33話 続く悪夢
「聖剣ヴィルグランデよ。何故この様な子供に過酷な運命を授けるんです?」
立ち上がった女王陛下が机を叩くとヴィルに向かって声を上げる。
「しらんなぁ。ワシがこいつに与えた使命じゃねーんだ。コイツは選ばれちまったんだ。文句があるならイッセイを選んだアイツ等…に言うべきだと思うぞ」
陛下の抗議にもどこ吹く風のヴィル。淡々と業務的な受け答えだった。
陛下が「ぐぬぬ」とか言っているが、ヴィルが俺を任命した訳でもなし文句を言われる筋合いは無いわな…。
「選ばれた?」
宰相殿は身に付けていたメガネを光らせヴィルの話に食い付く。
ヴィルは気づいていないが、何か良くない事が起こる気がする。
「そう。コイツは選ばれただけ。」
「そう言えば、先程『アイツ等』と、おっしゃってましたが?」
宰相殿は、
そう…。俺は、神様に選ばれている。
恐らくだが本当は鏡の生まれ変わりの人が選ばれる筈だった。
それが、俺の持つ称号の【カイザー】だったのだろう。
「あぁ、コイツにアーサーと同じ称号を持たせたのは、この世界の『神』共だ」
「「「は?」」」
いきなりヴィルの言い放った突拍子もない話に三人が目を丸くしていた。
いきなり初代様の話しが出てくればそれもそうだろうなぁ。
「ア、アーサー様とは、まさかしょ、初代様の事でしょうか?」
宰相殿が恐る恐るヴィルに話しかける。
「あぁ。昔話になるが、
「ぜ、是非お聞かせ願いたい!!」
ヴィルの話に興味津々の宰相殿は、ヴィルに唾を飛ばす勢いで体を乗り出した。
「……」
「是非!!」
案の定、ヴィルには、宰相殿の唾が結構掛かってる…。ヴィルの不機嫌度合いがもの凄く伝わってきた。
だが、宰相殿の興奮度はとっくに『MAX』を振り切っていた。
「う、うむ‥。その、なんだ。少し離れてくれ…ないか……」
「あっ、失礼致しました」
ヴィルは宰相殿の勢いに押されていた。
ヴィルの言うことを聞いて席に座る宰相殿だが、その目は子供の様にキラキラ輝いていて、ヴィルにドンドン迫って来ていた。
ヴィルはモチロン。俺も陛下も父様も、「ハァハァ」と声を漏らす宰相の姿にドン引きしている。
ヴィルはポツポツ話し出す。
「……まだ国と言うものが存在しなかった時代だ。集落はあったが王国なんてものは無くてなぁ。モンスターも居たが人々とのバランスが良かったのかイザコザも少なかった……………」
・・・
ヴィルが話しだしたのは神話と呼ばれるこの国の建国される前の話。ヴィルはずいぶん懐かしそうに500年前の話を始めた。
ヴィルの話す500年前の時代には、まだ国家と言う大きな国が建国されておらず。
各地を有力者が王を名乗って統治していたらしい。
まぁ、よくある戦国時代の話しだ。土地や権力を持っている者が立国し王を名乗る。そして、隣国としている国に襲いかかり自国の土地を広げる。
俺もよくリコエイションゲームや何とかの野望とかやっていたので、話を聞きながら頭の中で合戦が行われていた。
主な生活規模は集落が多く自給自足を営んでいた。各地に散らばった集落は交易によって平等に栄える平和で
何より驚いたのが精霊も他種族(今の時代では亜人)も分け隔てなく平等に暮らしていたらしい。
…これは、凄い話だ。現在、この世界には精霊は住んでいない。
精霊は自分達の世界を持っており『召喚』と言う形でコチラの世界の呼び寄せている。正に住む世界が違うのだ。
流石にこの話しには父様も陛下も宰相殿も記録係の人も驚いていた。
まぁ、歴史が一つ変わった瞬間だしなぁ……。
宰相殿が陛下と話をしながら記録係の人に何かを記録させていたが、痺れを切らしたヴィルが、
「先に進んでも良いか?」
と、ため息交じりに言った。
宰相殿が涙を流しながら「どうぞ」と言うと流石のヴィルも後ろに後退していった。
ヴィルは宰相殿と距離を保ちつつ話を続ける。
精霊の他にもエルフ、ドワーフ、獣人、虫人(虫の人型族)、樹人、スピリット体人、ゴブリン族、竜族などなど……。多数の人種も住んでいた。小競り合いの様な争いは起こるものの、大きな戦もなく一定の距離感を保ちながら生活していたらしい。
中には交易をする商人的な人も居たようで仲の良い関係を保っていたようだ。
しかも、戦いも血を血で洗う様な血なまぐさい争いではなく。魔力の強さや、正確性などオリンピックに近い方法で勝敗を決めていたらしい。
俺の頭にあった数千で戦う合戦は、すぐさま数人で競うハイ◯°ーオリンピックへ切り替わった。
「しかし…」
と、ヴィルが漏らすと場の空気が変わった。
明らかにトーンダウンしたヴィルの声に宰相殿と父様は固唾を飲んだ。
「ある日、とある山奥の集落の上に大きな雷鳴が轟き、黒い雲が集落を覆った。その雲は数ヶ月間集落に覆ったままだったが、それもある日ウソのように急に晴れたんだが、そこには奇妙な集団が姿す様になったんだ」
ピシャーー!!
と、ホラーなら雷でも鳴る所なんだろう。まるで幽霊を見たようにヴィルの雰囲気に飲まれた大人三人が固まっっている。どう考えても理解が追いついていない様に見えるが、ヴィルには何か違う形に見えたのかもしれない。
何となく満足げな声で話を続ける。
「その集団は背中から羽のようなものを生やし全身を黒ずくめで覆った奇妙な集団だった。しかも、雲で覆った集落の男共を武装化させ瞬く間に周りの集落を襲わせたんだ。奴らは集落を制圧し、新たな兵役と称して捕まえた亜人族を自分たちの配下として働かせたが、奴らは何故か人族だけは奴隷…いや、家畜として扱った。そして、ある時、山にある集落に奴らは城を建築した」
「ま、魔王襲来…」
「おっ、そうだ。よく知っているな」
ヴィルの言葉を繋ぐように陛下はぼそりと呟く。
ヴィルは女王の言葉に肯定で返した。
「そうだなぁ。今ではそう呼ばれているのか」
うん? 何か引っかかる言い方だな。
陛下もその引っ掛かりに気づいたらしく。
「では、魔王は我々が付けた名前で、実際は違うと?」
ヴィルに実際に質問していた。
「実際は奴らは魔王なんてもんじゃない。あれは異世界から来た、ただの侵略者だ」
「??? …異世界。何ですかそれは?」
ヴィルのどストレートな回答に陛下、宰相殿、父様は目を点にしていた。
あの言い方じゃ分からないよなぁ…。精霊界っていう分かりやすい単語が有るのに何故それを使わないのか?
「そうか、この世界にはその概念がないのか。精霊界が有るっていうのに厄介な奴等だ……」
ヴィルが説明を面倒くさがっている。
いや、今ので伝わっただろ。
「なるほど、精霊界からやって来たのですか?」
若干間違って伝わっているが…。
(おい。説明が面倒だぞ)
ここで、ちゃんと説明しないと精霊界と戦争になるぞ。
(面倒くせぇ…)
お前が説明すると言っていたんじゃないか。と、我儘な
…ところだが、実にこの世界は何ていうか、あまり、科学という科学が発達していない。前の世界で言う所の中世に近い文明力だ。
理由は『魔法』という超常現象が使えるため科学には興味が薄い人が多い。
農業だって、戦争だって、物移動だって、魔法や生物を匠に使い独自の文明世界へと進化しているのだ。かと言って科学も無いわけではない。
王都魔導研究所【通称:魔導図書館】と呼ばれる機関がありそこで科学の研究を行っているいるらしい。興味があったので聞いてみたら、皆は口を揃えて『(俺達は)興味が無いから知らね』的な回答だった。
出てきた噂によると、『孤児や重犯罪者をそこに送り人体実験を繰り返している。』なんて話も出てきたけど、大抵そういう話しは恐怖心から生まれた適当な作り話だと思っている。
話が逸れたが、簡単に言うとこの世界の人々は無から火や水を生み出す事が出来るくせに天動説を信じている。そんな感じだ。
で、ヴィルは外には違う星が有るという説明を全てすっ飛ばして話をしていた。
ヴィルにはちょっと苦しそうなので、手助けしよう。
「ヴィル。その敵は精霊界から送られてきているのですか? それとも別の何処から送られて来ているのですか?」
難しい説明は省いていいだろう。子供という点を十分に利用して単純に疑問をぶつける。ヴィルが脳内で(お前は知ってるだろ?)って言ってきたが、揉めずに説明出来るなら無視しろって言ったら渋々質問に乗ってきた。
「うん? …そうだな。奴等は精霊界とは別の場所から来ているな」
「な、なんですと!!!???」
宰相殿が大きな声を上げ、陛下と父様はその声に驚いたのか体をビクンと跳ねた。
「さ、宰相どうしたの?」
「陛下、これが驚かずに要られますか? 精霊界以外にも世界が有るなど今まで聞いたこともない話です」
まぁ、正確には精霊界とも違うんだけど、今の段階ではその認識で問題ないでしょう。
「その異世界とやらは「それは、今は置いておきましょう」」
宰相殿が話を掘り下げようとしてくるが俺は制した。
だって、終わらなくなっちゃうんだもん。
「話を進めるぞ…」
ヴィルの話に俺は頷いて返す。
「この世界の7割以上が侵略者達に占領された時、地上では空から7つの神が地底では闇から7つの神がそれぞれ選ばれた人間達に力を貸した」
「勇者出現」
陛下がポツリと呟き、ヴィルが頷く。
こちらの勇者は人間側の伝承なのであっている。
「そうだ。中でも、地上では光の聖剣、地底では闇の聖剣を所持した二人の大勇者の出現によって、人族とその他獣人やエルフなど力を得た者たちは徐々に戦況を押し返す様になっていった」
ヴィルの言葉は正に英雄箪の語り部。聖書や紙で残されている記録も一応は正しいだろう。だが、着色されている可能性もあるのだ。
陛下も宰相殿も父様も目を輝かせてヴィルの話を聞いていた。
「そんな中、大勇者を含む14人の勇者は、外来種…魔王軍の逆襲討伐に向かい。互角まで戦力を持ち直した。その時、勇者筆頭が俺を使っていた。」
「「「おぉー!!」」」
人族の盛り返しの場面で興奮した三人は歓喜の声を上げる。
…ヒーローショーで興奮する子供か。
そして、ヴィルは締めに入っていく。
「そして、戦争が終結し勇者の14人は祖国に帰る事になる」
普通ならこの終わり方で「チャンチャン」となるはずなのだ。実際、伝記や聖書にて残っている文書はここで終わっている。
だが、英雄箪は終わらない。
伝記通りで、やいのやいの喜ぶ三人だったが、俺とヴィルの反応を見てやや不安げな態度を取っていた。
「勇者は、祖国に帰り建国したと言うことで話は終わりでしょうか?」
女王陛下が話を聞き返すがあえて聞き返した様に聞こえる。
ヴィルは何も言わない…。
「…」
「ゆ、勇者の祖国はどうなっていたのでしょうか?」
空気を読んだ宰相殿が真剣な眼差しで聞いていた。
この人、勉強好きそうだもんな。
ここからは、裏英雄譚。
建国の際の闇。凱旋した勇者達の失意と絶望の結果。
ヴィルは、声のトーンを下げて話す。
「…実際に勇者が見た光景は人族が獣人、エルフ、ドワーフ等々他族の者を奴隷化した姿が広がっていたのだ」
「しかし、一部は魔王に与したのですよ。致し方ないのでは?」
宰相殿がヴィルに反論するが、
「残った人間どもは奴等に付かなかった亜人にも手を付けたのさ」
ヴィルの言葉は冷たかった。
そして、ヴィルの口から語られる裏英雄譚。
勇者の帰った国は、人族が多種族を奴隷化するという失態を犯し目の前は、地獄と化していた。
死闘を繰り広げて戻ったら助けたかった人々同士で争いが起こっているなんて…。
ヴィルから語られる無情な真実に陛下達は明らかに狼狽えていた。
だが、冷静に考えると色々見える部分もある
獣人は人族を信用しておらずあまり目の前に現れないし、冒険者ギルド内でも人族以外は扱いが酷い。
ヴィルはさらに続ける。
「増え続けた人族は増長を続けた。結果、領地を広げ国を築き更に領土を広げた。まるで自分たちを家畜に追い込んだ魔王の後を継ぐようにな。しかも、時には他の勇者に襲いかかったりしてな」
「「「!!」」」
ヴィルが言っているのは世界戦争。
魔王襲来後、世界を巻き込んで派遣争い。
増えすぎた人数に困って居た人族とその覇権争いに巻き込まれた亜人族。教会の教典では、世界戦争は一部の悪意のある亜人によって引き起こされたと書いてある歴史の1ページだが、蓋を開ければ真の戦犯は人族であった。
その真実はあまりにも重い。
話を聞いた3人は完全に黙ってしまった。
「だが、そんな混沌とした世界にもアイツは絶望しなかった」
アイツ? 誰だ?
「聖剣ヴィルグランデ。アイツとは誰の事でしょうか?」
陛下がヴィルに聞いた。ヴィルのやつ俺にも教えて俺も気になる。
「地底の大勇者『カガミ』だ」
ガーン。と、ハンマーで頭を殴られた様な衝撃があった。
「聞いたこと無い勇者「ヴィル! その勇者は本当にカガミだったのか?」」
陛下が質問していたところ悪いが割り込んででも聞かせて貰う。
「お、おい。イッセイ。陛下が話している最中だぞ!!」
父様が叫んでいたが関係ない。
「ヴィル!! 答えろ。勇者カガミはアイツなのか!?」
「悪いな。ワシはアイツに使われた聖剣じゃないからな」
「でも、初代様と一緒に居たんだろ?」
「……アーサーの奴は人族に絶望して現実逃避の旅に出てたからなぁ。当然ワシもそれに同行させられていた」
「初代様何やってんの!?」
陛下が初代様の現実逃避を知って狼狽していた。
くっ、くそ。折角、鏡の情報が手に入り掛けていると言うのに…。
「まぁ、何はともあれ戦争は最悪の一歩手前で回避した。あいつの存在のお陰でな…」
アンニュイな雰囲気で言葉を終えるヴィル。
こいつ、やっぱり鏡の事を何か知っているな。
今、喋らないと言うことは言えない事情でも有るのか?
だが、いつか聞いてやる…。
「ま、まさか、勇者がたくさん出現するのは…」
宰相殿が細くなった声で質問する。
俺は知っている。この世界に来る前から聞いていたから。
世界が平和になってからもコンスタントに勇者が誕生するのは…
「ふむ。ワシはまだ悪夢は続いていると思っている」
「「「!!?」」」
ヴィルの答えに陛下は卒倒しそうになり、宰相殿に抱えられていた。
端から見てて思うのが、三人ともそろそろ限界じゃないのかと思った。ヴィルの話に顔色が赤くなったり青くなったりしている。
「それに今日、こいつが潜った洞窟の魔方陣は転移陣の1つだ」
ヴィルは止めを刺した。
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