10話 賢王級のプレゼント
「こ、これは!! 何だ?」
錬金細工師は目の前の錬金作業台の上に乗っているブローチを見て戦慄を覚えていた。
何故ならこの世に生まれ、祖父の作る彫金に憧れてこの世界に入って30年。未だに自分の納得のいく品物に出会わない。自分は一生そんなモノ見る事も無いんだろうな等と諦めていたが、目の前にあるブローチは正に自分が目指している物だった。
目指していた物とは鉱物や宝石類などが極稀に自然界にて神秘の奇跡により融合する事がある。錬金細工師はそれらの奇跡を自分の手で成功させたいと思っていたのだ。
3歳児がこれを創るだと…
驚きと悔しさと自分へ偽っていたことへの後悔と怒りが一気に吹き出してきた様な気分だった。
目の前で自分の知らない技術によって制作されたが、自分が今まで言い訳してきた部分は全て否定されてしまったのだ。
「……ふふふっ、ふははははは」
ショックを通り越して自分の殻が破られる思いだった。そして思った。
この制作方法を聞きに行こう。
地元を統治する貴族を気絶させたと今にも吐きそうな気分だった宝石商は、少しでも貴族の機嫌を取ろうと躍起になっていた。
ここまで騒ぎになった事の責任を取るとして、自分の命だけで済ませるにはどうするかと考えていた。商人の資格を取り消されれば自分の子供達が大変な目に合う。
それだけが気がかりだった。
そんな事を考えていたのに、上に上がればうちの錬金細工師が貴族が作った制作品の近くでおかしくなっていた。作業道具でも触られて気が触れたのかと思い見に行った所、彼の手に持つ成果物を見てありとあらゆる物が出てしまうのではと思ってしまった。
「な、な、な、なんですこれは?」
流石は宝石商と言ったところか彼は一瞬でイッセイの
そして思ったのだ。これを売ってもらえないか聞いてみよう。
「「今すぐに彼の元へ聞きに行かなくては!!」」
・・・少し前に遡る
目を覚ますとみんなの居る部屋に居た。
頭がぼーっとして意識がまだはっきりしないが、確か工房に居たはずだ。
「うーん。いたたたたた…」
横たわっていたソファーから体を起こす。少しでも体を動かすと頭に電撃が走る。
二日酔いに近い痛みを感じるのは魔力切れを起こしているからだ。
段々と思い出してきた…
バッカスとプロメテの悪ノリによって俺の魔力は底をつき、つい今しがたまで気を失ってしまったのだ。これだけ早く起きれたのは魔力の回復量が他の人より高いため。
しかも、
頭に冷たい感覚を覚え、やさしい声が聞こえてきた。
「まだ、起き上がらないでください」
ソフィー姫様が俺のぬれタオルの交換なんていう雑務をおこなっていた。
起き上がろうとすると、静止された。
「イッセイ様。まだ寝ててください!!」
3歳児の女の子にソファーへと押し返される。
…何でだろう。こういう時って幼くても女性に逆らえないもんだ。
「姫…。申し訳……ありません」
ホスト側なのに醜態を晒してしまった事にシュンとしていると、頭を撫でられた。
「大丈夫。安心してください」
姫の思い切った行動に俺は恥ずかしくなってしまった。
流石、子供パワーこういう時、本能で行動出来るの羨ましい。
しかし、付いてきた姫付きのメイドさんが居るので怒られるのでは無いかと思ったが、ニコニコしているだけで特に何も言ってこない。寧ろ姫の甲斐甲斐しさを微笑ましく思っている様だった。
「あの…。姫様にこの様な事をさせて宜しいのでしょうか?」
俺は、メイドさんに小声で聞いてみた。
「ええ、どうぞ。イッセイ様。お嬢様は、フェニキス家のお嬢様でございます。将来の為に男性の介抱のしかた一つ知らなければ恥をかきます」
「…お心遣いありがとうございます」
--バンッ!!!
そんなやり取りをしていたら乱暴にドアを開けられた。
部屋に入ってきたのはここの商人主と錬金細工師の二人だった。
・・・
「イッセイ様。お下限はいかかでしょうか?」
「おい、坊っちゃん。あの宝石はどうやって創ったんだ!!」
いきなり来てちぐはぐな事を言う人達だ。
「おい。ワッツ!!」
「何だ。店主俺は回りくどいのは嫌いだ。あれは何だ!! 坊主が作った物はありゃ神級とは言わないでも最低でも国宝級、下手をすれば賢王級だ」
なるほどね。制作、生産に携わる人なら気になるよなぁ。
物品にはランクが存在する。
主に一般に流通しているのが、
・初級
・中級
・上級
の三種類がそうだ。
初級なんかは粗悪品と間違えられやすい。そこそこの冒険者なんかは中級アイテムから買うのが一般的だと言っていた。
しかし、上に並べるのは量産される物の事で、世の中には『ユニーク』と呼ばれる物も存在する。
それが、
・国宝級
・賢王級
・神級
の三種類である。
例で例えてみよう。
毒を抑える効果のある防具があったとする。アクセサリーでも良い。
通常、流通品に『完全無効』の物は存在しない。
そのため、【毒耐性:弱】、【毒耐性:中】、【毒耐性:強】がそれぞれ初級、中級、上級となる。
それが国宝、賢王、神の等級になると。
【毒:無効】、【毒:一部回復】、【毒:完全回復】
こんな感じになる。
上位三種は『アーティファクト』と呼ばれ殆どは錬金技師の手で作成される事は無く、ダンジョンでの入手が多い。
しかも、世に出回ることは殆ど無く過去の遺産として国で研究対象とされて事が殆どだ。
鑑定眼があれば、『もし手に入れば高価で取引される事だろう。』と表示されていたかもしれない。
閉話休題
「わ、若旦那様。私もモノはご相談ですが…」
宝石商の店主さんが俺の作ったペンダントを神を崇めるかの様に大事に持ってきた。その態度で何となく言いたいことは分かった。
「それ。ソフィア様へのプレゼントです」
「そう…ですよね…」
何やら随分価値のあるものが出来たらしい。
自分(バッカス達)が作ったものをまじまじと見る。
…確かにやばいものが出来ていた。
銀のロケットペンダントだった筈だが、飾り予定の宝石が融着していて完全に一体物になっている。
更にはどういう訳か分からないが、琥珀の中は液状化しているのか小さいキューブと赤い小さいキューブがロケットを振ると左右に流れていた。
・・・宝石商side
一方、一応交渉してみたものの。
譲って貰える訳が無いのは重々承知していたが、物を見て気が動転してしまった。
何かに取り憑かれたのかもしれない。あれを見た瞬間幾らになっても良いから売って欲しいと本気で願った。いや、頼めば売ってくれるかもしれないと思った。
お越しいただいた少女が王家の人間だったとしてもだ。
それでも根拠の無い自信に満ち溢れていた。まるで駆け出しの時みたいに…
だが、それも先程までだ。イッセイ坊っちゃんにお断り頂いたおかげで目が冷めた。
少々、皆の前で取り乱してしまったために恥ずかしい思いをしてしまったが、これを教訓として『焦ると事を仕損じる』という事を社訓にしようと思った。
「まぁ、色々迷惑を掛けましたから。アクセサリーは改めて作りに来ますよ。その時に作り方も説明しますね」
「おぉ…。貴族の坊っちゃんありがとう」
錬金細工師のワッツがイッセイ様に膝を付き涙を流してお礼を言っている。
今、イッセイ様は何を言っていた?
こちらを見ているイッセイ様が苦笑いしていた。
・・・
「ソフィー様。こんな状態ですいませんが僕からのサプライズです。受け取って貰えますか?」
「すごく綺麗…です」
本来なら着けてあげるのが普通なのだろうが、今の俺はソファーに寝そべって動けない。だから、ソフィー姫様のメイドさんにお願いして付けてもらった。
あぁ…よく似合ってる。
「よくお似合いですよ。お嬢様。ねぇイッセイ様?」
「はい。僕も同意見ですソフィー様によく似合っておいでです」
「ありがとうございます」
ソフィー姫様は顔を赤く染め下をみて俯いていた。
「そう言えば、何か付与されてるが何を付与したんだ?」
錬金細工師のワッツさんが思い出したように呟く。
「そんなにたいした付与ではないはずですが…?」
ワッツさんはソフィー姫様の身に付けているロケットを見て、
「ぐふっ!?」
吹き出した。鼻から鼻水も出ていた。
何がどうした?
「お坊ちゃん…。こいつには【毒無効】と【炎耐性】、【炎攻撃付与】が付いてるんですが?」
え?
「そうですね。【毒無効】だけでいくらの値が付くのか・・・」
はい? どくむこう?
「えーっと、そんなの付与した記憶が…。因みにそれって普通なのでは?」
「なんと! 意図せず付与されたのですか!? て、天才だ…」
「普通ではございませんね。既に
え? 賢王級? ど、どういう事だ?
内容に驚いた面々が俺をジッと見つめてくる。
俺は、言い訳を考えられず顔を青くするだけだった。
何れにしても後でバッカスとプロメテは呼び出しだな。
・・・
「流石はお坊っちゃまですね。自重を知らないと言うか、なんと言うか…」
アリシャが溜め息混じりに誉めてくれた…。当然、皮肉だが。
「仕方ないでしょ。あの二人が戦犯だよ!!」
フェニキス家が帰路に付くのを家族総出で見送ったところだ。
ソフィア嬢が馬車から身を乗り出してずっとこちらに手を振ってきている。
しかも、ソフィー姫様の意向に添うように馬車の速度も遅めだ。
見えなくなるまでがお見送りです。と、言われていたので内心はとっとと行ってくれだった。
やっとの事で馬車も見えなくなり見送りに出ていた人達も後片付けを始めていた。
「さて、イッセイ。今回の件、少し母と話しましょうか?」
笑顔のままキリキリと首をこちらに向けて来る母上。
笑顔が怖いんですが…。
話とは恐らく宝石商での話だろう。
魔力切れを起こした理由を商会長さんが母上に報告していたからなその時バレたんだと思う。
俺も怒られるのは覚悟のうえだったので、半分は諦めかけていた。
「は…」「大奥様。昨日の事は、喜ばしいことなのではないでしょうか?」
俺が返事をしようとしたタイミングを切ってアリシャが割り込んでくる。
「喜ばしい?」
「はい。お坊っちゃまは今回少々やり過ぎました」
「そうね。この年齢でここまでの付与は異状だわ」
「はい。ただ、効果や価値についてはご本人様が自覚しておりません」
「そうなの? イッセイ」
母は、アリシャの話の裏を取ろうと俺に同意を取ってくる。
確かに物の価値については学んだ記憶がない。寧ろ今回宝石商に教わった感が強い。
そこは真実だし、嘘を付く理由もない。
「…はい。今回宝石商の商会長様に教わりました。それに、僕が付与しようとした能力より…過剰な効果が出ました…」
「なんと、それは本当なの?」
「はい。鑑定していただいたら
「えっ…」
母上は優しく抱きしめてくれた。
「あぁ、イッセイ。貴方は何も悪くないわ。しっかりと教えなかった私のせいね」
本気で俺の心配をしてくれている。
何となくいい感じの家族愛ドラマに終止符を打とうとアリシャが最後の詰めに出る。
「お坊っちゃまは、魔力暴走を起こされたのではないでしょうか?」
「魔力暴走!!」
ぐえっ。
抱き締める急に力が強くなる。
アリシャ、母をあまり興奮させないで。
ギリギリと抱きしめながら力を込められると、万力で締めたれたようにきつくなる。
母上のポヨヨンはあまり大きくない。
アルファベットで言うところの上から3番目位だ。
だから、優しく抱き締めてくれる時は程よく柔らかいのだが強く抱き締められると結構痛い。
「そうです。暴走したことで存在的に持っている魔力が想像以上に付与に流れ込んでしまったのではないかと」
「それが、その結果」
母の興奮がクライマックスに達している。
俺は、タップしているのだが気づいかれていない・・・。
お陰で、万力と化した母は俺の頭をポヨヨンで挟み腕でロックしていた。【ポヨヨンヘッドロック】の完成だ。
そして、俺もクライマックスの最後のシーンに突入しているのだが、恐らく俺にはハッピーエンドは来ないだろう。
空から木漏れ日が差してきていて、天使たちがトランペットを吹きながらゆっくりと降りてきているのが見える。
「あぁ。イッセイ。貴方は才能を発揮しただけなのね」
ガクガク。俺の両肩をつかんで前後に揺さぶってくる母。
俺は、既に意識がかるく飛んでいた。
「きゃー。イッセイが…」
「奥様。私が坊っちゃんをお運びします」
慌てふためく2人の声が断片的に聞こえてきたが母上から解放された俺の意識は失いかけていた。
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