8話 お忍び旅行?

「わぁ、可愛い。皆さん精霊さんですか?」


 突然現れた謎の女の子。

 精霊の皆に目を輝かせながらも図書館やらお茶やらを物珍しそうに見て回っていた。


 うーーん。何処かの子が勝手に入り込んだのか? それにしては身なりはいい格好だな…


 見た目と状況を照らし合わせてもこうなる状況には結びつかなかった。

 謎の少女は図書館内を一回りすると精霊の皆に興味を持った様で追いかけ回していた。

 容量のいい子はさっさと逃げてきたが案の定プロメテとアクアは、取り残されており。

 少女は手をワキワキさせながら徐々に距離を詰めていった。


「ひどい目に合いました…わ」

「イッセイ。どういう事じゃ?」


 疲れた顔をしたカズハが愚痴を言いながら帰ってきた。おい。何で俺に乗ろうとするんだ?


 すかさずバッカスが俺に質問してきたが、俺もどういう事か教えて欲しい。

 この子がどうやってここに潜入したのか。そこがミソなんだと思う。

 プロメテとアクアが意を決しニ人共別々に逃げ出した。

 あっ、プロメテが逃げ遅れてしまった。


「そうそう。風の警戒はどうしたの? 仕掛けあったでしょ?」


 セティの話に納得してしまった。


 −−ポンッ。


 掌に拳を打ち付ける仕草を取る。

 俗に言う『なるほど』って仕草だ。


「ごめん、ごめん。皆と考え事してる最中うるさいから外したんだった」


「「「おい!!」」」


 すでに逃げてきていた三人から総ツッコミが来た。

 はははっ、本当にスマンね。


 俺は風の魔石を使って直ぐにアリシャを呼んだ。


 捕まったプロメテが謎の少女に撫で回され、嫌がって暴れる猫みたいになっていた。


 普段掴まれ慣れてないからな…。

 でもスマン。アリシャが来るまでの間頼む。


 プロメテにジェスチャーを送ったら真っ青な顔が返ってきた。


 そんなに時間も経たない間に部屋の外が慌ただしくなった。魔力操作による人の気配を察知するとアリシャ以外にも二人ほど居るようだ。

 一人は女性でもう一人は男性か? 随分と周りを警戒している。


 −−コンコン

 図書館の扉がノックされた。

 これはアリシャが気を使ってしてくれた事だ。

 今の内に精霊を隠せってことだろう。


 女の子もノック音に反応し動きを止めていた。

 どうやらお迎えが来た事に気付いたらしい。


 女の子から解放されグロッキーになったプロメテや他の皆を隠す。


「あっ、あれ?」


 女の子が不思議そうな顔をしたので、俺は口に人差し指を立てて。


「後程、ちゃんとご紹介しますよ。ソフィア嬢」


 と、だけ伝えた。

 俺を見て女の子が頷いたのを確認し扉の向こうにいるアリシャに返事を返した。



 ・・・


「君がイッセイ君か…、なるほど。マリーダから話を良く聞いていてね。会えるのが楽しみだったよ」


 客間のソファーにやけに貫禄がと言うか座れ慣れてると言うか、最早椅子に座ってるのが職業なんじゃないか? と思う人が居た。

 その人は俺が入室するなり威圧してきた。

 周りに座る母様やソフィア嬢には一切感じさせないコチラだけを狙った威圧だった。


 モンスターも徐々に狩り始めている俺は、涼しい顔が保てる程度で冷や汗が背中をダクダクと流れていったが、一緒に威圧を喰らったアリシャは俺より落ち着いていた。


 コイツ本当に何者だ…。


「ほう…」


 目を細めてこちらを見てくる女性。更に鋭さが増した。


「へ…ニル。お戯れが過ぎますよ。あまりうちの子をいじめないでください」

「あはは。悪い悪い。久々にからかい甲斐があったのでつい、ね」


 流石に空気を察した母様が止めに入った。けど、この人は特に反省した気配は感じ無かったな。

 母様相手にケラケラ笑ってるよ。


 しかも、母様は最初に何か言いかけていたな…。確か『へ』とか言い出してたか?


「私は下がらせて頂きますので、何かございましたらお呼びください」


 アリシャを見たが涼しい顔をして、お辞儀しながら下がっていった。

 あんだけの威圧を受けて堂々とスゲーな。

 普通の人なら立てるかも怪しい威圧だったのに…。


「ははは。ごめんごめん。冗談が過ぎたようだね。私の名前はニルヴァー。ニルヴァー=ポセイド=フェニキス。隣のフェニキス家の第三妃だ。」

「イッセイ=ル=シェルバルトです。本日は父の領地にお越し頂きましてありがとうございます…フェニキス婦人」


「何だ、マリー。君の子は随分としっかりしているのだな」

「ありがとうございます」


 母様のやけに丁寧な返事とちょいちょい入ってくる偉い人が話し方。それと、逆らえない感じの強いカリスマ性。これは、婦人で終わる様な人の気配じゃない。


 何処かの国のお姫……様!? って確か王女陛下もニルヴァーって名前だった様な……もしかして!?

『ニルヴァー』【=ポセイド=フェニキス】が『本名』で【偽名】だ。確か親しみを込めて『ニル王女』って呼ばれてる筈だ。


 チラリと顔を見たらニヤッとされた。

 あぁ。完璧だ。


 となると、隣でモジモジしている女の子はお姫様って事だ。

 なるほど。道理で…アリシャが何にも言わない訳だ。

 アリシャを見たらこっちに向かってお辞儀してきやがった。


「ほら、ソフィー。」


 王女陛下(らしき人)に促されて、『ちょこちょこ』と俺のそばに来たソフィア姫様。モジモジしながらこちらを見ていた。


 こういう時、焦ってはいけないし、声を出すのは完全NG。顔にも出さず相手の動きを待つのが正解なのだ。


 ま、目の前の姫様は先程からコロコロと表情を変えまくっている。

 勇気を出そうと必死なんだろう。その、頑張っている姿がとても愛らしく。なんかこう頭を撫でてあげたくなる。

 傍から見れば『姫様相手に失礼な小僧だな』ってツッコまれそうだ。だが、今は誰にツッコまれても良い。


 だって、今も目の前でガッツポーズとか決めちゃって…。あぁーかわいい。


 こんな、妹が欲しかったなぁ……。

 父様と母様に頑張ってもらうしか無いな。


「あ、あた……わたし。と、隣の領から来たソフィア=フェニキスともうます。はわっ…」


 噛んだ。けど…かわいい。


 もうね。お兄さんね、君に何でも買ってあげちゃう。

 お小遣いもあるけど、アリシャがこっそりと変換してくれたモンスターの素材の代金もあるからお菓子でも何でも買ってあげちゃう。

 俺がそう思っていると大仕事をやりきった少女は清々しい顔をしていた。


「ソフィア様。素敵なご挨拶ありがとうございます。シェルバルト家末子まっしのイッセイと申します。以後、お見知りおきを…」


 膝をついてソフィア様に頭を垂れる。

 騎士が姫に忠誠を誓うようなそんな感じだ。


「なぁ、マリー。本当にこの子三歳か…?」

「うふふ。時々私も疑うことはありますが、本当に三歳ですよ」


 外野がウルサイ。

 確かに三歳で俺くらいハキハキ喋るのはあんまり居ないだろうな~

 ま、そこは諦めて。こういう子も居るって思うだけで良いでしょ。


 俺の挨拶が終わり顔を上げると姫様は顔を真っ赤にして『ふわ~』等と声を上げていた。


 ただ、姫様に礼をしただけだと思うんだけど?

 何か間違ったのだろうか?


「ソフィア様…?」

「そ、ソフィーとお呼びください」


 はぁ? 急に何だ。


「あの…ソフィア様。いきなり愛称でお呼びするのは…」

「え? そ、そうなのですか…」


 ソフィア(姫)様の顔が明らかに暗くなっていく。

 と、言うか泣き出しそう…っていうか泣くよこれ。どうすんだよ!! 誰か助けてー


「はははっ、ソフィーは甘えん坊さんだね。イッセイ君が嫌じゃなければソフィーって呼んでもらっても良いかな?」


 女王陛下はニッコニッコしていた。

 あぁ…。俺が気づいてる・・・・・事を知っているから、それを承知でこ言ってきてるよな。


 ヒザを付いて陛下とソフィア姫に言う。


「かしこまりました。これからはソフィー様とお呼びさせていただきます。」

「わぁ、宜しいのですか?」

「うむ。これからもよろしく頼むよ」


 さり気なく長い付き合いにしないでいただきたい。

 王家になんて関わりたくないんだから。


「皆様。そろそろ夜のご用意をお願いいたします」


 メイド長。グッドタイミングb

 俺にはこれ以上ここに居る体力も気力も残っていなかったので、すっごい助かる。

 陛下とソフィー姫様が退出した後、母様に肩を叩かれたのが一番効いた。


「ふぅ~。すっごい疲れるんですけど…」

「はい。イッセイ様。」


「あっ、ありがとう」


 自室に戻りアリシャと一息ついていた。

 と、言っても俺が椅子の上でお茶を飲んでいるだけだが。

 つかの間の休憩時間を満喫中である。これは今日は修行に行くなんて言ってられないや。ぶっちゃけ、このまま今日は眠りたい。


 それ位、疲れた。


「そろそろイッセイ様もご用意しませんと夜会が始まります」

「あー。もうそんな時間」


「あと、数時間ですから気を抜かずに」

「ふぁぁ~い。」


 体をゴキゴキ鳴らすと着替えを済ませ会場へと向かうのだった。


 ・・・


 夜会は精霊の噂を聞きつけて領内にお越しいただいた貴族様方もお招きしておこなっていた。

 流石に全員を屋敷に泊める事が出来ないので、夜会は開いているのだ。

 そして、今晩は特別に仮面舞踏会を開催している。


 何故なら顔を知られたら不味い人が2名ほど夜会に紛れ込んでいるからだ。素性は隠しているが国の要人。この会場の中に2人の護衛が紛れ込んでいる様だが数名しか見つけられなかった。何人かは化け物クラスの人だろう。存在感はあるのに気配を感じられない。おかげで気になって仕方がない。視線を反らすのにすごく気を使う。


 凄腕護衛達のせいでソワソワしていたら。


「イッセイ様」


 ソフィー様がそこに居た。

 一応仮面を付けているが子供なんてそんなに多くないし俺にワザワザ寄ってくるなんてのは姫様しか考えられない。


「ソフィー…様。楽しんで頂けてますでしょうか?」

「はい。夜会がこんな風だと知りませんでした。これも皆様のお陰です」


 ソフィア姫は夜会全体を見渡し、来場のお客さんに向けてお辞儀した。

 なるほど。この子も立派な女王になる資格があるということか。


「では、姫様の感謝の気持ちを私なりにアレンジ致します?」

「え? それって…」


 --ポンッ


 ホールの2階の窓際に召喚した精霊たち。

 いくつかリアクションを取ってもらう。


 次々と気づき始めた人達が天井を見上げ始める。

 仮面を付けた人達が精霊の皆に釘付けになり、口を開けたままポカンとしている様子は圧巻だった。


 ソフィー様を安全な場所に連れて行くとプロメテが彼女の上に降臨し消えた。

 それを見た貴族は割れんばかりの歓声を上げていた。


 一躍有名人となった仮面の女の子。

 暫くは貴族に囲まれたりしたが、頃合いを見て彼女をエスコートし、女王の元へと戻った。


「あれも君の演出かな?」


 開口一番、そんな事を言われた。

 一瞬ドキリとしたが特に問い詰められる事はなく。

 寧ろ、


「うちの娘が完全に君に参ってしまったようだ」

「あらあら、イッセイ。手が早いのね」


 そう言いながら女王陛下と母様は笑っていた。

 そんな事は無いだろうと、ソフィー様を見ると俺の服にガッチリと捕まったままな事に気づいた。しかも、やたら熱視線を俺に向けてきている。


 妹を可愛がるつもりでやったのだが、完全にやらかしたのだと目の前の2匹の狐を見て本能で理解した。


「明日は、デート日和ねぇ」

「ま、そのまま明日もエスコートしてあげてくれ」


「はい…。かしこまりました」



 ・・・翌日


 それで決まったお出掛け。もう何でも来いだ。

 ソフィー様の好みをアリシャに探って貰っていたわけだが、行きたいところが甘いもののお店と聞いて俺は挫折しかけている。

 何故なら甘いものが大の苦手だからだ。

 辛いものや塩っぱいものなら何処でも行くんだけどなぁ…


「では、適当にお店なども回ってみてはいかがでしょうか? こちらに連絡先が載せてあります」


 アリシャがアドバイスし手紙を渡してきてくれた。

 でも、適当なお店って?


「アクセサリー、服屋、小物を販売するお店ですが、甘味も出させる様に手配してあります」

「アリシャ! 素晴らしい。ありがとう!!」


 流石はアリシャ。

 リストを見るとなるほど。納得した。

 シャルバルト領で品物を多く取り扱っている商家だ。

 しかも、全店のオススメ情報が書いてあり。この通りに回れば商家からクレームも出ないだろう。


 小物を取り扱う店を最後にすれば色々見て回れるだろう。


「ありがとう。何かプレゼントを探してみるよ」

「それが宜しいかと」


 彼女が国の要人なのは分かったが、これはヒドイ。

 馬車に騎士が2人付いていた。

 これじゃ。ちょっとしたパレードみたいになっちゃうじゃん。


 門の所にいる2匹の狐が口元を隠しながら笑っている。


「まぁ、ゆっくりしてくると良い」

「えぇ。街の人たちによろしくね」


 おい。何を企んでる?

 婚約させるつもりかよ…


 と言っても馬車の中には執事さんも居るし、メイドも乗り込んでいる。

 あまり変な行動を取らなければ、大丈夫だろう。


「イッセイ様。そろそろ…」


 ソフィー様が出たがったので出発するか。


「では、行ってまいります」

「お母様方行ってまいります」


「ソフィー。優しくしてもらうんだぞ」


 おい。余計な一言だ。3歳児に何言ってやがる。


 でも、まぁマッタリと行きますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る