3話 覚悟の証明

 あぁ、俺も転生する。


 "おぉ。流石に判断が早いね。"


 まぁね。俺はそれがウリみたいなものだし。


 "そうかそうか。まぁ、僕としても君は面白い人材だし、何より気に入ったからね。出来る限りの協力はするよ。"


 そうか、それは助かるな。


 "折角だからプレゼントを贈るよ。転生するに当たって願い事を1つ叶えてあげる。"


 おっ、気前が良いな。


 "ふふーん、そうでしょ。本当はもっと多く願いを叶えてあげたいんだけど、君の存在は特別でね。彼女の近くに存在させるだけで相当力を使っているからね。残念だけど1つしか願いは叶えられないんだ。だから大事なものをお願いすると良いよ。"


 そっか、それだけ鏡の存在は特殊なのか、そうだろうな。

 わざわざ余所から呼ばれるくらいだしな。


 "無敵の力でも良いし、無限に手に入る金脈でも良いよ。"


 うーん。じゃー。お願いを100"それは無理。"

 えー。何でも良いって言わなかった?


 "その前に【1個】って言ったよね? 能力チートでもあげようと思ったけどやめようかな?"


 わーウソウソ。

 でも俺のお願いなんて大したことではないんだけどね。


 "ふーん。まぁ良いや。でどうするの?"


 その前にこの姿をなんとかしてくれないか? 体(主に下半身)がスー、スーする。


 "え? そんなお願いで良いの?"


 え?


 "いや。一個のお願いでしょ?"


 何いってんのお前。変なこと言うと帰るよ?


 "わー。ウソウソ。何で僕がボケるとそんなに冷たいんだよー"


 お前はなんか胡散臭いんだよ…。


 "普通に失礼だな~。で、その格好をどうにかだけどもうすぐ終わるからもうちょっと待ってて"


 何だよ別に服位着せてくれよ。


 "ウルサイなー。後は君が願い事をすればいいだけなんだから早くお願いしてよ"


 うわー。コイツ開き直りやがった…。


 "何か言った?"


 いや何も…。じゃー、『俺の名前』で。


 "へ?"


 いや。俺の名前。


 "名前? 何で? 能力に関係なくない…でしょ?"


 まぁな、能力には全く関係ないだろうな。


 "だって、君。それじゃ【外来種】には勝てないでしょ? せめて、最強の魔法とか伝説の武器が最初から使えるようになるとかそういうヤツのほうが良いんじゃないの?"


 勝てるかどうかなんてやってみないと分からないだろ?


 "いや分かるよ。【勇者】である彼女にだって、それなりに力を与えて転生させたんだよ。その実力に近づくには【普通の方法】ではたどり着くのは不可能だからね。【外来種】はそれ位に強いんだよ。名前だけじゃ敵う訳がないじゃない…"


 だからやってみなければ分からない。


 "…分かった。そこまで言うなら言う通りに名前を引き継がせてあげるよ。"

 

 一気に意気消沈した金◯さん。声は消え入る様なり、心なしか玉の光も弱くなった。期待させるような事を言ったが嘘はついてないしな。転生するんであればきっちり約束は守るつもりだ。


 ただ、金◯さんにとって予想外の事が起きて俺が期待はずれ見えたんだろう。

 だがこれだけは譲れねえ。


 "ところで、何で名前なの? 何度も聞くけど永遠の命とか、凄い魔力とか、お金の川とか指先ひとつでダウンさせる能力とか、本当はそういうのが良いんじゃないの?"


 まぁ、願いが幾つも叶えてもらえるならそういうのもあったほうがスムーズだよな。

 実際、指先一つでダウンできるならその能力をもらった時点で、エンドロールだしな。


 "まぁ、ネタ技だからね…"


 ネタ技なの!? それ、罠じゃん。

 名前に関しては鏡が褒めてくれたんだ。だからこの名前を消したくないんだよ。

 そして、いくら記憶を失っていたとしても鏡に会った時、彼女には俺の名前を呼んで欲しいんだよ。完全に俺のわがままだけどな。


 金◯さんが小刻みに"ぷるぷる"震えている。どうやら、完全に怒らせたようだが、絵的にマズイ事になっている。これで赤色っぽくなったら完全にXサイト行きだ。


 冗談はさておき。普通とっておきのお願いを『ただの名前の継承』になんて使われれば、大抵なら怒るだろうさ。

 でも、何も貰えなくても良いが名前だけは継承したい。そのためにも、何とかご機嫌を取らないとだな。


 "ブブブ……"


 おい、やめろ。音を付けるな。音を『ブブブッ』って、生々しい。

 そして、揺れるな。完全にアウトだろ。


 "…プププ。アーハッハッハー。イーヒヒヒヒ。フーッ。フー。ゴホッ、ゴホッ。ヒーヒヒ。"


 光の玉は、ブルブルしながら大声で叫ぶ。動きが不規則に消えては現れ、消えては現れを繰り返して白い空間をランダムに飛び回っていた。


 何だ? 壊れちゃったか?


 "いやー。ごめんごめん。アーッ、ヒヒッ。水、水飲みたい。あー、お腹いたい。"


 何だよ。ってか水飲めるのか? いや、飲むのか? どうでもいいツッコミ何だがツッコまずには居られない。


 "いやいや。ごめんごめん。はぁはぁ、いやいや。はぁはぁー。お待たせ。フフッ。僕のプレゼントを名前の継承にしたいだなんて。しかも、あの【外来種】をギフト無しに倒す前提で話をしているところなんか最高だね。更には今までで一番強い信念を感じた。"


 やっぱり、怒ってるんだな。からかってると思ってるんだろ? だからそんなにおかしくなっちゃったんだろ?


 "地味に失礼な事を言われている気がするけど…。まぁ良いよ。僕は今日ほど最高の気分に成ったことは無かったからね。やっぱり君は面白い。面白いよ。そんなに綺麗な魂で言われれば、嘘でないことが丸わかりだからね。"


 でも、力が無いと行っても意味ないとか言ってたじゃないか?

 それで、怒ったんならプレゼントはいらないよ。

 鏡と同じ世界へ行けるんなら後は何とかする。


 "いやいや。全然怒ってないよ。寧ろ最初から驚きっぱなしさ。ワザと意地悪してみたけど、全く引かないんだもん。僕も意地になっちゃった。"


 なんだ、願いは聞き入れてくれるのか?


 "モチロン、何の問題もないよ。それと、僕の加護と今の記憶を残して送ってあげるよ。"


 おぉ。太っ腹スッゲー助かる。

 でも良いのか? 予定と狂うとか何とか言ってたが?


 "あぁ。大丈夫。大丈夫。君の覚悟だけでそれ・・を確保しても余るくらいの力は得たから。いやいや、最強装備だの秘孔の位置だの。四の五の言うようなら君は殺さざるを得なかったんだよね~"


「え"?」


 何? その怖い話。今、サラッと裏事情を聞く羽目になった気がするんだけど…。


 "いや。だって僕はずっーーーーと、覚悟を聞いて来てた訳で、それに力が足りなければ生まれてくる【勇者】の数を減らすから大丈夫だよ"


「え”ぇ”?」


 何か聞かなきゃ良かった単語が出てきた。っていうかこの世界は【勇者】が沢山お産まれになるのですか?


 "あっ、気にしなくてもOKOK。どうせ君が動ける年頃にはその辺の事情は直ってるし、【勇者】って言ってもあの世界は特殊な技能を授かることが出来るんだけど、【剣技◯】とか、【脚力△】とかそんな感じで加護が振られるんだけど、そういう能力を持った子を総称で【勇者】って呼んでるみたい。だから、別に珍しいものじゃないよ。"


 そ、そうなのか…。じ、じゃあいいの……かな?


 "気にしなくてい良いよ~。どの道技能は与えられるけど、【料理◎】とか【鍛冶◯】とか、内職系を増やすから。それに僕の知り合いが多い世界だから、何かあれば彼らを頼ってくれれば良いよ。"


 神様がたくさんいるのか?


 "うーん。まぁ、たくさん居るといえば居るんだけど…。まぁ、向こうについたら調べてみてよ。"


 ふーん。まぁ、そうだね。

 向こうの事は向こうに行ったら調べるよ。


 "そうしてくれると助かるよ。君は素直で良い子だからね。まぁ、またちょいちょい遊びにいくよ。 それじゃあ。もう時間もないし細かいことはまたその時で…バイバイ。あっ、各国の神様には会いに行ってね~。それじゃ。ばーい"


 金◯が話し終えると、目の前が数回暗転すると頭の中に音が聞こえてきた。


 --キーーーーーーーン

 --キューーーーーーン

 --ギョーーーーーーン


 複数の音が交じり頭の中でシェイクされる。

 急な眠気を催した俺の意識は直ぐにブラックアウトした。



 ・・・



 目の前が明るくなってくるのが分かるが、視界はハッキリせずに目を開けても水の中に居るようにゴワゴワした感覚だった。


「おぉ。目を覚ましたぞ」


 どうやら、人がいるようだ。助けを求めてみる。


「ほぎゃー。ほぎゃー」


 あれ? 赤ん坊の鳴き声がする。

 赤ん坊が近くに居るから人は居ると思うのだが? 俺は声が出せない程の重症なのか? でも目は見えないけどチラチラ視界に人の気配的なものが写るんだよな~。


「おぉ。よしよし。元気な子だ。きっと俺に似て勇敢な男になるぞ」


 --おぉ!!? 急に視界が高くなるのを感じた。


 ビビるからやめろよ。目がぼやけて何も見えないから余計に怖いんだよ。

 必死に抗議の声を上げるが、声を出しているのに全く通じている気配がない。


「おぎゃー、おぎゃー」


 絞り出して出た声は、赤ん坊の鳴き声。ここであることを思い出した。


 そうか俺転生したんだっけ?

 そして、現状の確認をすると、どうやら抱っこしたのは父親か。


「ほら。あなた。貸してください。いきなり高く持ち上げたら子供だって怖がりますよ」

「おぉー。すまん、すまん」


 そして、誰か別の人に預けられる。恐らく女性だ。

 そして、とても懐かしく、優しい匂いのする人だ。


「ふーむ。流石だな。母親だと一発か。私も精進が足りないな」

「いいえ。あなた。この子もきっとあなたに似て勇敢な勇者になると思いますよ」


 聞こえてきたのは、不思議な言葉。どうやら俺の親父は勇者らしい。


「ははは。お前が誉めてくれるお陰で私はここまで来れたのだ。きっとその子も聡明な子に育つだろう。この子も蛮勇な勇者になるだろう」

「蛮勇では困ります」

「ははは…」


 どうやら脳筋らしい父に再び抱き上げられる。しかも両脇を掴んで、俺まだ首座って無いんだけど……。カクンと首が下りそうになるのを母様に抑えられた。

 おいおい、脳筋父様よ。産まれて直ぐに死にたくないぞ。

 そして、母様より凄い殺気を感じた。


「…あなた!!」


 声のトーンがあんまり変わらないんだけど部屋の温度が数度下がった様な感じがする。父様早く謝って!!


 赤ちゃん用のベッドに置かれた後、少し離れた場所でドタバタ聞こえたのは父様の教育が終わったという事なのだろう。


 しかし、親が勇者だと子も勇者になれるのか? どうにも世界のシステムがいまいちわからないな?

 そんな事を考えていたら父親が俺近くに来て告げてきた。なんだかフガフガ言っているのだが、父様の顔大丈夫か…?


「お前の名は、【イッセイ】。イッセイ=ル=シェルバルトだ。どうだ良いだろ? 昨晩神のお告げが有ったんだ」

「まぁ、そうしたらこの子は神に祝福された子の可能性がありますね」


 父様と母様は勝手に盛り上がりながら何処かへ行ってしまった…

 暫く放置されていたみたいだ。メイドさんが俺を見つけてくれて両親をこっぴどく叱っていた。我が家の家族は メイド>>>>母様>>>>父様 なのか?

 ちょっと不安になってきた。金◯様にチャンジが聞くか聞いたら『NO!』って返答が来ました。ま、俺は考え事たっぷり出来るので放置主義ってのも案外タスカルって思ってしまった。


 そんなこんなで、俺の第二の人生が始まった。

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