18話 カレン姉様

 あの後も陛下が話す他愛のない話に付き合ってから父様と共に屋敷に帰ってきた。


 話す内容は至って普通の世間話だったのだが、父様と大司教様が交互に赤や緑といった顔色になっていくのを見て、今後触れてはいけない内容なんだと悟った。


 帰りに父様が馬車の中で、

「イッセイ。欲しいものがあれば何でも言いなさい」

 と、言われた時の顔は一生忘れないだろう。


「はぁ…。今日も一日大変だったなぁ」


 自室に戻りベットの上で大の字になる。

 既に部屋には茜色の光が差し込んできていた。

 今日の出来事を振り返ると、やはり不可解な点が幾つも見えてきた。

 何故あのタイミングなのか。

 どうやってあそこに入り込んだのか。

 何故。俺は気づけなかったのか。等などだ。


 色々と考えていたが、最終的にベネッタ様が無事かどうかだけがやけに気になっていた。

 

「ほっほ。なかなかの大立ち回りじゃったな」

 と自慢の髭を撫でながら喋るバッカス。


「我々が出ていっても良かったのですよ…」 

 と心配そうな顔をしてくるのはアクア。


「イッセイ様のこと少し考えなさい。アクア。私達が手伝ってはいつまで経っても半人前ですわ」

 と、少し怒り気味なのはカズハ。


「でも、簡単にあしらえるなんて結構成長した証拠だよね」

 とのんきに話すのはセティ。


「がはは。最終試験みたいなもんだな。いい戦いだったじゃないか」

 と何時も通り何も考えて無さそうなのはプロメテ。


「皆…。今日までありがとう」


 俺の近くに眩い光と共に現れたのはこの2年間俺を鍛えてくれた5人の精霊の皆だ。今まで仮契約だった訳だが、それは俺が魔力の成長過程だったから。


 成長のピークを超える約束の5歳になったため本契約をする事になっていたのだ。


 そう言えばどの位の量まで増えたのかは分からないな…

 自分の限界が何処まで伸びたのか何れ試してみるか。


「みんな待たせてごめん」

「イッセイ様。やっと、契約が出来るのですね」

「でも、あっという間でしたわ」

「人目を忍のも結構楽しかったね」

「がはは。不思議とでは無かったな」

「ふむ。これでやっとやつらが黙るわい」


「「「「確かにやっとですね(ですわ・だな・だね)」」」」


 長く待たせ過ぎちゃったかな…

 皆が丸い円を作ってワイワイ話し込んでいた。

 最近、皆はこういう所に集まると何故かSD化してるんだよな~。


 コチラの世界で具現化する際、俺の魔力を使っているらしいのだが省エネモード何だとか。


「じゃー。契約やっちゃおうか」

「「「「「はーい」」」」」


 皆と一緒に掌を合わせ契約を結ぶインを読む。


「では、ワシの後に同じ印を謳ってくれ。…我は精霊と共に命を紡ぐ者」

「我は精霊と共に命を紡ぐ者…」


「我が生命は土、水、風、火によって生まれ。光、闇によって成長す」

「我が生命は土、水、風、火によって生まれ。光、闇によって成長す」


「精霊の死は我の死」

「精霊の死は我の死」


「我は精霊と共に命を紡ぐ」

「我は精霊と共に命を紡ぐ」


 バッカスの後に続けた印を読み終えると俺の体が輝きだし、精霊の皆の姿を包こんだ。

 光が消えたと思ったら、精霊の皆の服装が変わっていた。


「おぉー。力が溢れてくる」


 両手に溶岩で出来た様な発火している真っ黒な爪を装備し、胸当てなども追加されたプロメテ。

 武闘家と言える格好になったが、まぁ、でも『』だよなぁ〜。


 相変わらずほとんど裸に近い。


「ボクも可愛くなった」


 セティはボブカットで若干ボーイッシュな服装ガ目立っていたが、ショートポニーでスカートにブレザーといった学園のアイドルチックな姿になっていた。武器は茨のムチのような棘付きの鞭だった。


「私は槍が強化されました」


 本人の言うとおり槍だけが恐ろしく大きくなっていた。本人は140台の身長なのに槍はゆうに3mは有りそうだった。

 先が二股に別れており波波と波打っていた。


 じゃ、蛇鉾!?


 どっからどう見てもかの有名な三国志のあの人が持ってた槍だった。

 ……今度、触らせてもらおう。


「ワシは衣が一新されたのう」


 全体的に装飾が増えた衣を着たバッカス。大司教の様に白を基調とした服だが、素材は妙に高そうだ。聞いたらミスリルを糸状にして編んだ衣らしい。

 動く度に着ている衣がキラキラと光る。


 何と言うか、ゴージャスだ。


「私は正式に女王になりましたわ」


 最早何で編まれたのかも分からない素材で出来ているプリンセスドレスに身を包み。神々しさが増したカズハ。

 これまた何で出来ているか分からない素材の扇子で顔を隠して笑っている。(因みに扇子は刃が沢山付いている)


 ただ光って消えただけだと思ったが、契約が終わってしっかりと能力がアップしたようだ。


「どうやら、上位職にクラスが上がったようじゃ」


 と、バッカスの言葉を皮切りに、


「私もですね」

「俺もだ」

「ぼくもー」

「皆、上位に上がったようですわね」

「むー。カズハちゃん。自分だけ姫になったの自慢してる?」

「そ、そんな事無いですわ……(汗)」


 焦るカズハにセティがニヤける。


「冗談だよ」

「もー、セティちゃん。怒りますわよ」

「「「わははは」」」


 と、言う感じに騒いでいた。

 全員出てくるとこんな感じでお茶会が始まる。

 ま、あっち精霊界では皆離れて暮らしてるっぽいしな。


 前の世界的に……学校に通って来てるって思えば理解しやすいのか?


「イッセイを育てていた功績でしょうか?」

「わからん、こんな事になった精霊は聞いたことが無いしのう。もしかするとイッセイの称号のお陰かもしれん」


「何か変わったの?」

「ん? あぁ。実はのう……」


 バッカスの話を聞くと精霊の皆が使える魔法や特技が増えたんだとか。

 バッカスは、今まで土の塊を飛ばす魔法しか使えなかったが、地面からスパイクが発生する魔法を使えるようになったそうだ。

 バッカスは炎を飛ばせる技が使えるようになったそうだ。

 他にも皆が魔法や技を覚えたそうだが、今度見せるまで秘密だと言われた。


 本人たちはやけにやる気マンマンだったが、単純に戦闘能力が上がったのは良いことだ。この前のサキュバスの様な事があれば皆の力を借りることも有るだろう。


「まぁ、程々にね」


「おぉ。許しが出たよ」

「何だか急に優しくなったのう」

「イッセイ様は前から優しいです」

「そうですね。私達を気遣ってくださっていましたよ」

「がはは。こういうのも楽しいな……ん? イッセイ。扉ってずっと開いていたか?」


「うん?」


 後ろを振り返ると締めていたはずの扉が空いていた。

 そして、招かざる客が立っていた。


「イッセイ!! あなた精霊と契約しているの!?」


 カレンお姉さまが泣きそうな顔をして立っていた。



 ・・・・


「カ、カレン姉さま。その、皆の事は…」


 俺は、腕を組み足を組んでベットに腰掛ける実の姉に向かって土下座している。

 精霊の皆を他の人に内緒にしてもらう為のO・NE・GA・I☆の最中だった。

 姉さまは特に何も言わないが、横を向く顔は明らかにむくれている。


 しっかし、見違えたものだ。

 2年前の悪ガ…いや、山ざ…いやいや、悪魔……おっと口が滑った。

 カレン姉様は見違えるほど美人に育っている。


 ロングまでいかないちょっと長めのボブカットで、目元もぱっちりしており。

 お人形の様だった。身長も130位で結構高めでスラッとした女の子がそこにいた。


 って、これ位の子はこんな感じか……。

 前の世界の小学生を思い出すと大体同じ位だろう。


「何かしら? 物凄く失礼な事を考えていたんじゃないの?」

「いえいえ。そんな、滅相もない」


 皆と共に頭を下げる。カレン姉さまはたじろいでいた。

 確かに弟の土下座もなかなかだと思うが更に精霊が5人一緒に頭を下げている。

 普通の人ならこの光景でたじろぐだろう。


「なんで…」


 ん? えぇー!?

 姉様が何か言ったように聞こえたので、見てみたらが目に涙を溜めてぷっくり膨れていた。


「なんでイッセイには5人もいるのよ」

「えっ? どういう事ですか?」

「私なんて、1人も成功しないのに、あんたは5人と契約してるのよ」


 ははーーん。何となく読めてきたぞ。

 カレン姉さまは、精霊召喚に失敗しているのだな。しかも文脈からすると恐らく一度も成功していない。だから、俺の精霊たちを見て不貞腐れているのだろうか。


「あの……。姉様? もしかして精霊召喚があまり上手くいって無いのですか?」


 ビクッ。っと、体を上下させるお姉さま。

 やはり図星だったか…。


 それならば。と、バッカスに目配せする。

 察してくれたバッカスはこちらに向かってうなずき返してくる。

 そして、お姉さまの肩に飛び乗ると何かを話しているようだった。


「あれー。イッセイ様のお姉さまは?」

「あぁ。バッカスに見て貰っているよ」


 何だかんだでバッカスが俺の執事みたいになってるな。

 見た目がお爺ちゃんで皆のまとめ役っぽいし、色々アドバイスをくれるから、つい頼ってしまう。

 と言いつつも他の皆もバッカスが姉さまと楽しく話しているのを見て羨ましそうな顔をしていた。


「皆も出来たらお姉さまの相談に乗って欲しいな」


 俺がそう言うと皆がこっちを向いて嬉しそうな顔をしていた。

 行きたかったんだけど、俺が皆を隠そうとしていたから遠慮していたのかもな。 

 まぁ、バレた人の前では隠しても仕方ないし出来るだけ皆の前に出していこうか。


 ・・・


 暫くするとバッカスの診断が終わり、何やら一回戻って確認したいとの事でバッカスは精霊界に戻っていった。



 仲良くなった皆はお姉さまの周りに集まって話をしていた。

 だが、やっぱり同性の精霊は仲良く出来るみたいだ。アクア、セティ、カズハは姉さまの肩に止まってお話している。


 俺も会話に加わろうとしたら


「乙女の秘密に触れない方が良いですよ。」

「ここからは、聖域ですわ。」


 などと意味の分からないハブられ方をした。これは男女差別何じゃなかろうか?


 なので、バッカスが戻ってくるまで暇である…。

 プロメテは放置されたせいか室内で筋トレを始めた。


 流石に筋トレはしたくないので試験の準備をしていたが、


「……なのです」 とか、

「……ですわ」  とか、

「がはは」   とか、 ん?


 何か変なの混じってたぞ。


 まぁ、姉様や皆の楽しそうな会話が聞こえてきた。


「…セイがね」


 んん?? 何か呼んだかね?


 俺が姉さまの方を見るとあからさまに皆が目を逸した。


 何だよ。気になるじゃないか…


 そして、どのくらい時間がたってしまったのだろう。

 辺りは暗いのだが、姉さまは相変わらず皆とお話していた。 


 そう言えば夕食はどうなった? って、入り口付近に停められた食台の上に蓋をした料理が乗っておりメッセージカードが添えられていた。


 後で持ってきてくれた人にお礼を言おう。


 皆が、集中し過ぎだ。俺も人の事言えないがな…。


 あんまり遅くなってもどうかと思うので、姉様に断わってから皆を帰そう。

 姉様に確認すると立ち上がって部屋を出ていく。

 皆と話をして幾分気が紛れたのだろう。割とスッキリした顔だった。


「みんな~」


 精霊の皆の姿がSD化されていく。


「お疲れ様」


 俺の掌や肩に登ると皆ぐでぐでしている。


「えへへっ、イッセイ様のニオイ香りだぁ」


 一匹変なのが混じっているので外にでも捨てようかな?


「嘘です。嘘でーす。た、助けて~」


 首根っこ捕まえて外に放り出してやった。

 少しは反省しろ。


 他のメンバーに色々聞いてみた。


「それで、姉様の懸念事項はやっぱり精霊召喚だった?」


 用意されたご飯を食べながら皆に話を聞く。

 行儀が悪いと言われるかもしれないが用意されたご飯を何時までも放置することが耐えられなかった。


「はい。イッセイに会うまでに契約して驚かせるのが目標だったみたいです」

「そっか…」


 うぐっ、結構重い内容だったな。明日からポーカーフェイス出来るか心配だわ。


「イッセイ様。そこはへこむべきではありませんわ」

「そうなの。イッセイが憐れんだらカレンはもっと落ち込むの」


 カズハとセティに叱られてしまった。

 確かにここで姉様を考えたら上から目線になってしまう。


「なら、何か方法はある?」

「うむ。話をしていて気になったのだが…あの子はワシ等とは違う属性に適しているかもしれんな」


 バッカスは艶々の髭をとかしながら呟いた。


「違う属性…」


 精霊の皆が言うには、大元素と呼ばれる【火、水、土、風】の他に【光、闇、素】と言う属性がある。ちなみにカズハが光属性になるわけだ。

 姉様は【闇、素】に素質が有るため他の属性が受け付けられないのかもと言うことだった。

 元々、闇は癖のある種属性らしくかなり限定的な条件などで現れるらしい。

 素については皆もよく知らないらしい。

 蛇足だががこの2つは何れ俺のところにも現れるのは確定事項らしい。


 話をもとに戻すと姉様には闇か素の精霊に会って貰うしか無いようだ。

 それには、俺が調べていた資料が使えるのかどうかその検証をおこなう必要性が出てきた。


「では、明日にでもカレンをここに呼んでおいてほしい」

「分かった。朝、この部屋に来て貰えるように手配する」

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