好きな子を追いかけたら、着いたのは異世界でした。

縁側の主

一部 一章 王国の姫様と聖剣

1話 始まりは突然に…

 俺の手が黒く焦げ始め、皮膚が焼ける異臭を放っている。



 俺の体に流れる雷は、俺の肉を焼き、血液を沸騰させる。

 激痛が走ったのは一瞬だった。今の俺はその段階を超えたみたいで、痛みはほぼ感じないし、手を見てみると黒く焦げていて炭化していた。


 何でこんな事になったのか? 痛みのせいで何もかも忘れかけている。


「助けて。イッセイ君助けて…!!」


 こっちに向かって手を伸ばす女の子が居た。

 いや、よく見ると雷で出来た渦から上半身が生えているだけだった。


 ズブ…ズブ…


 女の子は雷の渦に吸い込まれていく。


「嫌だ!! 助けて。イッセイくーーーーん」


 俺はこの子を知っている。



 ・・・数時間前


 ミーン、ミーン、ミーン。ジジジッ・・・


 夏の風物詩であるセミの鳴き声が町中で響き渡る。


「うがっ。あちい。」


 たまたま見たビルに映し出されたサイネージから本日の気温が映し出される。

 【現在の気温 42° 外を歩く人は自殺志願者でしょう。】

 右から左へと流れる*chのテロップ美人女子アナが冷房の聞いたスタジオから涼し気な顔をしながら画面で淡々と喋っていた。

 因みに冷房が効いているかは俺の独断と偏見だ。だってあんな涼しい顔をして仕事しているって事は環境が整って無かったむずかしいだろ?


 閉話休題


 激しい照り返しと熱波の影響で、今この街の気温はありえない数値を叩き出していた。この暑さは流石に気が滅入る・・・。


「・・・・。」


 恐らく明日の天気予報では世界で一番暑い街として紹介されることだろう。

 その熱のせいで先程から街のあちこちで陽炎が上っていて、それがあの世とこの世を繋ぐトンネルのように見える。

 いや、これ本当に陽炎か? 実は俺の意識が遠退いているんじゃない? それくらいに今日の暑さはヤバイ。

 そのクッソ熱い中、俺はわざわざ・・・・外に居るのかという問題だ。

 実は人を待っている。


 俺がその人をエスコートしろと言われているのでこうして外で待っている訳だ。


 あっ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は【山本 一生】 とある高校に通うピッチピチの17歳だ。

 家族構成はじいちゃんと暮らしてたけど今は一人暮らしだ。父親と母親は俺が生まれて間もなく2人で他界したらしい。

 それから、じいちゃんとばあちゃんに引き取られて育ててもらったが、ばあちゃんも昨年他界しじいちゃんもつい先日他界した。

 

 悲しかったけどまぁ、じいちゃんはいつも言っていた。

『悲しむ暇があったら楽しむ努力をしろ。』って、『ワシの事を思い出す暇があったら女の子とデートでもしろ!!』って、マジ顔でキレてくるファンキーなじいさんだった。

 ただ、そんなじいちゃんだから悲しみもしないし、尊敬の念も忘れない。


 俺の名前の名付け親はじいちゃんだ。ただ一生懸命生きろっと名付けてくれたらしい。だからこの名前は俺に宝物なんだ。


 なかなか良い話しだろ? 

 普通ならドン引きするか苦笑いしかされないが、彼女は違った。

 こんなヘビーな話をしても、「いい話だね」って言って笑ってくれた。


 っと、また話がブレたか。

 俺がこんな地獄のような暑さの外に居るのは、俺が決してMじゃない。これだけは真実を伝えておく。

 因みに『M』って言葉を知らない無垢な人のために言っておくと、Mのは紐に絡まって遊んだり三角形のお馬さんに乗ってユラユラゆれたちする人の事で、謎のイタリア人配管工とかそういう類ではない。違法じゃないけど遊ぶ場合怪我をする必要があるから注意が必要だ。


 …すまん。調子にのりすぎた。運営に消されるから内緒にしてくれ。



 俺がこんな地獄で待っているのは人を待っているからだ。

 と言っても俺が自発的に待っている訳ではない。こんな所で待たせているヤツそいつがサイコパスなのだ。待ち合わせの時間より既に数十分は遅れている。

 因みに戦犯の名は、【前田 一也】(まえだ かずや)とその彼女【朝倉 恵】(あさくら めぐみ)の2名だ。この快楽犯の2人は俺をこの炎天下の中に放置した罪で俺は友達というカテゴリーから綺麗さっぱりデリートされた奴らだ。


 俺はずっと騙されていたんだ。友達だと思っていた奴は実は友達でも何でも無かったんだ。俺は友達という”キーワード”をこの数十分で複数件調べたよ。

 本当なら今頃はクーラーのガンガンに効いた自分の家で、ずっと溜め込んでいた積みゲー達と熱く語りあいクリア後に『まさしくお前も強敵だった。』と言っている最中だった筈なのだ。

 だから、ケータイの電源をOFFにして自分の世界に入るつもりだったのだが、一也達は家電に掛けまくって来た。

 我が家は黒デンなので、いつまでも『ジリリジリリ』となり続けるため結構五月蝿くゲームに集中出来なかった。


 そして、そこで根負けして電話に出たのが運のつきだった・・・。


「只今、留守にしており‥「一生か。お前、今すぐ俺達の所に来ないと人生損するぞ。新学期から自主退学させられちゃうぞ!?」」

「来なかったら、〇〇を〇〇して〇〇〇〇〇〇、キャハハ」


「…」


 などと背中がゾクッとするような脅しの連絡を受け。

(恵ちゃんに至ってはほとんど放送出来ない単語を連発していた。)


「しっかし、あいつ等おせえな」


 よし。あと5分待って来なければもう帰ろう。俺には帰りを待っている強敵が待っている。なんて事を考えながらもきっちり待っている俺は実はただのアホなんじゃ無いかと思うようになってきた。


「あの~」


 はっ!? もしかしてこの暑さは俺に対しての試練なんじゃないか?

 きっと、この試練を乗り越えたらなにかいい事が待っているんじゃ。


「あの~!」


 きっとこの暑さを乗り越えたら。俺、何か啓けるんじゃ?


「あのー!!」


 ん? 誰か居るのか?


 後ろを振り返る。そこには、良く知った顔が立っていた。

 いや、知りすぎるも何も……。鏡なんでここに?


 バクバクと鳴る心臓の鼓動が彼女にも聞こえてそうだ。

 顔が熱気とは別に熱くなってく感じがする。


「おっ!!? おう。鏡か、ど、どうした? こんな暑い日に?」

「あ、暑い日って、君も外に居るじゃない…」

「ま、まぁな…」


 俺の背後に立っていたのは【鏡 英梨奈】という俺達の学校で1、2位を争う美少女だ。艷やかな黒髪と身長155cmの幼い姿が【学園の妹】等と形容されており学園内外に多数ファンクラブまで存在している。更に学年トップの成績と誰にたいしても分け隔てることのない性格は非の打ち所が無いと言うギャルゲーかエロゲーにしか存在しない位の能力だ。


 それに自然と彼女姿に目が行く。あっ、いや特にヤマシイ事を考えた訳じゃない。

 何故なら今日の彼女の格好は、白のワンピースに合わせたストローハット。どことなく俺の好きな格好だったからだ。


 う~ん・・・イイネ。(心の中でサムアップする。)

 服装はともあれ、彼女は登場には驚きはある。本心は踊り出したい気分である。


「……(私が頼ん)だの」


 鏡が何か言ったが小声過ぎて何も聞こえない。


「え?」

「何でも無い」


 俺の顔を見て鏡は赤い顔をして隠していた。

 しかし、何故こんな場所に? 鏡も誰かにすっぽかされたのだろうか? そんな奴がいたら俺がぶっ飛ばしちゃうけどね。その後も鏡は特に帰る気配を見せずに俺の隣に居る。暇なのだろうか?もうすぐ、あの薄情な連中も来るから鏡も一緒に遊べば良いか・・・。 誘ってみようかな?


「あ、あのさぁ。もうすぐ一也達も合流すると思う…んだけど。そしたらどうだ皆で一緒に遊ばないか?」

「一生君、何も聞いてないの…?」

「うん? 何かいったか」

「い、いや。何も言ってないよ。そうね、そうしましょ」


 鏡は俺から視線を外す。絶対、何かを言っていたよな…

 俺の視線をよそに鏡は何度か首を横に振ると、笑顔で同意を返してくれた。


 そうだね~。鏡を疑うなんてどうにかしてるよ。


「でも、ここで待ってるのは熱いから目の前の喫茶店に行きましょうよ」

「あっ…」


 確かにそうだ。こんなクソ暑い場所で待つ必要性なんて全く無かった…。

 今更ながらに自分のアホさを呪った。


 俺は鏡の提案に頷き後に付いて歩いていく。

 目と鼻の先位の距離なのだが、鏡と一緒だと結構嬉しかったりする。


 なんだか懐かしいな。一也、恵ちゃん。鏡とは中学からの付き合いだ。

 鏡に関しては当時からその美貌や人柄から彼女の周りには常に人が集まる存在だった。彼女と付き合うには色々な目があったが、何でかは知らないが俺は仲良くしていた。


 目の前の喫茶店への道のりも彼女と話す内容はどんな話でも楽しくなった。


「鏡って、意外に情報通な」

「ぁ………た、だから」

「へ?」

「な、何でも無い…。」

「そ、そう…。」


 鏡は俯いてしまった。

 怒らせたのかな?うーん。おとめ心は難しい。

 店の前だし、とりあえず中に入るかな、っとっと?


 急に感じた後ろから引っ張られる感覚。

 振り返ると鏡が俺のシャツを引っ張っていた。


 --ドッ、ドッ、ド…。


 暑さとは別の俺の体温…いや。血液が高くなっていくのを感じた。

 いや。熱中症とかじゃなくてだぞ!! マジで


「あの…。鏡さん? どうした…の?」


 マズイ。服を掴まれただけで嬉しすぎるんですけど。

 意識が鏡に集中しすぎてしまって、俺が立ち止まってしまった。



 --ミーン、ミンミンミー…。

 --ブオオオオオオオ。


 立ち止まった場所が悪かったのだろう。

 室外機の排出の熱風をもろに受けてしまった。


「うわっ!?」


 モワッとした熱気が俺達にまとわり付いてくる。

 自然の熱じゃないから何となく汚い風に感じる。


「鏡。とりあえず店に入ろう。外は暑すぎる。」

「そ、そうだね」


 俺が店の扉に手をかざそうとしたその矢先。



 -ドクン!!


「!!?」


 心音が今だかつて無いほど大きな音を立てて俺の中で波打った。

 動物的感覚だっていうのか、かっこよく言えばシックスセンスだし、普通に言えば第六感ってやつだ。

 もっと簡単に言えば、ここまで嫌な汗をかいたのは初めてだ。


 そして目の前の景色が一瞬でモノクロチックな世界に変わる。


「なんだ!? なんだここは?」


 ネガフィルムの中の様な世界。 辺りを見渡すが、周りの人達や車は固まったまま動かない…。 空を飛ぶ鳥も飛んだまま動かない?


 いや、動いてないが正解か?音も一切鳴ってない。

 暑かったはずの空気に熱を全く感じない。


 俺たち以外の時間が止まったかのようになっている。


「なぁ、鏡?」

「何? 一生君。何が起こったの?」

「確かに妙に静かじゃないか?」

「確かに、ってキャア」

「鏡!?」


 鏡の悲鳴を聞いて彼女を見ると鏡の足下から無数の紫雷が発生しており鏡を包み込んでいた。


「一生君。助けて怖い。怖いよ」

「待て鏡。落ち着け。先ずは、アチッ!?」


 鏡を覆う紫雷に触れると感電したのか手が痛い。

 掌からプスプスと黒い煙が出ていた。


 手がいってぇ…。


 焦げた手を触る気にもならない。と言うか気を失いそうなくらい痛い。

 痛みで意識を失いかけている。だが・・・まだ気を失うわけにはいかない。 


 鏡の周りはどんどん光を増していき鏡の姿が徐々に光の中に吸い込まれていく。


「助けて…。イッセイ君助けて…」


 完全に鏡を包みこんだ光は目的を達成したと言わんばかりに今度は徐々に消えていく。

 もう、鏡の一生懸命伸ばしている手しか見えていない。


 鏡を包んで何処に行こうというのか、俺が許さねえ。

 くっそ。絶対助けてやるからな!


 俺は、意を決して鏡の包み込む紫雷の中へと飛び込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る