第12話(風林火山!4の4・後編)
*
すっかり暗くなった夜空にぽっかりと浮かぶ満月。
地面は校庭を中心として、ヴァルハラの神通力による淡い光が広く覆い、幻想的な光景となっている。
玉藻前を導いていった光の帯は月へ向かっているかのようであり、次第に薄れつつあった。
「家族、か……」
感慨深げに空を見上げ、シエルがつぶやく。
玉藻前と間にも、家族の絆はあった。
自分は…どうなのだろう。
物心ついた頃から母の手ひとつで育ち、その母ももののけ事変で失った。
異母姉がいると聞き日本へ留学するも、姉とは意見を
その先生──紫藤清夢はというと、長らく電話をしていたようだ。相手は政府関係者のようで、子供の姿ながら大人の声で会話している。神通力で変声しているのだろう。
その電話をようやく切り、清夢は笑顔を向けた。
「お前たちも家族じゃないか」
「え?」
隣りにいた未来とともに肩を叩かれ、二人はきょとんと見合わせる。
子供の声に戻るも、清夢は誇らしげだった。
「住民の避難誘導から、この一帯の防御結界。俺が何も言わずとも迅速に対処できたのは、お前たち姉妹の絆があってこそ、だろう?」
反目しあうことが多くても、いざとなれば呼吸を合わせて協力しあえる。それこそが家族ではなかろうか。
「……そうですね」
かみしめるように、シエルは答えた。
「そうかなあ」
一方、未来は微妙に納得がいかないようだった。
そもそも、実界に転移してきた時点で玉藻前の力は相当に落ちていたのだから、超高レベルなら落ち着いて対処できて当たり前だし。
「そうですよ、姉さん。私たち3人、これで仲直りですね」
なーんか、うまく丸め込められたような……といぶかる未来の一方で、シエルはすっかり納得してしまった様子だった。
そこへ清夢の追撃が来た。
「よし、最後に仲直りの呪文を唱えてやろう」
「はい」
目の前に清夢とシエルが並びたち、思わず未来がたたらを踏む。
嫌な予感。
シエルも清夢も、なんでかノリノリだった。
未来の左右からそれぞれ。
「セシール♪」
「
ようやく落ち着いてきた風鈴が、腫れぼったい目を一気に冷めた目に、なんか変なことを始めた3人に目を向けた。
対応に困っていた
わけのわからないネタをかまされて、ものすっごく微妙な表情の未来に、二人は両脇からステレオ音声でもう一度。
「セシール♪(真顔)」
「|イロッフル・サ・コンフィアンス・エ・ソナムール《Il offre sa confiance et son amour.》(真顔)」
真顔で圧をかける二人に、もんのすごく困った様子で、未来はどもりながら。
「し、篠原さん幸せそうなの……?」
イエェェェイ! と仲の良い姉弟のように、清夢とシエルがハイタッチ。
「良かった良かった。幸せならもう大丈夫だな」
「はい!」
なんなのこのノリ。
「ワハハ、聞コエル聞コエル!」
ワルキューレだけはなんでか、大ウケの様子だった。
まあ、なんだ。
空耳で有名な某CMのフレーズらしい。
フランス語だからのシエルの芸のようだが、あれって男女が逆じゃなかったか?
風鈴から解放されるも、
すっかり(強引に?)大団円となってしまった一同を背に、未来は一人ひたすら首をひねって釈然としない様子であった。
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