32話 報告完了

「なっ、そんなことが!! いやなるほど。それで報告と一致する」


 宰相殿が驚きと納得の声をあげる。

 父様も驚愕しており、陛下は鋭い眼光をこちらに送ってきていた。


 話をしたのは、ゴブリンの発生した事実と奥にいたマザーゴブリンという変異したモンスターの存在、それと破壊した魔法陣の方法についての話だ。

 宰相殿の話によると数年前まではここは観光地だったのだが、近年モンスターが姿を表すようになり不思議に思っていたそうだ。

 なので、ここ数年は王家の人間も入り口でUターンする様にしていた様だ。

 だったら何で俺達には奥に行かせようとしたのか小一時間ほど問い詰めたいが今は抑えることにする。


 一連の話をすると、父様からは単独行動を取った事の咎めを受けた。

 何で姫様達と一緒に戻らなかったのか本気で心配してくれる感じが嬉しい。

 ま、雑魚が相手だったし、足手まとい(兵士さんたち)の面倒は嫌だったし、家宝のナイフ(ヴィル)が『リンリン』五月蝿かったしな。


「実は、ギフトの他にも頂いたものがありまして…」


 ここで言うのも何だけど、【洗礼の儀式】で貰った称号が有ったのを伝える。


「ま、まさか…、初代国王と同じ通り名を受けた…だと…?」

「えーと、えぇ…。たしかそうだと聞いて言います」


 父様が困惑した声を出していたが、俺にはその重要性がいまいちピンと来なかった、ピンと来ていなかった。だから周りの反応を見て初めて・・・・事の重大さに気付いた。

 失言した事に気付き顔を上げると父様以外の陛下も宰相殿も固まっていた。

 精霊の皆の事も話そうかと思っていたが、これ以上はお互い(聞く方と話す方)のストレスにしかならないと思い。隠すことにした。

 実際、父様は血の気の引いた顔をしており胃も痛そうだった。


 宰相殿がボソリと呟く。


「この様な敵も排除出来るとは…。イッセイ君が居れば暗殺など容易いと言うことか…」

「「「!?」」」


 一斉に皆が俺を見た。


 やろうと思えば確かに出来ますね…。

 ただ、別にそんな事をやるつもりは無いですが。


 何と言われてもこの力を人相手に使うつもりは無いし、仮にそうなっても出来るだけ手加減するつもりだ。前の世界の記憶があると『殺し』と言うキーワードは結構キツイ。

 え? 『じゃあ、何でモンスターは大丈夫なんだ?』 だって? それは、精霊の皆からしごかれたから…。

 3歳にしてハウンドドックっていうオオカミの大きくなった奴やジャイアントボアっていう大きな猪や軍隊アリにヒューマンノットリザード…などなど。実家(シェルバルト領地)近くのモンスターは大体狩らせられていたため慣れたっていうのが本音だ。

 その論点で行けば人も殺められる事にはなる。

 まぁ、この世界に来たことで何れ止むを得ない時が来るとは思って諦めてはいるんだけどね。

 ただ、そんな日は出来るだけ来なければ良いなと思っている。


 場には微妙な空気が流れたが、宰相殿は先程からスクロールを確認している。

 俺の話を照らし合わせているのだろう。書記の文官が取ったメモと何度も見返していた。


 なるほど。この人は仕事の為に聞いただけか…

 何時もは陛下の際どい表現に胃を痛めるシーンが多い宰相殿だが記録を取っているときは事務的に感情をコントロール出来るのか…


 宰相殿の社畜っぷりを新たな一面で捉えることが出来た瞬間だった。


「ふぅ。それだけの力があるならますますソフィアと一緒になって、この国を守って欲しい所だね」


 陛下は、机に肘を付き。俺に対して物欲しそうな顔をして見ていた。


 ですから、身分が違うと言っているでしょうが…。


 雑談が入り話が脱線しそうになると宰相殿がコホンと咳を1つ払う。そして、強い視線を投げてくる。

 その鋭い視線は、『俺の仕事を邪魔するなら殺すよ』って感じのプロっぽい殺気を放っていた。

 場の空気の温度は下がり、陛下も静かに姿勢を正す。

 何となくだけど正座したい気分になった。


「さて、この剣の話だなと言う前に…」


 陛下がスッと頭を下げてきた。

 宰相殿もそれに合わせて頭を下げてくる。


 えぇー。急になんですか?


 目の前の二人の行動の意味が理解できず、俺と父様がドン引きしていた。


「改めて礼を言わせて欲しい。この国の驚異が去ったのは君のおかげだよ」


 陛下からお礼を言われてしまった。

 と言ってもモンスター共はあの洞窟から出てくる気配は無かったけどなぁ…。


 どちらかと言えば、洞窟内の封印を守っているって言う感じだった。


「本来なら爵位を与えるべきなのだろうが…。イッセイ君には爵位など不要だろう? ここまで露骨にチラつかせても反応もイマイチだったし。どうだい? この際、ソフィアを貰ってくれ「陛下!」」


 さり気なく娘を報酬に入れてくる陛下。

 流石に宰相殿がツッコミを入れてた。


「だって、彼まだ5歳だよ? 他所に取られるなら王家に入れたいでしょ。宰相の家の娘だって同じ年でしょう?」


 陛下が訳のわからん事を喚いていた。

 宰相殿。ガツンと言ってやって。


「……」


 おいおいおい。目を反らすんじゃない。


 俺は宰相殿の娘さんとだって結婚しないぞ!

 って、娘さん居たんですね? 誰だろ。


「…その話はまた今度にして頂いて宜しいですか? 今はとりあえず封印が破壊された経緯を聞くのが先決かと。それにイッセイの相手は自分で決めさせますので」

「…え? う、うん。そ、そうだね。それが良いよ。公爵家って言ってもそんなに良い生活じゃないし、家族と離れるのは良くないよ。それでは続きを教えてくれるかな?」

「そ、そ、そうですな。王家って言っても息が詰まるだけですからな。イッセイ君の話を聞きましょう」


 バチバチやり過ぎだろ…。


 あの後も暫く陛下と宰相殿は、お互いに何かを言いかけては肩をぶつけ合っていたが、流石に痺れを切らした父様が話の流れを戻した。


 さて、それでは真打ちの登場させるか…。


 ここからの話は正直厄介なのだ。

 いくらファンタジーとは言えどう反応されるか分からない。取り敢えずここに居る人意外に、この聞かれるとマズイので、話を始める前に保険を掛けさせてもらう。


「お話をする前に少し細工をさせてください…」


 俺が左手の人差し指と中指を左耳に当てる。

 すると陛下は興味津々だった。


 細工と言っても大したことはない。この部屋を盗聴しようとすれば俺に分かるようにするだけだ。

 左耳には、魔石を使った受信機が付けてあり、セティの風の魔力とアクアの水の魔力を込めた魔石をて外に隠しておいた。これによって言葉は俺の耳の魔石に送られてくるし、動きによって起きた水面の音も聞こえてくる。

 簡単に言うと音声+波紋センサーを耳に付いている集音機能無線器で聞いているって寸法だ。


 耳に付けている物と同じ魔石を机の上に置く。


 俺が魔力を送ればスイッチをON/OFFする事が出来る。

 早速スイッチをONにすると、魔石から外の廊下の声が聞こえる。


「…あの小僧何者だ?」

「しーっ、辺境伯爵様のご子息様だぞ。誰かに聞かれたら不敬罪だ。…しかし、俺はあのお方が恐ろしいよ」

「あぁ、ただのスカしたガキだろ」

「しーっ、お前何度言えば分かるんだ。って言うかお前姫様がイッセイ様と良い仲なのが気に入らねえんだろ」

「ばっ!? そ、そんなんじゃねぇ。姫様は俺の守るべき主君だ…」

「じゃあ、イッセイ様は将来のお…」


 俺は魔石をOFFにした。


「よし。問題なく動いているな」


 これ以上は聞く必要が無いな。さり気なく部屋を見渡すふりをして、魔石を部屋の至る所に置いた。これで多少防犯的にも大丈夫だろう。


 これでよし。部屋の中に聞き耳を立てているやつはいないな。

 俺の文句を言っている兵士はまだおしゃべりを続けているみたいだが…。

 しかし、俺って兵士さん達に相当嫌われてるのな…。へこむなぁ。


「イッセイ君。何をしているんだ?」


 反省さるの様にテーブルに手を付いて俯いていたら

 陛下にツッコまれた。


「…申し訳ありません」


 俺は、話を進めることにした。


「さて、封印を破壊出来た事ですね?」

「そうそう。どうやって破壊出来たのか、という事と何でそんな事をイッセイ君が出来たのかって事だけど説明出来るかな?」


「はい。少し離れてください」


 陛下達が少し離れたのを確認してからヴィルを抜く。

『シュラン』と、ヴィルが鞘に共鳴した様な音を出しながら姿を表す。


「ここからは、当事者に話をしてもらいましょう。ヴィルお願い」


 刀身を横に向け魔力を込めるとヴィルの体が輝きだした。

 蒼の波動を放ちながらゆっくりと宙に浮くヴィル。

 必要のないパフォーマンスを交え始める…。


 しかし、ヴィルを始めて見る女王陛下と宰相殿と父様には効果が絶大だった。

 ヴィルが浮かぶなり3人は体が、ビクッとなってた。


 確かに剣が浮き始めれば誰だってビビる。

 でも、絶対コイツ楽しんでるだろ。

 ヴィルの悪ふざけは続く。


 既に相当な不思議を目の当たりにした3人は固唾を飲んで次の出来事に備えていた。俺はいい加減イライラしてきた。


「皆さん。お待たせしました。こいつが聖剣ヴィルグランデです」

「…ワシが聖剣ヴィルグランデだ」


 俺が話し出しのタイミングをずらしたため機嫌が悪いヴィルはすっごい蛋白に喋ってる。


「「「はっ、ははー」」」


 でも、3人にはすごいことだったのかな?

 ヴィルに向かって頭を下げていた。


 何となくヴィルがこっちを見ている様な気がしたので、とりあえずは頷いておいた。



 ・・・



「と、言うわけです」

「な、なるほど。その、聖剣ヴィル・・・グランデ様・・が、封印の破壊をおこなってくださったのですね」

「まぁなぁ~」


 まぁなぁって確かに封印を破壊したのはお前だけど、それまでは魔力切れで干からびたただのナイフだっただろうが。

 大人たちが崇めるように話すことですっかり気分を良くしたヴィルは、ペラペラとありもしない戦闘実況を始めていた。

 二言目には「俺が助けてやった。」だ。「奴は雑魚だった。」だと妙に3流の冒険者みたいな事をベラベラ喋っていた。


 まぁ、皆さんも嬉しそうだから別に良いけどさ。

 なので、今この部屋は面倒な上司と一緒に入った居酒屋みたいな雰囲気になっている。


「と、言うことはもうこの国が封印に怯える必要ないのですね?」

「まぁな」


 ヴィルと会話していた陛下が泣き崩れた。

 この状況をどうすれば良いのか分からなかった。


 場の空気を変えようと宰相殿にヴィルが話しかける。


「封印の破壊についてですが、聖剣ヴィルグランデ様がいれば誰でも行えるのでしょうか?」


 宰相殿の質問にヴィルが直ぐに答える。


「俺の事は条件の満たした者にしか扱えねえ」

「と、言うことは誰でも力を借りることが出来ないと?」

「あぁ。そうだ。ワシを使うにはいくつが条件があるからな」

「それを満たしているのがイッセイ君であると?」


 宰相殿が事細かにヴィルに質問していた。

 ヴィルも事務的ではあるが恐らく必要事項だと思っているのだろう。質問に答えていた。


「そうだ。こいつでありカイザーの称号を得たものだ」

「そうなるとイッセイ君以外はダメと言うことでしょうか?」

「あぁ。どういう訳かこいつの…【カイザー】の称号を持った奴の魔力意外俺には注入されねぇ」

「なんと!!」


 宰相殿はヴィルの一言、一言を鮮明に書き記しをおこなっている。

 熱心なのは良いんだけど…目が血走っている。


(おいおい。こいつ大丈夫か?)


 ヴィルもこんな感じで不安がっていた。



 ・・・



 その後も色々聞かれ、話はドンドン纏まっていった。

 俺の話しとヴィルの話しそれらを纏めていったのだ。


「ふむ…。大体これだけ聞ければ、私のコレクション…ゲフン。ゲフン。 終わりになりますね」


 スクロールの山を見ながら宰相殿がご満悦の顔で言う。

 この人、めっちゃ普通にコレクションって言ったよね…。


「…そろそろ良いかな?」

「はい。コチラはこれで終わりです」


 ホクホク顔の宰相殿に陛下が確認を取ってくれた。

 げっそりした俺と些か元気の無くなったヴィルとでやっと終わってくれたと、内心胸を撫で下ろした。


「…今回の件は、イッセイ君にお礼をしないといけないね」


 陛下の言葉が心に染みる。


「何か要望は有るだろうか? できるだけ期待に添えるようにするけど」


 こんな事って普通はありえない。

 国の王様から好きな物を選べとか普通は言われない。

 父様を見たが顔がひきつっていた。

 選べないので後からの連絡でいいか聞こうとしたら。


「ならコイツに旅にでも出させるか?」


 いきなりコイツは何を言い出すのだろうか?

 もう一度封印してやろうかと思った。


「まぁ、手っ取り早い目的はあそこだな」

「あそこ?」

「後はあの糞どもに会いに行かなければいけないなぁ…」


 ヴィルには何処か行きたい場所が有るらしい。

 しかもその対象が人物の様だ。そもそも500年前の人って生きてるのか?


 …まぁ、ファンタジーならそんなのも有るのか。


 俺がそんな事を考えていたら、陛下がヴィルに質問していた。


「それは、誰の事です?」

「この世界の神々だ。」


 ヴィルにとってこの世界の神は糞だったらしい…。なんて罰当たりな聖剣だ。

 世界の神が糞なのかどうかはこの際は別として各国に奉られている神々に会うには、確か教会に行かないとダメじゃ無かっただろうか。


 と、いう以前に


「僕はまだ5歳だよ?」


 そう、まだ5歳なのだ。この世界の5歳はやっとオムツが取れた。って認識。

 下町の子供でさえやっと家の仕事を見学させようかとする所なのだ。

 そんな子供の旅なんていってもどの国も入国なんて認めてくれない。

 仮に密入国したとしても教会などの公共施設に入ればバレるだろう。

 しかも、旅支度以前にまだ学園に入学すらしてない状況である。

 せっかくなので、通えるのなら行きたいというのもある。

 単独で行動するには、どんなに早く見積もっても5年は先の話だと思っている。


 まぁ、保護者が居れば話は別だが…。

 一応、考えがまとまったので希望は出してみる。どの道、父様には話す必要が出る内容だ。それが、物凄く早すぎるというだけの事。


「僕はヴィルの導きの通り数年後には外に旅に出たいと思っています。だから、それまでの間モンスターと戦い、旅をする知識を蓄えたいと思います」

「ふむ。500年の間に世の中は軟弱になったもんだな。だが仕方あるまい。コイツにはワシを使いこなせる様になってもらわないと困るしな。それなら、どこか修行の場としてモンスターの湧く場所の一部と戦闘訓練用に【勇者】を借りたい。出来れば場所はトカゲどもが沸いてる辺りがほしいな」


 俺の言葉にヴィルが付け加える。


 トカゲって、ドラゴンでしょうか? ファンタジーならドラゴンを倒すのは一種のステータスですがそんなにポンポン現れるもんじゃないでしょ?


「因みに倒すのドラゴンじゃねーよ?」


 ヴィルは俺の顔を見て察したのだろうか? なんて感の良いやつだ。

 しかし、トカゲ=ドラゴンじゃないのか…。 !!って、事はワイバーンか?

 広場で売ってる串焼き屋さんを思い出しながらイメージすると…。


「ワイバーンでも無いからな」


 念押しにまた当てられた。

 なんとも残念な気持ちになったが、いつか戦ってみたいものだ。


 父様を見ると目を瞑っていた。何かを考えているのだろうか?

 表情が読めないな。


「ふむ…」


 俺たちの言葉を聞いた後、陛下がスッと立ち上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る