15話 女神から貰った称号

「おい、お前達。面倒を起こすな!!」

「「「アレク様」」」


 突然現れたその男の子。

 突っかかってきた三人より上の貴族なのだろう。彼が来るなり三人は彼の背後に移動した。


 状況把握しきれてない子供がまた増えた…。何と言うか頭痛がしてきた。

 俺、順番を呼ばれているので、後にしてもらっても良いですか?


 改めて現れた子を見ると子供にしては肉付きの良いどっしりとした体をしている。シャクれた顎をコチラ向けて見下す様は頂けないが……。


 だが、そうとう鍛えて居るのだろう。五歳にしては随分鍛えられている。

 アメコミのヒーローの様な『▽な形の体つき』になりつつある。

 騎士に憧れているのだろう。いかにも脳筋っぽい。


 アレクと呼ばれた子供が三人から話を聞いている。

 ふむ。今のうちに脇から抜けて逃げられないだろうか…


「オイ、お前。そんな所を見ていても逃しはしないぞ」


 どうやら視線だけで俺の行動がバレてしまった様だ。


「ふむ。こいつ等の話を聞く限りではお前はローザリッテ様とベネッタに話しかけた不届き者だという話らしいが、それは本当か?」


 おい。全然ちげぇ!! 何も見てないじゃないか!! 

 逆だ逆。俺はアイツラに絡まれただけだ。と言うかアイツラが絡んできたから今俺は絡まれている訳だ。アイツラとんでもないな…。


「イッセイ様!! いらっしゃいませんか!!」


 やばい神官さんも俺を探し始めた。

 手を挙げてアピールするが、目の前の奴ら…邪魔していやがる。

 それで神官さんからこっちが見えない様だ。


「イッセイ様は、ご不在ですか…」


 あぁ…。順番が。

 っと、誰かが神官さんと話をしてくれて、って一人こっちに来た。


「イッセイ君。大丈夫ですか?」


 助けてくれたのは公爵家の娘のローザリッテさん。神官に話をしてくれたのはベネッタさんの様だ。

 俺は貴女達を信じていましたよ。



「アレス君。この方に何をしているのですか?」


 女神ローザリッテ様がアレス君を責めていた。

 アレス君は苦笑いしていた。

 その後、ベネッタ様も混じって来てアレス君+三名はしこたま怒られていた。

 俺は居なくても良かったんじゃねーのとか思っていたのだが、神官さんも話は伺っていますからごゆっくりどうぞ。と言ってきた。


 いや、別に混ざりたいわけじゃねーし。


 黙って見ていたが俺が辺境伯の子供だと知って三人組も青い顔をしていた。

 なるほど俺に絡んできたのは、何処かの男爵の子供だと思って絡んだのか…。


「イッセイ殿、失礼した。どうやらコイツラが絡んでいたようだな」


 アレク様が三人に向かって睨みを聞かせると、三人は途端に大人しくなっていた。


「いえいえ良いんです。何か誤解を与えてしまった様ですし特に気にしてません。改めて僕は、イッセイ=ル=シェルバルトです」

「そう言ってもらえると助かる。僕は、アレク=リ=ゴットフリート。この国の近衛団長の息子でベネッタのいとこだ」


 アレク君と握手する。


「挨拶が簡単で申し訳ないですが、僕の順番が来ているようなので、失礼します。ローザリッテ様、ベネッタ様も感謝致します。お礼はまた今度致します。失礼します」

「あぁ。後は任せてくれ。コイツラに言い含めておくよ」

「イッセイ様。ごきげんよう」

「イッセイ君。またね」


 ローザリッテ嬢とベネッタ嬢に会釈して席を離れる。

 最悪、魔石に光魔法を付与してフラッシュグレにして逃げようかと思ったが、やらなくて良かった。握っていた石をポケットに入れ直し席を後にする。


 三人組は更にしこたま怒られている様だが、ま、自業自得だしほっておこう。


「すみません。遅くなりました」


 儀式の間に案内してくれる神官さんに声を掛けた。

 神官さんは苦笑いして、


「お疲れ様でした。毎年この様なイザコザはありますのでこちらの事は何もお気になさらないでください」


 と、声を掛けられたが俺も苦笑いしか返せない。

 話を通して貰えなければ、逃げたと思われていたんだろうな。


 幾ら子供とは言え貴族相手だと不敬に当たる場合もあるため協会の皆さんも声を掛けづらい様だ。この世界にもモンスターペアレントが居るってこったろうなぁ。


 …本当にご苦労さまです。


 そんなやり取りを挟みつつ奥の間に通してもらうと簡単な祭壇に柵が儲けてあり、対するように大理石で削られた神の像がこちらに向かって施しを行っている様な形で置かれている部屋だった。


「そちらの祭壇で祈りを捧げてください」


 司祭さんの指示のもと、言われた通り祭壇に足をついて腕を組む。

 黙祷を捧げ神に祈るように意識を集中させた所で、意識が薄れていく。



 ・・・



(セイ・・・)



(イッ・・・セイ・・・・君。)



(イッセイ君。)



 誰だよ。今、黙祷中だ。


(うーん。神に対して黙祷中なんだよね?)


 そうだよ。だから邪魔しないでくれる?


(そっか。僕がその神なんだけど…)


 え?

 目を開けると白くて広い空間が広がっていた。


「な、なんじゃこりゃ」


(はははっ。久しぶり。)


 頭に直接響く声。

 そう言えば何処かで聞いた事がある。


「あっ、お久しぶりです…」


 目の前に光輝く光の玉がふよんふよん。浮いていた。


(やぁ、元気だった?)


 光の玉は形を変えずその場で浮かんだまま俺に語りかけてくる。

 この世界に転生したときにお世話になった神様(?)だったっけ? この人、いや玉。


「お陰様で楽しいファンタジーライフを送ってます」


(そうだね。君のことはよく見ていたからね。)


「恐縮です…」


(なんだよ~。よそよそしいな。)


 しょうがないジャン。久しぶりなんだよ。


(そうそう。そう言う態度の方が僕も楽だよ。)


 そうだった。この世界は喋らなくても伝わるんだった。


 俺は、5年ぶりに懐かしい気持ちに包まれていた。

 ん。良く見てたって言うのは?


(だって君は、僕のお願いを聞いてくれる使徒みたいなものでしょ?)


 まぁ。そうだ。【外来種】と呼ばれる敵。

 こいつらを抹殺するべく俺は動いている。

 現在は準備段階で将来は外来種抹殺の旅に出る予定だ。


 まぁ、今はまだ外来種の『が』の字も出てきていないんだけどね。


(それに約束してたでしょ。五歳になったら力をあげるって言う。)


 忘れてた。でも何で五歳だったんですか?


(あのね…。一応、この儀式で渡したほうがそれっぽいでしょ)


 ぐっ…。聞かなきゃ良かった。下らなすぎてぶん殴りたくなった。


 まぁ、この日の為にトレーニングを続けてたんだ。

 力を発揮するためだったと納得しておこう。


(そうだね。そうしてくれると嬉しいな。それに僕が用意した魔導書も活用してくれてるようだしね♪)


 うん? 魔導書?


(初心者から…)「あぁー!!」

(なんだい?いきなり大声だして。)


 光の玉は一瞬膨張したように光るとすぐにもとに戻った。

 初心者から上級者までこれ一冊あの本はやっぱり用意してもらったんだな。


(まぁね。あんなの何処にでもあったら、この世は皆が大魔導師になっちゃうだろうね。)


 あぁ、だろうな。でもお蔭で俺はだいぶ強くなれた。


(ふふふっ、そうだろう。あれは本来神の図書館にある物を持ってきたんだ。)


 神の図書館?


(そう。セフィロトって言うんだよ。何でもあるんだ。)

(そう。貴方だったのね?)


 あれ? 声が増えた?

 金○さんが自慢げに本の事話した後、女性の声が聞こえた


(あががっ…)


 えぇー!!


 気づいたら光の玉である神様を鷲掴みしている女性の姿が見えた。

 ここが神の世界なら、目の前の女性は【女神】という事になる。

 そんな、女神が目を血走らせながら光の玉を左右に引っ張っている。


 正直、ドン引きである。

 そして、何故か俺の股間も痛くなった。


(いだだだだだだ…ギブギブ。大体なんで君みたいな女神がこんな事するのさ?)

(貴方が勝手に神々の宝を持ち出したのがいけないんでしょうが!!)


 神々の宝? もしかして、それって…!?


(そうです。【公式チート:馬鹿でも出来る魔法全書】です。)


 地味に正式名称ひどいな!!


(絶対に神以外の者に閲覧することを禁じられた禁書ですよ…って貴方は何方ですか?)

(前から話してるでしょ。彼がイッセイ君だよ。)

(まぁ。貴方がかの有名な。)


 神の知る世界で有名ってのはどういう世界だろうか…今のやり取りを見た後だとすごく不安な気持ちになる。


(なるほど、聞いていたとおり。不敬な子ですね。)

(そこが良いんじゃない。神を目の前に物怖じしないんだよ。)

(まぁ、そうですね。(彼女もそこが良かったとかなんとか…))


 ん? 何か?


(いえ。何でもありませんよ。)


 これであの魔導書の謎が解けた。

 あんなすごい本が我が家にあったのは目の前のこいつが持ってきていたようだ。

 確かにあんな本があれば家宝どころか国宝になってたっておかしくない。


(まぁ良いじゃない。彼には強くなってもらう必要があったから僕が便宜を図ったんだよ。)

(えぇ。過ぎてしまった事は仕方ありませんね。でも本は不要になり次第返してもらいます。)


 はい。どの様にお持ちすれば良いですか?


(そうですね。貴方が契約している精霊達に判断してもらいましょう。彼等が不要と感じたら勝手に戻ってくる様に手配しましょう。)


 そうですか、それなら助かります。


(さてさて、邪魔が入ったせいで随分と時間が経ってしまったようだ。)

(じゃ…!?)


 光の玉は余程イライラしていたのか、サラリと女神に対して毒を吐いた。

 こちらとしては居心地が悪くなるので辞めてもらいたい。



(終わったようだし。昔約束していた能力をプレゼントするよ。今ならこの力を持っても制御する事が出来るだろうさ。)


 光の玉は膨張し大きくなると、強い光は発行させた。


「うお!? まぶし!!」


 何かやるなら声を掛けてからやってくれ。


(ごめんごめん。もう渡してあるから後で確認してみてね。…そうだ、ガブリエル。君も彼に加護を上げたらどうだい?)


 ガ、ガブリエル…様!?


(うーん、そうね。一応、私の国民だし加護をつけようかしら。そうだわ。精霊を可視化出来るようにしてあげましょう。)


 おぉ。これなら否が応でも一緒にって、全然メリットねー。


(なによ。私の加護が気に食わないの?)


 女神ガブリエル視線は鋭い。

 そんな視線を送られては、にっこり笑顔を返すしかないだろう・・。

 でも、正直言って加護は加護と呼べる代物ではない。どっちかと言うと邪魔だ。

 精霊が可視化されたら巷で問題が発生してしまう。

 しかも、俺が精霊契約しているのを公言しているようなものだ。


 ため息が出そうだがここはグッと我慢だな。


(何が出そうですって?)


 やべっ。ここだとバレるんだ。

 はははっ、こんなに色々貰ったら元の世界に戻ったら

 皆ビックリするなって、思ってました。


(まぁ、そうね。それなら可視化は止めておきましょうか。)


 おっ、ラッキー言ってみるもんだな。


(称号にしましょうか。)


 はっ!? 称号?


(あぁ、それは良いかもね。勇者にする訳にいかなかったからね。)


 勇者に出来ない?


(あれ? 言ってなかったっけ? 君に勇者の称号は与えられないんだよ。)

(そうなの。貴方元々こっちの世界に来る予定の無い人間なので、称号とか加護とか付かないものなのよ。)


 へ、へぇ~。


 今更ながら凄いことを聞いた気がする・・・。

 仮に照合なしとかで帰ったら父様達が相当がっかりしてただろうな。


(称号なんだが・・・)


 おぉ、何だこの高揚感。期待が膨らむな。

 ワクワクしている自分が居るのが分かる。


((カイザーだね(ね)))


 カ、カイザー???

 俺の元の世界では”皇帝”って意味だったはずだが?


(うん。こっちでも同じ意味を持つよ。)


 は?


(そうですね。皇帝が出るのは建国時以来でしょうか?)


 え?


(あっ。そんなに前?)

(まぁ、ずっと不在の称号ですし、そろそろあげる人間も欲しかったですしね。)

(じゃあ丁度いいや。称号をあげちゃうね。…はいあげた。)


 おいぃ!!

 こっちでも注目度ヤバイじゃねーか!!


(まぁ、あげちゃったしね。)


(そうね。まぁ、役には立つわよ。他の国にも行きやすくなるし、他の神の加護も受けられるかもね。)

(おっ。それはGoodだね。正に今後のために必要な処置と言えるよ。)


 神様2人は勝手に納得して、満足そうな反応を示している。

 こちらとしては、この後起こる問題に頭を悩ませざるを得ないのだが。

 そんな俺の苦悩は、目の前の2人にはどうでもいい事のようだ。


(さて、そろそろお別れだね。もしも、他の神の加護を受けるような事があればまた連絡するよ。)

(称号については安心しなさい。私が神託にて大司教には報告してあります。)


 どうやら、先に”バラされた”らしい。

 この後、取り急ぎ逃げようと思ったのだが、それすら許されないらしい。

 光の玉を片手にこちらに向かって手を振る女神ガブリエル。


 俺も、苦笑いしつつ手を振り返す。


 また、意識が遠くなるのを感じた。

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