第8話 アナスタシアそしてイリア
ほら、飛びましょうよ。アナスタシアさん。ネルーはアナスタシアの手を取り、傘を持ち空を飛ぶ。街は祭りで、空を子供達の風船が飛んでいく。屋台が並び、道化師や人々が踊っている。騒がしい喧騒から遠く離れていく。アナトリアね。今はそういう名なのか。旧文明時代は帝国の一部だったのに。
ほら街や城があんなに遠く。くだらない。イリアなら喜ぶんだろうがな。彼女はきっと人形遊びが好きなんだろうなあ。ネルーはため息をつく。イリアさんとデートしたかったんだけどなあ。さてどうやってアナスタシアからイリアの身体を返してもらうことにするか。とりあえずまず人間達への不信感を解かねばならないと無理矢理デートに誘い出したのだが。お前だって私など必要ないのだろう?お前の目的はわかっている。この身体をイリアに戻すことだ。いかにもそうですが、僕はあなたに人間の善の部分も信じて欲しいし、イリアさんのことを少しでも好きになって欲しいのですよ。知らないよ。お前なんか。アナスタシアはネルーの手から離れ、落ちていく。アナスタシアさん!ネルーが手を伸ばす。アナスタシアはネルーから離れ、魔法を唱え宙に浮く。あのお菓子が食べたいな。アナスタシアはオルゴールの鳴る子供向け屋台の方に向かっていく。意外に子供。ネルーは手はまだあるはずだとニヤリとほくそ笑む。
イリアはまだ夢の中。何度も身体を優しく貪られ、息をついている。白い肌に男の残した赤い痣がついている。男は祭壇の上の十字架にイリアを連れて行く。君が贄だなんてまっぴらごめんだ。確かにアナスタシアを救ったのは私なんだが。贄には代わりにオーエンになってもらった。トントンとイリアを手早い仕草で十字架に繋いでいく。次は何をする気なの。イリアは涙を流しながら、男に問う。さあ。男は虚しそうにしている。信じていたのに。私は最初からそういう男ではないと『最初』に説明したはずなのだが、これだから君はな。ところで君は私が君など必要などないと言われたらどう思う?愛する末裔よ。知らないわ!知らないわ!ずっと好きだったのに。私のことを裏切ったくせに!イリアは泣き出す。
『私のことなんて必要がないくせに!』
イリ……アナスタシア。男は十字架に磔られた。イリアに口付けする。君がいないなら私は死んでしまうよ。私は異形の神と人々から謳われているが所詮は悪魔なんだ。最初はアナスタシアの絶望に取り付き餌として食べてしまった。無論、彼女を贄の運命から解放し、子まで成したのだが。私は小さな子の絶望を喰うのが好きなんだ。だから君の絶望を定期的に食べに来ていた。この行為に苦しむ、君の絶望も私にとっては甘い餌だ。その涙も。男はイリアの涙を拭う。ほのかに欲情をたたえながら。苦しい。私を一番に愛して欲しい。こんなことしないで。イリアは子供のように泣きじゃくる。君を抱いていると赤子を抱いてる気分になる。可愛い。アナスタシアも昔は可愛かった。だが子供のことを肉塊などというから許せなかった。君は私にもアナスタシアにも似てない。末裔なのに。ひょっとしてただの小娘なのか。それでも無論構わないのだが。男はイリアの指を舐める。さてと、さて我が末裔よ。再び神に戻らないか。これは儀式なんだ。私は人間なの!人間なの!君は私と会話してる。その時点で普通ではないんだ。私の声なんて普通の人には聞こえないよ。ずっとこの時を待っていたんだ。
お前は世界の終末まで私といる覚悟はあるか。共にこの世の黄昏をみてみたくはないか。
嫌いよ!あなたなんて!
そうか。嫌いか。さっきまで愛して欲しいと何度も言ってたくせにな。これだから赤子は面白い。君は私にダダをこねている。もっと甘えていいんだがなあ。子供が甘えるのは無論好きだよ。君を小さくしてやろうか。アナスタシアより。子供に行為はしないから安心したまえ。あんなによがっていたくせに。本当は行為が好きなんじゃないのか。男がイリアの頭を優しく撫でると、イリアの身体が小さくなっていく。すぐ終わるよ。おちびさん。神になるかはゆっくり考えたまえ。酷いことをしてすまなかったな。イリアは男に駆け寄り泣き出す。どうしてこんなことを。私のことが嫌いなんだ。イリアは泣きじゃくる。可愛いおちびさん。ベッドがあるから早く寝たまえ。子守歌を歌ってあげるよ。昔のように。
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