第12話(風林火山!4の5・前編)
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第一高校の校門のすぐ先には広い国道があり、圏央道へつながっている。
国道を渡った先は長い坂になっていて、大雨が降るとすぐ氾濫する川を挟むように田んぼが連なっている。
坂を降りると交差点があり、学校から見て左に曲がった先には男子寮が、右には女子寮がある。
翌、土曜日。夏休みの初日。
その昼少し前。
上り坂の前、交差点の向こう側からやってきた女生徒と合流する。
東雲桃子。素の姿のときはわりと真面目で、夏服を校則通りに着ている。人見知り気味でぶっきらぼうな一面があるが、
「昨日は大変だったわね」
「まあお互いな」
「それは?」
「あいつとの約束だったやつをな。桃ちゃんの分もあるからみんなで食おうぜ」
坂の上からは車の雑音も聞こえてくる。
今日から一週間が合宿期間である。太郎右衛門は一足先に登校していて、
「毎朝面倒くさいよなあ。この坂、たいらにしていいか? 見かけだけ」
「なにか意味あるの、それ?」
適当にだべってると、
「ムッ!?」
何かを感じ取った桃子がいきなりワルキューレに変身する。
おい、と鋭い声を出して
いや、女子寮の方角から一人小走りに現れた。
「
やってきたのは風鈴だった。これまた真面目に校則通りに制服を着こなしている。
呆れたジト目をワルキューレへ向け。
「あんた、堂々としすぎじゃないの? 校外で神通力は禁止よ?」
ふん、とワルキューレは鼻で息を吐き。
「ダッタラ校外デワタシニ近ヅクナ」
どっかん屋には彼女の正体は秘密なので、気配を察して変身したということか。
しかしこの二人は犬猿の仲だな。他人事のように
「あたしは
ワルキューレはちょっとムッとしたのか、風鈴を睨めつけ。
「ナンダ、今度ハワタシト女ノ争イヲシタイノカ?」
ぐ、と風鈴は押し黙った。まだ昨日の件、玉藻前との戦いのことを気にしているようだった。
「まあまあ。で、なんの用だって?」
助け舟を入れたつもりが、風鈴は
「あんたが悪さをしないように、見張りよ。昨日の今日だからって、油断はしないからね!」
今日から一週間、きっちり見張っててやんからね! と息巻く風鈴。ふと、
「なにそれ?」
「ああ、弁当だ」
「……ふーん、まあ食堂は休みだしね。さあ行きましょ」
*
人影は多くなく、校内には一般生徒がちらほらとといった程度。
合宿の参加は自主性に任せている部が大半のようで、この暑さで冷房も減らされるとなればこんなものだろう。
「ライ姉、こっちか。職員室行っちまったよ」
2階の化学室には篠原未来教諭と紫藤清夢精霊幕僚長が待っていた。
「昨日の関係者はここでって言ったろう」
「どっかん屋、いきもの係、
昨日のもやもやから一転、今日の未来はキビキビとしていた。
手には恒例の小説が握られ、タイトルは「日本人を右に!」。これがほんとの日本の右傾化か。
騒動の事後処理のため、今日また全員ここで落ち合うことになっていた。
しかし清夢氏、微妙にやつれているのはなぜだろう。まあ昨日の騒動の後、政府やらEUやらと夜通し会談密談とあったはずで当然といえば当然かもしれないが、隣の未来女史がお肌もつやつやとてもご機嫌なのが不可解である。
キラーン☆、と
(いや昨夜、3回ヤラされてな。この歳で立て続けに3回は、さすがにな)
なるほど、対象的な両者に納得。しかしライ姉、単なる欲求不満だったんかい。
「さて、
「はい先生」
手を上げたのは、ひばち。なんだ、と話を止めて発言を促すあたり、清夢も教師然としている。
「なんかいきなり機密事項みたいだけどさ、あたしたちが聞いてもいいわけ?」
「お前たちも無関係ではなくなってしまったからな。ひと通り理解した上で、公言してはいけない部分を知っておいたほうが良い」
清夢が教室に備え付けのテレビを付けると、正午のニュースが始まるところだった。
「お昼のニュースです。玉藻前出現の事件から一夜が明け、
と、画面が切り替わる。
白い仮面にウロコ模様の水色を基調とした機動的なデザインのドレスの若い女性。確かに、ヴァルハラだ。
玉藻前出現事件は、EUがちょっかいをかけてきたことが根底にあると、ヴァルハラは暴露した。
もとを辿れば人工衛星の無断使用が原因だが、このあたりはお互い様である。EUの圧力がなければ発生しなかったであろう事件なのは確かだ。
日本政府もあおりを受け、政界はまたもやゴタゴタ。
「玉藻前は、トールとヴァルハラで撃退したことになっている。ヴァルハラが日本に突然やってきたのもこのためだとしてな。ま、人工衛星の件もこのままウヤムヤにできそうな情勢だな」
空の超高レベル精霊人であるヴァルハラなら、理由さえあればいつどこにでも出現し得る。非常時ならば、条約違反もやむなしだろう。
「さて、EUといえばイギリスの離脱問題ですが!」
突如の大声に、清夢がつんのめる。
いきなり声を張り上げたのは、上江。
だがその手は水を流した水道に触れていて、口調も上江とは違う。
「あなたもたいがい暇ね、イシター。上江さんもいい迷惑でしょうに」
未来が呆れる。水道を媒体に、イシターがまたもや上江を通してやってきたようだ。
いきもの係の他のメンバーは初めて知ったようで、なんだこりゃ、前にもあったような、と驚いている。
「そういや昨日、俺に用事があったとか言って結局聞いてなかったな」
「うん。そのことなんだけど、最近新しい首相になったのは知ってるよね」
「ああ。マスコミ出身で、王族ともゆかりのあるという、あの男だな」
「そうそれ。彼、マスコミ出身だからか、今回の騒動をいち早く嗅ぎつけてね。やっぱりEUは信用ならんって、ボクとEUの条約を破棄させたがってるんだ」
清夢もさすがに呆れる。
「今回の件は、表向きはお前は無関係だったろうに」
「まあそうなんだけどね。EUとの破棄は無理だろうけど、別個イギリスと条約を結べば、スコットランドへ帰れるかもしれないんだ」
その声は上江を通しても嬉しそうな思いが伝わってくる。
現在イシターは、イギリスのEU離脱のゴタゴタのあおりを受けてドイツに在住している。やはり故郷のほうが良いという思いがあるのだろう。
「条約を複数結んではいけないという決まりはないが、面倒くさくなるぞ?」
「そのあたりは先生に任せるさ」
「これだよ」
と苦笑しつつも、清夢もそれほど迷惑ではなさそうだった。
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