第5話 神の器
道化師たちがやってくる。アナトリアにハイランドの追っ手が再び来た。道化師たちの祭りの最中イグニスと、神官の間者によってイリアは攫われる。イリアさんどこですか!ネルーの声が城内をこだまする。
--ここはどこ。
--迎えに来た。
あの男が立っている。薄暗い端正な眼差し。瞳にはほのかに欲情をたたえている。イリアは城内で男が指し示す通路を幾度も通る。逆さまの吹き抜け、壊れた鏡の間、笑う道化師達。イリアは『男』に案内されながらも、どこに行くべきかわからなくなった。
--ここだ。アナスタシア……。いや、イリア。
男がかすかな笑みを浮かべる。差し伸べられた手を取ると、それは手ではなく神官が持っていたペンダントだった。その瞬間、地震が起き、大河の水は溢れ、世界は危機に瀕した。
「贄を捧げる。」
イグニスと神官とその使いの者達が、何事か囁きあっている。
「『神の器』よ。再び『我ら』を『故郷』に受け入れたまえ。」
ペンダントが発光し、何千人もの過ぎ去った人々が見える。「遠き日、遠い風よ」神官が呻く。「我々は『故郷』に帰ってきた。魔法を司るものよ!機械じかけの神ユーグリッド!」神官と使い達が頭を垂れる。天上からいくつもの稲妻が落ち、窓に流れる。
「イリア。」男が立っている。「なぜ君が魔法が使えるのかわかるか?」男はイリアの頭を撫で、髪の毛に触る。「私を呼び出す特別な呪文。私がお前を愛したからだ。」「それとお前を『彼方』へと連れて行く。」どこへ?故郷へ。
--人間のお前に用はない。その男は私のものだ。
イリアの身は花となって散り、代わりにアナスタシアが現れる。
「アナスタシア。見ていたよ。」男が囁く。
「肉塊などより私の方がいいはずだ。あの娘は最初から単なる肉体に過ぎない。私とお前の
「イリアの魂は私のものだ。最愛の娘、イリア。イリアは人形ではない。人間だ。だから私は愛したんだ。」
「神に肉体は不要。」アナスタシアが男に触ろうとするが儚くすり抜ける。「いや、必要だった。お前に愛されるために。」
--おいで。イリア。
花となったイリアに男が口づけする。花は小さな娘、かつてのイリアに変わり、男に身を委ねた。男とイリアの間に花が散っていった。
世界二人だけのもの。
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