。


 ・・・


 という事で今日は親友にとって素晴らしい1日になること間違いないだろう。

 なにせ、アイツを好きで居てくれた女の子が痺れを切らしてアイツに告白したいと言ってきた。

 俺と彼女の恵は二つ返事で了承。既に親友は呼び出している。

 恵が少々悪のしすぎて脅しっぽくなってしまったが、まぁ良いだろう。

 今日この日が過ぎれば、泣いて恵にも感謝するだろう。

 で、アイツは家から出てきたのは良いことだがあのバカこのくっそ熱い天気にも関わらず律儀に外で待っていた。


(普段外に出ねえから、待ち合わせすら場慣れしてないとは・・・。)


 我が親友ながら頭が痛くなる。因みに俺と彼女とその友達は近くの喫茶店で奴を観察していた。


「あいつ・・・バカなのか?」

「ああ言うのがね、グッと来るのよ。灼熱の外にポツンと1人。汗をかきながら待っている姿。ゾクゾクする」

「恵とはちょっと違うけど、待ち合わせにキチンと来てくれるのは嬉しいね。私だったら1分も待ってられない」

「・・・そんなもんかねぇ」


 先程から親友からバンバン、ショートメールが飛んできている。内容は【まだか?】これだけだ。

 一応、あいつが熱にやられて喫茶店に入ってきたことでネタバラシし、その後4人で遊びに行くことに決めているが、喫茶店を目の前に全く来る気配すら無いのが恵達にはツボだったようだ。


 いや、恵だけか・・


「やっぱり、行ってくるね」

「えぇー。英梨奈もうちょっと見てようよー」

「ダメ。これ以上は可哀想だよ。それに熱中症になっちゃったら出かけられないじゃない」

「そうなったら、彼の部屋に一泊になるかもね」

「!!?」


「赤くなって。英梨奈。かわいい。」


 女子連中はこんな感じだったが、俺も英梨奈ちゃんに一票だ。

 これ以上待たせるとあいつ帰るぞ。

 恵のドS攻撃を何とか凌いだ英梨奈ちゃんが喫茶店を出ていった。


「あぁー。あたしのおもちゃが~」


 恵を見て苦笑いしかでない。

 こいつはドSな素振りは見せるが本心はそこまでではない。どちらかと言えば平常時は常に周りに気配りし何かとフォローしてくれるタイプだ。だが、恵はあいつと英梨奈ちゃんには恐ろしいほどのドSだった。


「あの二人。上手くいくかな?」


 カウンターにつっぷしながら恵は聞いてきた。今回の事で緻密にスケジュールを立てていたのは恵だ。やれ、あそこは良いだの。ここが旨いだの。二人の幸せを祝福したいがため頑張っていた。


「絶対に上手くいくさ」


 だって、お互い既に両思いだしな。俺と恵が裏を取った結果、二人は既に告白すれば良いレベルまで達している。俺的には一生に勇気を出してもらいたい。

 今の時代ナンセンスだって言われるかもしれないが、一生には色々挑戦してもうちょっと生きる希望を持ってもらいたい。昔はあんなに無気力星人じゃなかった。活発な性格、積極的な考え、優しい人当たり。生き生きしていたのだが、家族が減っていく毎に今のような守る生活に変わっていった。


「お前のじいさんからも頼まれているしな……」

「うん。なにか言った?」

「いんや。 おっ、英梨奈ちゃんが一生に接触するぞ」


 つっぷしていた恵は、起き上がり。初々しく話をしている二人に食い入るように見つめていた。

 そんなに気になるならもっと分かりやすくアドバイスすれば良いのにと思うのだが、これも恵の優しさかと思うと笑顔が溢れた。


 改めて二人に目を向けると・・・様子がおかしい。

 英梨奈ちゃんが何かを振り払う素振りを見せていたかと思うと次の瞬間。


 光が広がった様な気がして目を閉じる。細く目を開けると、


 目の前の二人が消え・・・うん? なにか居たか?

 恵を見ると彼女も俺と一緒で外を食い入るように見ていた。


「何か面白いものでも見てたっけ?」

「分かんない。・・・けど、何故か悲しいの」


 恵は泣き出してしまった。俺も同感だった。何か居たわけでも無いのにすっぽりと穴が開いたような、そこに居た物がない違和感。そんなものが俺の中にあった。


 その後、俺と恵はデートもせずに帰った。


 ・・・


「一也。おっはよー」


 駅から学校までの道のり、そこから俺の朝は始まる。

 電車通学の恵を駅で待っていて合流してから登校。それが朝の日課だ。

 前はこう、もっと賑やかだった気がするが何だろうか? 歳かな・・・。


 しっかし、今日は恵の機嫌がスゴく良い。

 最近塞ぎ混みがちだった彼女の笑顔は久しぶりだ。

 そして、俺も機嫌が良い。昨日見た夢がとっても面白かったからだ。


「おはよう恵。何か良いことでもあった?」

「わかる?やっぱり、一也は私の最高の彼氏だね」


 ここまで全開の誉めちぎり方は付き合いたての頃と似ている。

 何となく嬉しくも恥ずかしい気持ちで聞いていると、


「昨日、面白い夢を見たの」

「ほーう。どんな夢?」


 恵も面白い夢を見たらしい。

 そこまで似ているとは、やはり恵は俺の運命の人なんだな。

 俺は恵と同じ状況で幸福が得られたことに喜びを感じていた。


「それでね。夢のないようなんだけど。とある男の子が好きな女の子の夢なんだ」

「おやおや?浮気ですか恵さん」

「違うよ。何処かの国の小さいお姫様なんだけど、内気でね。精霊さんに貴方だあれ?って聞いたら猫みたいに逃げちゃって・・・」

「ふーん。剣と魔法のファンタジーみたいだね。って、俺の夢にも精霊が出てきたな・・・」


 恵は登校中ずっと夢の話をしていた。


「・・・・それで、男の子にもらったプレゼントを大事に抱えて帰っていくってところで目が覚めたの。そうしたら私もスッゴい幸せな気分になれた」

「俺の夢も似たような感じだったな。精霊が付与したブローチを作ったらぶっ倒れて船酔いみたいに気持ち悪かった」

「あれ。その夢スゴい似てるね?」

「でも、お姫様相手じゃないよ。近所の領地の娘さんだった」

「へー。なんだか設定が似てるね」

「まぁ、ファンタジーだしなぁ……。ってヤバイ。予鈴鳴ってる!!」


「一也はしれ~」

「・・・了解」


 いつも通りに戻った恵。

 顔を見て安心した、俺も何だか久しぶりの友達に会った気分だ。


【イッセイ】それが、俺の夢の主人公の名前だ。

 もう見ることも無いかもしれないが取り合えずありがとう。


 また、お前に助けられたな。


 なんでか分からないがそう思えた。

 そう思いながら恵を追いかけて俺も走った。

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