第13話(中秋名月!1の2・後編)

         *


 始業式は恒例の校長の挨拶、教室に戻って宿題の提出とホームルームと滞りなく、授業は明日からということで昼で放課後となった。

 とはいえ、どっかん屋一同は初日から普通に生徒会室に集合していたりする。

 夏休みの間も、週に二回は4人集って校内や学校周辺のパトロール。いきもの係も来た日には適当にだべったり、学校をすみかとしているような悪戯トリック班の連中と出くわしては小競り合いとなったりと、休みの間も普段とまったく変わらぬ日々であった。てゆうか悪戯トリック班、休み中も皆勤賞だったのではないだろうか? 暇な連中である。

 さて、放課後の生徒会室では、昼食を済ませた美優羽が長机に突っ伏して居眠りをしている。

 すーすーと寝息が……いや、ぶつぶつと寝言が聞こえてきた。

(あの精霊人のように……? 風リンのことか? ……風リンのことかーーーーーっ!「あんたは夢の中であたしをどんなめに遭わせてんのよ!?「ぐべえっ!?」

 絶叫とともに跳ね起きる美優羽と、その後頭部に風鈴のゲンコツが叩き込まれるのは同時のことであった。

「……はっ!? 今は誰? ここはいつ? 私はどこ?」

「目ぇ覚めた?」

 きょろきょろと部屋を見回す美優羽に、風鈴は深い深い溜め息をついた。

 そんな二人の漫才をよそに、留美音は我関せずとなにやらゲームに興じていた。

 コントローラーを取り外してテーブルモードで黙々と、いや随分と熱中している様子だった。

「留美音、学校でゲームは「まあまあ、もう放課後なんだし」

 たしなめようとするも花丸に止められる。

光宙みつひろからプレゼントされたそうでな、早く遊びたくしてウズウズしていたようだ」

 そういや今日は留美音の誕生日だったわね。じゃあ今日くらいはいいか。と、風鈴も了承。

 留美音は得意げにゲーム画面を見せつけてきた。

「かくいう私もこのゲームはやり込んでいてな。かなり売れているらしいぞ?」

「らしいわね」風鈴もうなずく。

 無人島を開拓するこのゲーム、発売するなり世界中で大ヒットと聞く。ゲームとは関係のない雑誌や番組でも盛んに取り上げるほどだ。

「まあ、あたしが光宙みつひろにプレゼントしたのも、それだしね」

「なんだ、じゃあお前もプレイしているんだな?」

「まあね」

 ゲームにはあまり興味はないとでも言いたげなそっけない態度ながらも、留美音のプレイ画面をちらちらと覗き込むあたり、風鈴も結構夢中になっていそうではあった。

「で、どんな島名にしてるの?」

「ん」

 と、留美音が操作して見せてくれた画面には、「ちょこみん島」。

「私は『ぐらにゅー島』にしてる」

「みっくんは『かいちゅうでん島』って言ってた」

「ネタばっかね、あんたたち」呆れる風鈴。

「そういうお前はなんと?」

 風鈴は一瞬口ごもるも小声で、

「……えっふぇる島」

 肩をすくめる花丸。ネタに走るのはもはや一般行動なのだろうか。

「美優羽、あんたは?」

「んご?」

 また居眠りしかけてた美優羽は頭をもたげ。

「あたしはもうだいたいコンプリートしちゃったし」

「どんだけチートしてんのよあんたわ」

 先週発売されたばかりに加えてリアルタイムに季節が絡むから、完全コンプには数年かかるとも言われてるゲームなのに。まあ時間操作してるのだろうが。

「あ、ちなみに島名は『やきゅうやろうぜなか「バカヤロー!」じまああぁぁ!?」

 みなまで言わせぬ風鈴の一撃に、広くはない生徒会室をキリモミ回転して吹っ飛ぶ美優羽であった。合唱。

「ふう、危ないところだったわね……。意外に普通の島名にするかと思ったら、やっぱりこの子はこの子だったわ」

「風リン…ひどい……」

 と、二学期初日からいつもの(?)じゃれ合いをしているどっかん屋一同が、生徒会室の扉に注目する。

 ノック音がしたからだ。返事をすると引き戸が開き、一人の女生徒が一同を見やっていた。

「まだ下校されていなくて良かったです、精霊人取締並せいれいびととりしまりならびに精霊事件対応班のみなさん」

 事務的に彼女は語る。その生真面目さは、眼鏡をくいっと指で上げそうなくらいだが、彼女は眼鏡はかけていない。

 数瞬の沈黙。どっかん屋一同揃いも揃って「?????」という表情になっていた。

「……あ、ああ。あたしたちの正式名称だっけ」

 姉の未来が率いた先代どっかん屋の頃は、学校の組織とはほとんど無縁の独立したチームだった。姉がこの学校へ赴任し、当代どっかん屋を編成するにあたって生徒会へ組み込んだ。先代ではどっかん屋はそのまま正式名称だったが、生徒会でその名称はどうかということであの長ったらしい正式名称が考案されたわけだが、使われたことなどほとんどないため、風鈴たち当人もすっかり忘れていた。

 そういった経緯はともかくとして。

「今さらうちらを正式名称で呼ぶ、あなたは……誰?」

 いぶかしる美優羽を、風鈴が小突いた。

「私らも一応生徒会だぞ、役員くらい覚えておけ」

 と花丸。二人はさすがに知っていた。

 生真面目そうなその女生徒の上履きは青色。名札は水色で物部ものべと書かれている。

 上履きやジャージは学年を示し、緑は三年生、青は二年生、風鈴たち一年生は赤。

 名札はレベル帯を示し、29以下は水色、30~49は緑、50~69は黄色、70以上は赤。これは高レベルの精霊人は素の腕力等も頑強となるため、誤って本来人を怪我させたりしないようにとの配慮によるものだ。

 この女生徒は二年生で本来人。名字は物部であることまでがうかがえる。

「生徒会副会長、物部宇美ものべうみです。三年生の姉がいるので、私への呼び方は副会長でお願いします」

 自己紹介に続き、彼女はストレートに用件に入った。

「あなた達のことは、長いので精霊班と略します。では改めて、精霊班の皆さん。生徒会長がお呼びですので、生徒会役員室まで来ていただけますか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る