第2話魔法国家アナトリア

どうしてなのだろう?何もかもが間に合わない。追いかけてくる運命。死がかけよる。死が、私を抱きしめようとしてかけよる。死神が、私を愛しているという。


私は誰なの?人間なの?化け物ではないの?


城の窓を私が開け放つ。ほこりが流れ、薔薇色の空が見える。夜明けなのか黄昏なのか定かではなく、真上の青い空には白い月が幾つも見える。紅い海が見える。どこからか悲しい歌が聞こえる。


--それで、好きなのか私のことが。男が言う。幼い私が言う。ええ好きよ。あなたはどこから来たの?私はずっとここにいる。この世界の始まりから終わりまで。それがさだめだから。お前は世界の終末まで私といる覚悟はあるか。共にこの世の黄昏をみてみたくはないか。見て見たいわ。私が答える。男はそっと私を抱き寄せ、椅子に座らせる。



どこへ連れて行くの。あなたが死ぬ運命と、この世界が滅びる運命を変えるために。ネルーは馬車の中で揺られながら言う。魔法国家の魔導士協会に連れて行くのです。


見事な都市だった。白い尖塔がいくつも並び、馬車が出入りする扉には異国の装飾がされている。ハイランドの冷たい、よそよそしい雰囲気とは違う。学校の子供達の歓声。彼らは、公園の噴水の中でもあそんでいる。犬が水道の水をなめている。暑いせいか、舌を伸ばし過ぎの犬がおり、イリアとネルーは笑う。都市には活気があり、出店が並んでいる。風が吹き、ネルーの金髪の三つ編みと私の髪が、カモメと共になびく。小さな白い花が散っていく。イリアのそよ風のような瞳が太陽の光を映し出す。ほら、見えてきた。協会本部です。ネルーが言う。教会のように荘厳な建物だ。


「戻ったか。ネルー。」

灰色と金髪の髪の壮年の女が、城内の椅子に佇んでる。マホガニーで出来た机に書類がきちんと整理され、印を押している。

「この方はガーネット会長です。この都市で一番偉い人です。」ネルーは言う。

「礼など不要。堅苦しい挨拶はいい。」「帝国軍人の娘か。気に入らないな。」

「問題は彼女の『ペンダント』です。」

「そう。問題は『ペンダント』だ。帝国軍人イリアはここで休んで行くといい。」

「もう帝国軍人はやめました。」

「はたしてそうかな。どうやらお前は追っ手を連れてきたようだ。」「イリア・コールフィールド、この街に住みたいなら、この協会に所属したいというなら、『奴ら』をここから追い出してもらおうか。この街の住人の安全のためにも。そしてお前が帝国のスパイでないという証拠を見せてもらおう。」

窓から、城下を眺めると、ハイランドの紋章を鎧につけた軍人たちがいる。ネルーと私は窓から飛び出す。

「化け物め。」数人の男たちが一斉に武器を構え、静かに包囲して来る。剣と銃口を向けられる。銃の一撃をまず私は盾でかわす。ネルーは私に加速の呪文をかける。私はまず銃を叩き落とし、彼らの足を剣で払う。彼らの動きが鈍くなる。幾つもの剣が私を突く。私はわずかにマントを切られるが次々とひらりとかわしてしまう。次にネルーは電撃で彼らの身体を縛る呪文を唱える。彼らは動けなくなる。そのすきに私は彼らの剣を払い、リーダーの首に剣を当てる。


--降伏しろ。


私の代わりに誰かがまた喋る。「『次』で終わりだ!」彼らは逃げ帰る。「よくやった疲れただろう。今日はもう休むといい。」ガーネットはこう言って、私達は城内の一室に泊まる。


「ふわあよく寝た。」翌朝私は顔を桶の水で洗い、髪の毛を櫛でとかす。

「ネルーはどこかしら。」城内の扉の間をうろうろし、ネルーを探す。城内は朝の支度でメイドたちが駆け回っている。メイド服の後ろの紐は、リボンではなく、天使の羽根になっており、メイド達は空を飛んで上層へと向かう。イリアがこの国の何も語らない神と神官と魔法使いの装飾がされた扉を開けると、教会にたどりつく。私が『彼』に祈りを捧げると、部屋の隅から女の祈りが聞こえる。「天にまします我らの神よ。その身を神官と魔法使いに滅ぼされ、今や機械仕掛けとなった、人の未来を照らす●●よ。」どうしてその名を知ってるの。「知ってるさ」紅い、血のようなコートに付けられたハイランドの紋章を、ローブの中から覗かせ、白い女は答える。


「城に追っ手が潜入しているだと!」ガーネットに兵が報告を入れる。


「我が名は『天使』、イグニス・ハイランド。この身は神の『剣』なり。」


ガーネットの兵が急いで扉を蹴破り、指示を出す。

「イリア!外におびき出せ!ネルーに魔法で援護させる!」

「わかったわ。」私は女を窓から突き飛ばす。女はそれを待ちわびていたかのようににやりと笑う。


空中から地上への着陸の間、女が私の耳元で何事か囁く。

「人形め。」イグニスの声が聞こえる。「お前は異形の神が寂しさのあまり創った人形だ。それがお前の正体だ。」


--さあ。知らないな。



ねえ、●●、お外に出ないの?私をどこに連れて行く気なの?『彼』は私を抱き寄せ、頰に触れる。暖かいね。ずっとこうしたいられたら。君が大きくなったらまた私のもとに来るといい。早く大きくなるといい。 何事か呟き、私の服を剥いで胸に口づけする。ちゅ、ちゅとわずかに唾液の音が鳴る。私の姿が少女から大人になって行く。ああ。やめて。


--闇に喰われろ。


黒い羽根が散って行く。救いを求める無明の闇が舞う。私が闇を抱き寄せると、イグニスはわずかに離れる。私はイグニスを払い、距離を空けて着地する。イグニスはすぐに剣を構え直し向かって来る。剣と剣が組み合う。私は関節技で突き飛ばすが、イグニスは呪文を詠唱しながらさらに剣を振るう。


「異形の神よ我が問いに答えよ。我は神の血をつなぐもの。盟約に従い、我が手となりて、逆らうもの全てを、その光で縛らん。今贄を捧げん。」


イグニスは天空から雷を呼び、地面に叩きつける。私はひるむ。イグニスは私の首を剣の柄で狙う。私は失神する。「姿を現せ。神に愛されしものよ。」


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