第13話(中秋名月!1の3・後編)
*
「会長、そろそろ本題に」
「おっと、そうやったな」
生真面目な妹に促され、都姫は呼び出した一同に黒板を見るよう促した。
どっかん屋が利用している生徒会室にはPCを兼ねるデジタルホワイトボードがあるが、こちら役員室にはプロジェクターがある。白いスクリーンが黒板の前に降り、見やすいよう宇美がカーテンを閉め電気を消した。
自席のノートPCと連動し、都姫は地図を映し出した。
「うちらの学校がここやな。北東の、市の外れに工業団地があるのは知っとるな?」
風鈴はうなずく。
「はい。けど通学路でもないし、あたしはあまり行ったことないですけど」
「このあたりは工場と田畑ばかりやしな。で、このあたりには広い森林があるんや」
都姫はマウスカーソルをくるくると指し示す。
航空写真地図に切り替えると、たしかに広い森林になっているのがわかる。数十ヘクタール、1平方キロ近くあるだろうか。
大社市は全域平地で山はないから、市内では有数の広さだろう。
「うちもまだ確認はしとらんのやけど、聞いたところによるとこの中に廃屋があるそうでな」
都姫の声は、なんでか陰気になり始めた。
「なんやら、出るらしいんよ?」
「……出るって?」
「これや、これ」
胸の前に手をだらり、うらめしやーと古典的幽霊の仕草。
風鈴は眉唾、花丸は眉をひそめ、留美音は無表情、美優羽はきゃーこわいーと風鈴(のおっぱい)にしがみつこうとしてはたき落とされ。
四者四様の反応に満足し、都姫は話を続ける。
「夜遅うに通りがかった生徒がおってな? 広い森林なんで、家に帰るには大きく迂回せにゃならん。遅いし面倒なんで舗装されとらん細道を突っ切ることにしたんや」
するとなにかおかしな音が聞こえる。
はじめは風で枝葉が擦れる音かと思ったそうだが、どこか違う。
「おきろー、おきろー、といううめき声のような気がしてな。こわなって走り出したんや」
静まるどっかん屋に、都姫が詰め寄る。
「すると今度は後ろから「おこしてー、おこしてー「きょおおぉぉ!?「と!」
背後からの声に、思わず奇声を上げてつんのめる4人。
腰を抜かしかけながらも振り返るとそこにはいつの間にやら、無表情の宇美が無言で突っ立っていた。
「宇美、ぐっじょぶや!」
親指を突き立てる姉に、宇美は咳払いをひとつ。
副会長のほうは真面目かと思ったら、なんなのこの姉妹。
「会長さん……」
ゆらりと、美優羽が憤怒の表情で会長へ向く。
「あんまりふざけると、あたしがおこ[#「おこ」に傍点]してよ!?」
「そのおこ[#「おこ」に傍点]やあらへんから!」
ビシッと指差す美優羽に、ビシッと指差し返す宇美。なんなの初対面でこのボケ合戦。
「とまあ、こんな話が上がってな?」
鼻白んでいた風鈴に、不意に真顔に戻った都姫が言う。
「学校からだいぶ離れたとこやけど、もののけが関わってないとも限らんしな。急ぎってほどでもないから、今週中にでも一度見てきてくれへんか?」
*
拍子抜けしつつも承ったどっかん屋は去り、役員室に残るは会長と副会長、都姫と宇美の物部姉妹二人のみ。
「いやー、我ながら美味しいわあ」
都姫はかぼちゃ味にした団子を、にこにこと頬張っている。
「会長」
「ん?」
宇美の生真面目な声に対し、都姫はモゴモゴと咀嚼しながらの相槌。
だがいつものことのようで、宇美は話を続ける。
「会長、彼女たちに任せてよかったのでしょうか?」
なにやら意味深気な問いかけだったが、都姫は安楽椅子を逆向きに膝立ちで揺らし、マイペースな調子を崩さない。
「宇美ぃ、学校ではお姉ちゃんって呼んでって、うち言うたやん?」
「ダメです」
「ちぇ。」
椅子に改めて座り直し、背もたれに身体を預けながら、都姫は少しだけ真面目に答えた。
「ま、神のおらんこの世の中や。彼女たちに頼るしかあらへんしな。うちも頭がはっきりするまでうかつなことはできひんし」
宇美と同様、やはりその言葉は意味深げだった。
「あ、宇美。うちの団子勝手に食べたな?」
2本目に手を付けようとした都姫が妹に文句を言うも、宇美はキョトンとしていた。
「そんなことしてませんが?」
「ん、数え間違えたかな?」
「つまみ食いしなくても、帰れば姉さんの手料理は食べられますから」
「……にひひ、せやろせやろ」
仕方なさげに姉さんと呼ぶ妹に、都姫は満足そうにニパッと笑った。
元1年8組、現生徒会役員室。
どっかん屋が去ったあと、会長と副会長の他に実はもうひとりがこの部屋にいた。
声を出すようヘマは無論しない。
都姫はレベル40台、宇美は本来人なので気づかれることはない。
──こっそり団子を一本拝借したが。
部屋にいたのは、不破
”空中クレヨン”で自らを透明化し、この部屋に忍び込んでいた。
無言でモグモグしている様は、真面目なのか不真面目なのか。
役員室での、ここまでのやり取りを全て見ていた
(さて、どうしたものか)
都姫へ向けるその目線は真剣そうではあった。
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