第6話血の祝福
アナトリアの軍勢がハイランドの神殿に追いついた。イリアさん!ネルーは叫ぶ。
機械じかけの男の神、ユーグリッドは宙に浮き、花束を抱きしめている。愛しているよイリア。愛されることしか能のない娘よ。私と一緒に眠るんだ。永遠に。この世の黄昏まで。
「異形の神よ。眠れ。そのイリアを離してからな。」イグニスはこともなげにオーエンのに剣を向ける。「王国は復活した。神をかどわかした邪教の神官はこの国にはいらない。もう一度死んでもらう。」「姉さん。」「なんだアルベルト。」「いつかこの時が来ると思ってたよ。僕はね。姉さんのことは好きなんだ。でもイリアには死んでもらった方がいいと思うよ」「姉さん。僕だけの姉さん。その神官はどうでもいいよ。アナスタシア様と共に眠ってもらおう。」
「人間ごときが神に指図するだと?」アナスタシアは答える。
「僕はね。姉さんが嫌いなものなら、神だって、無垢な子供だって始末するよ。」アルベルトは色素の薄い血の瞳で笑い出す。そしてオーエンが持っていたペンダントを剣で叩き割る。アナスタシアと共に王国は消えオーエンは叫び、砕け散る。イリアは花束から人間の姿に戻り悲鳴をあげる。「僕は姉さんと入れればそれでいいんだ。王国?そんなものペンダントよりもっといいものがある。」
「アルベルト、やめろ」イグニスは答える。
「これだよ。あのオーエンの十字架の血文字。こっちの方が楽しくないか?」アルベルトはかつてオーエンが火あぶりにされた十字架の血文字に書かれた古代語を喋り出す。王国の復活とは別の十字架だ。
「私を死に追いやった神々に永劫の復讐を。何度でも繰り返す。世界に疫病と飢餓と死を。私は復讐する。人と神に。死に絶えよ全ての世界よ。」
大地が陥没し、無数の救われぬ血まみれの手が現れる。ネルーは周りの軍と自身に浮遊の呪文を唱え、回避する。イグニスもまた浮遊し無数の手を剣で切りつける。
「あなたの名前は?ずっと名前を知りたかったの。」イリアは抱かれながら男の神に答える。「知らなくていいことだ。いずれわかる。」男は答える。この光景は死の呼び声達だな。男はさらに続ける。男は何事か呪文を唱えるが、彼を刺している無数の機械に阻まれ、中止を余儀なくされる。ネルーは人間の姿をやめ、獣となって応戦する。
--アナスタシア、私を壊せ。
男ははアナスタシアを呼ぶ。壊れたペンダントからいくつもの白い手が現れ、男を機械から解放する。イリア、私を使え。男は命令する。再びイリアにアナスタシアが憑依する。イリアが剣を振るうと赤い花が散っていた。血のような、初夏の役目を終えもはや壊れそうな花。花咲く地の嵐。イリアの髪の毛とともに、花は舞い、無数の死の手を吹き飛ばした。イリアは倒れる。アルベルトがイリアを踏みつける。邪魔な女だな。せっかくのいいところを。イグニスはやめろと制止し、再びペンダントを魔法の力で元に戻す。「僕は世界が憎いんだ。僕らをこんな風にした世界も、未だに王国の復活にこだわるオーエンも。この世に故郷などありはしない。全て滅びればいい。姉さん以外はね。」
「姉さん、愛しているよ。」
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