4話 お勉強=背景説明って誰が言った?

 転生してイッセイ=ル=シェルバルトとなってから時が経ち、俺も無事に三歳になりました。


 俺は父様似の金髪碧眼のイケメンボーイ……とはならず。まさかの銀髪端麗の母上に似た中性的な美少年……にもならず。黒髪黒目の立派なソイソース顔のボーイに育っております。

 一見残念なお知らせに聞こえるが、ここは『異世界』だ。

 意外にも黒髪黒目は希少な部類に入るらしくわりとメイドさん達や家族にも可愛がってもらい、ちやほやされて育った。


 まぁ、父様と母さまに容姿は全く似ていない訳でもなくパーツ、パーツは掻い摘んだように付いているので前世に比べればほり・・の深めの日本人って所だろう。

 それよりも性格が若き日の父さま似に育っているらしいとのことだった。本来、前世の記憶を持つ俺が誰かに似るってのはありえないと思うが、実に父様はじっちゃんにそっくりだった。(因みに顔じゃないよ。性格よ。せいかく。)

 細かい部分は違うんだけど本質と言うか根っこの部分が似ていた。だから俺もあっさりと父様に懐いたわけで……。割と平和に暮らして居たわけだ。


 で、俺が三歳になるまでどの様に過ごしたかをダイジェストで……俺は兎に角本を読み漁った。皆も分かると思うが本は知識の宝庫だ。これらを読めば言葉、歴史、戦法など実戦前の情報が手に入る。取り敢えずは、読み書きが出来る程度の勉強は出来たし、簡単な歴史は勉強した。勉強は好きじゃないが世界観が変わると知識欲はグッと湧いてくるらしい。どんな知識でも欲するようになっていた。

 だが、ハードワークを見越した両親から難しい本がある図書室へは、入室は認められなかったのだ。

 これが、大体二歳の頃の話。そこからはことある毎に図書館への侵入を試みたが上手くいかなかった。


 だが、そんな俺もついに図書館への入出が認められることになった。俺が一人で行けなかったのは子供だけで入るには少々危険な場所だからだという事だった。

 それが解消することになったのだ。

 理由は俺に家庭教師を持たせて貰えることになったからだ。


 しかも、俺の専任メイドになるらしいっす。

 教育係り兼メイドさん。色々教えてほしい…。

 坊ちゃまとか言って布団の中で添い寝とか、枕の上で会話する術とか教えてほしい。

 ……おっとこの部分はカットでお願いします。


 前の世界で言う保育園の先生みたいなもんだろう。

 ただ、住み込みというのが異世界というか外国と言ったところでしょう。


 住み込みメイド先生…ちょっと長ったらしいか?


 綺麗なお辞儀をしてくる。銀髪美人のおねーさんだ、年齢的には俺より数年上っぽいけどほぼ同じだと思われる。子供メイド的な? 珍しいのは帽子をかぶっているという事。


「お坊ちゃま。今日からお世話係になりますアリシャと申します。今後共よろしくお願いします。お坊ちゃまが王都へと旅立たれる5歳までお手伝いさせていただきます。お家のことやこの国について学んでいきましょうね。」


 お坊ちゃま。キターーー………けどあんまり嬉しくないな。というよりダサい。

 その事を言おうと思ったら先にアリシャさんが話を続けた。


「お見せできないほどの醜い傷が有りますので…帽子をかぶることをご承知願います」


 最初に断ってきた彼女。もちろん快諾した。

 見せたくないものを無理に見たいと言って何になる?

 そう言うのを無理やり見たいならお店でそういうプレーをすればいいと思う。


「あのー。アリシャさん。帽子は好きにして貰って良いのですが、『お坊ちゃま』は止めていただけませんか?」

「ありがとうございます。では、イッセイ様で宜しいでしょうか? それと私の事はアリシャと呼び捨てでお願いします」

「…分かりました。アリシャ」


 丁寧なお辞儀をされる毎に服の間から見てはいけないものがチラチラ見えた。頭の中でまな板にレーズンを置いてみる…。やっぱり、さくらんぼかな。


「……イッセイ様。何処を見ておられるのですか? いくらメイドとは言え女性に対して失礼ですよ」

「ご、ごめんなさい」


 アリシャのドスの効いた声が場の雰囲気を重くした。

 どうやら、そこは触れてはいけない案件なんだと思った。しょうがないよ。見えちゃったんだもん。見たんじゃないもん。

 アリシャ大丈夫。まだ育つ余裕はあるぞ。それに俺はチッパイプルルンも愛してる。そう言えば、鏡もそんなに大きく無かったしなぁ……。


 うおっほん。


 アリシャの咳払いで仕切り直し。

 今日は、アリシャとの記念すべき第1回のお勉強の日なのだ。

 彼女の沽券に関わるのでいつもより気合を入れて受けよう。

 で、肝心の内容は……ベタだけどわかり易い『歴史』だった。

 ま、定番だよな。俺もある程度は予習してある。受け答えはバッチリだろう。


「では、イッセイ様。知っている内容をお話ください。足りない部分は私が補足します」


 と、言うことで俺が独学で学んだ歴史を話す。


 この国を語る上で簡単な世界の歴史を話す必要がある。この世界は元々は王制を取らず各種族が独自の自治を築き繁栄していた。交易等は当然あったようだが他の支配は受けぬようにと協定を組んでいたようである。穏やかな時間が流れていたが、500年ほど過去に他の次元から侵略を受けた。

 その侵略者達は何故か『人間』のみを家畜とし、他の種族より身分を落とした。そして、他種族からも奴隷扱いを受ける事となったのだ。

 人間がその扱いから絶対数を減らし絶滅しかけた時。天より7名と地より7名の神徒が現れ人間に神具を貸し与えた。

 その後、神具を使い【外来種】と呼ばれる他の次元から来た敵を撃退した。

 その時、神徒ガブリエルが人間のために水を掘った場所こそがガブリエル王国の建国場所なのである。

 女王が中心となり統治する国で貴族による中央集権の手法が取られている。

 で、我がシェルバルト家は王国の辺境伯に当たる。この国の建国時より北側の大地を統治する家系で他国からの侵略に体を張って守ってきた勇者の家系である。


 当主であり我が父の名は、レオンハルト=ル=シェルバルト。金髪で髭を生やしたイケメンパパ(育児は皆無)だ。

 母の名は、側室のマリーダ=ル=レセンタ=シェルバルト。銀髪端麗の美人さんだ。プルルンがとっても柔らかいちょっと不思議ちゃん系だ。

(女性は、実家の名も入れる事が多い。)

 後は、2つ上の姉さんが居るが今年から王都の学園に入学しているので、この場には居ない。というか正室の母様の子も全員学園世代なので、王都に行っている。

 実質今居る家族は俺を含めて先程説明した二人しか居ないのだ。

 まぁ、家族の紹介はこんなもんだろう。何れ会えるからその時に説明するとしよう。


 家名のミドルネームである【ル】はこの国の貴族序列が上位から4番目ということ指している。貴族は階級に合わせて間に入る名前が変わるのだ。


 王族 = ララ

 公爵 = ラ

 侯爵 = リ

 辺境伯、伯爵 = ル

 子爵 = レ

 男爵 = ロ


 となっている。


 これは、このガブリエル王国にのみ使われる貴族階級で他の神の加護のある国だと使われている言葉文字の種類が違うらしい。いつか、世界を回って調べてみよう。

 俺の心にある。『死ぬまでにやりたい夢日記』に書き記しておこう。


 話は逸れたが俺が知ってる大体の歴史はこんな所だな。


 話し終わってアリシャを見てみると、驚いた顔をして固まっていた。何ていうか漫画の『ガーン』っていう様な顔だな…。


「がーん」


 言うんかい……

 後で聞くと何処も補足できない完璧な答えだったんだとか、少々教育方法に修正を掛けたいとの事だったので、勉強はこの辺でお開きとなり。お茶の準備をしにアリシャは部屋を出ていった。


 こっからは少し補足する。

 この国には、5歳になると貴族は学園に通う義務が発生する。一応、一般領民も学園には通えるが農村の子供が来ることはまず無い。大体は村長の息子だったり商人の子供だったりとそこそこの身分をもった子供が来ることが多いし、一般は受験の年齢制限が無いのが特殊か。

 学園では最初の5年は共通授業。この世界の基礎や戦闘技術、魔法技術などを学び5年学べば一応は卒業となる。そして、10歳になるとより専門的な知識を得る為に選択制の授業となる。

 平たく言えば経営、統治の希望の生徒は貴族の家へ住み込みで学びに行く。

 冒険者ならば、クランに学びに行く。冒険者登録するといった感じである。

 自分で進みたい道を選びより専門的に学ぶ事が出来るのだ。

 中には15歳を過ぎてそのまま経営の一部を取り仕切る等のインターンに近いような事もやっている。

 貴族やギルドからすれば優秀な人材を早めに吟味出来るので特に不満もなく執り行われている制度だったりするのだ。

 5歳を過ぎると家を出る事が必然になるのはこういった理由からである。

 ちなみに俺はシェルバルト家では1番の末っ子となるので、俺に家督を継がせるという選択肢はほぼ皆無となる。そんな訳で俺は冒険者になろうと思っているんだ。

(鏡を探しながら外来種を駆除するという役目もあるしね。)


 続いてはこの世界。国家についてだ。

 神徒の数だけ国家が存在するので単純計算で地上と地下を合わせて14国家ある事になる。

 今は国交を行っていないようでどうにも他国(特に地底)の情報が手に入りにくい。

 本によれば獣人とか、エルフとか、虫族とかの亜人の国などなど。

 世界樹なんてモノまであるらしい。


 アリシャが戻ってきたので俺の補足もここで終わろう。

 これは決して舞台背景の説明では無い。これだけは真実を伝えたかった。


 お茶とお菓子を乗せたトレイを持ったアリシャ。

 テキパキと用意し食べさせてくれた。


「イッセイ様は、博識でいらっしゃいますね」


 アリシャのヨイショが胡散臭いレベルで褒めちぎってくる。

 ちょっとネチッこかったので、『よいしょ』に苦笑いする。


「ちょ、ちょっと色々気になっただけだよ」


 まさか、前世の記憶があって学習する意味を理解している。とは、口が裂けても言えない。不審がられるだけだ。困った顔をしていると、


「ふふふっ、冗談ですよ。興味がある事は覚えが早いと申しますもんね」

「そ、そうなんだよ。じゃあ次の質問。勇者ってどうやったらなれるの?」

「……イッセイ様は、勇者に憧れてらっしゃるのですか?」


 アリシャの顔色が一瞬で曇る。

 なんと言うか言葉を発しさせない重みと言うか、兎に角アリシャの凄みに唾を飲み込んでしまう。途中近くを通り掛かった他のメイドがアリシャの凄みに驚いて手に持つ皿を落とした。


 --ガラン、ガラン


 ハッと我に返ったアリシャ。顔から凄みが取れた。

 俺もその場で滑り落ちるしか無かった。腰が抜けたのだ。


 同じく腰の抜けたメイドが這って人を呼びに行ったせいで少々大事になった。



 ・・・


「どうして、この様な事になっているのですか?」


 我が家のメイド長さんがアリシャに対してキツーーイ詰問をしていた。

 当然アリシャは平謝りしか出来ていない。うーん、別に良いんだけど……。


 なんで俺の部屋でやってんの?


 普通、叱ってる姿って俺のいない場所でやるんじゃないの? え? そういう趣味の貴族も居るし、終わってすぐにメイドに折檻する人も居るらしいから本人の目の前で叱るのが普通だって? そんなのシラネー。


 俺がポカンとした顔で二人を見ていたら他のメイドさんが耳打ちで教えてくれた。

 それを聞いた俺はくだらなすぎて魂が抜けたように白目になっていた。

 チラチラこちらを見てくるメイド長。いや、そんな趣味ねーから。


 ・・・


「僕が【勇者】の気合を見せてくださいってお願いしたんです。」

「まぁ、そうだったんですね」


 俺がフォローするとメイド長はつり上がっていた目を180°反転させ穏やかな顔になった。こわっ!?

 居づらいのかそそくさと引き上げていくメイド長とその取り巻き達。いい人だから良いんだけどね。


「何故、私をお助けに?」


 アリシャ恐る恐る話をしてきたが、俺は怒っていない。

 だから俺は、


「もちろん。これから沢山の事をあなた学ぶ為です」

「…!?」


 アリシャがありがとうございます。と言いながら嗚咽を漏らしていた。

 俺が、折角の図書館へ入場するための切符をみすみす手放す筈が無かろうて…ふふふっ。あっ、見えてますよ。チッパイが…


 その後、アリシャは上機嫌で部屋を後にした。

 真っ赤に腫らした目をしていたが、今日はその顔で過ごしたいんだそうだ。

 そんなアリシャにドン引きだった。……俺には分からん感覚だ。



 ・・・


 彼女が完全に部屋を出ていく事を確認すると、俺も行動開始。図書館へと向かう。

 廊下をキョロキョロして人気ひとけが無いかを確認する。こんな姿を見たら逆に声を掛けられそうだが、こういう時の心理って何でワクワクすんだろ?


 アリシャに対しては打算的な事だが今後も何かあれば俺は彼女の事をドンドン誉めるつもりだ。理由は簡単。俺を裏切らない人を作るため。 

 彼女は強いし、相当頭がいい。今日のことでも恩を感じてくれているようだし。

 

 図書館の扉を閉める。


「さて、始めますか・・・。」


 ぽうっ。

 魔力を込めるとおでこの辺りに魔法陣が形成される。

 隠しておいた分厚い本が魔力に反応して開いた。

 3歳に上がる前後、一度ここに入ることが出来た際にこの図書室で偶然発見した【魔導書】だ。持ち出そうとしたが何故か外には持ち出せない代物だ。


 これを見つけてからは完全にハマった人みたいになってこの本を読み漁っていた。少年の様に何度も何度も……すす切れてもおかしくないのにこの本には魔法が掛かっているのだろう。汚れることも切れることも一切無かった。


 魔導書のタイトルは【初心者から上級者までこれ一冊】と、随分怪しいタイトルだ。だが、その胡散臭さに負けちゃいかんのよ。


 魔力の使い方に練りかた魔法や錬金術、敷いては召喚魔法まで何でもござれのチートアイテムだったのだ。残念なことにこの本には意思があるようで、幾つかこの本ルールが存在した。持ち出せないがその一つだった。

 その他にも教える気の無いページは絶対に開かないようになっているのだ。


 ま、その本が幾ら教える気になったとしても俺には問題ない情報だったらしい。

 一瞬、最強の魔導師となって勇者の従者になろうかと考えたが、残念なことに俺は魔法は使えなかった。魔力はあるが、使えない。俺の望みが絶たれた瞬間だった。


 本の魔法について触れているページを端から端までを試して、魔法を使う事が出来ないと知った時には心は挫折寸前だった。

 よくある青春映画なんかで物陰から見る俺にライバルが気づくみたいな。そんな心境。


 『ファイヤーボール、ウォーターボール、エアーウィンド、アースシュート』 


 手からはガス欠みたいに煙を吐いた。

 魔力が減る感覚があるのに対して効果は出ない。

 ただ、1つ俺にも使える魔術があった。それは、【錬金】だった。

 きっかけは、たまたまその辺にある小石に付与をしてみたら魔力を込めることが出来た。

 効果は色々、爆裂するものや水を垂れ流すもの、霧を発生させたり、音を消したりと、何でもござれなのだ。


 と言っても、それは魔法が使える人のみだ。

 俺が作れたのは精々魔力がこもった、ただの石。要は魔石だ。

 効果は何もないと思う。そういうの良く分からないし。


 でもあまりに嬉しくて魔力切れを起こすまで続けたのだがコイツはもう病みつきになってしまう。


 魔力切れを起こすと二日酔いみたいになるから嫌だ……。

 その時、石を1000個ぐらい積み上げたのを覚えている。

 我ながらアホだと思ったが、お陰様で魔力量が多くなったのか今まで開けなかったページが光輝いたのだ。


「さて、今日調べるのは・・・。」


 調べたいのは【精霊召喚】ずっとこれが調べたかったのだ。

 それが、今日解禁された。俺は認められたのだこの本に。


 早速、俺は精霊召喚を試してみた。

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