21話 未来の〇〇からの手紙

 大胆不敵!! 学園入試襲撃事件。~学園入試を狙った大胆なテロ事件!!~


 この日、王国中から集まったこの国の未来を担う子供たちを襲った恐ろしい事件が起こった。

 教会の職員、ギルドの職員、王国軍、冒険者などは事態の収束に当たり犯人の特定を急いでいるが、これといった成果は上がっていない。

 唯一の良い点は入学希望者の貴族や一般の人が、全員無事だった事だろう。


 学園では一生汚点として語り継がれる黒歴史となった。


 …自分が記者ならこう書くだろうな。


 そんなことを頭に思い浮かべながら、目の前にあるプルルンと震える二つのスライム。…いや、スライムのような動きをするプルルンを見ていた。

 前かがみになった服の隙間から見える双璧は重力の力に引かれ今も地上に降り立とうとめいいっぱい背伸びをしている。そんな凶器とも言える物が目の前でブラブラと揺れているのだった。


「これから試験なんでしょ。頑張ってね、お姉さん応援し ち ゃ う」


 丸眼鏡、サイドで束ねた紫の髪、ちょっと不思議ちゃん、キャピキャピした高いトーンのアニメ声。

 そして、比較的小柄な割にボンキュボンであった。


 何だ。この違和感の塊の生物は?


 容姿も美人の部類に入るだろう。

 はっきり言うと完璧だ。皆が持っている好みをそれぞれ持っている。そんな印象を持った。


 逆を言えばだから、不自然差が半端なかった。

 そんな印象を持ったまま診察されていると、


「はい。あーん」


 口を開ける仕草を見せる女医が何故か前かがみでアピールしてきた。バックリ空いた胸元から見える『π』はWではないUUと言う素晴らしいもので、重力と美しいデュエットを奏でるはず……。なのだが…。


「クソが…完全にπを冒涜している」


 よく見るとコイツは違う。偽物だ!!

 くそ、ビッチが…偽物を見せびらかしてんじゃねぇよ。 

 五歳児なら騙せると思っているのか? そんな、作りもんニセチチ


 真作と贋作の見分け方だが割と簡単だ。

 いくつか方法はあるが今回は比較的わかり易かった。

 先程、UUだったと言ったが水を入れた風船のだった。

 人体の構造上そのようにπだけがメロンの様に育つのはありえない。(確実では無いが…)


 純真無垢な子供は騙せても精神年齢22歳の俺は騙されん。天然物をこよなく愛する俺は美しく見せるための努力は認めるが、偽物は許さん!! 


 閑話休題


 兎に角、あれは神への冒涜だ。


 俺は治療を施してもらったお礼を言うと、すぐに席を立ち上がる。


「ありがとうございました(けっ、ニセチチが。)」

「どういたしまして…。はい次の人(今のガキ私のビューティに惑わされなかった…だと…? 生意気ね。)」


 女医さんはドライな子供(俺)に興味を失った様で、素っ気ない反応を俺に返し。次に来た生け贄子供を弄んでいた。


「あれが、ショ○コンか……」


 いくら『にせちち』でもπはπっだ…。

 一応、お礼は言っておこう。


 ごちそうさまでした。

 

 にせちち女医に手を合わせると筆記試験会場へと向かった。


 実は先程のメディカルチェック前にとあるスケジュールが発表された。内容は、試験の日程を本日から1日増やし明日も行う。と言うものだった。

 内容は、本日はメディカルチェック+筆記試験。

 または、メディカルチェック+体力試験。

(人数が多いため分割試験)

 と、なっていた。


 学園は未曾有のテロ(誰の仕業だ?)に襲われてしまった。そのため生徒候補達に対してカウンセリングの実施と試験を行うため日程をニ日に分けることにしたのだ。


 因みに【公爵・侯爵】の3人組は問題の場所の中心に居たこともあり。今日は静養中で改めて別の日に試験することになったらしい。


 まぁ、どの道俺は今日の筆記さえパス出来れば、明日はソフィア姫様と王家に伝わる試練の洞窟に行くことになっている。

 そこに行けば必然的に実技が免除されるので、多少は気が楽だ。


 だが…


 いま俺は、今日の試験会場を探している…


 校内に入ったまでは良かったが、ちょうど案内の先生も他の生徒もいない時に当たってしまった。その為、自分で部屋まで行こうとしたのだが…。

 今思えばその場を動かなければ良かったんだ。と、反省はしているが慢心とは恐いものだ。


 だだっ広い校内をウロウロ彷徨った挙句…


 迷ったのだ。


 確か現状の筆記試験の会場は教室の何処かだと聞いているのだが…


 どこだ…ムダに広い学園。

 キョロキョロと、教室を探していたら。


 --ドンッ。

「きゃっ…」


 ベタだが曲がり角で誰かにぶつかってしまった様だ。パッと見た感じ同じ歳っぽい子だった。


「うわっ。ごめんなさい」


 取り敢えず謝っておく。

 普通の子供なら相手と喧嘩したりするものだが、そこは22歳。無駄な戦火は広げなかったよ。


 --チャリン。


 そして、その拍子に何かが床に落ちた…音がした。


「あっ!?」


 ぶつかった子が俺の方に向かって倒れ込んでくる。


 ウソん!? 何で。ってこのままだと怪我をするから取り敢えず一緒に倒れておくか。


「どわっ!?」


 --ドスン…。


 俺の上に伸し掛かるように倒れてきたので、抱きかかえる様に受け止める。


「…アイタッ」

「…っ。す、すいません。ご無事ですか? あっ…」


 倒れた俺の横にキラリと光るものがあった。

 落ちていたのは琥珀が付いている……ペンダントだった。

 どこかで見たことがあるデザインだ…。


 ネックレスを繁々と見ていたら目の前の女の子が、


「あのぉ…」

「あぁ…。失礼しました…」

「い、いえ。こちらこそ…」


 やけに落ち着いた対応をかえしてくる子だと思い顔を上げると、もう少しでお互いの鼻がくっつきそうな距離に居た。


 って、近!!


 後ずさりして離れたが壁に『ゴスン』と、頭をぶつけてしまった。


 痛!!


 仰け反ってしまったが頭を壁にぶつけてしまった。

 目の前に居る子がこっちを見ているのに…かっこ悪い。


 笑われると思ったが、女の子は笑いもせずに真面目な顔で俺を見ている。


 何だろうか? 正直気まずい。

 しかし、マジマジと見るとメチャクチャ美少女だ。


 アホだけど、『美少女が服を着てる。』っと思った。(当然の事だが。)


「…もしかして、イッセイ様ですか?」


 アクセサリーを握っている手をガッチリと掴まれた。


「はぇ?」


 変な言葉で返事したことは許してくれ。

 いきなり初対面の子が俺の名前を言い当てるって、すごくホラーな事だ。


 俺の手を掴んできた子を改めて見てみると、オレンジ色のふんわりした髪がセミロングくらいまで伸びていて。目もクリクリで、していた。


 って…あれ? この手の握り方何だか覚えがあるぞ?

 でも、俺はこんな美少女知らない。頭の中で記憶とにらめっこしていた。


 すると、


「姫様!」


 俺たち二人はビクッとなった後で少し離れる。


 俺は、『姫様』と言うキーワードにビックリした。

 この国で、姫様と言えばソフィー姫様しかいない。

 俺は、いつかのお忍びで来た小さな女の子の事を思い出していた。


 更に『姫』というキーワードを聞いた子供達が部屋から出てきた。このタイミングで騒ぎになるのは少々マズイ気がする。

 どうやってこの場を逃げようかとしていた所で、気付いた時には俺と姫様の間に一人人の男の子が割って入ってきていた。


「おい。お前。姫様に対して無礼だぞ。もっと離れて頭を下げろ!!」


 きらびやかな服を身にまとい、如何にも『僕金持ちです。』とアピールしている男の子は俺に対して捲し立てる。

 さしずめ小さなナイト君と言ったところか。


 しかし…、ソフィア姫様の前に立つのは偉いと思うが、豪いえらい狭いところに立ったな~。と、言うか君が近すぎて、俺めっちゃ挟まれているのですが…


 面倒だと思った俺は取り敢えず言われた通り。


 姫と小さなナイトの脇を抜けて1歩下がり膝を床について、腕を胸元に掲げ挨拶する。


「大変失礼致しました姫殿下。私は、レオンハルト辺境伯の子 イッセイ=ル=シェルバルトです」


 頭を下げたまま姫様の返答を待つ。

 子供同士でここまでやる必要は無いと思うが、小さなナイト君の前では出来るだけやっておいたほうが良い…。絶対絡まれるからだ。


 そんな事はお構いなしに、数秒も待たずにソフィア姫様は返答を返してくれた。


「…やはり。シェルバルト様なのですね。どうか、表をあげてください。…ご無沙汰でしたね。お元気でしたか?」

「ソフィア姫殿下。私とはどこかで面識などお持ち頂いておりましたでしょうか?」


 あの時は非公式の来領だった筈なので、姫様には悪いが念の為しらばっくれさせてもらう。と、言うかソフィア姫様もそれ位は気付くだろ?


 とも思ったんだが……。そうじゃなかったらしい。

 ソフィア姫様は今にも泣きそうな顔をしていた。


「えっ!?」


 うそーん。


 姫の気を何とかそらさないと、もっと大変なことが起こる。

 俺のシックスセンスがそう叫んでいる。


「姫様。先程、落とされたものをお返し致します」


 ペンダントで気が紛れるとは思わなかったが、話題を変えるには多少は良いだろう。

 姫に差し出していたのだが、小さなナイト君が前に出てきた。


「ならば、ぼ、僕が…「つけ…くだ…」 ヘ?」


「…そのペンダントを私につけてください。イッセイ様」

「そんな。僕がやるよソフィー」

「いいえ。クロスライト。私はイッセイにお願いしたのです」


「ぐっ…。かしこまり…ました…」


 悔しそうな顔をして引き下がる。小さなナイト君。改、クロスライト卿。

 俺を怨めしそうにジッと見ている。


 まぁ、こうなるよな…


 そんな彼を無視して髪を捲し上げるソフィア姫様。

 なんと言うか、そんなに大胆な子だったっけ?


 5歳にしては思いっきりが良いと思った。


 言われた通り姫に近づきペンダントを首につける。


「どうですか? 私を思い出していただけましたか…」


 ソフィア姫様が、小声で俺に呟いてきた。

 その声は若干震えるいる。…どうやら本当に俺が忘れたのか確かめている様だ。


 まぁ、ここまでされたら答える必要はあるよな。


 なので、俺もソフィア姫様に対して小声で呟く。


「ソフィー姫様。お綺麗になられましたね」

「…!?」


 ソフィー姫様がビックリした顔をして俺を見ていた。

 先ほどと変わらず目は涙を溜めていた。

 違っていたのは顔を紅く染めていた位だろうか。


「おいお前。いつまでそうしている。ソフィーから離れろ!!」


 クロスライト卿が俺を押しのけた。

 いつの間にか周りに集まっていた生徒達が、俺と姫様を見てワーワー、キャーキャーと騒ぎ始めていた。


 おっと、ちょっと近づき過ぎたか?


「ソフィー。姫様なんだからそんな奴と付き合うのは止めなよ」

「クロスライト卿。元はと言えば貴方のせいで知れ渡ったと思うのですが?」

「そ、そうだったっけ? 君の間違いだろ」


 クロスライト卿はソフィー姫様を戒めていたが、思わぬ返しに目をキョロキョロと泳がせていた。

 そう言えば、コイツが騒いだせいでソフィー姫様の事がバレたんだったな。


「ソフィー。そんなに怒らないでよ。今朝のようなことがあって、君を守っているだけだよ。それに、僕の事は『アレス』って呼んでよ」

「勝手に愛称で呼ばないでください。皆さんの前ですよ。クロスライト卿」

「…照れてるソフィー。可愛いな」


 うわぁ。ウザッ…流石に同姓だけど引くわー。


 女性の生理的に無理って言葉がちょっぴり理解できた。

 姫様は本当に嫌そうな顔をしている。


「はぁ…。もう結構です。…皆様ご迷惑をおかけしました。これからも、よろしくお願いいたしますね。」


 ソフィー姫様は、集まったギャラリーに対して一礼すると教室へと足を進めていった。

 チラリと、俺の方を見て哀しそうな顔をしていたのはクロスライト家の子供にうんざりしているからだろう。


 助けて欲しいのだろうが、別に命に関わる可能性が無いからなぁ。

 上級貴族だし取り敢えず様子を見るか。


 …俺も教室へ行こう。


 教室に入ると既に相当の人数が試験の準備をしていた。


「あの子が?」

「何処の子供?」

「まぁまぁ、いい顔じゃない?」

「くっそ、姫様と…」

「俺のほうがイケメンだな」

「「それは、ないな…」」


 先程の事が大分大きな噂になっているようだ。

 直接は姫様の所に行けないので皆ボソボソと喋っている。


 まぁ、王家に対する問題発言も無さそう(5歳であったら怖いが)なので、放置しておく。


 俺のことも色々言われている様だが、お陰で待ち時間が暇にならずにすんだ。

 暫くすると教師が現れ、試験を受けることとなった。


 ・・・



「うーん。」


 俺は試験終了を告げられると共に大きな伸びをした。

 ピキピキと関節が音を立てる。


 試験の内容はこの世界の常識と簡単な算数(簡単な足し算と引き算)

 後は貴族の序列についての埋め合わせ程度だった。

 全30問足らずを2時間ばかり掛けるのだ。

 俺は中身精神年齢が22歳なので余裕も余裕なのだが、他の5歳児にはさぞ辛いだろう。

 周りから唸ったり、お喋りしたりも聞こえてきたから、子供たちは色々と我慢の限界だったと思う。

 ただ、俺が思うに試験の態度も点数なんだと思う。貴族になれば我慢も仕事の内だからだ。

 試験中も試験管の視線がビンビン来てたのも証拠の1つだろう。


 もっとも三男の俺にはそんなに真面目に取り組む内容でもないことだが、元々の血がそうさせるのか【テスト】となると躍起やっきになるのはサガとしか思えない。


 テストって聞くと変にスイッチ入っちゃうのは、飼いならされてるよな…。


 肩を回し首を横に動かす。


「イッセイ様。我が主より手紙をお届けにまいりました」


 伸びきったタイミングを見計らって誰だか知らない男性が話しかけてきた。


 全身地味な黒い服にそれとは対照的な目立つ真っ赤な鞄。

 この国の王家直属の者だろう。前に見たことあるし。


 赤いカバンを見ると、忍つもりがあるのか無いのか分からないが、差し出される手紙。印を見るとやっぱり王家の印があった。


「これは…」


 と、既に男性はいない。

 辺りを見渡すと他の皆が気付いた気配もなかった。

 手紙を仕舞って帰ろうかと思ったがその場で開けることにする。


 本来、手紙は書斎や自室で見るのが一般的だろう。理由は、内容が露見しないように気を付けるからだ。ましてや王家からの手紙となれば尚更、人に見せられない。


 だが、この手紙の表紙には『受け取ったら直ぐに開くこと。これは命令よん。 未来の母より』と、書いてあったので開かざるを得ない。

【未来の母】と言う部分は壮大にシカトした。急ぎと言うがあまりいい予感はしない。


 意を決し手紙を開けて中を見る。


「……」


 手紙を閉じると急いで片付け立ち上がった。

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