2話 マッパな俺と金◯

「…っ!! はぁ…、はぁ…、はぁ…」


 紫電に体を焼かれた記憶で目が覚める。全身に嫌な汗が流れ体が冷えているのが分かった。

 だって、体を焼かれるって『熱い』って感覚は無いんだよ。痛いを通り越して"ビリビリ"と痺れるんだ。ドロドロと溶けた様な感覚の後、瞬間的に感覚が遮断される。体の部位が取れたと勘違いのかと思ったぜ。


 ととっ、そんな話はどうでもいいな。所でここは何処だ?


 辺りを見渡すとに謎の白い空間に居た。

 見渡す限り白、白、白!! のあまり面白みの無い部屋だった。

 強いて言うなら光の筋が規則的に下から上に流れるのが神秘的に見えたくらいか。


「どこだ。ここ?」


 起き上がって確認しようと体を起こそうとしたけど、何故か首から上しか動かない。

 それによくよく見渡してみると上も下もない宙に浮いたまま横にされていた。しかもマッパだった…。


「何だこりゃ…。ってか、何でマッパよ」


 自分のもの・・を隠すことも出来ない。ある業界の人からすれば悦を感じる所なのだろうが俺はソッチ方面は全然興味が無い。だが、こういう状況だと妙に冷静になれるものだ。

 そりゃーな、生まれたままの姿でホールドされてればこれはもう成り行きに身を任せる意外は残って無いしな。


 で、その冷静な頭で考えついたのが『天国』って言うのは確か生まれたままの姿で平和そうに皆が暮らしてるって何かのゲームで言ってのを思い出した。


 あぁ…。俺、天国に来たのか。じゃあ、早くじいちゃんに会いたいな…


 つい最近他界したじいちゃんを思い出していたら、俺のお腹の上辺りに"ふよんふよん"と浮遊する変な玉が浮かんでいたのに気づいた。あんなのあったっけ?


「金色に光る玉か、金○だな。」


 見たまんまの事を思った。マッパで全てをさらけ出している俺には最早怖いものはない。もしここで警察が出てきたって寧ろ誇らしげに胸を張ってやる自身がある。


 "ぜんぜん違うよね。それに金の後に◯って書いたら全然ボカせてないよね。"


「かピーや消し」


 "全然上手くないし、それすっごい大人の世界で問題あるからね。"


 俺の腹の上で光る玉はどうやら喋れる存在だったらしい。ピカピカ光る度に俺の頭に声が響いてくる。って、これでこの金○がただのオブジェで別の人が喋ってたんだとしたら相当恥ずいけどな。


 "あぁ、安心して喋ってるのは僕だから。因みに君まだ死んでないよ"


 俺の声に反応して金○が"ピカピカ"光った。

 おぉー。こういう感じの空間で精神体っぽいのが語りかけてきて。更に『まだ』死んでないって、よくある転生モノみたいなパターンじゃないか?


 "うーん。まぁ、似たものかもね"


「そうだろうなぁ…。って、何で俺の思ったことがバレてるの?」


 "まぁ、ここはそういう世界だからね"


 そういう世界って言葉で片付けられた。

 どうやら金色に光る玉は思考が筒抜けらしい。この世界にはプライバシーってのが無いのか・・・。


 "ごほん。ちょっと仕切り直させてもらって良いかな?"


「あっ、はいはい。どうぞ。どうぞ。」


 ゴソゴソと何かを始めた金◯さん。

 金○さんを待っている間、俺は辺りを見渡して鏡を探していた。安心してくれ別に彼女も生まれたままの姿である事を確認したい訳ではない。そこんとこOK?

 俺とほとんど大差ないタイミングでこの中に来たと思うのだ? 安否確認したいだけだ。早く鏡を見つけてとっととこんな変な場所から帰らねば…。


 "はぁ、君。勇敢なのか、バカなのか・・・何だかむちゃくちゃな無理をするね…。さっきから頭の中その【鏡】って子でいっぱいだね。もしかしてその【鏡】って子は君の想い人か何かなのかな?"


「ばっ、ちげーし、俺全然鏡のこと意識してねーし、あの顔見てると癒やされるとか彼女の事思うと体温上がっちゃうとかねーし、そ、そそ。そうだ。友達だ。友達だよ」


 正直言うと面を食らった。金◯さんがいきなり話しかけてきたら鏡を想っているとか、プライベート無い空間何だよな。悟られないように一気に喋った。

 取り敢えず誤魔化したが、話し終わったあとで"ズキン"と胸が痛んだ。

 きっとあれだ。ここに居るとストレスを感じるんだ。


 "はぁ、まぁ。勝手に来ておいてその言い分には色々言いたいこともある訳だけど。この際、文句は置いといても君は凄いね。その。たかが【友達】のために体まで張って?"


「ゔぐっ!! …あぁ。か、鏡は大切な……友達、だからな。」


 …くっ、胸が痛い。


 "ふーん。そうか、君は愚かだね。でも、凄い"


「そ、そうか、誉めてくてるんだよな? 一応、ありがとう?」


 何をお礼を言っているんだ俺は? しかも、今言うべきはそれじゃない。


「彼女。鏡は何処だ?」


 "彼女? 彼女は、召喚された勇者なんだよ。"


 勇者? あの地下の世界に行ったり、次元の狭間に行ったりする?


 "うーん。前者は合ってるけど、後者は4戦士だったような?"


 「あっ、そうですか。って、俺の考えたことがバレるんだっけ?」


 "あぁ、うん。ごめん。この世界だと僕の存在が最優先されるからね。僕が願えば全部優先されるんだ。だから君の考えてることが筒抜けだったんだよ"


 そうでした。喋んなくても伝わるんだった。


 "恐ろしく順応性が高いんだね"


 まぁ、ここに来て大分経ってるしな。喋んなくても伝わるってのも案外楽しいもんだし。それより鏡だ。彼女のところへ行きたい。今直ぐにだ。


 "うーん。それはどうして?"


 友達だって言ってるだろ。助けるためにだ。


 "君の友達の所に行きたいだけなのに、僕が言うことを聞くとでも?"


 悪いか? 友達を助けるのは悪いことじゃない。

 それに、アンタ神だろ?


 "うーん。神なのかな~。まぁ、それはそれとして弱いんだ…"


 え? 違うのか? こう言うとき神じゃないの良いも悪いも。

 それに弱い? 何が? 俺、鏡のところに行きたいだけ…


 "だから、そんな理由じゃ行けないんだって"


 理由って何だよ!


 "怒らないでよ。僕だって折角、命を投げ出してまで彼女を追いかけて来た君を無碍に扱いたくないんだよ。出来れば彼女の近くまで送ってあげたい。僕はそう思っているよ"


 何だ、あんた意外に良い奴なんだな…ん? 待てよ。


 "ん?"


 そう言えば、誰が死んだって? さっき死んでないって言ってなかった?


 "君"


 え?


 "え?"


 えぇー。俺死んだの?


 "うん。さっきのポータルの魔方陣に入ったときだね。あの時で完全に肉体は消滅したよ"


 簡単に言ってくれるね。でもまぁ、そっかー。死んだんならしかたないな。


 "君・・・やっぱり、思った以上に大物だね"


 金◯が冷や汗をかいている。おい。汁がたれてるぞ。危ないから表現をボカせ。

 あっ、ボカしたら更に怪しくなった。


 …まぁ、実際死んだのなら変えがたい事実だしな。


 "普通、自分が死んだらそんなに簡単に割り切れないと思うんだけどね。まぁ、正確には、『肉体は滅んだけど、魂は残っている』が、正解かな? で、要はそれだよ真実でも何でも受け入れる覚悟…想いと言っても良いね。君はその想いが、既に僕たちレベルなんだよ。ある一点を除いてね。"


 まぁ、じいちゃんが何がっても受け止めろって、言っていたからな。


 "じいちゃん? ふむふむ。なるほど君は随分澄んだ魂を持っているんだね"


 ちょ。勝手に人の魂覗かないでくれる? 何か怖いから。魂とか見られると怖いから。


 "あはは。意味はよくわからないけど久しぶりに楽しいね。でも、あんまり時間が無いかな。そろそろ、本題に入ろうかな。僕は今覚悟について説いた。で、本当のところどうなんだい"


 え? 何の話。


 "なら、きみ何処か適当な所に行って一生終える?"


 わかった。わかった。(ちっ、はぐらかせなかった。)


 "ふぅ。僕だって別に他人の告白なんて全く興味ないよ。覚悟は本質この世界でのルールと言っても良い。嘘や御託を並べると苦しくなっていくのは君の心に負担がかかったからだ。僕の世界はそういったツクリモノやマガイモノにはシビアに設定してあるからね"


 なるほど。それでさっきからきつかった訳か・・・って、それって。


 "そう。君の本心に感応しただけ。嘘ついて罪悪感が湧いたから死にそうになっただけ。現に君の体は消えかかってるだろ?"


「おわっ!!? ナンジャゴラァ!!」


 体を見るとたしかにスケスケだった。

 俺の体を通り抜けて下が見えるとか透明人間かよ。

 しかし、嘘つくと死んじゃうとかなんつう。危ない世界だ。


 "君の場合。彼女の事以外ほぼ【無関心】って出たからね。あとはおじいさんの事か…。要は欲が無いんだ君には、良いも悪いも【彼女の事】だけ。だからね。存在アピールするのに肝心な【彼女の事】で嘘を付いてると存在意義が消えるんだよ"


 そっか、そこまで見透かされてたのか…

 あんだけ鏡、鏡言われれば誰だって気づくだろと球体は思ったが言わないでおいた。


 光の球体から呆れられている空気を感じる。


「分かったよ。分かりましたよ。白状しますよ。えぇ、好きですよ。初めて会ったあの日からね。他人に取られないように根回し考えたり、2人になるために工作したり、話題だって彼女の喜びそうなネタを作ったり、仕込んだりしてましたよ。あの日だってデート出来そうだったんだ。チャンスがあれば、次に繋げようと必死だった。目の前に魔方陣が現れた時だって、彼女を助けることしか考えて無かったですよ。それが何か!!」


 喋る必要が全く無いのに大声で捲し立ててしまった。

 だが、口に出したら妙にスッキリしたのも確かだ。胸の痛みもすっかり消えた。


 "ふふっ。何で逆ギレっぽいのかは置いといてやっぱり覚悟が聞けるのはいいね。純粋な彼女への愛か・・・。別に認めるだけで良かったのに聞いてるこっちが赤くなりそうな位の本気だね"


 えぇー。認めるだけで良いなら言ってよ…。ま、俺もスッキリしたし別に良いか。


 "これで、僕も力を存分に発揮できるよ。しかも、こんなに純粋な想いは久しぶり・・。いや、最近では2番目かな?"


 光の球体が発光しだすと、金色の光を放ち俺を包み込む。あぁ。なんて暖かい光なんだ。まるで成仏していくみたいだ。


 "おっ、君は感も良いね。今は君を転生させる準備をしているところだよ"


 え?


 "え?"


 て、てんせーって、何ですか?


 "転生は転生だよ。生まれ変わるんだ"


 な、何で?


 "だって君。肉体が消滅しちゃってるし"


 あっ、そうだった。すっかり忘れてた。


 "それに、彼女は転生したよ。【勇者】としてね"


 鏡も?


 "そう。彼女にはある依頼を出していてね。倒して欲しい敵がいるんだ。で、彼女はその敵が出現するであろう世界の30~50年の時を生きて貰う事にしているんだ"


 随分アバウトな年数ですね。


 "まぁ、外来種だからね。僕の範疇外でいまいち調整が効かないんだよ"


 は、はぁ。


 "だからね。彼女にも一度生まれ変わって貰って心身共に一番ピークの時を保ってもらおうと思ってね"


 でも、何時来るか分からないんですよね?


 "そう。一応は奴らが来る数年前位に転生させているだけど、なにせ敵だからね。万が一周期が外れれば彼女には子を成してもらおうとしているよ"


 !!? 彼女は帰れないのか?


 "うーん、そうだね。彼女は帰れる可能性はあるね。ただし、【外来種】が倒せなければ帰りたくても帰せないけどね。あー。なるほど、だからかな? 彼女からは記憶を消してと懇願されたんだ"


 oh…。何てことだ。


 鏡はこの理不尽な運命を受け入れようとして、記憶を消したのか?


 "ちなみに彼女の転生は生まれる前からの運命だからね。僕だけのせいじゃないよ。って、聞いてる? ねぇ、聞いてる? おーい"


 鏡のため、俺がその【外来種】を潰しても良いだろう。

 よし覚悟は決まった。鏡は俺が守る。【外来種】とやらは俺が倒すよ。


 "ほほう。【勇者】を差し置いて君が【外来種】を排除してくれるのかい?"


 光の玉の言葉が鋭くなっていく。だが、俺は怯まない。


 あぁ。俺がその【外来種】を排除するよ。


 "なるほどなるほど。では…"


「あぁ、俺も転生する」

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