第13話(中秋名月!1の4・後編)

         *


「ずいぶんふざけた名前ね」

 反応したのは美優羽だった。

「有名人か何かか?」

「もとはスタートレックの二次創作よ」

 花丸の質問に、美優羽は雄弁に語る。

 この二次創作で登場したメアリー・スーというオリジナルキャラクターは、原作の世界観をぶち壊しにするほどぶっ飛んでいたそうな。

「容姿端麗で超有能。原作キャラからの評判もすこぶる高くて人気者。とにかく原作キャラを差し置いた活躍を見せて、その後は二次創作界隈のみならず一次創作にすらオマージュされるという……」

「まあそれはともかく」

 解説を遮り、風鈴は謎の美女をにらみあげた。

「その第5のメンバーとやらがこんなところで何やってるのよ? 光宙みつひろとどんな関係……」

「みっくん?」

 今度は留美音が遮り、風鈴もなるほどと訝しげにメアリーを見やる。

「あいつは”空中クレヨン”で変装もよくやるからね、ありえるわね」

 対するメアリーは目を丸くした。動作がいちいちわざとらしくも、美女ゆえに様になる。

「みっくんってのは不破のことか? 俺も光の精霊人だが、あいつじゃないぞ。何なら証拠を見せようか?」

「いや、いいから」

 上着に手をかけ脱ぎかけたメアリーを、慌てて風鈴は静止する。

 しかしなおも疑惑の目を向けてくるどっかん屋に、メアリーは肩をすくめ。

「じゃあ不破に電話してみたらどうだ? あいつは開平橋と一緒に帰ったぞ。昨日から月見バーガーが始まったからな。毎年一回は食わないと気が済まんのだとさ」

 ふん、と息を吐き、風鈴は懐からスマホを取り出した。

 仲間の耳目が集まったので聞こえるようにスピーカーモードにし、数秒。

光宙みつひろ? あたしだけど」

「おいくら万円振り込めばいいんで?」

 雑踏のざわめきに混じって、ふざけた少年の声が聞こえた。

「振り込め詐欺じゃねーわよ!」

「なんだよ風鈴、俺は今倍ダブチーを食べるのに忙しいのだ」

「月見バーガーじゃねえんかい。てゆうか晩飯前じゃねえんかい」

「早めの晩飯だぞ」

「晩御飯がハンバーガーってのはどうなのよ」

 雑談を始める風鈴の後ろで、留美音が眉をひそめていた。

「みっくんじゃない……?」

 留美音はメアリーが光宙みつひろの変装だと確信していたようで、一見無感情な彼女にしては、その声は心底意外そうだった。

「そっちに開平橋くんはいる?」

「ん、僕?」

 向こうもスピーカーモードにしているらしく、太郎右衛門の声が聞こえてきた。

「メアリーって知ってる?」

 光宙みつひろに聞くとはぐらかされるかもと思って彼に聞いてみたのだが、

「うん。この前入ったばかりの新入部員だよ。彼女がなにか?」

 普通に肯定されてしまった。

「うまいのじゃー、はんばーがーもうまいのじゃー!」

 どうも玉藻前もいるようである。今日の悪戯トリック班は、2人と3人で別行動をしているだけか。

 彼女は本当にこの学校の生徒なのか? 玉藻前の例もあるし、追求しようと思ったら。

「ここか、ここがええのんか?」

「あ、だめだよみっくん、そんなとこ触っちゃ。そこは敏感なんだから、あんまり触ると変な反応でちゃう」

 ちょっと艶めかしい太郎右衛門の声に、どっかん屋がにわかに騒ぎ出した。

「ちょっとあんたたちなにやってんのよ!?」

光宙みつひろカメラだ、カメラをオンだ!」

「みっくんにすみやかな詳報を求める」

「風リンがスマホをぶん回した勢いでおっぱいユッサユッサしております(ガン見)」

(あいつらこっちのこと忘れてねえか?)

(マアイツモノコトダ)

 うーんこのと呆れ顔のメアリーとワルキューレであった。

 二人の白眼に気づいた風鈴がまずは最初に我へ返り。

「とにかく!」

 通話を切ってもなおスマホに群がる3人をダブルラリアットで吹き飛ばし。

「で、あんたたちこんなところでなにやってるのよ?」

 風鈴の睨みつけもどこ吹く風、意地悪そうにメアリーは笑う。

「今日のところは俺の挨拶さ。生徒会から仕事を受けたという噂を聞いて、見学ついでにな」

「おばけの噂、あんたたちの仕業じゃないでしょうね?」

「さあなあ?」

 知っているのかいないのか、とぼけるようなこの態度といい、言葉の一言一句、仕草のひとつひとつが本当に光宙みつひろによく似ていた。

「……まあいいわ、なんかあったらすぐにしょっぴいてやるかんね!」

 風鈴の宣言も、弟に向けるものと同じ調子だった。


 なお、光宙みつひろたちはというと。

「アリガトウゴザイマシタ、オマタセシマシタ、イラッシャイマセ」

「ああ、ほら。配膳ロボットがおかしくなっちゃった」

 この店で導入された、トレーを載せたカートのようなロボットに、光宙みつひろがちょっかいを出していた様子だった

「なんじゃこれー、なんじゃこれー!」

 晴れ着の少女、タマモも物珍しそうにロボットをペタペタ触って騒いでいる。

 このあと店長にお目玉を食らう3名であった。

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