第13話(中秋名月!1の4・前編)
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埼玉県大社市。上尾市・桶川市・北足立郡伊奈町の2市1町が合併してできた、人口35万の中核市である。(注釈:2020年現在、実際には合併していません)
大社市の北東側には久喜市が隣接しているが、これも平成の大合併により大きくなった都市である。
ともあれ、どっかん屋は学校から5キロあまり離れたところにある、市の外れの森林前まで集合していた。
生徒会長からは急ぎではないと言われていたこともあり、翌火曜日の放課後、生徒会活動を終えてからの巡回である。
「9月ともなると、日暮れも早くなってきたわね」
赤みを帯びてきた空を見上げ、風鈴はつぶやく。
時刻は午後5時を回ったところ。学校からは少々距離があるので、ここまでは自転車で移動してきた。
校外での神通力は原則禁止されていて、そうでなくても空を飛んだり臨戦霊装をまとったりしたら目立つからだ。
「けど本当になんもないわねー、ここ」
周囲を見回し、美優羽がつまらなそうに言う。
「ないこともないだろう、ほら工場とか田んぼとか」
「それをないって言うのよ」
自転車を道路端に並べ、指差す花丸に、美優羽が突っ込む。
「朝方は、このあたりはよく霧がかかる」
「へえ?」
ぼそりとした留美音に、詳しいわねと風鈴が相槌。
「実家がこの近くだから」
初耳の情報である。このあたりは昔は沼地だったそうで、朝晩は霧がかることが多いという。
片側一車線の道路が走り、その左手が森林になっている。うかつに足を踏み入れられないように、道路との境目にはフェンスが張られている。
道路はゆるくカーブしているので、森林の端は見えない。その途中には森の中へ入る細い曲がり角がある。証言の生徒はこの細道を使ったようだ。
「ここ……暗くなったら、本来人だとかなり怖いんじゃない?」
見回しながら、風鈴。
舗装こそされているものの、細道に街灯は見当たらない。夜になったら本来人の視力では真っ暗闇になるだろう。
従来まことしやかに言われてきたおばけや幽霊、ポルターガイストなどの心霊現象の多くは、もののけや神通力で説明できるというのが昨今の風潮だ。
神通力が科学的に研究・解明されつつあるこの時代。それでも説明しきれないものもあり、幽霊やUFOなどのオカルト話は規模こそ縮小したものの今なお根強く民間では語り継がれている。
「まあ今回の件も、コロボックリみたいなもののけのいたずらだとは思うがな」
と、花丸も応じる。
特高レベルの彼女たちからすれば、もののけだとしても大抵は臆することもない。
「もののけとか、いそう? 美優羽……いや留美音」
探索系の神通力は美優羽だとすぐにエロいことに使うので、留美音に指示をだす。
「このあたりにはいない」
と言いつつ、留美音はある一点で視線を止めた。
石段が見えた。セミの鳴き声もまだ聞こえる初秋の夕刻だが、なんとなく涼気が流れてきている気がする。
「いよいよ怪談じみてきたわね、階段だけに。……って、みなさん?」
ひゅううぅぅ、と美優羽以外の3人は、涼気を通り越して冷風が漂っていた。
石段を登った先は、少し開けた土地へ出た。
まず目に入ったのは、半壊した一軒の木造平屋。これが通報にあった廃墟のようだ。
雑草まみれになりながらも、あたりは玉砂利が敷き詰められていたことがわかる。
鳥居こそないものの、
空は赤く薄暗くなってきていて、カラスの鳴き声も聞こえてきて一層不気味さが増している。
「光苔」
花丸が神通力を展開した。手から光の粉を巻き、薄暗い廃墟にほのかな明かりが灯る。
「不気味といえばそのとおりだが、やはりもののけの気配はしないな」
異質なものがあれば、そこへ光の苔が積もるはずだと花丸は言う。
留美音は、玉砂利をひとつ拾い上げた。光苔は反応していないが、じっと見つめ、神通力を使う。
「
「……それが?」
「ん、ただの石」
風鈴の質問に、しかし留美音は首を振った。
「じゃあ次はあの建物ね」
不気味な雰囲気も、単なる怪談的な意味合いかもしれない。
緊張が抜けかけつつも拝殿らしき家屋を調べようと足を踏み入れかけると、突然あたりが暗くなる。
「なに?」
一同はあたりを見回す。
特高レベルの視力をもってしてもかなり暗く、自然の暗さとは明らかに違う。
カラスもセミも鳴き声が消えた。どっかん屋は警戒して、互いの背を守るように一箇所に集まった。
「やっぱりもののけ……?」
つぶやく風鈴の耳元に、
(チーズケーキ「ひょわああぁぁ!?」
耳元に生温かいささやき声がかかり、心臓が飛び出るほどの勢いで驚いた風鈴がほか3人ともみくちゃになりながら拝殿から転げ落ちる。
「ああん、風リンだめだめ、みんなが見てるからぁ~(はぁと)」
「やめんか変態!」
風鈴のおっぱいに顔面をうずめてぐりぐりしながらあえぐ美優羽を小突き倒し、風鈴は上体を起こす。なお風鈴のほうが馬乗り。
「そもそも誰が見てるって……」
「俺だぞ」
人目を気にするように視線を回した風鈴にかかる声がひとつ。
今しがた転げ落ちた拝殿に、どっかん屋4人の視線が一斉に集中する。
人影は2つあった。
「ヨウ、ドッカン屋。コンナトコロデ奇遇ダナ」
片方は見覚えがある。膝裏までの長い金髪に、白い戦闘服。ワルキューレだ。
うそぶくワルキューレに腹を立てるよりも、一同はもうひとりの人影に注目していた。
「……誰よ、あんた?」
初めて見る顔だった。
女性としては高身長だろう、170センチほどありそうだ。でしゃばりすぎずも均整の取れたスタイルだと、制服の上からでもわかる。
「あんた、うちの生徒? 初めて見るけど」
訝しむ風鈴に、彼女は朗々と応えた。
「俺か? 俺はメアリー・スーだ」
声も美しいメゾソプラノ。
愛嬌と凛々しさを兼ね備えた美貌と、まさに理想の美女を体現したかのような容姿。
瞳はやや青みがかっているが、輪郭はアジア人。髪は赤みがかった黒のポニーテール。
そして服装は、第一高校女生徒の制服。
「科学部
意地悪そうなのに、なんとなく憎めない。そんな笑顔の口上だった。
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