20話 学園入試…
ザワザワ、ガヤガヤ…
辺りを見渡せど人、ヒト、ひと…ひとおおおおおおおおお!!
右も左も人ばかり、何でこんなに居るんだよ!!!
はっきり言って、人に酔った…。
ユラユラ動く等間隔の動きと興奮による熱量、熱から発せられる体臭の臭い…
うぷっ…。思い出したら吐きそうになってきた。
貴族や一般の人全部を含めると数百人にも登るこの会場で気分を悪くした俺は落ち着ける場所を探して彷徨っていた。
何と言うか元いた世界で『夏と冬にある巨大なマーケット会場』の開園前の光景に似ている。と、率直に思った。
ここは学園。王都ガブリエル学園だ。
貴族は5歳になったら入学の義務化されており本日はその試験日だ。
義務化されているのはこの国の教えを徹底的に叩き込むためでもあるが、先日行われた勇者の儀式によって授かった力を間違えて暴走させないために
義務化されてんなら試験いらなくね? って思った人も多いだろうが、授かった力にも当然個人差があるためクラスもランク分けされている。
試験があるのはあくまで、その力のクラス分けの試験のためだ。
そのために少し早めに出て会場で待っていようと思ったわけだ。
門の前で、
「うーーし。ここが俺の新しい人生の第一歩か」
始まる。ついに…。俺はこの学園の知識の泉。『図書館』の本を全て読み漁ってやる。
なんて、意気込んだのが懐かしいしその時の俺にグーパンをしたい気分だ。
うぷっ…。何処か一人になれそうな場所は無いだろうか?
口元を抑え場所を探しているが一向に見当たらない。
あっ、マズイ。俺吐くかも…。
今このタイミングで(口から)出してしまえば色々楽になるが、今後この学園で暮らすのは辛くなるだろう。
「おいおい。大丈夫か?」
声を掛けられた。
ふと見上げるとそこに居たのは、
「…カズ…ヤ?」
「はぁ? 何いってんだ。俺はそんな名前じゃねーよ。それよりも相当参ってる見ただが大丈夫か?」
一也だと思って勘違いした男の子は笑いながら俺の肩を掴んで人気の無い所まで連れてきてくれた。
「あ、ありがとう…ございます。な、名前を教えて…貰えませんか…?」
「ははは。良いんだよ。困った時はお互い様ってやつだ。ま、お前さんは貴族みたいだし、俺みたいなやつには関わらない方が良いさ。じゃな!」
そう言うと俺を助けてくれた男の子は去っていった。
何と言うか、カッコいい。ノンケだけど、男として尊敬出来る行為だ。
気持ちが落ち着くまでの間、目の前の光景を見て思い返していた。
貴族の子供に対して数名一般の子が付いていたりしていた。
あぁ、仲の良い貴族とか付き人で入学した人か…
先程も書いた通り貴族は入学が義務化されており、5歳から学園に入るのが一般的だが生活面において自立している子が多いかといえばそれはどうだろうか?
ましてや貴族として生活をしてきた子供が明日から全部自分でやりなさい。と言われて出来るだろうか?
大抵はこう答えるだろう。『NO』っと、そういう貴族の子供に合わせて
また、平民の子達は教会で認定を受けた者以外でも入学は任意で可能だ。大体が商人の子供や村の長の子共等が貴族との顔つなぎや領地経営学などを学ぶため入学したりするパターンが多い。
そういったパターンが出来ている中で、今年は王家の子供が入学する。
だから、入学を希望する人数も芋づる式に増える。と、言うわけで。
目の前に人が溢れている訳も説明が付いた。
王家の人が入ってくる年は、マンモス学年の出来上がりになる訳だ…。
で、人が多いもんだから誘導整理を担当する数人の教師達が会場を忙しそうに走り回っていた。
「お家名をお持ちの方はこちらにお並びください。」
「一般入試の方はこちらでーす!!」
教師たちが大声を張り上げる。すると、待ちに待った人が一斉に入場門へと進んでいく。入場門があっという間に団子状態になっていた。
ますますあのマーケット会場を思い出す…。
俺はもう少し休んでから行くことにしよう。
ぼーっと見ていると、徐々に慣れてきたのか列も何となく規則性を持ち始める。
徐々にだが流れが出来始めていた。
ガヤガヤした感じも時間が経てば落ち着いてくるものだが、こういう時に限ってやたらと目立とうとする奴もいる。トラブルメーカーというやつだ。
「あん。テメエぶっ殺すぞ!」
「貴族に向かって殺すとか、君死んだよ?」
「そうだ、死ぬぞお前」
「なんか、かっけーな」
どうやら、喧嘩が勃発したようだ。
一部分にドーナッ型のような膨らみが出来ていて、何やら大声で叫んでいる。
「そんなの関係あるか! 平民だと思ってナメてると痛い目みるぞ」
「フフフッ、やれるもんならやってみろよ」
「やってみろよ」
「やってみろだって、…かっけーな」
どうやら貴族と一般の生徒が揉めているようだった。
平民の男の子が貴族の三人組を相手に興奮していた。今にも殴りかかりそうだ。
って、あの貴族三人組は見たことが有る。しかも、割と最近の話だ。
あぁ、思い出した……この前、いちゃもんを付けてきたあの三人組か。
アイツ等、懲りねぇなぁ。
しかも、その貴族の三人組は、たった1人の一般の子を取り囲み見て笑っていた。
権力を傘に威張っているだけの最低な振る舞いだ。
しかも、馬鹿にしている一般の子が、自分たちに手は出さないと高を括っているのだろう。煽り具合が半端ない。
ここで、ある事に気づいた。
どうもアホ貴族三人組と対峙しているのは、先程俺を助けてくれた子の様だ。
しかも、彼の近くにしゃがんでいる人がいて何かから自分を守るようにうずくまっていた。
連想すると、あの三人組はしゃがみ込んでいる人に対して何かをやったと言う構図が一番当てはまる気がするんだよなぁ…。
助けを呼ぼうにも教師達は、作業が忙しいのか気づいていない。
「ちょっと体が当たっただけだろうにこの密集空間で仕方ないだろ? んん?」
貴族のボンクラの一人が気色悪い笑みを浮かべながら手を『ワキワキ』していた。それを見ていたボンクラ貴族のニ人もニヤニヤと笑みを浮かべる。
あぁ。これは
恐らくフードを被った人が被害者だろう。
そして、あのワキワキした手付きは被害者を触ったって事か? するとフードの人は女性か? 5歳にして手癖が悪いガキって、どんだけ変態のガキよ。
大体の状況を把握できた…。
確実に
サクッと俺の魔術で助けに入ろうと思い。ポケットの中の魔石を握る。
「待て!!」
しかし、既に動いている奴らがいた。その姿を周りの皆が追いかける。
「!!?」
やってきたのはベネッタ様と確かローザリッテ様とアレク君の三人だった。
ベネッタ様と一瞬目が合ったが、彼女は直ぐに目を逸した。
視線からすると前に会ったときと光の強さに変化が無い様に見える。
5歳児ながら強い人だと思った。
彼女らに任せておけば問題は解決するだろうと魔石を離す。
「お前たち何してる!!」
「あなた達、入試前です。静かにしなさい」
「あの・・・。あの・・・」
ワルガキ三人組も風紀員(仮)が来て、青い顔をしていた。
自分達が裁かれるのを想像したのだろう。
何れにしてもこの問題はこれで解決すると思っていたが、
「彼女にしっかり詫びろ」
一般の子が現れた風紀員の三大貴族を無視して三馬鹿トリオ相手に騒ぎ始めた。どうも不味い雰囲気だ。
カイン様が一般の彼を止めに入るが、貴族達は応戦する覚悟が見えていた。その喧騒に会場もざわつき始めた。
ヒートアップする現場に気付いた教師達も数名駆けつけようとするが、
--バキィ!!
「ぐわあ。平民のくせに貴族の俺様を殴ったな! 貴様は処刑してくれる」
貴族の一人が叫んだ。手をワキワキしていたキモ男君だ。
彼が右のほっぺを両手でおさえている。が、そこまで痛がるあれじゃないだろうに…。
「お前殴ったな! 許さんぞ」
「うはっ、まじ殴ったかっけー。でも馬鹿だな」
続いて貴族B君とC君も続いて一般の彼に襲いかかっていった。会場はどんどん異様な雰囲気に包まれていく。更には一般の列に並んでいた数名も喧嘩に参戦し始めた。
「おいおい。領地も持ってない貴族のガキのくせにナメたことを言ってくれるな」
横柄な貴族の子供の態度に、一般の子の怒りが爆発したようで俺もまっとうな意見だと思った。あのバカ共は何も分かっていない。
貴族が裕福な暮らしを出来るのは平民の皆がきっちり税を収めてくれるからだ。だから、貴族は平民の皆が安全に暮らしが出来るように護衛したりモンスターを間引いたりインフラ整備を進めたりする。
と、言う具合に自分の領地が裕福になるようにするのが貴族の務めなのだが、全員が優秀な訳がない。こういう勘違いのアホが生まれる。いや、いっぱいいるけど上手く隠れているだけだ。
不味いことに貴族側にも動きが見える。貴族の列の何人かが騒ぎに気づき、喧嘩に参加しようとする動きが見えた。
流石に駆けつけた教師達も足を止める。
平民の子が貴族に手をあげた段階でフォロー出来なくなっていたからだ。
折角、駆けつけてくれた三人もここまでの混乱は対処できずに固まっている。
「どうやらここまでかな…」
俺はため息をつくとポケットに手をいれる。先程片付けたばかりの魔石だ。こいつには水と風の魔術が込められている。上手く行けば足止め出来るはずだ。
それをいくつか取り出すと貴族の子たちと一般の子たち睨み会っている場所に投げ込んだ。
--ブシューーーーーーーーーー。
○ルサンよろしく石から水蒸気が上空に吹き出す。
3個か4個投げたんだけど、辺りは一面水蒸気の煙で見えなくなってきていた。
ふふっ、流石は◯ルサン。煙の噴出はこれに勝るものは無いな。
「うわっ!? なんだこの煙は?」
「ローザリッテ様をお守りしろ!」
「うわっ。目がいてえ」
「ローザ大丈夫?」
「え? ベネちゃん。何処ですか?」
皆がパニックになっていく。スモークグレネードの変わり程度で考えている魔術道具だ。普通の水を霧状に噴射しているだけの物なので目は痛くならないはずだ。
ただ、思ったよりも効果が出すぎたようで、会場をほぼ全部包み込んでしまった。
よって、関係のない生徒たちも騒ぎ出す。
まぁ、これはこれで行動しやすくなるので助かるか。
俺も水蒸気に巻き込まれたところで行動を開始する。
周りが全く見えないほどの濃い霧の中をずんずん目的の場所まで一直線で進む。
見えない視界も魔力の流れを感じるように調整すれば、シルエットを視認可能だ。
するすると障害物にもぶつからず、一般の子とフードの女の子のところへ行く。
正体不明の霧に包まれた皆は本能的に身をくるめて丸くなっていた。
「君達。逃げるよ」
「「!!?」」
俺に声をかけられた二人はビックリしていたが、女の子は何とか立たせて一般の子と一緒に入り口付近まで足を進める。
・・・・
「…あの、ありがとう」
フードを着けた子がボソッとそんなことをいった。
「どういたしまして」
入り口付近まで案内するとフードをとってかけていった。
その時見えたのが、エメラルドグリーンの瞳に黒っぽい色の長い髪と長いお耳。
一瞬ダークエルフかな? とも思ったが、肌は白い。それよりも少し残念なサイズのプルルン(板?)とスラッっと延びた足の方が気になった。
恐らくエルフの子だ。容姿端麗と聞いていたが天は二物を与えず。
まぁ、俺は美乳も好きだが。
俺は何の話をしているんだ…。
エルフの子が迂回して受付まで進んだのを確認してから平民の子を会場の外へと連れ出す。
「ありがとう。助かったぜ」
「いやいや。こちらこそ。でも、今日は帰った方がいいと思う」
「ああそうする。試験は来年興味があればまた受けるよ」
「まぁ、コネがあるから別の日でも受けられるかもね」
「まぁ、なんにせよ助かった。逃げるよ。ビルって言うんだ。貴族様」
「僕は、イッセイ。また会えるかいビル?」
「そうだな。その内なイッセイ様」
「イッセイでいいよ」
俺の返答にビックリしているビル。
俺はにっこり微笑むと、
「そろそろ行った方がいい」
脱出を促した。ビルは頷くと走っていってしまった。
さて、俺も元の位置に戻るかな。
会場に戻ると魔道具の効果が薄くなっており辺りは騒然となっており、事態は収拾出来るか分からない状態であった。
やりすぎた…
そして、俺達は本来必要なかったメディカルチェックを全員で受けることになった。
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